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ラナとレイヤ
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私の世界は
魔法があって、魔物がいて、魔王がいる世界
魔王との戦いに人間は苦戦していた、
だから、一番の大国エルガルド国は勇者召喚の儀式を行ったらしい
そんなこと、本当に出来るの?と疑っていた。
目の前に見慣れない服装の青年が落ちて来るまでは。
私は畑に夜ご飯に使う野菜を収穫に来ていた。
ドスっと畑の柔らかい土に背中から落ちてきた青年は痛みに耐えながら上半身を起こして辺りを見回す
「ここは?」
私は驚き固まってその青年を凝視する
黒い髪、黒い瞳、黒い服……悪魔?
その青年は私に気がつき、少し困ったように苦笑いをしていた。
「すみません……あの、ここはどこでしょうか?あ、言葉わかりますか?」
「スミーレ村です」
私は警戒をしながら答えた。
「……何県ですか?」
「県??エルガルド国よりずっと南にある田舎町ですが……」
「……そう……ですか」
困惑した様子で落ち込む青年が少し心配になった、
「あの、大丈夫ですか?」
「はい。よっと」
青年は立ち上がると私より頭一つ大きい
服をパンパンと叩いて畑の土や汚れを落とす
「すみません、俺の名前は永見玲哉と言います。その、よくわからないけど、異世界から飛ばされたようで」
「え!?勇者……さま?」
「いや、本当によくわからなくって。変な声が聞こえてここにいるというか……」
頭をかいて困っている青年が悪い悪魔に見えなかった
それに、街には父が張っている結界があるので、そもそも悪魔は街の中に入れないはずだ。
「そんなわけで、今日泊まる所もないわけで……」
「私はラナ。わかりました。とりあえず一緒に来てくれますか?父に相談したいので」
「ありがとうございます。この世界のことも教えてくれるとありがたいな」
私はその青年を勇者さまと呼んでいたから、お願いだからレイヤにしてくれと頼まれた。
私の父は結界師だ
人々が暮らす街にはそれぞれ最低一人は結界師がおり、人間を襲う魔物の侵入を塞いでいる。
これは魔力が強い人間にしか出来ない仕事だ。
スミーレ村は小さな村で結界師は父だけだが、大国エルガルドの首都には10人いるらしい。
父のもとにレイヤを案内する間、世界の事を簡単に説明するとレイヤはどこかの諦めのような顔をして「まじか……中二病かよ……」と呟いていた。
私の家に戻り父にレイヤを紹介すると父は目を見開き固まった。
「なんてことだ……素晴らしい魔力だ」
「そうなのですか?俺にはさっぱり」
「間違いなく貴方は勇者様でしょう。急いで王に連絡をしなければ」
父の慌て具合から間違いがないようだ。
私も魔力があるがレイヤの魔力量はさっぱりわからない。
父は私にレイヤの面倒を任せて村長の所にむかった
「さて、泥だらけだし、着替えますか?もう夕方だし、ついでにお風呂も入りますか」
「いいんですか?ありがとう。えっとラナ?さん」
「はい。呼び捨てで構いませんよ」
私はいそいそとお風呂の準備とレイヤの着替えの準備と夜ご飯の準備を始めた
しばらくすると村長を連れて父が帰ってきて、一緒に夕食を食べながら私の何倍も詳しく世界の説明をしていた。
急いで王に勇者が現れた知らせの手紙を送ったが
実は偽物勇者多発事件が起きており、スミーレ村に迎えの使徒が来るのはいつになるか未定だ
その間、レイヤはうちで面倒を見ることになった
次の日の朝、父が珍しく結界の見回りに私を連れていった。
いつもはひとりでしているのに。
町を囲む父の結界に数ヶ所ヒビが入っている
「これは?」
「……魔獣が襲ってきた後だろう。こういう小さな傷はこまめに修復した方がいい。こうして手をかざして魔力を込めるんだ。やってみろ」
「うん」
両手をヒビにかざして意識を集中するとヒビは消えた
「そうだ。ラナはお母さんに似て器用だな」
母は2年前病気で他界した。
それからは私と父と二人暮らしである。
結界の別の傷の場所も修復をして父と家に帰る途中に幼馴染みのアリアナがこっちに駆け寄ってきた
アリアナは村長の孫娘で私と同じ18歳だ
「おはようございます!ラナ!聞いたわよ!勇者さまだって」
瞳が大きく、ウェーブがかった髪が彼女の可愛らしさ倍増している。
興味深々といった感じだった
「逢ってお話したいの!いいでしょ?」
「おはよう、アリアナ。落ち着いて」
