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アツモリ、素敵なお姉さんと試合をする
第16話 二刀流の使い手
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「・・・オレはシエナに今日の夕飯代!」
「オレもシエナさんにワイン1本!」
「えー、それじゃあ、誰もあのお兄さんに賭けないの?賭けが成立しないわよ!」
「わたしもシエナに100G!」
「オレもシエナに200Gだあ!」
「わたしはシエナさんに今日のお昼代よ!」
ここは冒険者ギルドの裏庭。
結界が張られた試合場の中にいるのは敦盛とシエナの2人だ。
敦盛の感覚で言えば、この試合場の広さはサッカー場の半分より少し広いくらいだ。事前の説明では最強の炎系魔法『灼熱地獄』を使っても外に被害は出ない。当たり前だが、外から試合場の選手に魔法をかけることも出来ない。
結局、敦盛は試合を受けた。
というより、殆どムキになっていたと言った方が正しかった。
タフトは自分の店に『臨時休業』の看板を出して冒険者ギルドに乗り込み(?)、元・冒険者の顔を使って強引に試合場を借り受けたのだ。
もちろん、冒険者ギルド側も前代未聞の出来事に騒然となった。なにしろ敦盛は冒険者ギルドに所属してない、いわば一般市民なのだ。だから急遽仮登録をして試合をする事になった。当然だが仮登録だから『紙』クラス扱いだけど、騒ぎを聞きつけたコペンが冒険者ギルドに慌てて駆けこんできて、試合はギルドの正規登録、つまり、『青銅』クラスの飛び級入会試験を兼ねた試合として特例扱いで認められた。しかも試合の立会人として、レクサス支部長が自ら名乗り出たほどだ。
ただ、本来、飛び級入会試験は飛び級のクラス、つまり青銅相手に1対1の試合を2連勝するのが条件だ。『コペン高司祭の推薦だから』という理由で、負けたとしても内容次第では合格できる特例が認められたとはいえ、青銅と白金では3階級もの差があるから格が違い過ぎる!!冒険者の連中は誰も敦盛が勝つなどと夢にも思ってない。だから敦盛に賭けたのは皆無だ(まあ、当然の結果だ)。
ルシーダは聖職者という立場上、賭けが出来ないから、仕方ないからエミーナが一人で賭けを受ける事になった。つまり敦盛が勝てば総取りだが、負ければ全部負担だ。「折角、自由の身になれたのに1日で逆戻りする」とエミーナはボヤいたけど、それを言っても始まらない。ただ、一縷の望みはあった。もし敦盛が本当に『終末の聖騎士』なら、ここで負けるような事は無いはずだ、と。
タフトは敦盛が勝てば女王警護隊の制服をタダで渡す事になるけど、同時にシエナが勝ったら鑑定額を2倍!にする事で再合意している。タフトにとってはお金よりも、無謀とも思える試合を受諾した東洋系の若者の心意気に惚れたと言った方が正しいかもしれない。
シエナは鎧の類はしてない。ただ、動きやすいよう、さっきまでのスカート姿から男物の服に着替えているけど、元々試合だから相手を倒す必要がない。相手の体に武器が触れるか、相手の武器を弾き飛ばす、もしくは相手が降参したら『勝負あり』なのだ。時間は無制限だけど、殆どの人はシエナが1分も経たないうちに勝つと予想している。
敦盛は道着・袴に『幸せの靴』という、昨日のままだが他に服が無いから仕方ない。元々、今日は冒険者ギルドの登録作業が終わった後、自分の服を買うつもりでいたのだから。
その敦盛が腰から大太刀を静かに抜いた時、周囲からどよめきが起こった。なにしろ全員がカタナを見たのが初めてなのだから、その武器の異様さに驚いたといった方が正しかった。
だが、敦盛が大太刀を抜いたのを見たシエナは、こちらもゆっくりとではあるが左右の腰に吊るした片手剣を抜いた!つまりシエナは二刀流だ!
敦盛は当たり前だが二刀流と対戦したのは剣道も含めてない。ただ、知識としては知ってるし、稽古で数回、対戦した事はある。もちろん、竹刀が相手だから真剣は初めてだ。
競技場にいるのはもう1人、眼鏡を掛けた若い女性の試験官アキュラだ。当たり前だが審判員の資格を持っているとはいえ、異例の試合に額から汗を流しているほどだ。
そのアキュラが右手をサッと上げた。
「始め!」
その声に敦盛もシエナも同時に動いた!敦盛は大太刀を両手に、シエナは左右の手に剣を持ってほぼ競技場の中央で激突した!
