上 下
23 / 127
アツモリ、恋人たちの聖地へ行く

第23話 オレと試合をして下さい

しおりを挟む
 長々と続いた握手攻め(?)に半ばウンザリしていた敦盛が解放された時、いつの間にか太陽は結構高い位置にまで登っていた。エミーナとルシーダはそんな敦盛を無視する形で鍵を売ってる店の中で一番近いコルト商会の店に行って実物を見せてもらい、売り上げ状況や街の噂話などを色々と聞いていた。その店の話を聞いてエミーナは疑問が高まったのも事実だが、それを店員に聞いても始まらないと思い、聞き役に徹していた。
 早くもヘトヘトの敦盛と、色々な意味でイライラが溜まっているルシーダと、色々な意味で疑問満載のエミーナの3人だけど、周りの喫茶店やオープンカフェが開き始めた時間だから、管理組合の事務所も開いている時間になった。でもエミーナは「どうせ管理組合の事務所へ行ったところで組合長が来てるとは思えない時間だから、ちょっと休憩していかないか?」と提案し、敦盛もルシーダも相当ストレスが溜まってた事もあって『ウンウン』と頷いたから、3人はメインストリートから一本奥にある裏通りに面した、ちょっと洒落たオープンカフェに入った。

 その店の名前は『ヴェント』だが、当たり前だが敦盛は読めないからルシーダが敦盛にソッと教えてあげた。
 最初、店員さんは「いらっしゃいませー」としか言わなかったが、一番若い女性店員が3人の客の一人が敦盛だと気付いたようだ。

「も、もしかしてサムライ様でしょうか!」

 敦盛は再び苦笑いするしかなかったけど、正直に『ウン』と頷いてギルドバッジを見せたから、その女性店員が興奮気味に敦盛に握手を求め、他の店員だけでなく店長、さらには店のオーナー夫妻まで敦盛に興奮気味に握手を求めたし、カフェに来ていた他の客も敦盛に握手を求めたほどだ。敦盛は内心ウンザリしてたけど、最後までニコニコ顔で握手に応じていた。

 その握手の嵐が過ぎ去り、オーナー夫妻が直々に敦盛たちをテラスのテーブルに案内し、敦盛たちの椅子を自ら引いたほどのVIP待遇である。そのテーブルは4人掛けの丸テーブルで、店の女性店員が敦盛にメニューを渡した直後、ストリートを走るようにして『ヴェント』に走ってくる一人の若者が右手を上げながら叫んだ。

「・・・おーい、サムライさまー!」

 その若者はブロンドヘアーを短く刈り込み、左腰には片手半剣バスタードソードを吊るしていた。ただ、身なりを見る限りでは平民のようだが剣を持っているからには傭兵のようだ。その若者がオープンカフェのテラス側の柵を飛び越えるかのように店の中に入ってきたから、あまりの無礼さにルシーダが立ち上がったほどだ。
「お店の正規の通路を通らずに入ったというのは、見方によっては犯罪です!バレンティノ神の神官としては見過ごす訳には参りません!」
 そう言ってルシーダは若者に説教しようとしたけど、厳密に言えばルシーダは『神官』ではなく『神官見習い』だから間違ってる。まあ、コペン高司祭もそのあたりは分かっているし、バレンティノ教団も修道院が閉鎖された経緯を分かっているので、アバロン最高司祭が「神官を名乗っても良い」と認めているが、あくまで非公式発言であり、ルシーダは公式には『神官見習い』のままだ。そのあたりは敦盛もルシーダから聞かされている。
「・・・まあまあ、噂に聞いたサムライ様がマイヤーの街に来てるって話を聞いたのに、そんな固い事を言わなくてもいいだろ?」
「あなたにとっては大した事ではないかもしれませんが、仮にも私はバレンティノ神に仕える神官です。法と秩序の神であるバレンティノ神の神官の前で、犯罪行為を正当化するのは許しません!これ以上、あなたが自らの非を認めないのなら、バレンティノ神の名において、あなたに懺悔をしてもらわなければなりません!」
「おー、怖い怖い。さすがのオレも『懺悔コンフェション』の呪文を受ける気はないぞー」
「では、サムライ様ではなく店側に対して誠心誠意、謝罪すべきです」
「はいはーい、そうしまーす」

