上 下
53 / 84

第53話 【ダイナス恐怖の10日間】~9日目夜の部~

しおりを挟む
コンコンコン・・・。

「俺だけど入っても良いかな?」

「あっ!少しだけお待ちください」

着崩れている所がないか確認してから、マリアはドアの向こうにハジメを中に招き入れた。

「はい、どうぞお待たせしました」

(こんな夜更けに一体どうされたのだろう?まさか、私を抱く為に!?)

途端に胸の鼓動が早くなる、実際の所ハジメが来る事を期待していなかったといえば嘘になるかもしれない。ハジメとミリンダが夕飯の時間になっても戻らず、残った面々で先に食事を済ませたのだが胸の中に小さなしこりの様な物を感じていた。

アルラウネとしてハジメの前に初めて姿を見せた時、彼には既に3人の女性が居た。セシリア・ラン・サリーネの3名は経緯は様々だがハジメの人柄等に惹かれ共に歩む道を選んでいる。その中に自分も入る事が出来るのだろうか?また入る事を許されるのだろうか?そんな不安を感じている事自体が彼に好意以上の気持ちを抱いている証拠だろう。



小さなテーブルに向かい合わせで座る、マリアとハジメ。マリアは薄明かりの中で頬を微かに赤く染めていたが、ハジメは気付かなかった。

「ラーセッツの奴がとんでもない事をした所為でマリアにも要らない心配を掛けさせたと思う、済まなかった」

「いいえ、そんな事無いです!お陰でアインさんとエイラさんの関係を問い詰める人も出ませんでした、本来ならば不義密通を疑われてもおかしくないのにクレアにとっても良い結果となったのではないでしょうか」

「そうか、そう言ってもらえると俺も嬉しいよ。これで安心してルピナスに帰れる」

(えっ・・・今なんて!?)

マリアは動揺して思わずハジメの手を掴んでしまった!

「ハジメさん、ルピナスに帰るって本当ですか!?」

「ああ、元々ダイナスは10日間の滞在予定だったから明日商業ギルドで馬車を受け取ったら戻る予定だよ。今度の合同会議には魔王も参加するから大変だよ」

「そうですか・・・」

(明日にはハジメさんはルピナスに帰ってしまう、でも一緒に連れて行って欲しいなんて都合の良い事を言える訳ないわ!)

そんなマリアの焦燥を感じ取ったのか、ハジメはマリアの手を握り返しながら心待ちにしていた言葉を言った。

「マリア、良かったら俺達と一緒にルピナスに来ないか?始とセレスが住んでいた家が空き家になる予定だから、そこに住むと良い。俺の家もそこから近いから、いつでも遊びに来れるよ」

ズキンッ! ハジメの優しさがマリアの心を痛ませた。もっと一緒に居たい、共に過ごしたい、心と身体の全てを彼に捧げたい。その想いが止め処もなく溢れ出し、マリアは思いの丈をハジメにぶつけた。

「あの・・・私もハジメさんと一緒に住む事は出来ませんか?ハジメさんと過ごした時間は他の3人と比べて短いかもしれませんが、この気持ちに蓋をする事が出来そうにありません。ハジメさん、私の全てを受け取ってもらえますか?」

マリアは席を立つとハジメの前で全てを曝け出した、目を閉じてハジメの指先が肌に触れる瞬間を待つが数分待っても触れられる様子が無い。マリアは羞恥に耐えられなくなり下着に手を伸ばそうとした瞬間、ハジメの心が流れ込んできた。口ではとても言えそうにないその中身にマリアは驚き言葉も出ない。

「もう、間違いでしたなんて言わないでくれよ。これ以上我慢出来そうも無いから全て貰うよ、俺やセシリア達と一緒にルピナスで暮らそう」

「はい、喜んで」

ハジメはマリアをゆっくりと抱きしめながら肌の感触を確かめる、そして抱きかかえる様にしてベッドまで運ぶとマリアがまだ見せていない顔を見る為に部屋中にフェロモンを散布させた・・・。



「まあね、こうなる事は最初から予想していましたけどハジメは声が筒抜けだって事気付いていないのかしら?」

セシリアは頬を膨らませながらランとサリーネの3人で夜の女子会を開いていた。

「まあ、そう目くじらを立てる必要も有るまい。アレは私達の仲間入りをする一種の儀式みたいなモノだ」

「わ、私もあんな声を出していたのでしょうか!?」

サリーネは羞恥のあまり両手で顔を覆ってしまう。

「あなたの場合、ハジメはちゃんと遮音結界を張っていたわよ。今回は張り忘れているだけ」

「・・・・それはそれでマリアさんが少し可哀相に思えてきました」

そう言いながら、サリーネは背後のベッドで寝息を立てているミリンダを見ながら微笑んだ。

「ミリンダ姉さま、今まで見た事の無い落ち着いた寝顔をされていますね」

「暗殺者だった頃の過去も含めて丸ごとハジメ様が飲み込んでくれたからの。当然じゃ」

そんな事を話していると、上の階から漏れてくる声が更に大きくなった。

「おっ!?ハジメ様が本気を出し始めたな、アレを喰らってはひとたまりもないぞ」

「確かにアレは思い出すだけで、気を失いそうになってしまいます」

セシリアとランが急に顔を赤面させるので、サリーネはハジメの本気がどんなものか知りたくなった。自分の際は何が起きているのか分からないまま失神していたからだ。

「あのハジメさんが本気を出すとどうなるのですか?私、発情していて何が起きていたのかはっきりと覚えていないんです」

セシリアとランは顔を見合わせて考え込む、はたして正直に話して良いものなのだろうか?と

「聞いても後悔しないと約束してくれるか?サリーネ」

「はい、それは勿論ですラン姉さま」

「それじゃあ話すけど、驚かないで聞いてねサリーネ」

2人からハジメの本気の正体を聞いたサリーネはその内容に絶句しショックで気を失った・・・。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!  見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに 初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、 さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。 生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。 世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。 なのに世界が私を放っておいてくれない。 自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。 それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ! 己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。 ※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。 ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。  