” ガキーーーーーーーーーーーーーーーン ”
一瞬だがシエナの右手の剣と大太刀が重なり合って、青白い火花が散った!敦盛もうろ覚えの知識ながら、青白い火花が散っているのは相手の剣が魔法を付与されている証拠だと分かったけど、その効果までは分からない。
両手対片手なら圧倒的に両手の方が有利だ!だから敦盛は簡単に押し込めるが相手は二刀流だから、右手の剣で大太刀を弾くようにして左手の剣で敦盛に迫る!敦盛は剣を素早く引き戻すと左手の剣を弾いた。
片手剣相手だから刀身の長さは1.5倍くらいも違う。距離を保った試合なら敦盛の方が圧倒的に有利だ!だからシエナは懐に飛び込むか、相手の武器を弾き飛ばす必要がある!普通に考えたら敦盛の方が有利だが、相手は『白金』クラス、表情は笑っているとしか思えないほどだ!
実際、敦盛の攻撃は全て剣で弾かれ、いくどかシエナの剣は敦盛の服に触れそうになったが、敦盛はギリギリの所で体を交わすか大太刀で弾き返し、勝負は既に1分を過ぎたがまだ継続していた。2人は20合、30合と互いの武器をぶつけ合ったが、勝負がつく気配が見えない。だから周囲にいた冒険者たちも最初は笑って見ていたにも関わらず、いつのまにか誰も喋らなくなった。
「・・・おかしい」
エミーナは思わず呟いてしまったが、それを隣にいたルシーダが聞き留めた。
「・・・何が?」
「アツモリのカタナだよ」
「カタナ?」
そう言われてルシーダは敦盛の大太刀に注目したが、ルシーダは何がおかしいのか全然分からなかった。
「・・・昨日の鉄人形と戦った時もそうだけど、アツモリのカタナ、どう考えても魔法が付与されてない」
「た、たしかに、あのカタナからは魔法の波動が感じられません。それは私もウッカリしてました」
「魔法の剣を相手に普通の武器で戦ったらどうなる?」
そう言われてルシーダは「ハッ!」という表情になった。
「言われてみればそうだけど、普通、魔法の剣は絶対に折れないけど、魔法の剣を相手に普通の武器で戦っていたら、もう折れても不思議ではない!しかもシエナさんの武器『氷の魔剣』は伝説級の武器だったはず!!」
「そう!だけど全然折れる気配が無い!しかも、昨日は鉄人形の体を鎧ごとぶち抜いている!鎧には間違いなく魔法が付与されていたから、それをぶち抜いたとなると・・・」
「という事は、エミーナは、アツモリの武器は魔法の剣ではないのに魔法の剣以上の武器だと言いたいの?」
「ボクだって信じたくない!だけど、魔術師は現実を冷静に判断せざるを得ない!」
エミーナはそう声を荒げたけど、ルシーダも俄かに信じられないといった表情で敦盛を見ている。
その敦盛とシエナの勝負は既に50合を超える打ち合いになったけど、互いに髪の毛1本触れる事が出来ないほどの好勝負となっていた!でも、シエナはここまで来ても笑ったままだ。敦盛はその不気味な表情を見て、まだ何かを隠していることは気付いたが、それが何かが分からない以上、油断してない。
” キーーーーーーーーーン ”
そのシエナが敦盛の大太刀を弾いたと思ったら、一度後ろへ跳び下がって距離を取った。それを見て敦盛自身も下がったから、お互いの距離は最初の位置くらいにまで離れた。
「・・・ヒュー、あたし相手にここまでやるとはねえ」
そう言ってシエナは両手に剣を持ちながら肩を窄めたけど、その表情は余裕綽々だ。
「・・・俺も白金相手にここまでやれるとは、正直、思って無かったですよ」
そう言って敦盛も一度構えを解いたけど、こちらも試合が始まって以来、初めてニコッと微笑んだ。
「あったり前だあ!あたしは普段の半分の力も出してないからねえ」
「うっそー!あれで半分以下なんですかあ?」
「勘弁してくれよお。白金クラスがこの程度だったら、魔王なんか1日でいなくなるぜ!」
「ですよねー。俺も何かおかしいと思ってましたよ」
「・・・それじゃあ、あたしも本気を出すけど、覚悟はいいかい?」
そう言うとシエナの表情が一変した!まるでさっきまでとは別人の表情になり、同時に凄まじいまでの殺気が敦盛にも伝わってくる!これが本気を出した時の白金クラスなのかと思うと、敦盛もワクワクしてきた。
「・・・それじゃあ、俺も本気を出していいですかあ?」
そう言うと敦盛は右手1本に持ち替えたが、こちらは逆に笑みを浮かべている。
「はあ!?貴様、白金クラスのあたしを馬鹿にしてるのか!」
「全然ふざけてないですよ。俺も本気を出しますよ」
「フン!やれるものならやってみな!」
そう言うとシエナは両足をさっきより大きく開いた。同時に左右の手を一気に真横に広げた!何かをやるつもりだと敦盛は直感した!!
