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伊豆、仁義なき女たちの戦い(前編)

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 キーンバタバタバタバタ……、甲高い音と共にプロペラが回転する音が聞こえる。防衛隊の一行は現在ハインドに変身したクゥに搭乗し、静岡県の伊豆に向かって飛行していた。

「……なあ。普通旅行といえば大型バスとかチャーターしたりしないか?」

「そんな予算がどこにありますか。交通費を浮かせて、その分は夜の宴会に使うのです」

 顔を赤くしながら天照が答える、足下には発泡酒の缶が数本転がっている。飛び立つと同時に飲み始めるのだから、とんでもない高天原の主神だ。その隣では須佐之男と月読が兄弟で酒を酌み交わしているし、この旅行中は酔っ払いを相手にするのが主な仕事になりそうである。

「は~い、リク! なに残念そうな顔をしているのデスカ? もしかしてクゥと相席でもしたかった?」

 グラグラグラ! 飛んでいたクゥの胴体が突然ふらつく、どうやら中の会話が聞こえているらしい。すると酔っ払っている天照が、クゥを叱り始めた。

「こらぁ! 中身がこぼれちゃったじゃない、少しは静かに飛びなさい」

『……なら、外の空気でも吸って酔いでも覚ます?』

 突然搭乗室の扉が開き、天照が外に投げ出されそうになる。慌てて天照の腕を陸が掴むと、クゥが残念そうな声を発した。

『そのまま地面で寝させてあげれば良いのに』

「酔いが覚める前に、永久に寝てしまうわ!」

 冷静にツッコミを入れる陸。彼女を怒らせると、結構怖いかも知れない。その後も様々なトラブルを飛行中に起こしながら、八百万防衛隊一行は目的地である大土肥海水浴場を目指すのだった……。

「さて何とか無事に目的地に着いたが……そこの酔っぱらい達、本当に大丈夫か?」

「……大丈夫じゃないかも。すごく気持ち悪い」

 酔っ払い三姉弟は揃って撃沈している。クゥがわざと機体を揺らして、酔いを回らせているからだ。逆にウミは一人だけ、大喜びではしゃいでいる。機体を揺らすことをクゥに提案したのも実は彼女で、神様が酔い潰れる姿を実際に見たかったらしい。

「さあリク! 酔っぱらい達は放っておいて、ワタシ達はレッツ海水浴ヨ!」

 そう言いながら腕に抱きつくウミ、メロンの感触が腕にダイレクトに伝わってくる。鼻を伸ばしかけたその時、変身を解いたクゥが反対の腕に抱きついてきた。

「ウミばかりズルイ、こっちはワタシがもらう」

 メロンには程遠いが、小ぶりでやわらかい桃の感触。二つの果実の感触に翻弄される陸に、ウミが小悪魔みたいな笑顔を見せた。

「リク、両手に花で嬉しいネ!」

「ううっ!? 嬉しくないといえば……嘘になります、はい」

「リクのそういう正直なところ、嫌いじゃないわよワタシ」

 海岸近くの宿に荷物を預けた陸達三人は、早速海水浴場にある海の家に向かう。水着に着替えるため更衣室を借りようとした時、出てきた従業員を見て陸は仰天した。



「ずいぶんと来るのが遅かったね、待ちわびたよ」

 出てきたのは食堂のおばちゃんこと、大気都 姫。何故こんな場所におばちゃんが?

「いくら平日で人が少ないとはいえ、あんた達は目立つからね。私が先に来て、人払いをしておいたんだよ。今日から三日間は貸し切り状態だから、思う存分楽しみなさい」

「おばちゃん、アリガト。じゃあワタシとクゥはアッチで着替えてくるから、陸も急いで着替えてきてネ♪」

「あ、ああ。またあとで」

 陸は更衣室に入り着替え始めたが、二人がどんな水着を着てくるのか気になって仕方がない。先に着替え終えて海の家の前で待っていると、十五分ほどしてようやく二人が陸の前に姿を見せる。

「リク待った? クゥが着替えるのに時間掛かっちゃって……」

「いや、大丈夫だよ。それじゃあ、行こう……か…」

 言いながら陸は二人の水着姿を見て固まってしまった。ウミは胸の谷間をすべて覆う、ハイネックのビキニを着ている。彼女の健康的なイメージとセクシーさの絶妙なバランスが、見事に陸のツボを突いていた。

 そしてクゥが着ていたのはバンドゥビキニ。肩紐にフリルをあしらったタイプだが中央に寄せられることで出来た胸の谷間に、陸は目が釘付けになってしまう。

 思わず生唾を飲み込む陸を見て、ウミは勝利のガッツポーズをした。

「やった~! ほらねクゥ。コレだったらリクのハートをワシづかみ出来るって言ったの本当だったデショ?」

「……うん、ありがとうウミ」

 クゥにバンドゥビキニを薦めたのはウミみたいだ。おかげで良い目の保養になっているので、大変ありがたい。

「そこの小娘ども、それで男の子のハートを掴もうだなんてちゃんちゃらおかしいわ。私が本当にすごいところを見せてさしあげます!」

 そう叫びながら現れたのは、さっきまで酔い潰れていたはずの天照。しかしその水着姿を見た三人は、どう表現して良いのか分からず言葉が出ない。彼女が着てきたのは真っ赤な三角ビキニ、しかもいつ買ったのかも分からない古いデザインだった……。

「ふふふ……私のすごさに言葉も出ないみたいですね。これがオトナの女の魅力です」

 勝ち誇ったドヤ顔を見せる天照、すると須佐之男が脂汗を流しながら姉を問い質す。

「あ、姉上。その水着はたしか……」

「あら、覚えていたのね須佐之男。これはルイ・レアールが発表した翌年に購入した最新のデザインよ」

 なんだか嫌な予感がした陸は、須佐之男にその水着が発売された年を聞いてみた。

「なあ、ルイ・レアールって人が発表したのは西暦何年だ?」

「……一九四六年」

「っていうことは、七十年以上着ていなかったってこと!?」

 神様にとっての七十年と、人間にとっての七十年。最新の許容範囲に陸達は唖然とするほかない。だが三人にトドメを刺したのは、海の家をすっぽかして飛び入り参加した食堂のおばちゃんだった。

「私も久々に着てみたけど、案外似合うじゃないか。まだまだ若いもんには負けないね」

 おばちゃんが着ていたのは、一九〇〇年代初頭に世に広まった初期のワンピースの水着だったのである……。
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