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第51話 【ダイナス恐怖の10日間】~8日目夜の部~

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「お待ちしておりました、さあこちらへどうぞ」

アインの屋敷を訪れると玄関でアインが出迎えてくれた、訪れたのはハジメ・クレア・マリア・セシリア・始・ラーセッツ・ジィさんの計7人。ランが強行軍の疲れでダウンしているのに疲れも見せずに来たジィさんはアーシュラさんによって強制的に肉体改造された怪人(魔人?)に違いなかった。

「アイン様、ママは無事なのですね?」

「はい、ご無事ですよ。あなたが行方不明になったのと同時期に不義密通の罪を被せられ城の地下で処刑されようとしていたのを私が秘かに助け屋敷で匿っていたのです」

「そうなのですね、助けて頂き有難う御座いました」

ホッとしているクレア、だがジェラールは首検分をしなかったのだろうか?

「アイン、ジェラールの奴は処刑する所を確認しようとはしなかったのか?」

「当然、見ようとしました。しかし地下の薄暗い中で行いましたが間近で顔の確認まではしませんでした」

つまり、代わりに誰かが処刑されているという事か・・・。

「それで・・・クレアの母親の代わりに処刑されたのは誰だ?事と次第によってはお前も許す訳にはいかなくなるぞ」

ハジメはアインを睨み付ける、しかしアインは堂々と答えた。

「以前、捕えていた野盗の生き残りです。ジェラールは要らなくなった妾や愛人をこの方法で処分していたので、立ち会おうとした際に隙を見て入れ替え身代わりにしました」

「それじゃあ、これまでにも何人か同じ方法で助けていた訳なんだな?」

「はい、戸籍上は死亡扱いになっているので本名で名乗る事は出来ませんが他の町や村で別の名前の新しい人生を過ごしています」

それならばアインの罪を問う必要は無いな、身代わりに選んでいるのも死罪に値する罪を犯してきた者だけの筈だから。それから幾つか言葉を交わしていると、クレアの母親が待つ部屋の前に辿り着いた。



「クレア!」

「ママ!」

「クレア様、抱きつくのは構いませんがゆっくりとお願いします」

クレアが勢い良く母親に抱きつこうとするのをアインが横から制止した、感動の再会のシーンに横から茶々を入れるなんて空気の読めない奴だな。

「アイン様、クレアを叱らないであげてください」

「すまないエイラ、だが今下手に衝撃を与えてお腹の子に何か有ってはいけない」

ん?今、お腹の子と言わなかったか!?

「おい、今お前お腹の子と言わなかったか?」

「あっ!?いや、まぁ、その」

もしかして俺達を呼んだ理由って・・・。

「そのお腹の子ってのはアイン、お前との間に出来た子供だって事なんだな?」

「実はその通りでして・・・・彼女を助け出して屋敷で身の回りの世話をする内にこのような間柄となってしまい『郊外で行方不明となっている筈の王の妾が近衛騎士団の団長と秘かに愛し合っていた』事が知られてしまうと非常にまずいのです」

対外的には行方不明となっている為、冤罪で処刑されそうになっていた事を公表しない限り2人の関係は不義密通と言われてもおかしくない。アインの言っていた少々困った状況というのは、こんな事だった訳ね。

「なあクレア、近々新しい弟か妹が増えるそうだけど嬉しいか?」

「えっ!?私がお姉ちゃんになるって事?」

「そうだよ、それでこのアインって人がクレアの新しいパパだそうだ」

「えっ!ええっ!?」

クレアが目を白黒させている、そりゃ甦って早々に弟か妹が出来ると知ったらこうなるか。だが更にクレアを混乱させる人物が現れた、ラーセッツだ。



「ねえ、ハジメ義兄さん。この国の王の血を引く正当な後継者は今の所行方不明の扱いになっているクレアだけなんですよね?」

「まあ、そうだな。他の血縁者や一族は全員王位継承権を剥奪されて平民となり流刑になるからな」

ミリンダに詳細に調べてもらうまでも無く、ジェラールの血縁者や一族の不正の証拠は王城の中にたくさん転がっていた。何しろ、ハジメに『**様に賄賂を持ってきましたがどこに置いておけば良いですか?』なんて聞いてくる奴まで居る始末。そこから芋づる式に容疑者が捕まり王城内で拘束されていたジェラールの血縁者や一族は皆余罪のオンパレードで死罪にならなかったのが不思議な位だった。

「じゃあクレア、いやクレア王女が女王に即位するまではアインさんと義母上に国王と王妃になってもらうのはどうですか?」

「はあっ?私に国王になれですって!?」

突然王女と呼ばれて驚くクレアと近衛騎士団の団長からいきなり国王になれと言われ唖然とするアイン。その前にラーセッツ、クレアの母親エイラを【義母上】ってお前まさか悪い癖が出てきたのか!?

「義母上の子がお披露目を迎える頃にはクレア王女も21歳となっているでしょう。そのお披露目の席で、クレア王女に結婚を申し込みたいのですが?あっそういえば挨拶がまだでしたね、僕は魔王の息子でラーセッツと言います」

突然魔王の息子から再会したばかりの娘をくださいと言われて卒倒しそうになるエイラ。やはりアーシュラさんの血の影響からかやる事が自由奔放過ぎるぞ、ラーセッツ!

「ラーセッツお兄ちゃん、急にどうしたの?」

怯えた様な目でラーセッツを見つめるクレア、そんなクレアを安心させようとラーセッツはニッコリ微笑むと優しく語りかけた。

「僕はクレアに一目惚れしちゃったみたいなんだ、だから傍にずっと居たい。大人になったら僕のお嫁さんになってくれないか?」

セシリアは半分呆れながら用意された紅茶を口にしていた、サリーネが見たら開いた口がきっと塞がらなかっただろう。だが意味は違うかもしれないが、捨てる神あれば拾う神あり。この場合、捨てる神がサリーネで拾う神はクレアだった様だ。

「私なんかで良いの?私1度死んで先日までマミーだったんだよ?」

「ああ、それでも構わない。君こそ僕の運命の人だ」

ブーッ! 思わずセシリアが飲んでいた紅茶を吹いてしまう。ハジメも紅茶を飲んでいれば確実に吹いていただろう。ほんの数日前にサリーネを賭けて決闘を申し込んできた事すら今はもうすっかり忘れているに違いない、本当に傍迷惑な奴だ。



「じゃあハジメ義兄さん、無事に話も付きましたので明日盛大に新国王夫妻の即位を宣言させましょう」

(何1つ無事に話は付いていないぞ!)

心の中でツッコミを言うハジメの肩にジィさんが手を乗せながら首を振る、どうやらもう何を言っても手遅れらしい。

そんな非常識なやり取りを間近で見ていた、マリアが呆然としながらようやく口を開いた。

「こんな事になるなんてアルラウネの頃には予知出来なかった、ハジメさんの周りの人はこんな非常識な人間ばかりなの!?」

マリアの口から思わず出た問いかけに『そんな事は無いぞ』と言う事が出来なかったハジメだった・・・。
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