彼女の興奮に私は苦笑いを浮かべて父を見ると父も少し困ったなといった表情だ
「迷惑をかけない程度にね」
「はい!おじさま、ありがとう!ラナ行こう!」
アリアナは私の手を強引に引っ張りレイヤの所に駆け出した
家に帰り、レイヤにアリアナの紹介をすると、アリアナは頬を紅くして乙女の顔になっていた。
それ以来、時間がある時はレイヤとアリアナと私で色々な話をして過ごした
そんな日が数日続いたある日
雨が降り、嫌な空気が流れていた
最近毎日私が朝、結界の修復をしている
それは日に日に数が増えて、父は険しい顔をしていた
雨音と一緒に聞こえるのは魔獣が結界に攻撃をしている音だった
いつもなら人間が寝静まった夜に攻撃してくるのに、この日は雨雲で薄く暗い昼でも魔獣が攻めてきていた。
父は家にこもり魔力集中して結界が壊れないように集中をしている
村長とアリアナが父ダナーの様子をみに、一緒にうちにやって来た
「ダナー、大丈夫か?」
「はい。なんとか。でも、もしもの事があってはいけませんので勇者様を隠して頂けますか?」
最近の魔獣攻撃が多いのは勇者を狙っているからかもしれない
レイヤの顔は青ざめていた
そんなレイヤをアリアナは慰める
「たまたまかも知れないじゃない?!」
「だが、念のためだ。アリアナ、勇者さまを地下に」
「わかりました……」
レイヤは不安そうに私をチラッとみてアリアナに着いていく
私は父に言われて町の結界に傷を直しに向かった
すると、雨がピタリと止まり、ゾワッと悪寒が走る
次の瞬間バリバリと雷が町の中心に落ちると父の結界は弾けて砕け散った
なにが……おぞましい何かがやってきた
禍々しい魔力を感じて恐る恐る町の中心に視線を移すとそこには大きな曲角が生えた魔人が立っていた
その魔力は今までに感じた事がないほど膨大で、黒く綻んだメイルを身につけている
そして、特徴的な鋭い真っ赤な瞳が殺気に満ちている
「この町に勇者がいるらしいな。大人しく出してもらおうか」
その声は静かに呟いたはずなのに私の頭に響いてくる
これが悪魔の言霊
冷や汗がじっとりとでて恐怖で私は動けないでいると、父ダナーがよろめきながら家から出てそと魔人を睨む
「この町の結界師か……」
「……勇者などこの村にはいない」
「貴様が隠しているのだろう」
そう告げると魔人は左手を軽く凪払うと父は吹き飛ばされ地面に叩きつけられた
私は恐怖に震えて声が出せない
「……確かに気配を感じないな……まあいい、もうひとり結界師が居るだろう!早くここに出せ!!」
恐らく張っていた結界に違う魔力を感じたのだろう
間違いなく私の事だ
「出さねば皆殺しだ!さあ、出せ!!」
私は名乗り出ようか少し悩んでいると、町の外に数体の魔獣が町に近づいてくる姿が見えた
ここで私が居なくなったら……この町は魔獣の餌食だ
でも、出ていかないと皆殺し……
どくんどくんと自分がどう判断していいのか迷い固まった
町の人たちは決して私を売ろうとせず、ただ黙っている
「そうか。ならば一人ずつ……」
「待ってください!!」
その声は聞き慣れた女の子の声だった
アリアナ?
「わ、私が結界師です!」
「!?」
アリアナには確かに少し魔力がある
しかし、それは決して結界師ではなく、普通にちょっと魔力があるレベル
私はアリアナが何を考えているのかわからず、黙って見ていた
「……ほう。まあ、いいだろう。この娘を連れて行く」
ザワっと町の皆が動揺し、アリアナの両親と村長は悲痛な顔をしていた
私の……身代わり?
私は慌てて名乗り出ようとすると肩を掴まれ、アリアナの弟エリックは悲辛な顔をして無言で首を横に振った
その間にアリアナはその魔人にまるで荷物のようにかつぎ抱えられる
「キャ……」
あっという間に魔人はアリアナを連れて上空に飛び去って行った
そして、その直後、町の側で控えていた魔獣が一斉に町人に襲いかかった
悲鳴と逃げ惑う人々を私は呆然と眺める
「しっかりしろよ!!ラナ!!」
エリックの声にハッと我にかえり私は急いで父のもとに駆け寄った
魔獣に襲われる寸前のところでアリアナの弟が木の棒で魔獣に叩きつけるが、少し怯んだだけだった
父は吐血し虫の息で意識が朦朧としている
「お父さん!!」
「ら……な………」
私が手を握ると仄かに温かい魔力が流れてくる
「結界……を………」
そう告げると父の手は力なく地面に落ちた
私たちの近くて魔獣が雄叫びをあげてエリックに飛びかかり腕を噛まれて悲痛な声をあげた
みんな……死んでしまう
落ち着いて、急いで結界を張らなければ!!
