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アツモリ、協力者を得る
第11話 お客様は神様のお導き
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敦盛はオッティ商会を出た後にエミーナたちに声を掛けたけど、エミーナはニコニコ顔で後ろを振り向きながら
「いつもの店に行く」
「いつもの店?」
「ボクたちが普段使っている、冒険者たちが集まる酒場だ。そこの2階が宿屋になってる。ボクとルシーダが使ってる部屋とは目と鼻の先だから、アツモリ、今夜の君はその2階に泊まるという事でいいかあ?」
「あー、俺は別にいいけど・・・」
「じゃあ、そこに向かってレッツゴー!」
そう言うとエミーナもルシーダも右手を高々とグーにして突き上げたが、たしかにオッティ商会にいる間に太陽もかなり傾いた。これなら少し早めの夕食という事で問題ないはずだ。
敦盛はこの世界で食べる、初めての食事に少しだけ心ウキウキしていた。そう、夕食に・・・
でも・・・その時、初めておかしい事に気付いた!
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
敦盛が大声を上げたから、エミーナもルシーダも足を止めた。二人とも『何かあったの?』と言わんばかりの顔だ。
だが、二人に近付いた敦盛は非常に声を小さくして話し始めた。
「い、いや・・・大きな声で言えないのだが・・・俺、お前に召喚される時、あっちの世界では夕方だったんだぞ。だから俺の感覚で言うなら、エミーナにあの別荘に連れてこられた時は夕方だ。でも、さっきまで太陽が高かったという事は、こっちの時間でいうところの昼頃に連れてこられた!」
「た、たしかにボクたちは朝食を取った後、真っすぐあの別荘に行ったから、今日は昼ご飯を食べてない。間違いなくアツモリと会ったのは昼頃だ」
「だろ?何かおかしくないか?」
ルシーダも敦盛が言いたい事の意味が分かって『ハッ!』となった。そう、敦盛の時間の感覚とエミーナ・ルシーダの時間の感覚にズレがあるのだ。
「・・・あくまでボク個人の意見だが、元々の時差があったのか、それとも時間の流れが完全に違うのか、それは分からない。アツモリがあっちの世界からこっちの世界に来た後に、誰か別の人物がこっちに来て、アツモリがあっちの世界の時間でどの程度たっているかが分かれば、単なる時差なのか、それとも時間の流れが全然違うのかが分かるが、今は何とも言えない・・・」
「もしかしたら、1日の時間の流れそのものが違うかもしれない。俺の世界は1日は24時間という事になっているけど、時間の単位そのものがこっちと違ってたら、俺の時間感覚は全然アテにならない事になる」
「だろうね。でも、今の段階ではハッキリ分からないから、しばらく様子を見るしかないと思うよ」
「分かった」
「この世界にも時間を示す『時計』という物はある。だけど、それは指定された地点の太陽が真南にきた時を12時と定め、そこから次の太陽が真南にくるまでの時間を24等分したのが1時間、その1時間を60等分したのが1分だ。その1分の長さがアツモリと違う可能性があるから、ボクも自分の時間感覚をアツモリに押し付けるのはやめる事にする」
「頼むぞ。俺もこっちの時間感覚に慣れるまでは体調の不調を訴えるかもしれないから、悪く思わんでくれ。場合によってはぶっ倒れてエミーナやルシーダに迷惑を掛けるかもしれない」
「りょーかい。でも、ボクは『睡眠』の呪文で強制的に君を寝かせる事しか出来ないからな」
「はいはい」
それだけ言うとエミーナと敦盛は歩き出した。
ただ・・・ルシーダの顔は真っ赤になって突っ立ったままだった。
「・・・おーい、ルシーダ」
エミーナはルシーダが追い付いて来なかったから後ろを振り向いてルシーダに声を掛けたが、明らかにルシーダは上の空で、エミーナと敦盛が歩き出した事に全然気付いてなかったとしか言いようがない。
「は、はい!」
「何をしてるんだあ?行くよー」
「あー、ゴメンゴメン、行きましょう」
そう言ってルシーダも歩き始めたが、顔の火照りが全然収まらず、それを抑え込もうと歩きながら必死になってバレンティノ神の名を何度も唱えて、かなり時間が掛かったけど普通の状態に戻った。さっきの敦盛の発言を別の意味で捉えてしまい、聖職者にあるまじき事が頭の中を駆け巡ってパニック寸前だったのだ。
「・・・あらー、いらっしゃーい」
ここは『海の神』
港に近い下町の酒場兼宿屋の1階だ。
そこのカウンターで留守番をしていた若い女の子が、敦盛たちの姿を見たので笑顔で応対した。まあ、営業スマイルだと思うけど。
敦盛の感覚で言えば小学校高学年かと見間違えるかのような、これまた可愛い子だ。まさにロリっ子というに相応しい!