 その若者はまだ店内にいたオーナー夫妻、それと店長に「大変ご無礼な事を致しました」と物凄く腰を低くして謝罪した。謝罪していた時には低姿勢だったけど、それが終わるとズカズカと戻ってきて、こともあろうかルシーダとエミーナの間の空いている席にドーンと座った。
 さすがのルシーダも呆れてしまったけど、今度は咎める理由が見つからないから「はーー」とため息をついて若者を見ているしかなかった。たしかにルシーダから見ても極々一般の市民だし、昨夜も敦盛の隣に若者が男女問わずドーンと座っていたのだから、こんな事でイチイチ目くじらを立てていては『終末の聖騎士パラディン』の称号を鼻にかけているのと同じだと思い直し、自重した。
「・・・オレ、ティラミスとエスプレッソね」
 その若者はメニューも見ずに自分だけサッサと注文したけど、当たり前だが敦盛はメニューは渡されたとはいえ文字が読めないから、エミーナがサラリと「サムライ様はティラミスと紅茶でお願いします」とだけ言って、店員も普通に頷いた。
 店員はエミーナとルシーダから注文を受けると店内に戻っていったけど、その若者はニコニコ顔だ。
「オレ、ルミオンといいます!」

 ルミオンはそう言って敦盛に右手を差し出したから敦盛も右手を握り返した。その時に敦盛は気付いたけど、指の皮はかなり固かった。ここまで固いとなると剣を相当握っているなと直感させられたほどだ。そのルミオンはエミーナやルシーダにも右手を差し出したけど、二人とも握手を拒む理由がないから素直に応じた。。
 だが、ルミオンがニコニコ顔のまま敦盛をジッと見た。
「・・・サムライ様、失礼を承知でお願いがあります」
「ん?」
「オレと試合をしてください」
「「「 はあ!? 」」」
 ルミオンの想定外の言葉に、敦盛だけでなくエミーナもルシーダも同時にハモッテしまった位だ。それ程までにルミオンの言葉は意表をついた発言だ。今まで敦盛に声を掛けてきた老若男女は軽く百人を超えるけど、こんな奴は初めてだ。

「・・・オレ、自分の腕がどれ程の物なのか知りたいんです!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

腐れ外道の城

詠野ごりら
歴史・時代
戦国時代初期、険しい山脈に囲まれた国。樋野(ひの)でも狭い土地をめぐって争いがはじまっていた。 黒田三郎兵衛は反乱者、井藤十兵衛の鎮圧に向かっていた。

ReBirth 上位世界から下位世界へ

小林誉
ファンタジー
ある日帰宅途中にマンホールに落ちた男。気がつくと見知らぬ部屋に居て、世界間のシステムを名乗る声に死を告げられる。そして『あなたが落ちたのは下位世界に繋がる穴です』と説明された。この世に現れる天才奇才の一部は、今のあなたと同様に上位世界から落ちてきた者達だと。下位世界に転生できる機会を得た男に、どのような世界や環境を希望するのか質問される。男が出した答えとは―― ※この小説の主人公は聖人君子ではありません。正義の味方のつもりもありません。勝つためならどんな手でも使い、売られた喧嘩は買う人物です。他人より仲間を最優先し、面倒な事が嫌いです。これはそんな、少しずるい男の物語。 1~4巻発売中です。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

蟲籠の島 夢幻の海 〜これは、白銀の血族が滅ぶまでの物語〜

二階堂まりい
ファンタジー
 メソポタミア辺りのオリエント神話がモチーフの、ダークな異能バトルものローファンタジーです。以下あらすじ  超能力を持つ男子高校生、鎮神は独自の信仰を持つ二ツ河島へ連れて来られて自身のの父方が二ツ河島の信仰を統べる一族であったことを知らされる。そして鎮神は、異母姉(兄?)にあたる両性具有の美形、宇津僚真祈に結婚を迫られて島に拘束される。  同時期に、島と関わりがある赤い瞳の青年、赤松深夜美は、二ツ河島の信仰に興味を持ったと言って宇津僚家のハウスキーパーとして住み込みで働き始める。しかし彼も能力を秘めており、暗躍を始める。

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

処理中です...