私は自分の中にある魔力を集中させて、父から教わった結界を展開した
それは最初こそ弱い輝きだったがドーム型に広がり徐々に弾けるような輝くと魔獣たちは町の外に弾き出される
町の人たちは「助かった……」と安堵の表情を浮かべた
こうして私は町の結界師となった
村長とアリアナの両親は涙を流して娘の犠牲を無駄にしないでくれと頼まれ
落ち着いた頃、父の遺体をベットに運んでもらった
しばらくたってレイヤが暗い表情で帰ってきた
レイヤが避難していた地下は実は私が結界をはっていたので、レイヤの魔力を隠せたのだ
これが父だったら、あの時点で結界は壊れて隠していたのがバレていただろう。
私は父の横に座って静かに涙を流した
「ラナ……話は聞いた」
「……」
「アリアナは……おじさんの敵は俺がとる。ラナが平和に暮らせる世界を俺が作る」
「レイヤ……」
レイヤにこれまで全く感じなかった7色に光魔力がレイヤを包み込んでいる
父の魔力を受け継ぎ魔力が強くなったのだろう。
ああ、レイヤは本当に勇者さまだったのだ。
レイヤの瞳は強い覚悟を感じる瞳だった。
それから数日後、まるで絵にかいたような聖女さまと王族の戦士が町にやって来た
その聖女さまは女神のように美しく儚くめちゃくちゃ魔力が強い
レイヤを一目見て
「やっと見つけました。勇者さま。さあ、共に参りましょう」
それはまるで神のお告げといった神々しさがあり、レイヤは彼らと魔王を倒す旅に出ることになった。
「ラナ。約束は必ず守って帰ってくる」
「気を付けて……レイヤ」
レイヤは魔王を倒す旅に出た。
それから5年……
勇者が魔王を倒した
空が虹色に輝き、奇跡的な光景が世界を包み込み、世界は本当の平和になったのだ。
そして数ヶ月が経った
「ラナ、俺との縁談を断ったらしいな」
畑仕事をしていた私にエリックが声をかけた
エリックは姉のアリアナと似て整った顔に大きな瞳が特徴的だ
「当たり前よ。結界師の跡継ぎがいるからといって、どうせ村長に言われたのでしょ?魔獣も殆んどいない平和な世界にもう結界師は必要ないわ。だから、そんなこと気にしなくていいの」
それに、エリックにはとなり町に可愛い彼女がいることを知っている
私は呆れたといって小さくため息をつく
「まあ、そうなんだけど……ラナひとりぼっちだろ。」
父が亡くなって、特に恋人も作らず過ごしてきた。
その事に同情して、エリックが私と結婚しようというのは間違っていると思う。
「大丈夫、心配しないで。そのうちイイ人が現れたら結婚するから。最悪、結界師は国に要請したら配属してくれるらしいし」
「もしかして……アイツを待っているのか?」
エリックが言ったアイツは多分レイヤの事だろう。
私は苦笑いを浮かべて首を振った
「そんなわけないじゃない。勇者さまは多忙なのよ?もう私達のこともきっと忘れているわ」
「そうかな……」
「噂ではあの聖女さまとご結婚だとか、王女様と婚約予定だとか。きっと私のことなんて、もう忘れているだろうし」
「……」
なにか言いたそうにしているエリックだったが私はあえて気が付かないことにした。
そう、私はもう過去に縛られないで生きようと決めた。
失った親友と父は、レイヤが魔王を倒すことで敵がとれたのだ。
それだけで、もう充分だ。
ひとりで過ごす夜にもすっかり慣れて、私はいつものように布団で眠りについた。
平和になったので、夜中に魔獣から襲撃されることもなくなったので、結界に異常は感じないはずなのに夜中にザワツク違和感を感じた。
おかしいな?
私は眠っていた瞳をうっすら開けると私に覆い被さる影がすぐ目の前にある。
「!?」
「え!」
人影もいきなり目覚めた私に驚きビクついていたので、私は力一杯その不審者を膝で蹴り上げた。
身体のどこかに私の膝が当たり、不審者はベットから転げ落ち踞る。
その間に私は飛び起きて灯りをつけた。
平和な田舎町だと思っていたけど、女性を襲う輩が要るなんて!