「おーーっす!」
エミーナが右手を軽く上げると、カウンターの女の子も「おーーっす!」と右手を上げて返した。ルシーダは敦盛と並んでエミーナの後ろにいたけど、こちらは軽く右手を上げただけだ。
「・・・ルシーダさあん、まさかとは思うけど、これから部屋飲みとか言い出さないでしょ?」
そう若い女の子は言ってルシーダを茶化したけど、ルシーダは頬を『ぷうっ』とばかりに膨らませた。
「私は聖職者です!聖職者が酒を飲んでもいいのは生涯で1度だけ!!」
「はいはい、それはもう耳にタコですからあー」
若い女の子はそう言ってニヤニヤしてるけど、どうやら顔なじみのようだ。
「・・・どうしたのー?こーんな時間にお兄さんを連れているという事は、デートの最中ですかあ?」
「違います!こちらは教団にとって大事なお客様です!」
「あー、たしかに見た事ない顔ですしー、東方系の方とお見受けしますから、イズモの国かモンゴリア帝国にある教団施設の方ですかあ?」
そう言うと女の子は敦盛の顔をジロジロ見て、「ふむふむ」とか言いながら色々と観察している。敦盛は「ちょ、ちょっとー、何を考えてるんだあ?」と思ったけど、さすがに失礼かと思って我慢した。
「・・・厳密に言えば違うけど、教団にとって大事な方とだけ言っておくわね」
「まあ、そういう事にしておきますよ。という事は、本当は東方系の方に『誘われた』んですよね?」
「ちょ、ちょっと待って下さいよお、今日は『誘われた』じゃあなくて『誘った』の方よ」
「うっそー!ルシーダさん、とうとう男に目覚めたの!?」
そう言って若い女の子は敦盛とルシーダを交互に見てニヤニヤしてるから、敦盛も「おいおい、こいつ、一体、何者だあ?」と内心では思ってたけど、この世界の事を理解してないから、今は我慢と自分に言い聞かせて、今度も堪えた。
「あのねえエポちゃん、あんまり揶揄うようなら店を変えるわよ」
「ルシーダさんこそ聖職者の口ぶりとは思えませんねえ」
「そっちこそ、『お客様は神様のお導き』の精神を忘れたの?」
「はーー・・・それを言われたらお手上げね。はいはい、失礼いたしました。という事は3人部屋を用意しますから、そちらに料理を運ぶようにしますよ」
「ううん、部屋は1人部屋を1つだけ。食事は下で食べるから」
「うっそー!ホントにそれでいいのお!?」
いきなりその女の子、エポは絶叫して両手を頬に当てている!一体、何をそんなに驚いているんだあ!?