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

男装バレてイケメン達に狙われてます【逆ハーラブコメファンタジー】

中村 心響
ファンタジー
☆タイトル「天地を捧げよ~神剣伝説~」から変更しました。改稿しなければならない箇所多数ですが、手間がかかる為、どんどん更新致します。修正は完結後に。 ・中世を舞台に繰り広げられるハチャメチャ逆ハーラブコメファンタジー! 「お前、可愛いな? 俺様の情夫になれよ……」 強引なレオに狙われたアルは一体どうなってしまうのかーー * 神に見初められし者だけに与えられ、その者だけに使い熟すことのできる剣ーー。 今や伝説さえも忘れさられ、語り継がれることもなくなった「神剣レイブレード」それを手にする者が現れた時、悪しき者が天地を紅く染める……。 [あらすじ] 生き延びるために故郷の村を出たアル達が辿り着いたのは王都ルバール大国だった……。生きて行く生活費を稼ぐために、アルはその国で開催される拳闘技大会の賞金を狙って出場を申し込みに行くが…… 笑い、感動逆ハーラブコメファンタジー! どんな展開になるのか著者も予想出来ません。 著者の書きたい放題ファンタジーでございます。 一部…出会い編 二部…闘技会編 三部…恋愛編 四部…伝説編 五部…冒険編 女子向けラブファンタジー ※空白効果や、記号等を多々利用して書いてあります。読み難い箇所、誤字脱字は後から修正致します。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

うちの娘が悪役令嬢って、どういうことですか?

プラネットプラント
ファンタジー
全寮制の高等教育機関で行われている卒業式で、ある令嬢が糾弾されていた。そこに令嬢の父親が割り込んできて・・・。乙女ゲームの強制力に抗う令嬢の父親(前世、彼女いない歴=年齢のフリーター)と従者(身内には優しい鬼畜)と異母兄(当て馬/噛ませ犬な攻略対象)。2016.09.08 07:00に完結します。 小説家になろうでも公開している短編集です。

『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!

IXA
ファンタジー
30年ほど前、地球に突如として現れたダンジョン。  無限に湧く資源、そしてレベルアップの圧倒的な恩恵に目をつけた人類は、日々ダンジョンの研究へ傾倒していた。  一方特にそれは関係なく、生きる金に困った私、結城フォリアはバイトをするため、最低限の体力を手に入れようとダンジョンへ乗り込んだ。  甘い考えで潜ったダンジョン、しかし笑顔で寄ってきた者達による裏切り、体のいい使い捨てが私を待っていた。  しかし深い絶望の果てに、私は最強のユニークスキルである《スキル累乗》を獲得する--  これは金も境遇も、何もかもが最底辺だった少女が泥臭く苦しみながらダンジョンを探索し、知恵とスキルを駆使し、地べたを這いずり回って頂点へと登り、世界の真実を紐解く話  複数箇所での保存のため、カクヨム様とハーメルン様でも投稿しています

おっさん、勇者召喚されるがつま弾き...だから、のんびりと冒険する事にした

あおアンドあお
ファンタジー
ギガン城と呼ばれる城の第一王女であるリコット王女が、他の世界に住む四人の男女を 自分の世界へと召喚した。 召喚された四人の事をリコット王女は勇者と呼び、この世界を魔王の手から救ってくれと 願いを託す。 しかしよく見ると、皆の希望の目線は、この俺...城川練矢(しろかわれんや)には、 全く向けられていなかった。 何故ならば、他の三人は若くてハリもある、十代半ばの少年と少女達であり、 将来性も期待性もバッチリであったが... この城川練矢はどう見ても、しがないただの『おっさん』だったからである。 でもさ、いくらおっさんだからっていって、これはひどくないか? だって、俺を召喚したリコット王女様、全く俺に目線を合わせてこないし... 周りの兵士や神官達も蔑視の目線は勿論のこと、隠しもしない罵詈雑言な言葉を 俺に投げてくる始末。 そして挙げ句の果てには、ニヤニヤと下卑た顔をして俺の事を『ニセ勇者』と 罵って蔑ろにしてきやがる...。 元の世界に帰りたくても、ある一定の魔力が必要らしく、その魔力が貯まるまで 最低、一年はかかるとの事だ。 こんな城に一年間も居たくない俺は、町の方でのんびり待とうと決め、この城から 出ようとした瞬間... 「ぐふふふ...残念だが、そういう訳にはいかないんだよ、おっさんっ!」 ...と、蔑視し嘲笑ってくる兵士達から止められてしまうのだった。 ※小説家になろう様でも掲載しています。

処理中です...