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アツモリ、地上の妖精に会う

第51話 族長の娘

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 今回の依頼は2泊3日の予定だ。

 初日は『深層の森』に入る手前で野営だ。
 4台の馬車の御者1名、それと敦盛、シビックのうちの1名が交代で見張り役をする事になるが、それ以外の男は3台の馬車に分乗して寝袋を使って、女5人は最後尾の馬車で寝袋を使って寝る。『野営小屋キャンピングコテージ』を使ってもいいのだが、それをやると馬車が無人になる。いくら盗賊団は帰りの馬車を狙うとはいえ、無人の馬車なら喜んで持ち去っていくのは当たり前だ。盗賊団以外の人でも、無人の馬車を見付けたら出来心で荷物を持ち去って行くとも限らないのだから。
 エミーナが言ったとおり盗賊団が襲ってくることもなく、かと言って魔物モンスターの襲撃もない。時々、狼と思われる遠吠えが聞こえた程度だったから、敦盛は正直、拍子抜けをしたくらいだ。

 2日目からは『深層の森』に入るが、馬車の中にいる事は許されない。
 なぜなら、過去に盗賊団が交易業者に偽装してエルフの集落を襲った事があり、それ以後、エルフ側の監視が厳しくなり、馬車の中に誰か隠れているという事は『取引拒否』という事態を招きかねないから、全員が馬車の外に出て御者の隣に大人しく座っている。
 先頭の馬車に乗ってるのは御者とフレア主任、敦盛だ。エミーナとルシーダは2台目に、シビックとココアは3台目の馬車に、それぞれ御者と一緒に座っている。

 この『深層の森』に入る事は誰でも出来るのだが、エルフの集落に入るのは難しい。
 なぜなら、集落周辺にはエルフの魔法、正しくは樹木の精霊ドライアードの結界が施されていて、高レベルの精霊使いでも突破できないが理由は分かってない。でも、結界の広さには限りがあるから、集落の塀のような物だ。
 さすがのフレア主任も今は敦盛に肩をスリスリと寄せるような事はしていない。
「・・・でもさあ、全然エルフを見かけないぞ」
 敦盛はいつまで経っても木々が立ち並ぶだけの風景にウンザリして、隣に座っていたフレア主任にボヤいたけど、フレア主任は首を横に振った。
「少なくとも5人はいたわよ」
「マジ!?」
「姿を隠してるから気付かないだけよ」
「どういう意味?」
 フレア主任が言うのは、見張り役のエルフは樹木の精霊ドライアードに命じて自分を木に見せ掛けている、つまり姿を隠しているから、魔力検知マジックセンスの呪文を使うか、魔力検知マジックセンスの効果がある魔法道具マジックアイテムを使わないと気付かないらしい。
「・・・ほら、また右手の指輪がオレンジ色に光ったでしょ?」
 そう言ってフレア主任は右手の中指にはめた指輪リングを敦盛に見せたけど、そのオレンジ色の輝きがだんだん強くなったかと思ったら、やがて弱くなって消えた。
「・・・さっき、森の木に紛れたエルフの見張り役がいたから反応したのよ。馬車で走り去ったから反応も消えたけどね」
「ふーん」
魔力検知マジックセンスセンスの効果がある魔法道具マジックアイテムは、指輪リングだけでなく護符アミュレットのタイプもあるわよ。値段もピンキリで、高額な商品になれば相当遠距離でも、しかも方角とかも分かるから結構重宝されるけど安物だとかなり接近しないと反応しないから、遠距離攻撃できる武器を持った相手とか遠距離攻撃魔法を使う相手だったら致命傷になりかねないから気を付けてね」
「ナルホド・・・」
「この指輪リングはうちの店の所有物だけど、相当な高性能よ。だって、魔力を検知すると宝玉ジュエルに検知した方向に緑色の矢印が出るからね」
 フレア主任は呑気そうに言ってるけど、敦盛にとっては指輪の事よりも本物のエルフをみたいという好奇心の方が大きいから、フレア主任の話はハッキリ言って右から左だ。

 そんな浮かれ気分だったから、敦盛はに全然気付いてなかった・・・

 荷馬車は順調に走り続けていたが、それが急に止まった。
 それを合図に御者以外の6人は馬車から降りたが、それに合わせるかのように、周囲の木の形が変化した!フレア主任の言った通り、エルフが木の精霊ドライアードに命じて姿を隠していたのだ!
 敦盛の左右から現れたのは男性のエルフだ!左右の耳の先端はとがっているから絶対に人間と違う!!
 短く刈り込んだ髪の毛はブロンドヘアーで、緑色をした革製の胸当てブレストアーマーを装着し、左の腰には細剣レイピア、左手に弓、背中には矢筒を持っているのは事前の情報通りだ。しかも男なのにエミーナと同じくらいに体の線が細い!敦盛の感覚でいえば2人のエルフは、どちらも20代後半から30代前半だろうけど、彼らの寿命は人間の10倍から20倍だから、実年齢は400から500歳!敦盛は「戦国時代の生き残りかよ!」とツッコミたくなったけど、そこはグッと堪えた。

