雑文エッセイ

越川千太郎

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2、眠り

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春になると、なぜねむいのか。 春は温度も湿度も睡眠に快適な季節で「よく眠れるからねむいのだ」という説と、春は季節の変わり目で身体に変調を起こしやすく「だから、だるくて、ねむいのさ」という説とがある。
多分、両説とも当たってるかもしれない。とにかく、ねむい。睡眠とは一種の脳の栄養補給作業で補給が不十分だと、ねむくなる」という説もあった。なるほど、ぐっすり眠ったあとは、さわやかで、若がえり、新しい勇気もわいて、いかにも補給十分といった実感がある。
ところが、この栄養補給説に反論して「一体、ひとは起きて働くために眠るのだろうか」と疑った人がいる。むしろ話はあべこべで「ひとは、よりよく眠るために懸命に働くのではないか。眠りこそ人間本来の自然の状態だ」と考えるのである。 ねむたがり屋なら賛成するに違いない。
一日の睡眠時間が六時間以下の人は、普通、働きもので野望家で社交上手で、決断力があり、政治的には保守的な型が多いそうだ。反対に一日九時間以上の睡眠が必要な人は批判的、懐疑的で、自信に欠けるが、創造的な仕事師は、この型の中から現れるとか。米国での最近の調査結果である。
年齢とともに、ひとは眠りの恵みから見放されていくらしい。 赤ちゃんは一日十八時間眠る。
おっぱいを吸う時以外は眠っていて眠りながら口で乳を吸うまねをしたりする。 それが二十歳で八時間前後に落ち着く。 不眠症で病院を訪れるのは、男女とも四十歳代が最高だという。
「いいのさ。ぼくたちは、お先に、永遠にさめない眠りの清めにあずかれるんだから」と、初老の友人が笑っていうのを聞いたことがある。 強がりかもしれないけれど、それも悪くない。
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