「ど、どうしたの?」
「い、いやー、ぜーったいにエミーナさんとルシーダさんの2人を相手に『あーんな事』や『こーんな事』をすると思ってたから、何かの聞き間違いだと思ったあ!!」
「「「はあ!?」」」
おいおい、こいつ、何を考えてるんだあ!?敦盛は内心そう思って思わず声を出してしまったけど、エミーナとルシーダはさすがに顔を真っ赤にしながら
「ちょ、ちょっとエポちゃん!いい加減にしてくれ!」
「そうです!聖職者を揶揄うと後で神から天罰が下りますよ!」
二人はそう言ってエポに詰め寄ったけど本気で怒ってる訳ではなさそうだ。その証拠に二人とも顔は真っ赤なままだけど青筋を立てているような事はない。
「くっそー、1人部屋ではなく3人部屋にして欲しかったけど、あんまりふざけてると本当に店を替えられそうだからやめておきますよ」
そう言いいながらエポはカウンターの後ろに掛けてあった棚から1つのキーを取り出した。
でもその時、エポは『もしかして・・・』という事に気付いたから、鍵を渡すのをやめて敦盛の方を見た。
「・・・1点、お尋ねしたいのですが魔法灯の使い方は御存知ですかあ?」
「魔法灯?」
敦盛はエポの言葉に思わず首を傾げてしまった。
だいたい、魔法灯などという単語を初めて聞いたのだから、頭の上に『?』が2つも3つもあるような表情でエポの顔をマジマジと見てしまったほどだ。
でも、エポはそう捉えてなかったようだ。
「・・・あー、やっぱり大陸東方には魔法灯は伝わってないんですねー」
「大陸東方?伝わってない?」
「魔法灯そのものが今から15年ほどまえに作られた魔法道具ですからね。エウロパ大陸最北の国であるカルティエ王国では冬場に道路が寸断される事も珍しくなくてランプの燃料として必需品の油が毎年高騰するのが当たり前になってたので、財政悪化に苦しんでたカルティエ王国と、新たな財源を模索していたカルティエ王国魔術師協会の思惑が一致して作り上げた物ですー。火を使わないから火災の心配がないし、少なくとも10年は動力源を交換しなくても使えるという効率の良さから貴族や大商人、王族がこぞって買い入れた事でカルティエ王国の財政が一気に好転したという逸話が残ってる程ですよー」
「ふーん」
「だけどー、2年前にカルティエ王国の特許が期間満了で失効になったから、各国がチャンスとばかりに自国の魔術協会に戦費調達を兼ねて作成を命じたから、市場に大量の魔法灯が出回った事で、ここ半年ほどの間に価格が10分の1から20分の1程度にまで大暴落して、一般の庶民でも簡単に買える位になりましたからねー。機種によって価格は違いますけど、一番安い物で2年分のランプの油代くらいになったから長い目で見たら超お得ですよね」
「た、たしかに・・・」
「でも、元々はカルティエ王国がわざと少数しか作らなくて価格を吊り上げていたし、魔王の出現で大陸の東西を結ぶ街道は命懸けの旅になってますから、大陸東方には殆ど伝わってないと見てますけど、実際のところ、どうなんでしょうか?」
当たり前だが敦盛は魔法灯という言葉を初めて聞いたし(当然です!)、カウンターの上に置かれていた魔法文明の産物をキャッキャキャッキャ言いながら触っていたから、エポだけでなくエミーナとルシーダも笑われたほどだ。
「えーと・・・『照明』!」
敦盛が魔法灯に手をかざしながら叫ぶと、カウンターの上に置いてあった魔法灯がパアッと青白い光を発したから、敦盛「おおーっ!」と感動のあまり両手を突き上げたほどだ。
「そんなに大声で叫ばなくても大丈夫ですよー。小声で呟くようにいうだけでも問題ないですし、他のお客様の迷惑になりますからあ」
エポは笑いながら敦盛に言ったけど、その敦盛が再び『照明』と今度は呟くように言うと魔法灯の明かりが消えたから、再び敦盛が「おおーっ!」と感動したのは言うまでもなかった。
でも、敦盛には素朴な疑問があった。それは・・・
「あのー、1だけ聞きたいんだけど、価格が暴落したとはいえ、結構高額ですよねえ」
「そうですよー」
「盗難とか大丈夫なんですかねえ」
「大丈夫ですよー。この世界の全ての魔法灯には所有者が設定できる3つの合言葉によるロックがかけられていて、この3つの合言葉を唱えずに建物から持ち出すと、信じられないくらいの大音量のアラームが鳴ると同時に重量が一気に100倍になりますから」
「100倍!」
「そうですよー。物によっては大人の男性5人から6人もの重さになるし、しかも合言葉を唱えないと絶対に元に戻らないようになってるから、売り捌こうにも盗品だと一発でバレちゃいます。盗む苦労を考えたら割が合わないですよー」
エポはシレッとした表情で言ったから、敦盛は「はーー」とため息をつくしかなかった。ある意味、自分たちがいた世界の方が文明は進んでるかもしれないけど、セキュリティという点を考えれば、こっちの世界の方が圧倒的に優れているんじゃあないかと思わされたからだ。
「・・・5号室になります。どうぞごゆっくり」
そう言いながらエポはルシーダに鍵を渡したけど、エポはルシーダに鍵を渡す時はニヤニヤ顔だった。
「いつもの店に行く」
「いつもの店?」
「ボクたちが普段使っている、冒険者たちが集まる酒場だ。そこの2階が宿屋になってる。ボクとルシーダが使ってる部屋とは目と鼻の先だから、アツモリ、今夜の君はその2階に泊まるという事でいいかあ?」
「あー、俺は別にいいけど・・・」
「じゃあ、そこに向かってレッツゴー!」
そう言うとエミーナもルシーダも右手を高々とグーにして突き上げたが、たしかにオッティ商会にいる間に太陽もかなり傾いた。これなら少し早めの夕食という事で問題ないはずだ。
敦盛はこの世界で食べる、初めての食事に少しだけ心ウキウキしていた。そう、夕食に・・・
でも・・・その時、初めておかしい事に気付いた!