「阿佐揚羽流『神速』!」
一瞬、シエナだけでなくエミーナやルシーダ、コペンを始めとした観客の前から敦盛が消えた!でも、その直後にシエナの目の前に敦盛が現れて右手を振り下ろした!
「もらったあ!」
敦盛は勝利を確信した!
が、シエナは素早く左手の剣で大太刀を弾いた。敦盛は逆に自分で相手の懐に飛び込んだ形だからシエナの間合いだ!シエナは自分の勝利を確信した!
「あまーい!」
シエナは右手の剣を振ったが、その瞬間、敦盛が目の前から消えた!
シエナの右手の剣は空を切った形になったから、シエナは一瞬だけ緊張が緩んだ。だが、そこは白金クラス、素早く体制を立て直したが、敦盛は2歩ほど下がっていたから、この距離は敦盛の間合いだ!敦盛は再び大太刀を両手で構えた。
「阿佐揚羽流『舞踊』!」
敦盛は大太刀を振り下ろした。その刀の動き、体裁きは蝶が舞うかの如き優雅さだ。さすがのシエナから余裕の表情が消えた!必死になって全て弾き返しているが、明らかにこの距離では敦盛の間合いだからシエナには不利だ。シエナは距離を取って体制を立て直したいのだが、敦盛がそれをさせない!
シエナは距離を取るため、切り札ではなく奥の手を繰り出した!
「我が名はシエナ!剣よ、主の命に従い真の姿を現せ!」
その瞬間、左手に持った剣の形が変わった!
左手の片手剣の刀身が白く輝いたかと思ったら人間の形になった!でも、それは明らかに人間ではない!なぜならば全身から冷気を漂わせたた氷の巨人だったからだ!その巨人が立ちあがって敦盛を襲ったから、慌てて敦盛は後ろに下がったけど、髪の毛の一部が凍り付いている!!
「剣の試合で魔法とは卑怯だぞ!」
「はあ!?これは魔法ではない!剣が本来の姿を現したに過ぎないのだからルール上は認められている!」
「それじゃあ、この巨人が俺に触れたら負けかあ?」
「勝負はあくまで剣が服に触れるか剣を弾くまでだ!霜の巨人がお前の武器を弾けば勝負ありだが、霜の巨人の腕や足が触れても勝負は続く!」
「それって、俺が凍傷し放題って事ですよねえ」
「あそこにコペン様がいるから、あたしも安心して奥の手を使ったまでだあ!」
「安心の使い方が間違ってますよお!」
「問答無用!」
そう言うとシエナは右手1本の剣で敦盛に襲い掛かってきた!敦盛は霜の巨人とシエナの2人を相手に試合をする形になったから圧倒的に不利だ!
霜の巨人の腕が立て続けに敦盛を襲う!敦盛はギリギリで避けてシエナに近付こうとするが、まるでシエナの盾になるかのように霜の巨人が動きシエナを守るから、そのたびに敦盛の大太刀は霜の巨人の腕や体で弾かれ、その影からシエナの剣が伸びてくる!2対1という圧倒的不利な状況になって、誰の目にも敦盛苦戦が明らかになった。敦盛は反撃もままならない。
このままでは負ける!敦盛は一瞬、剣を抜こうと思ったが、それをやるのは阿佐家の家訓に反する。敦盛は大太刀1本で勝負するしかないのだ!
となると・・・霜の巨人を消し去るしかない!そうすればシエナは右手の剣の1本しかないから勝機は見える!人を斬る覚悟はさすがに無いが、霜の巨人を斬るのに躊躇はない!
