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アツモリ、素敵なお姉さんと試合をする

第15話 俺、あれが欲しい・・・

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「そ、それは・・・」

 敦盛は言葉に詰まった。
 ドナクエでは、主人公の職業は最初から決まっている。しかも最新作のドナクエⅢは『勇者』だ。でも、敦盛自身が『勇者』を名乗ってもいいのか不安があったし、ドナクエには刀が出てこない。
 それに、さっきタフトは東方の国イズモの武人は「カタナ」を持っていると言っていたけど、イズモの武人は1本しか持ってないし、それに「モノノフ」だと言っていた。
 救世主とも、『終末のなんとか』とも名乗る訳にもいかない。だからにするつもりでいたのだが、それをこの場で言ってもいいのか不安になったのだ。

” カランカランカラーン ”

 そんな敦盛の緊張感をほぐすかのように店の扉が開く鐘の音がした。
 だからタフトの視線もそちらに移ったし、反射的に敦盛も扉の方を向いてしまった。
 店に入ってきたのは・・・一人の赤髪の女性だった。その服装は一般市民と変わらない、極々普通の女性だった。
「あらっ?先客?」
 そう言って女性はニコッと微笑んだが、その女性を見た途端、エミーナとルシーダは深々と頭を下げたから、敦盛はこの女性が二人の顔見知りだと気付いたが、なぜ頭を深く下げたのかは分からなかった。
 この女性が来た事でタフトの質問は中断された形になった。
「・・・アツモリさんよお、気に入った物があったら言ってくれ。値段は書いてある通りだけど、冒険者の紹介という形だからサービスするぜ」
 そう言って右手を軽く上げたから、敦盛も「それじゃあ、ちょっと見させてもらいます」と言ってカウンターを離れたし、エミーナとルシーダも店の奥へ向かった。

「・・・アツモリは盾を使う?」

 エミーナは真顔になって聞いてきたが、敦盛は即座に首を横に振った。
「あれ?意外だな」
「意外?」
「そう、意外。普通、片手半剣バスタードソードを持つ剣士は、剣と盾はセットだよ。両手で使う時は背中に盾を背負う形だけど、片手で剣を使う時はもう一方の手に盾を持つからね」
「いや、俺は盾を使った事がないから・・・」
 当たり前だ。敦盛が実際に戦ったのは昨日だけだ。剣道は両手持ちで盾を使わないし、二刀流があるくらいだから盾は不要だ。だいたい、盾の使い方を習った事は一度もない!
「・・・それじゃあ、片手半剣バスタードソードは何の為に持ってるんだあ??この際だから長剣ロングソード大剣グレートソードに変えれば?」
「そ、それは・・・」
 敦盛は返事に窮した。大太刀はともかく、この剣は800年に渡って阿佐家が守り続けてきたであり、それを敦盛はに等しい。父や祖父に見付かったら叱責されかねない事であるし、敦盛が勝手に使う事は、阿佐家の使命を揺るがす事態になり兼ねない!だから敦盛は使いたくないのだ。
「・・・こ、これは予備の武器だよ」
「予備の武器?だから昨日はカタナを使ったのか・・・」
「そういう事だ」
 敦盛は咄嗟に嘘をついた形になったけど、エミーナは納得したかのような顔になって「フムフム」と首を縦に振って、そのまま肩をポンと叩いた。
「・・・気になる物があったら教えてくれ。お金は気にしなくても大丈夫だから」

 そう言うとエミーナは自分の装備を探し始めたから、敦盛もホッと肩の力を抜いた。
「それにしても・・・俺、金属鎧プレートアーマーは勘弁して欲しいぞ」
 敦盛は店に並んでいる金属鎧プレートアーマーを見て、正直ゲッソリしていた。知識として知ってるけど金属鎧プレートアーマーは防御に優れているけど実際には相当重い!昨日の夜、エミーナが言ってた話を信じるなら軽量化の呪文が掛けられている物が大半らしいが、それでも結構な重量になるらしい。皮鎧レザーアーマーたぐいは軽いけど防御力に劣るが安価で使い勝手がいい。他にも鎖帷子チェーンメイルも並んでいる。こちらもエミーナの話を信じるなら軽量化の呪文が掛けられている物が大半だ。実際、エミーナやルシーダも女性用の鎖帷子チェーンメイルを見ている。どうやらローブの下に重ね着するつもりで見繕っているとしか思えない。
 敦盛は頑張って探してたけど気に入った物が見付からない。敦盛は「はーー」と軽く息を吐きながら上の方を向いて、肩をほぐそうとした。

 でもその時・・・
 敦盛は壁の一番高いところに展示してあった、1組の服が目に入った!

「ど、どうしてこんな物がこの世界にあるんだ!?」

 思わず敦盛は口に出してしまったがのだが、小声だったので幸い誰にも聞かれずに済んだようでホッと胸を撫で下ろしたが・・・敦盛は小学生の頃、旅行で京都へ行った時に記念写真を撮る時に着た事が1度だけある服なのだ。
 その服とは・・・男物の羽織袴だ!しかも水色!特徴あるデザインといい鉢巻までセットであるから、見た目は『新選組しんせんぐみ』ソックリなのだ!!(さすがに『誠』の字は書かれてないけど・・・)
 敦盛は羽織袴の横に掲げられてある札の文字が読めないから何と書かれてるか理解できないが、店にあるという事は商品に間違いない!
「おっしゃあ!これに決めた!」
 敦盛は小躍りしてこの服にする事に決めた。でも、エミーナやルシーダが鎖帷子チェーンメイルを重ね着するという事は、やっぱり見た目より防御性を重視するのだと思い、敦盛も参考にする事にした。ただ、何度も言うが札の文字が読めないから何と書かれてるか理解できない。恐らく鎖帷子チェーンメイルに掛けられた魔法についてだと思うから、エミーナかルシーダに聞くしかなさそうだ。
「えーと、エミーナかルシーダは・・・」
 敦盛はそう呟きながら二人を探したけど、丁度ルシーダと視線が合った。
「おーい!」
「決まった?」
「ああ、決めた」
「りょーかい」
 ルシーダはそう言って敦盛のところへ来たけど、ルシーダ自身は既に選び終わったようで、着替えまで終わっている。薄い水色の法衣ローブはいかにも神官らしい。左右の手の中指には指輪リングをしているから、何らかのマジックアイテムだとは思うが、何のアイテムなのかは敦盛には分からない。

