壺の中にはご馳走を

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あっきぃ様

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 真也が茉美と初めて会った時、長い黒髪が美しいと思っていた。

 どうやら茉美は頻繁に髪色を変えているようで、黒髪の次は金髪、先週は赤髪だった。
 
 今週は――。

「茉美さんてウィッグがお好きなんですか? ブラックとホワイトのツートンカラーって1週間でできるものですか?」

「乙女のおしゃれを詮索するな」

 茉美は自分のことをあまり話したがらない。



「はぁー美味しかった! 僕、甘い物に目がないんですよ」

 北条信吾はアイスクリームを満足そうに食べ、歳が近そうなことから、真也は気が合いそうだと思った。

「ミルクにこだわるアイスクリームは格別ですよね。喜んでいただけて何よりです!」


「美味しいもので元気をもらったことですし、早速話していこうと思います。


 僕はすごい田舎の出身で、コンビニまでは車で1時間もかかる村に生まれました。

 都会には都会の良さが、村には村の良さがあるんですよ。

 村のお年寄りからもらった知恵は、今でも役に立っています。


 村の信仰? で『あっきぃ様』っていうものがありました。

 名前がキャッチーで可愛いから、子供たちからも愛される存在でした。


 子供たちは『あっきぃ様ごっこ』で遊ぶのがいつものことで、まぁ簡単に言えば鬼ごっこです。

 でも普通の鬼ごっこと違うのは、じゃんけんで勝った人が鬼、つまりあっきぃ様になって、残りを追い掛け回します。

 大人たちはあっきぃ様を遊びに使っちゃいけないと、この遊びを禁止しましたが、僕たちは普通の鬼ごっこをするフリをしてあっきぃ様ごっこを続けました。


 子供たちにはもう1つ楽しみがありました。

 9月に村全体で行う祭りです。

 夜通し飲めや歌えの大騒ぎで、この日だけは子供も夜更かしが許されます。


 その年の祭りもいつものメンバーで集まっていました。

 朔太郎は勇敢でリーダー的存在、対して陸は臆病で女の子にも喧嘩で負けてしまうタイプ。

 里美は僕たちと同じ小学2年生とは思えないほど、しっかり者でした。

 里美の弟、幸太は3つ下で、でも負けん気だけは強くて、里美に付いて来ては早く走れるように頑張っていました。


 最も心踊ってはしゃぎたくなる祭りの夜。

 朔太郎が

『あっきぃ様ごっこしようや』

 と言って、僕たちは賛成しました。


 じゃんけんの結果、幸太があっきぃ様になりました。

 里美は幸太を気にかけて

『幸ちゃん、疲れたらお姉ちゃんが代わるね』

 と言ったので、まずは幸太があっきぃ様で問題ないと思いました。


『じゃあ、20秒数えたら追いかけて来て!』

 僕たちは思い思いの方へ走ります。


 最初は追いかけられて逃げるのを楽しんでいたけど、だんだんつまらなくなったんです。

 やっぱり幸太は体力がなくて追いかけるのをすぐに諦めてしまうし、大人たちにぶつかって、危ないぞとゲンコツを食らったりしたものですから、僕たちは再び1ヶ所に集まりました。


 そこで朔太郎が小声で言いました。

『俺、いいこと思いついた。あっきぃ様ごっこで、かくれんぼするんや。俺たちが隠れて、幸太が探す。これなら足が遅い幸太でもできるやろ』

 暗闇を恐れる陸らしい提案もありました。

『隠れていい場所は、灯りがあるとこだけってルールにしようや! 遠くに行き過ぎたら幸ちゃんも見つけられん』

 幸太が100を数え切る前に、それぞれ隠れ場所を探しました」
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