「オレもシエナさんにワイン1本!」
「えー、それじゃあ、誰もあのお兄さんに賭けないの?賭けが成立しないわよ!」
「わたしもシエナに100G!」
「オレもシエナに200Gだあ!」
「わたしはシエナさんに今日のお昼代よ!」
ここは冒険者ギルドの裏庭。
結界が張られた試合場の中にいるのは敦盛とシエナの2人だ。
敦盛の感覚で言えば、この試合場の広さはサッカー場の半分より少し広いくらいだ。事前の説明では最強の炎系魔法『灼熱地獄』を使っても外に被害は出ない。当たり前だが、外から試合場の選手に魔法をかけることも出来ない。
結局、敦盛は試合を受けた。
というより、殆どムキになっていたと言った方が正しかった。
タフトは自分の店に『臨時休業』の看板を出して冒険者ギルドに乗り込み(?)、元・冒険者の顔を使って強引に試合場を借り受けたのだ。
もちろん、冒険者ギルド側も前代未聞の出来事に騒然となった。なにしろ敦盛は冒険者ギルドに所属してない、いわば一般市民なのだ。だから急遽仮登録をして試合をする事になった。当然だが仮登録だから『紙』クラス扱いだけど、騒ぎを聞きつけたコペンが冒険者ギルドに慌てて駆けこんできて、試合はギルドの正規登録、つまり、『青銅』クラスの飛び級入会試験を兼ねた試合として特例扱いで認められた。しかも試合の立会人として、レクサス支部長が自ら名乗り出たほどだ。
ただ、本来、飛び級入会試験は飛び級のクラス、つまり青銅相手に1対1の試合を2連勝するのが条件だ。『コペン高司祭の推薦だから』という理由で、負けたとしても内容次第では合格できる特例が認められたとはいえ、青銅と白金では3階級もの差があるから格が違い過ぎる!!冒険者の連中は誰も敦盛が勝つなどと夢にも思ってない。だから敦盛に賭けたのは皆無だ(まあ、当然の結果だ)。
ルシーダは聖職者という立場上、賭けが出来ないから、仕方ないからエミーナが一人で賭けを受ける事になった。つまり敦盛が勝てば総取りだが、負ければ全部負担だ。「折角、自由の身になれたのに1日で逆戻りする」とエミーナはボヤいたけど、それを言っても始まらない。ただ、一縷の望みはあった。もし敦盛が本当に『終末の聖騎士』なら、ここで負けるような事は無いはずだ、と。
タフトは敦盛が勝てば女王警護隊の制服をタダで渡す事になるけど、同時にシエナが勝ったら鑑定額を2倍!にする事で再合意している。タフトにとってはお金よりも、無謀とも思える試合を受諾した東洋系の若者の心意気に惚れたと言った方が正しいかもしれない。
シエナは鎧の類はしてない。ただ、動きやすいよう、さっきまでのスカート姿から男物の服に着替えているけど、元々試合だから相手を倒す必要がない。相手の体に武器が触れるか、相手の武器を弾き飛ばす、もしくは相手が降参したら『勝負あり』なのだ。時間は無制限だけど、殆どの人はシエナが1分も経たないうちに勝つと予想している。
敦盛は道着・袴に『幸せの靴』という、昨日のままだが他に服が無いから仕方ない。元々、今日は冒険者ギルドの登録作業が終わった後、自分の服を買うつもりでいたのだから。
その敦盛が腰から大太刀を静かに抜いた時、周囲からどよめきが起こった。なにしろ全員がカタナを見たのが初めてなのだから、その武器の異様さに驚いたといった方が正しかった。
だが、敦盛が大太刀を抜いたのを見たシエナは、こちらもゆっくりとではあるが左右の腰に吊るした片手剣を抜いた!つまりシエナは二刀流だ!
敦盛は当たり前だが二刀流と対戦したのは剣道も含めてない。ただ、知識としては知ってるし、稽古で数回、対戦した事はある。もちろん、竹刀が相手だから真剣は初めてだ。
競技場にいるのはもう1人、眼鏡を掛けた若い女性の試験官アキュラだ。当たり前だが審判員の資格を持っているとはいえ、異例の試合に額から汗を流しているほどだ。
そのアキュラが右手をサッと上げた。
「始め!」
その声に敦盛もシエナも同時に動いた!敦盛は大太刀を両手に、シエナは左右の手に剣を持ってほぼ競技場の中央で激突した!
