上 下
47 / 84

第47話 【ダイナス恐怖の10日間】~7日目午前の部~

しおりを挟む
ハジメ達がダイナスに戻ってきたのは深夜に近かった、しかし肉体的にも精神的にも疲労がピークに達していた為その日は宿で休息を取る事を優先した。そして翌朝、朝食を済ませるとハジメ達は教会に向かった。

アルラウネが住人に危害を加える意思が無い事を証明する為にラーセッツが連れて行ったのだが神父は快く場所を提供してくれた、悪しき者は居続けるのを嫌がるのでその様子を見る為に彼女もまたここで一晩監視状態に置かれていた。待っていたアルラウネは4人で来る事を予見していたらしく、驚いた様子も無かった。

「お久しぶりです、アルラウネさん。あなたのお陰でハジメは命を失わずに済みました」

『そう?なら良かったわ』

セシリアがアルラウネに礼を言う、彼女がアーシュラの許に行かなければハジメはあの時消し炭となっていただろう。

「彼女は俺の命の恩人なんだ、済まないが解放してもらえないか?」

「一晩念の為監視しておりましたが危害を加える様子も見られませんから大丈夫でしょう、彼女には不都合を掛けてしまい済まなかったと詫びを伝えて下さい」

『待って』

見張りの任に就いていた兵士が立ち去ろうとするとアルラウネが声を掛けて制止させた。

「私に何の御用でしょうか?」

『あなたの大切な人、両親が無理やり別の男性に嫁入りさせようとしているわ。今日中に2人でダイナスを出てルピナスまで駆け落ちすれば、ここに居る人達があなたとその女性を必ず守ってくれる。地位も名誉も捨てる覚悟が有るのならば、今の言葉忘れないでね』

「!?」

驚く兵士、しかし時間が経つにつれて優しい顔から覚悟を決めた男の顔に変わっていった。

「分かりました、何もせずに諦めるのは嫌だったのでその言葉で決心が付きました。私自身の心に従って行動してみます」

『覚悟が出来たのなら、もう1つだけ教えてあげる。男性が家を訪れるのは昼頃よ、両親が玄関で出迎えている隙に裏口から連れ出しなさい』

「ありがとうございます!」

教会から駆け出す兵士の顔に迷いは無かった、きっとハジメ達がルピナスに戻った後に女性と2人で町を訪れる事だろう。

『ごめんなさいね、ちょっと世話を焼きすぎてしまったわ。急いで墓地に行きましょう』

そうだ、墓地には俺達が戻るのを待ちわびている子が居るのだった。ハジメはアルラウネの手を掴むと教会を出た。

『なんで、私の手を握るの?』

「ほら、こうしておけば誰も君を怖がったりしないよ」

ハジメは気にせずに進むが、アルラウネの頬が微かに茶色に変色しているのをセシリア達は見逃さなかった。

(これって、もしかしてもしかするの?)

(流石にモンスターの嫁入りなんて聞いた事有りませんよ?)

(でもハジメさんを助ける為に街に出る決断は中々出来ませんよ?)

後ろから3人の声が聞こえてきたが先頭を行くハジメには会話の中身まではよく聞こえなかった、しかしアルラウネには届いていた様で茶色の頬がこげ茶色に近くなっていた・・・。



『私よ、あの人が戻ってきたから出て来て』

アルラウネが声を掛けると、マミーの女の子が姿を現した。前回と違って、セシリア達が加わっているのに驚いた様子でアルラウネの背中の後ろに隠れてしまっている。

『怖がらなくても大丈夫、あなたの為にこの人達も頑張ってくれたのよ?』

『本当?』

『ええ、本当よ。だから、まず始めに言っておくべき言葉が有るでしょ?』

優しく諭すアルラウネ、女の子は恥ずかしがりながら前に出るとセシリア達に頭を下げた。

『私のために、どうもありがとう』

それを見たセシリアとミリンダが目を輝かせながら、女の子の頭を撫で始めた。ツッコミを入れたくなったがその子はまだマミーだという事を忘れていないか?しかし、すぐにハジメはその輪の中にサリーネが入っていない事に気が付いた。

「どうかしたのか、サリーネ?」

「いえ、その子どこかで見た覚えが・・・」

首を傾げるサリーネの様子が少しだけ気になるハジメだった。

『そろそろ離して貰っても良いかしら?続きはこの子が甦った後で』

「そ、そうね!楽しみは取っておいた方が良いですからね」

「ええ、甦った後にまた楽しませて頂きましょう」

セシリアとミリンダが名残惜しそうに離れると、ハジメは懐から【再生の玉】を取り出した。

「ほら、これが君を甦らせる事が出来る秘宝だ。これを使ってママの許へ帰るんだ」

『うん!』

『待って、1度私にそれを渡してくれない?』

ハジメが女の子に【再生の玉】を手渡そうとすると、横からアルラウネが入ってきた。

「どうするつもりだ?」

『そのままの状態で渡すと、この子に【再生の玉】の力は強力過ぎて魂が戻る前に身体が保たないの。だから、こうするのよ』

アルラウネはそう言うと【再生の玉】に切り込みを入れ4分の1の欠片を作るとそれを女の子に手渡した。

『これで大丈夫、害は無いからそれを飲みなさい。私もすぐにあなたの姉に戻るから』

(姉?今、アルラウネはこの子に姉と言わなかったか!?)