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
敦盛が大声を上げたから、エミーナもルシーダも足を止めた。二人とも『何かあったの?』と言わんばかりの顔だ。
だが、二人に近付いた敦盛は非常に声を小さくして話し始めた。
「い、いや・・・大きな声で言えないのだが・・・俺、お前に召喚される時、あっちの世界では夕方だったんだぞ。だから俺の感覚で言うなら、エミーナにあの別荘に連れてこられた時は夕方だ。でも、さっきまで太陽が高かったという事は、こっちの時間でいうところの昼頃に連れてこられた!」
「た、たしかにボクたちは朝食を取った後、真っすぐあの別荘に行ったから、今日は昼ご飯を食べてない。間違いなくアツモリと会ったのは昼頃だ」
「だろ?何かおかしくないか?」
ルシーダも敦盛が言いたい事の意味が分かって『ハッ!』となった。そう、敦盛の時間の感覚とエミーナ・ルシーダの時間の感覚にズレがあるのだ。
「・・・あくまでボク個人の意見だが、元々の時差があったのか、それとも時間の流れが完全に違うのか、それは分からない。アツモリがあっちの世界からこっちの世界に来た後に、誰か別の人物がこっちに来て、アツモリがあっちの世界の時間でどの程度たっているかが分かれば、単なる時差なのか、それとも時間の流れが全然違うのかが分かるが、今は何とも言えない・・・」
「もしかしたら、1日の時間の流れそのものが違うかもしれない。俺の世界は1日は24時間という事になっているけど、時間の単位そのものがこっちと違ってたら、俺の時間感覚は全然アテにならない事になる」
「だろうね。でも、今の段階ではハッキリ分からないから、しばらく様子を見るしかないと思うよ」
「分かった」
「この世界にも時間を示す『時計』という物はある。だけど、それは指定された地点の太陽が真南にきた時を12時と定め、そこから次の太陽が真南にくるまでの時間を24等分したのが1時間、その1時間を60等分したのが1分だ。その1分の長さがアツモリと違う可能性があるから、ボクも自分の時間感覚をアツモリに押し付けるのはやめる事にする」
「頼むぞ。俺もこっちの時間感覚に慣れるまでは体調の不調を訴えるかもしれないから、悪く思わんでくれ。場合によってはぶっ倒れてエミーナやルシーダに迷惑を掛けるかもしれない」
「りょーかい。でも、ボクは『睡眠』の呪文で強制的に君を寝かせる事しか出来ないからな」
「はいはい」
それだけ言うとエミーナと敦盛は歩き出した。
ただ・・・ルシーダの顔は真っ赤になって突っ立ったままだった。
「・・・おーい、ルシーダ」
エミーナはルシーダが追い付いて来なかったから後ろを振り向いてルシーダに声を掛けたが、明らかにルシーダは上の空で、エミーナと敦盛が歩き出した事に全然気付いてなかったとしか言いようがない。
「は、はい!」
「何をしてるんだあ?行くよー」
「あー、ゴメンゴメン、行きましょう」
そう言ってルシーダも歩き始めたが、顔の火照りが全然収まらず、それを抑え込もうと歩きながら必死になってバレンティノ神の名を何度も唱えて、かなり時間が掛かったけど普通の状態に戻った。さっきの敦盛の発言を別の意味で捉えてしまい、聖職者にあるまじき事が頭の中を駆け巡ってパニック寸前だったのだ。
「・・・あらー、いらっしゃーい」
ここは『海の神』
港に近い下町の酒場兼宿屋の1階だ。
そこのカウンターで留守番をしていた若い女の子が、敦盛たちの姿を見たので笑顔で応対した。まあ、営業スマイルだと思うけど。
敦盛の感覚で言えば小学校高学年かと見間違えるかのような、これまた可愛い子だ。まさにロリっ子というに相応しい!