” ガキーーーーーーーーーーーーーーーン ”
一瞬だがシエナの右手の剣と大太刀が重なり合って、青白い火花が散った!敦盛もうろ覚えの知識ながら、青白い火花が散っているのは相手の剣が魔法を付与されている証拠だと分かったけど、その効果までは分からない。
両手対片手なら圧倒的に両手の方が有利だ!だから敦盛は簡単に押し込めるが相手は二刀流だから、右手の剣で大太刀を弾くようにして左手の剣で敦盛に迫る!敦盛は剣を素早く引き戻すと左手の剣を弾いた。
片手剣相手だから刀身の長さは1.5倍くらいも違う。距離を保った試合なら敦盛の方が圧倒的に有利だ!だからシエナは懐に飛び込むか、相手の武器を弾き飛ばす必要がある!普通に考えたら敦盛の方が有利だが、相手は『白金』クラス、表情は笑っているとしか思えないほどだ!
実際、敦盛の攻撃は全て剣で弾かれ、いくどかシエナの剣は敦盛の服に触れそうになったが、敦盛はギリギリの所で体を交わすか大太刀で弾き返し、勝負は既に1分を過ぎたがまだ継続していた。2人は20合、30合と互いの武器をぶつけ合ったが、勝負がつく気配が見えない。だから周囲にいた冒険者たちも最初は笑って見ていたにも関わらず、いつのまにか誰も喋らなくなった。
「・・・おかしい」
エミーナは思わず呟いてしまったが、それを隣にいたルシーダが聞き留めた。
「・・・何が?」
「アツモリのカタナだよ」
「カタナ?」
そう言われてルシーダは敦盛の大太刀に注目したが、ルシーダは何がおかしいのか全然分からなかった。
「・・・昨日の鉄人形と戦った時もそうだけど、アツモリのカタナ、どう考えても魔法が付与されてない」
「た、たしかに、あのカタナからは魔法の波動が感じられません。それは私もウッカリしてました」
「魔法の剣を相手に普通の武器で戦ったらどうなる?」
そう言われてルシーダは「ハッ!」という表情になった。
「言われてみればそうだけど、普通、魔法の剣は絶対に折れないけど、魔法の剣を相手に普通の武器で戦っていたら、もう折れても不思議ではない!しかもシエナさんの武器『氷の魔剣』は伝説級の武器だったはず!!」
「そう!だけど全然折れる気配が無い!しかも、昨日は鉄人形の体を鎧ごとぶち抜いている!鎧には間違いなく魔法が付与されていたから、それをぶち抜いたとなると・・・」
「という事は、エミーナは、アツモリの武器は魔法の剣ではないのに魔法の剣以上の武器だと言いたいの?」
「ボクだって信じたくない!だけど、魔術師は現実を冷静に判断せざるを得ない!」
エミーナはそう声を荒げたけど、ルシーダも俄かに信じられないといった表情で敦盛を見ている。
その敦盛とシエナの勝負は既に50合を超える打ち合いになったけど、互いに髪の毛1本触れる事が出来ないほどの好勝負となっていた!でも、シエナはここまで来ても笑ったままだ。敦盛はその不気味な表情を見て、まだ何かを隠していることは気付いたが、それが何かが分からない以上、油断してない。
” キーーーーーーーーーン ”
そのシエナが敦盛の大太刀を弾いたと思ったら、一度後ろへ跳び下がって距離を取った。それを見て敦盛自身も下がったから、お互いの距離は最初の位置くらいにまで離れた。
「・・・ヒュー、あたし相手にここまでやるとはねえ」
そう言ってシエナは両手に剣を持ちながら肩を窄めたけど、その表情は余裕綽々だ。
「・・・俺も白金相手にここまでやれるとは、正直、思って無かったですよ」
そう言って敦盛も一度構えを解いたけど、こちらも試合が始まって以来、初めてニコッと微笑んだ。
「あったり前だあ!あたしは普段の半分の力も出してないからねえ」
「うっそー!あれで半分以下なんですかあ?」
「勘弁してくれよお。白金クラスがこの程度だったら、魔王なんか1日でいなくなるぜ!」
「ですよねー。俺も何かおかしいと思ってましたよ」
「・・・それじゃあ、あたしも本気を出すけど、覚悟はいいかい?」
そう言うとシエナの表情が一変した!まるでさっきまでとは別人の表情になり、同時に凄まじいまでの殺気が敦盛にも伝わってくる!これが本気を出した時の白金クラスなのかと思うと、敦盛もワクワクしてきた。
「・・・それじゃあ、俺も本気を出していいですかあ?」
そう言うと敦盛は右手1本に持ち替えたが、こちらは逆に笑みを浮かべている。
「はあ!?貴様、白金クラスのあたしを馬鹿にしてるのか!」
「全然ふざけてないですよ。俺も本気を出しますよ」
「フン!やれるものならやってみな!」
そう言うとシエナは両足をさっきより大きく開いた。同時に左右の手を一気に真横に広げた!何かをやるつもりだと敦盛は直感した!!