 その時、目の前の景色が急に歪んだ。

 いつまでも続く道かと思ったら、急に門のような物が現れ、その扉がゆっくりと開いた。
 その扉が開ききった時、3人のエルフが現れた。左右にいたエルフは男性で、見た目は40歳前後といったところだから推定年齢700から800歳!敦盛の感覚で言えば鎌倉時代から生きている!!
 だが、真ん中に立っていたのは・・・女性のエルフだ!
 思わず敦盛は目が点になった!
 背中まで伸ばした美しいブロンドヘアーに薄緑色の服を着た、若い女性だ!見た目は敦盛とそう変わらない10代半ばから後半だけど、おそらく実年齢は200から300歳!江戸時代から生きてる事になる!!
 華奢だから胸の膨らみは申し訳ない程度だけど、エミーナより1回り、いや2回りくらいも細い!だけど身長は女としては長身のシビックより頭1つ高い!!あのセレナ王女が『地上の女神』なら、目の前にいるのは『地上の妖精』そのものだ!
 夢にまで見た本物の女性のエルフを見て敦盛は興奮していた!だが、今はそんな事を浮かれている場合ではないと思って、グッと堪えた。

「・・・シルフィ様、お久しぶりです」

 フレア主任が女性エルフに挨拶したけど、その若い女性エルフ、シルフィはニコリともしなかった。
「ミゼット商会だな?」
「はい」
「約束の物、間違いないな?」
「もちろんです。当方と族長様との間で交わした契約の通り、お持ち致しました」
「ウム、お前の顔には見覚えがある。連れの護衛は初めて見る顔だが、その事で詮索する気はない」
 そう言うとシルフィは顎をしゃくっている。つまり、「サッサと入れ」と態度で示しているのだ。フレア主任は御者たちに目で合図をしたから、馬車はゆっくりとだが集落の中へ入った。
 敦盛は、シルフィのあまりのクールな態度に「あれっ?」と思った。敦盛が抱いていたエルフとは、超ハイテンションで、それでいて友好的でニコニコ顔を絶やさない、いわば『にゃんこクラブ』のメンバーみたいなのを想像していたから、ツンとしたシルフィの態度に、一気にエルフ熱が冷めた気がした。
 その時、敦盛は何かが近付く気配がしたからその方向に視線を向けたが、そこにはシルフィが立っていた!

「お前・・・何者だ?」

 いきなりのシルフィの発言に敦盛はドキッとした。しかもシルフィの発言に左右にいたエルフは弓をつがえ、さっきまでシルフィの隣にいたエルフは細剣レイピアを抜いた!明らかに4人のエルフが殺気立ったのが敦盛にも分かる!!
 だが、シルフィは右手を上げたから4人は武器を引っ込めたが警戒の目だけは緩めてない。それに、フレア主任だけでなくエミーナたちまでハラハラした表情で敦盛とシルフィを見ている。
「お前、名前は?」
「俺の名は・・・敦盛です」
「アツモリか・・・変わった名だな。まあ、いいだろう」
「ありがとうございます」
「お前・・・何となくだが、他の人間と違う」
「・・・俺がですか?」
「具体的には説明できないけど・・・信じたくはないが、人間が持っているオーラとは格が違う。敢えていうなら人間以上の存在・・・」
「・・・俺は普通の人間ですよ」
「まあ、そこは気にしないでくれ。あくまで個人的な直感とでも言おうか、お前のオーラが人間以上だと感じたから、というだけだ。決して悪気があった訳ではない。人間以上エルフ以下の存在と思ったから、とでも言えばいいかな?」
 そう言うとシルフィはクールな表情のままクルリと向きを変え、集落の中へ戻って行った。
 敦盛は茫然とシルフィを見ている事しか出来なかったが、不意にシルフィが顔だけ後ろに振り向いた。
「・・・この集落にいる間に何か困った事があれば、いつでも相談に乗るから族長の館へ来い!」
「あ、ありがとうございます」
「我が名はシルフィ!この森のエルフ族の族長の娘、次の族長だ」

 シルフィはそのまま集落へ入ってしまい、結局、敦盛が想像していたような超ハイテンションなエルフは誰もおらず、肩を落としてショボショボと歩いて集落に入った・・・
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