「おーーっす!」
エミーナが右手を軽く上げると、カウンターの女の子も「おーーっす!」と右手を上げて返した。ルシーダは敦盛と並んでエミーナの後ろにいたけど、こちらは軽く右手を上げただけだ。
「・・・ルシーダさあん、まさかとは思うけど、これから部屋飲みとか言い出さないでしょ?」
そう若い女の子は言ってルシーダを茶化したけど、ルシーダは頬を『ぷうっ』とばかりに膨らませた。
「私は聖職者です!聖職者が酒を飲んでもいいのは生涯で1度だけ!!」
「はいはい、それはもう耳にタコですからあー」
若い女の子はそう言ってニヤニヤしてるけど、どうやら顔なじみのようだ。
「・・・どうしたのー?こーんな時間にお兄さんを連れているという事は、デートの最中ですかあ?」
「違います!こちらは教団にとって大事なお客様です!」
「あー、たしかに見た事ない顔ですしー、東方系の方とお見受けしますから、イズモの国かモンゴリア帝国にある教団施設の方ですかあ?」
そう言うと女の子は敦盛の顔をジロジロ見て、「ふむふむ」とか言いながら色々と観察している。敦盛は「ちょ、ちょっとー、何を考えてるんだあ?」と思ったけど、さすがに失礼かと思って我慢した。
「・・・厳密に言えば違うけど、教団にとって大事な方とだけ言っておくわね」
「まあ、そういう事にしておきますよ。という事は、本当は東方系の方に『誘われた』んですよね?」
「ちょ、ちょっと待って下さいよお、今日は『誘われた』じゃあなくて『誘った』の方よ」
「うっそー!ルシーダさん、とうとう男に目覚めたの!?」
そう言って若い女の子は敦盛とルシーダを交互に見てニヤニヤしてるから、敦盛も「おいおい、こいつ、一体、何者だあ?」と内心では思ってたけど、この世界の事を理解してないから、今は我慢と自分に言い聞かせて、今度も堪えた。
「あのねえエポちゃん、あんまり揶揄うようなら店を変えるわよ」
「ルシーダさんこそ聖職者の口ぶりとは思えませんねえ」
「そっちこそ、『お客様は神様のお導き』の精神を忘れたの?」
「はーー・・・それを言われたらお手上げね。はいはい、失礼いたしました。という事は3人部屋を用意しますから、そちらに料理を運ぶようにしますよ」
「ううん、部屋は1人部屋を1つだけ。食事は下で食べるから」
「うっそー!ホントにそれでいいのお!?」
いきなりその女の子、エポは絶叫して両手を頬に当てている!一体、何をそんなに驚いているんだあ!?