「阿佐揚羽流『神速』!」
一瞬、シエナだけでなくエミーナやルシーダ、コペンを始めとした観客の前から敦盛が消えた!でも、その直後にシエナの目の前に敦盛が現れて右手を振り下ろした!
「もらったあ!」
敦盛は勝利を確信した!
が、シエナは素早く左手の剣で大太刀を弾いた。敦盛は逆に自分で相手の懐に飛び込んだ形だからシエナの間合いだ!シエナは自分の勝利を確信した!
「あまーい!」
シエナは右手の剣を振ったが、その瞬間、敦盛が目の前から消えた!
シエナの右手の剣は空を切った形になったから、シエナは一瞬だけ緊張が緩んだ。だが、そこは白金クラス、素早く体制を立て直したが、敦盛は2歩ほど下がっていたから、この距離は敦盛の間合いだ!敦盛は再び大太刀を両手で構えた。
「阿佐揚羽流『舞踊』!」
敦盛は大太刀を振り下ろした。その刀の動き、体裁きは蝶が舞うかの如き優雅さだ。さすがのシエナから余裕の表情が消えた!必死になって全て弾き返しているが、明らかにこの距離では敦盛の間合いだからシエナには不利だ。シエナは距離を取って体制を立て直したいのだが、敦盛がそれをさせない!
シエナは距離を取るため、切り札ではなく奥の手を繰り出した!
「我が名はシエナ!剣よ、主の命に従い真の姿を現せ!」
その瞬間、左手に持った剣の形が変わった!
左手の片手剣の刀身が白く輝いたかと思ったら人間の形になった!でも、それは明らかに人間ではない!なぜならば全身から冷気を漂わせたた氷の巨人だったからだ!その巨人が立ちあがって敦盛を襲ったから、慌てて敦盛は後ろに下がったけど、髪の毛の一部が凍り付いている!!
「剣の試合で魔法とは卑怯だぞ!」
「はあ!?これは魔法ではない!剣が本来の姿を現したに過ぎないのだからルール上は認められている!」
「それじゃあ、この巨人が俺に触れたら負けかあ?」
「勝負はあくまで剣が服に触れるか剣を弾くまでだ!霜の巨人がお前の武器を弾けば勝負ありだが、霜の巨人の腕や足が触れても勝負は続く!」
「それって、俺が凍傷し放題って事ですよねえ」
「あそこにコペン様がいるから、あたしも安心して奥の手を使ったまでだあ!」
「安心の使い方が間違ってますよお!」
「問答無用!」
そう言うとシエナは右手1本の剣で敦盛に襲い掛かってきた!敦盛は霜の巨人とシエナの2人を相手に試合をする形になったから圧倒的に不利だ!
霜の巨人の腕が立て続けに敦盛を襲う!敦盛はギリギリで避けてシエナに近付こうとするが、まるでシエナの盾になるかのように霜の巨人が動きシエナを守るから、そのたびに敦盛の大太刀は霜の巨人の腕や体で弾かれ、その影からシエナの剣が伸びてくる!2対1という圧倒的不利な状況になって、誰の目にも敦盛苦戦が明らかになった。敦盛は反撃もままならない。
このままでは負ける!敦盛は一瞬、剣を抜こうと思ったが、それをやるのは阿佐家の家訓に反する。敦盛は大太刀1本で勝負するしかないのだ!
となると・・・霜の巨人を消し去るしかない!そうすればシエナは右手の剣の1本しかないから勝機は見える!人を斬る覚悟はさすがに無いが、霜の巨人を斬るのに躊躇はない!
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