女の子が欠片を飲むのを確認すると、アルラウネも残りの【再生の玉】を飲み込んだ。

『ありがとう、ハジメ。お陰で私もやっとモンスターから人間に戻れるわ、ドリアードには申し訳無いけどやはり私は人間として暮らしたいの』

「なんだって!君も元は人だったのか!?」

『ええ、そうよ。平民との間に生まれた子を残すと汚れた血が混ざると母さん共々無実の罪を着せられ絞首台送りにされた。けれども、私だけアルラウネとしてこの世で生き続ける事となりドリアードとの出会いや私自身の未来が視える様になった事で甦る好機を得たのよ』

「それじゃあ、俺達が喰ったマミースライムの子達も甦らせれたんじゃ!?」

『あの子達も本当は甦らせたかった、でもマミースライムから再生させてもマミーに戻るだけ。それならば、あなた達に食べてもらってあの子達の親に亡くなった事を伝えて欲しかったの』

施設址でハジメ達に食べるように導いたのは、アルラウネだったようだ。

『私もこの子も母親は違うけれど、父親が同じ異母姉妹なの。この子だけ組織に渡されて酷い扱いを受けたから、どうしても一緒に甦らせたくなった。この気持ち、理解出来ない?』

「俺は同じ境遇になった事が無いから分からないが、そんな事をする父親を絶対に許せない。一体、そいつは誰なんだ!?」

女の子とアルラウネの身体が徐々に光り輝き始める、墓地全体が白い光で満ち溢れ全てを白く染め上げる直前にアルラウネが口を開いた。

『国王ジェラール、それが私達姉妹の父の名です』
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

男装バレてイケメン達に狙われてます【逆ハーラブコメファンタジー】

中村 心響
ファンタジー
☆タイトル「天地を捧げよ~神剣伝説~」から変更しました。改稿しなければならない箇所多数ですが、手間がかかる為、どんどん更新致します。修正は完結後に。 ・中世を舞台に繰り広げられるハチャメチャ逆ハーラブコメファンタジー! 「お前、可愛いな? 俺様の情夫になれよ……」 強引なレオに狙われたアルは一体どうなってしまうのかーー * 神に見初められし者だけに与えられ、その者だけに使い熟すことのできる剣ーー。 今や伝説さえも忘れさられ、語り継がれることもなくなった「神剣レイブレード」それを手にする者が現れた時、悪しき者が天地を紅く染める……。 [あらすじ] 生き延びるために故郷の村を出たアル達が辿り着いたのは王都ルバール大国だった……。生きて行く生活費を稼ぐために、アルはその国で開催される拳闘技大会の賞金を狙って出場を申し込みに行くが…… 笑い、感動逆ハーラブコメファンタジー! どんな展開になるのか著者も予想出来ません。 著者の書きたい放題ファンタジーでございます。 一部…出会い編 二部…闘技会編 三部…恋愛編 四部…伝説編 五部…冒険編 女子向けラブファンタジー ※空白効果や、記号等を多々利用して書いてあります。読み難い箇所、誤字脱字は後から修正致します。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

うちの娘が悪役令嬢って、どういうことですか?

プラネットプラント
ファンタジー
全寮制の高等教育機関で行われている卒業式で、ある令嬢が糾弾されていた。そこに令嬢の父親が割り込んできて・・・。乙女ゲームの強制力に抗う令嬢の父親(前世、彼女いない歴=年齢のフリーター)と従者(身内には優しい鬼畜)と異母兄(当て馬/噛ませ犬な攻略対象)。2016.09.08 07:00に完結します。 小説家になろうでも公開している短編集です。

隷属の勇者 -俺、魔王城の料理人になりました-

高柳神羅
ファンタジー
「余は異世界の馳走とやらに興味がある。作ってみせよ」 相田真央は魔王討伐のために異世界である日本から召喚された勇者である。歴戦の戦士顔負けの戦闘技能と魔法技術を身に宿した彼は、仲間と共に魔王討伐の旅に出発した……が、返り討ちに遭い魔王城の奥深くに幽閉されてしまう。 彼を捕らえた魔王は、彼に隷属の首輪を填めて「異世界の馳走を作れ」と命令した。本心ではそんなことなどやりたくない真央だったが、首輪の魔力には逆らえず、渋々魔王城の料理人になることに── 勇者の明日はどっちだ? これは、異世界から召喚された勇者が剣ではなくフライパンを片手に厨房という名の戦場を駆け回る戦いの物語である。

前回は断頭台で首を落とされましたが、今回はお父様と協力して貴方達を断頭台に招待します。

夢見 歩
ファンタジー
長年、義母と義弟に虐げられた末に無実の罪で断頭台に立たされたステラ。 陛下は父親に「同じ子を持つ親としての最後の温情だ」と断頭台の刃を落とす合図を出すように命令を下した。 「お父様!助けてください! 私は決してネヴィルの名に恥じるような事はしておりません! お父様ッ!!!!!」 ステラが断頭台の上でいくら泣き叫び、手を必死で伸ばしながら助けを求めても父親がステラを見ることは無かった。 ステラは断頭台の窪みに首を押さえつけられ、ステラの父親の上げた手が勢いよく振り下ろされると同時に頭上から鋭い刃によって首がはねられた。 しかし死んだはずのステラが目を開けると十歳まで時間が巻き戻っていて…? 娘と父親による人生のやり直しという名の復讐劇が今ここに始まる。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 全力で執筆中です!お気に入り登録して頂けるとやる気に繋がりますのでぜひよろしくお願いします( * ॑꒳ ॑*)

処理中です...