私はギロリと睨むとその髪色は黒色で騎士のような姿をしている男だと気が付く。
「……は?」
顔を赤くしてかなりの痛みに耐えている男が顔を上げると、不審者の瞳は真っ黒で少し涙目になって情けない顔をしていた。
「や、やあ」
「やあ……じゃないでしょ!レイヤ……さま」
「様はいらないかな。久しぶり、ラナ」
「そ、そりゃ久しぶりですけど……なんでここに?」
魔王を倒した勇者レイヤの突然の訪問?いや、夜這いだという状態に私は眉間にシワを寄せて睨んだ。
「なんでって、ラナに報告することがあって帰ってきた」
「報告……」
ああ、きっと聖女様か王女様との婚約が決まったとかだろうか。
「本当は夕方には街に着いてたいのだけど、話しかけずらくて」
夕方?エリックと話をしていた時だろうか。
「だからといって、こんな夜中に来られても……」
「すまない。ちょっと厄介な事があってそっちに時間をとられて」
「で、報告とは?あ、その前に」
私はベットから降りて床に正座して深く頭を下げた。
「勇者さま。魔王を倒して頂き、ありがとうございました。父とアリアナも天国で喜んでいると思います。本当に……本当にありがとうございました。」
私は床に頭が着く位に頭を下げて心から感謝の言葉をレイヤに伝えた。
すると、レイヤは私の肩を両手を掴み少し強引に私の身体を起こした。
「その事で、ひとつ話が」
「なんでしょう」
「アリアナ、生きてた」
「え!!!!本当ですか!」
レイヤは少し複雑な顔をして笑っている。
「ああ、それもかなり幸せそうだった」
「……は?」
「ちょっとややこしい話だけど、簡単に説明するとあの拐った魔王の手下リガルドルフとアリアナは恋仲になって人間側についてくれた。」
「……はあ」
「今度結婚式がある」
「……へー」
なんだろう……自分の身代わりになって死んだと思っていたアリアナがリア充になってると?
複雑な心境だが、何にしても嬉しい事だ。
「で、その挨拶のためにアリアナとリガルドルフと一緒に帰ってきたのだけど、揉めてね……」
「そりゃ、揉めるでしょうね」
「明日も俺はその仲介に行かないといけない」
「なんというか、頑張って下さいとしか言いようがないです」
ん?で、その話とこの夜這いはどう繋がるのだろう?
「で?どうして私の寝室に?」
「その、てっきりもう俺のこと忘れて幸せになってると思ってたけど、さっきエリックから話を聞いて……顔が見たくなって」
「は?それは夜這いしていい理由ではないですよね」
「よ、夜這いだなんで!」
顔を赤くして首を振るレイヤを私はじっと睨む。
「ラナが……俺のこと待っててくれたのが嬉しくて」
「待ってないです」
「え」
「たまたま、好い人が現れなかっただけです。だから、私の事は気にしないで下さい」
「たまたま……か。俺もたまたま好い人が現れなかった」
「嘘ですね。」
「な、なんで?」
いい雰囲気に持っていきたいようだが、私はスパッと話の流れを切った。
「聖女さまと王女さまとの縁談があるとかなんとか」
「ぐ……」
「お二方とも、絶世の美女ですし、問題ないのでは?」
「確かに美女は認めるが、男は美女が好みとは限らない」
「普通より、お美しい方がいいでしょ」
「だから、そこは好みの問題で」
「でしたら、政治的に権力など調和が必要かと思いますが」
「それは結婚相手なしで協力すると約束しているし、今も出来るだけ国のために尽力しているつもりだ」
「レイヤ様、別に私に変な恩を感じなくても」
「変な恩じゃない!!」
どことなく怒っている様なレイヤに私は少し驚いて目を丸くした。
「俺は……必ず約束を守って帰ってくると言ったの覚えてる?」
「はい」
「ラナ、俺とケ」「嫌です」
「……」
「……」
まさか断られると思ってなかったレイヤの顔はひきつった。
「……俺のこと、嫌い?」
「いえ、嫌いではないですが、特別異性として好きでもないので」
レイヤと過ごした日々は数ヶ月
私は特別な恋愛感情をレイヤに抱いていなかったのは事実。
と、いうか……多分……私はまだ恋愛というものをしたことがない。
これは私の大きな欠点だ。
そんな私と国を救った勇者様が結婚なんてしていいわけない。
「わかった……因みにだけど、他に誰か好きな人いる?」
「いえ、特には」
「そうか、なら作戦変更」
そう呟くとレイヤは私の頬に左手を添えて一瞬で顔を近づけ軽く唇を重ねてきた。
あまりに一瞬の事で私は固まって動けないでいるとすぐに唇を離す
え?今のって……キス!?