「・・・どれにするの?」
 ルシーダはニコッとしながら敦盛に話し掛けたけど、敦盛は「その前に・・・」と前置きした。
「俺、文字が読めないから、この鎖帷子チェーンメイルに書かれている文字が読めない」
 そう言って敦盛は右手で指さしたけど、ルシーダは「あー、そういう事ね」と納得顔になった。
「ここに並んでる男性用の鎖帷子チェーンメイル、2つを除いて軽量化と筋力増加、つまり攻撃力を高める呪文が掛けてあるんだけど、軽量化重視か筋力重視かが書かれている」
「ふーん、そうなんだ」
「もう2つにも軽量化の呪文が掛かってるけど、あっちの少し赤っぽいのは対魔法防護強化、ようするに相手から魔法攻撃を受けた時にダメージを軽減したり精神攻撃に対する耐性を付ける効果がある。もう1つの方は精神力強化。簡単に言えば魔法攻撃の威力を高める効果がある。どちらも魔法使い用だから、アツモリは普通の鎖帷子チェーンメイルで十分ね。私もエミーナも鎖帷子チェーンメイルを重ね着してるけど、それは軽量化と対魔法防護強化の2つが掛けられた物だよ」
「分かった。俺は軽量化重視の方でいいけど、もう1つ、重ね着したい物がある」
「いいわよー、で、どれにするの?」
 ルシーダはと思い込んでいたから、金属鎧プレートアーマーを選ばなかったので内心は「あれっ?」と思ったくらいだ。まあ、たしかに敦盛は大柄だし筋肉質だから金属鎧プレートアーマーを選ぶと思い込んだのも無理はない。

「俺、あれが欲しい・・・」

 そう言って敦盛が指差したのは・・・あの羽織袴だった。
「はあ!?あれ、非売品よ!」
「マジ!?」
 ルシーダが店中に響き渡るかのような大声を上げたからエミーナまで飛んできたし、タフトも敦盛の方を向いた。さっき来店した女性も帰ろうとして扉を開けた直後だったが、その声を聞いて足を止めたほどだ。
「・・・あの説明書きは、簡単に言えば、大陸共通歴1203年にイズモの国の女王の特使がガッバーナ王国、まあ、今はドルチェ王国の国王が玉座を兼ねてるから『ドルチェガッバーナ王国』と国名が変わってるけど、その時にガッバーナ王国にプレゼントされた、いわばイズモの国の近衛兵にあたる女王警護隊の制服よ!」
「うっそー!」
「ホントよ。説明書きはあるけど値段が書いてないって事は非売品の意味なのよ。まあ、たしかに近衛兵が着るだけあって魔法攻撃、特に炎系の魔法に耐えられる特殊な繊維で作られてるから炎には耐性があるって書いてあるけど、さすがにそれを売ってくれとは・・・」
 そう言いながらルシーダはチラッとカウンターにいるタフトの方に視線を向けたけど、そのタフトはニヤリとした。

「売ってもいいぜ」
「「「マジ!?」」」

 タフトの想定外の返事に敦盛だけでなくエミーナもルシーダも店中に響き渡るかのような大声を上げてしまったが、タフトは直後に急に真面目な顔になった。
「ただし・・・このオレの課題をクリアしたらだ!」
 そう言うとタフトは立ち上がったが、その体はとても武器屋の店主とは思えないような体つきだ。恐らく今でも鍛錬を怠ってないとしか思えない。
「・・・おい、シエナ!」
 そう言ってタフトは帰ろうとしていた女性に声を掛けたから、女性はタフトに視線を向けた。
「へっ?・・・あたしに何か用?」
「どうせお前、今日は平服って事は休みなんだろ?」
「た、たまには休んでもいいだろ!」
「お前、最近、退屈なんだろ?」
「あんたに言われたくない!」
 その女性、シエナはそう言ってタフトを睨みつけたけど、その凄まじいまでの視線を受けてもタフトは平然としていた。
「アツモリさんよお、ここにいるシエナと試合をして、もし勝てたならその服、タダでくれてやる!」
「ちょ、ちょっと待て!このあたしに東方系の男と試合をやれって言いたいのかよ!」
「まあまあ、さっきの剣と鎧の鑑定額を1割アップしてやるからさあ」
「はあああーーー・・・どうせ今日は暇だし、アップしてくれるなら酒代の足しになるから、別にあたしは構わんぞ」

 そう言うとシエナは店の中に再び入ってきたけど、ルシーダはそれを見て敦盛の道着の袖をツンツンと引っ張ってる。しかも相当緊張した顔だ。
「ん?どうした?」
「アツモリ、悪い事は言わないから、あの服は諦めなさい!」
「はあ!?どういう事だ?」
「あの人、シエナさんは最上級の『白金プラチナ』クラスよ!」
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