「ど、どうしたの?」
「い、いやー、ぜーったいにエミーナさんとルシーダさんの2人を相手に『あーんな事』や『こーんな事』をすると思ってたから、何かの聞き間違いだと思ったあ!!」
「「「はあ!?」」」
おいおい、こいつ、何を考えてるんだあ!?敦盛は内心そう思って思わず声を出してしまったけど、エミーナとルシーダはさすがに顔を真っ赤にしながら
「ちょ、ちょっとエポちゃん!いい加減にしてくれ!」
「そうです!聖職者を揶揄うと後で神から天罰が下りますよ!」
二人はそう言ってエポに詰め寄ったけど本気で怒ってる訳ではなさそうだ。その証拠に二人とも顔は真っ赤なままだけど青筋を立てているような事はない。
「くっそー、1人部屋ではなく3人部屋にして欲しかったけど、あんまりふざけてると本当に店を替えられそうだからやめておきますよ」
そう言いいながらエポはカウンターの後ろに掛けてあった棚から1つのキーを取り出した。
でもその時、エポは『もしかして・・・』という事に気付いたから、鍵を渡すのをやめて敦盛の方を見た。
「・・・1点、お尋ねしたいのですが魔法灯の使い方は御存知ですかあ?」
「魔法灯?」
敦盛はエポの言葉に思わず首を傾げてしまった。
だいたい、魔法灯などという単語を初めて聞いたのだから、頭の上に『?』が2つも3つもあるような表情でエポの顔をマジマジと見てしまったほどだ。
でも、エポはそう捉えてなかったようだ。
「・・・あー、やっぱり大陸東方には魔法灯は伝わってないんですねー」
「大陸東方?伝わってない?」
「魔法灯そのものが今から15年ほどまえに作られた魔法道具ですからね。エウロパ大陸最北の国であるカルティエ王国では冬場に道路が寸断される事も珍しくなくてランプの燃料として必需品の油が毎年高騰するのが当たり前になってたので、財政悪化に苦しんでたカルティエ王国と、新たな財源を模索していたカルティエ王国魔術師協会の思惑が一致して作り上げた物ですー。火を使わないから火災の心配がないし、少なくとも10年は動力源を交換しなくても使えるという効率の良さから貴族や大商人、王族がこぞって買い入れた事でカルティエ王国の財政が一気に好転したという逸話が残ってる程ですよー」
「ふーん」
「だけどー、2年前にカルティエ王国の特許が期間満了で失効になったから、各国がチャンスとばかりに自国の魔術協会に戦費調達を兼ねて作成を命じたから、市場に大量の魔法灯が出回った事で、ここ半年ほどの間に価格が10分の1から20分の1程度にまで大暴落して、一般の庶民でも簡単に買える位になりましたからねー。機種によって価格は違いますけど、一番安い物で2年分のランプの油代くらいになったから長い目で見たら超お得ですよね」
「た、たしかに・・・」
「でも、元々はカルティエ王国がわざと少数しか作らなくて価格を吊り上げていたし、魔王の出現で大陸の東西を結ぶ街道は命懸けの旅になってますから、大陸東方には殆ど伝わってないと見てますけど、実際のところ、どうなんでしょうか?」
当たり前だが敦盛は魔法灯という言葉を初めて聞いたし(当然です!)、カウンターの上に置かれていた魔法文明の産物をキャッキャキャッキャ言いながら触っていたから、エポだけでなくエミーナとルシーダも笑われたほどだ。
「えーと・・・『照明』!」
敦盛が魔法灯に手をかざしながら叫ぶと、カウンターの上に置いてあった魔法灯がパアッと青白い光を発したから、敦盛「おおーっ!」と感動のあまり両手を突き上げたほどだ。
「そんなに大声で叫ばなくても大丈夫ですよー。小声で呟くようにいうだけでも問題ないですし、他のお客様の迷惑になりますからあ」
エポは笑いながら敦盛に言ったけど、その敦盛が再び『照明』と今度は呟くように言うと魔法灯の明かりが消えたから、再び敦盛が「おおーっ!」と感動したのは言うまでもなかった。
でも、敦盛には素朴な疑問があった。それは・・・
「あのー、1だけ聞きたいんだけど、価格が暴落したとはいえ、結構高額ですよねえ」
「そうですよー」
「盗難とか大丈夫なんですかねえ」
「大丈夫ですよー。この世界の全ての魔法灯には所有者が設定できる3つの合言葉によるロックがかけられていて、この3つの合言葉を唱えずに建物から持ち出すと、信じられないくらいの大音量のアラームが鳴ると同時に重量が一気に100倍になりますから」
「100倍!」
「そうですよー。物によっては大人の男性5人から6人もの重さになるし、しかも合言葉を唱えないと絶対に元に戻らないようになってるから、売り捌こうにも盗品だと一発でバレちゃいます。盗む苦労を考えたら割が合わないですよー」
エポはシレッとした表情で言ったから、敦盛は「はーー」とため息をつくしかなかった。ある意味、自分たちがいた世界の方が文明は進んでるかもしれないけど、セキュリティという点を考えれば、こっちの世界の方が圧倒的に優れているんじゃあないかと思わされたからだ。
「・・・5号室になります。どうぞごゆっくり」
そう言いながらエポはルシーダに鍵を渡したけど、エポはルシーダに鍵を渡す時はニヤニヤ顔だった。
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