10 / 15
10
しおりを挟む
いつもと変わらず、アキヒコさんはベンチに腰掛けて本を読んでいた。
「やあ。こんにちは」
「聞きたいことがあります」
私は立ったまま言った。
「はい。何でしょう?」
いつもと様子が違うことに気づいたのだろう。不思議そうな目で見つめ返してくる。
「あなたの苗字を教えてほしいんですよ」
「……え?」
彼は困惑の色を見せた。当然だろう。
「それから、エツコさんという方のも」
「一体、どうしたというんです?」
「あなたこそ言えないんですか? それとも知らないんですか?」
いじわるを言っている訳ではないと心に言い聞かせる。私はこのわだかまりを払拭させたいだけだ。寂しい思いをし続けている江都子さんのためにも。
険しい顔をしていたのだろう。アキヒコさんは耐え切れず視線を逸らした。
「髪がオレンジ色になっていますよ」
アキヒコさんは黙っている。
「落葉までここで待つ。そのことと、その髪の色の変化にはどんな関係があるんでしょうね。あなたは何者なんですか?」
本を持つ手に力がこもった。さあ、白状しろ。早く。
「あなたは幽霊ですか? それとも?」
「僕は……」
私の抑圧……脅迫に。体が大きいから余計に、観念したようだ。
「僕は……木です」
ああ。
「僕はモミジの木です。齢はおよそ五百と六十になります」
彼は脱力しながら本を閉じ、静かに一本のモミジを指差した。
「あれが僕の本体です」
ああ、神様!
私はめまいに襲われ、彼の隣に座り込んだ。
「なぜ秋彦の真似をして、江都子さんが来るのを待っていたんです?」
アキヒコさんは呟いた。「あなたには話してもいいです」と。
「やあ。こんにちは」
「聞きたいことがあります」
私は立ったまま言った。
「はい。何でしょう?」
いつもと様子が違うことに気づいたのだろう。不思議そうな目で見つめ返してくる。
「あなたの苗字を教えてほしいんですよ」
「……え?」
彼は困惑の色を見せた。当然だろう。
「それから、エツコさんという方のも」
「一体、どうしたというんです?」
「あなたこそ言えないんですか? それとも知らないんですか?」
いじわるを言っている訳ではないと心に言い聞かせる。私はこのわだかまりを払拭させたいだけだ。寂しい思いをし続けている江都子さんのためにも。
険しい顔をしていたのだろう。アキヒコさんは耐え切れず視線を逸らした。
「髪がオレンジ色になっていますよ」
アキヒコさんは黙っている。
「落葉までここで待つ。そのことと、その髪の色の変化にはどんな関係があるんでしょうね。あなたは何者なんですか?」
本を持つ手に力がこもった。さあ、白状しろ。早く。
「あなたは幽霊ですか? それとも?」
「僕は……」
私の抑圧……脅迫に。体が大きいから余計に、観念したようだ。
「僕は……木です」
ああ。
「僕はモミジの木です。齢はおよそ五百と六十になります」
彼は脱力しながら本を閉じ、静かに一本のモミジを指差した。
「あれが僕の本体です」
ああ、神様!
私はめまいに襲われ、彼の隣に座り込んだ。
「なぜ秋彦の真似をして、江都子さんが来るのを待っていたんです?」
アキヒコさんは呟いた。「あなたには話してもいいです」と。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
JC💋フェラ
山葵あいす
恋愛
森野 稚菜(もりの わかな)は、中学2年生になる14歳の女の子だ。家では姉夫婦が一緒に暮らしており、稚菜に甘い義兄の真雄(まさお)は、いつも彼女におねだりされるままお小遣いを渡していたのだが……
あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます
おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」
そう書き残してエアリーはいなくなった……
緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。
そう思っていたのに。
エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて……
※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる