壺の中にはご馳走を

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心霊写真②

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「小走りで窓に向かい、落ちない程度に身を乗り出しました。

 地面には何も落ちていません。

 僕は無我夢中でカメラのシャッターを切りました。


 もう十分だろうと廃墟から出ようとすると、背中にずっしりと重たい物が乗りました。

 それは振り返ろうとする僕を、上から押さえつける。


 あぁ、これは息子の霊だなと思いましたよ。

 僕は自分にカメラを向けてパシャリ。

 
 幽霊もフラッシュにびっくりするのでしょうか。

 背中が軽くなったんです。

 しかし安心したのも束の間、背中をドンを押され、僕は勢い良く窓から飛び降りました。


 朝になって意識を取り戻した僕は、自力で救急車を呼びました。

 頭から落ちるのだけは回避できて命に別状はありませんでしたが、腕や足を骨折していました。

 手に持っていたカメラは壊れていました。

 壊されていた、というのが正解かもしれませんね。


 でも僕はいつもモバイルWi-Fiを持ち歩き、撮影した写真のデータをクラウド上にリアルタイムでアップロードしているんです。

 だから退院してすぐに、パソコンであの日撮った写真を1枚ずつ確認しました。


 1階はオーブが写ってる程度で、心霊写真というインパクトはありません。

 2階もほとんど何も映っていませんでした。

 ……ほとんどです。

 1枚だけ写ってたんですよ。


 これを見てください。

 左前で見切れている大きな顔は僕です。

 ここに写っている太い眉毛に大きなかぎ鼻の男。

 こいつが僕を落とした幽霊です。


 そして僕はこの顔に見覚えがあるんですよ。

 吉田一家強盗殺人事件の犯人の顔なんです。

 犯人は死刑が言い渡され、執行前に病気で死んだそうです。

 
 息子は家族の死を苦に自殺したんじゃない。

 あの日の僕のように、男に背中を押されたんです。

 犯人は家族全員を手にかけたってことですよ――」


 大原健吾は写真を置いて帰った。

 もう心霊写真を撮りに行くつもりはないらしい。


 真也は写真をまじまじと見た。

「うわぁ……。この犯人、死んでもこの家に来る人間を殺してるんですかね……」


 茉美は顎に手を当てて考え込んだ。

「選択肢を与えよう。

 1つは息子による自殺。

 2つ目は息子は強盗犯に窓から突き落とされた。そして強盗犯はそのシーンを大原で再現してみせた。

 3つ目は家族を殺したのは息子。強盗犯なんていなかった。

 さあ、どれを選ぶ?」


 真也は最後の選択肢が引っかかりつつも、写真に目をやって

「2つ目です……」

 と答えた。


「ああ、そうだ。お前はきっと正しいよ。

 だが、アタシは強盗に入っただけの人間が、あえて家族を無惨に殺す必要性を感じない。死後も家に執着する理由も分からない。強盗犯はよほど頭が悪い、ということになる。


 だから、アタシの考えはこうだ。

 そもそも強盗犯なんていなかったんだよ。全ては家族に恨みを抱いた息子の犯行。その家の息子だから殺すはずがないってことはない。むしろ血縁者に対する憎しみは、醜くとぐろを巻くことがある。

 そこで矛盾するのが、新聞記事に載った強盗犯と息子の死体。その写真にも息子ではないオッサンの顔が写っているしな。


 ――人間による惨たらしい行為を鬼の所業と言うことがあるが、数百年に一度、本当に鬼になる人間がいる。本人の意思かは別として、あまりにも残忍な人間は鬼へと変化する。

 吉田家の息子は、事件の夜、鬼になったんだ。息子の死体とされたものは、泥人形だろう。鬼の霊力で作られた泥人形なら、警察が調べてもバレないはずだ。

 鬼は自らの容貌を自由に変えることができる。別人の強盗犯になりすました息子は、刑務所でその生涯を終えた。

 そして人間の限りある肉体すら捨て去り、正真正銘の鬼となった。吉田廃墟には鬼が棲んでいるんだよ」


 茉美はクスッと笑って、からかうように言った。

「そんなに怖い顔をするな。これはアタシが作ったおとぎ話さ。……そうだ、その写真は店に飾ることにしよう! そこに写っているのは強盗犯か鬼か――。いつか動き出して写真から飛び出すかもしれないぞ!」

 
 ゴチソウサマ、ゴチソウサマ。
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