レイヤは小さく微笑んでいた。
「これからは異性として意識して欲しいな」
「わ……わかりました」
私はみるみると顔が熱くなり、さっきまで感じなかった心臓のドキドキが響いてくる。
まさか、これが……恋!?
さっきまでなかった胸の苦しさと動機がする。
まともにレイヤの顔を見れないでいると、そんな私の様子にレイヤは満足げな表情だった。
「ラナ。お願いがあるんだ」
「な、なんでしょう」
「僕も一緒に此処で暮らしてもいいかな」
「へ」
「皆には承諾をもらってくるから。ラナ」
優しく甘えた声で私の名前を呼ぶとゆっくり抱き締めてきた。
私の鼓動はさらに早くなり、おかしくなりそうだった。
「は……い」
「好きだよ」
「っ…」
こうして主人公の勇者さまは私と暮らすようになった。
度々騒がしい訪問客がいるが、私は賑やかであまったるい日々を送ることになった。
おしまい
魔法があって、魔物がいて、魔王がいる世界
魔王との戦いに人間は苦戦していた、
だから、一番の大国エルガルド国は勇者召喚の儀式を行ったらしい
そんなこと、本当に出来るの?と疑っていた。
目の前に見慣れない服装の青年が落ちて来るまでは。
私は畑に夜ご飯に使う野菜を収穫に来ていた。
ドスっと畑の柔らかい土に背中から落ちてきた青年は痛みに耐えながら上半身を起こして辺りを見回す
「ここは?」
私は驚き固まってその青年を凝視する
黒い髪、黒い瞳、黒い服……悪魔?
その青年は私に気がつき、少し困ったように苦笑いをしていた。
「すみません……あの、ここはどこでしょうか?あ、言葉わかりますか?」
「スミーレ村です」
私は警戒をしながら答えた。
「……何県ですか?」
「県??エルガルド国よりずっと南にある田舎町ですが……」
「……そう……ですか」
困惑した様子で落ち込む青年が少し心配になった、
「あの、大丈夫ですか?」
「はい。よっと」
青年は立ち上がると私より頭一つ大きい
服をパンパンと叩いて畑の土や汚れを落とす
「すみません、俺の名前は永見玲哉と言います。その、よくわからないけど、異世界から飛ばされたようで」
「え!?勇者……さま?」
「いや、本当によくわからなくって。変な声が聞こえてここにいるというか……」
頭をかいて困っている青年が悪い悪魔に見えなかった
それに、街には父が張っている結界があるので、そもそも悪魔は街の中に入れないはずだ。
「そんなわけで、今日泊まる所もないわけで……」
「私はラナ。わかりました。とりあえず一緒に来てくれますか?父に相談したいので」
「ありがとうございます。この世界のことも教えてくれるとありがたいな」
私はその青年を勇者さまと呼んでいたから、お願いだからレイヤにしてくれと頼まれた。
私の父は結界師だ
人々が暮らす街にはそれぞれ最低一人は結界師がおり、人間を襲う魔物の侵入を塞いでいる。
これは魔力が強い人間にしか出来ない仕事だ。
スミーレ村は小さな村で結界師は父だけだが、大国エルガルドの首都には10人いるらしい。
父のもとにレイヤを案内する間、世界の事を簡単に説明するとレイヤはどこかの諦めのような顔をして「まじか……中二病かよ……」と呟いていた。
私の家に戻り父にレイヤを紹介すると父は目を見開き固まった。
「なんてことだ……素晴らしい魔力だ」
「そうなのですか?俺にはさっぱり」
「間違いなく貴方は勇者様でしょう。急いで王に連絡をしなければ」
父の慌て具合から間違いがないようだ。
私も魔力があるがレイヤの魔力量はさっぱりわからない。
父は私にレイヤの面倒を任せて村長の所にむかった
「さて、泥だらけだし、着替えますか?もう夕方だし、ついでにお風呂も入りますか」
「いいんですか?ありがとう。えっとラナ?さん」
「はい。呼び捨てで構いませんよ」
私はいそいそとお風呂の準備とレイヤの着替えの準備と夜ご飯の準備を始めた
しばらくすると村長を連れて父が帰ってきて、一緒に夕食を食べながら私の何倍も詳しく世界の説明をしていた。
急いで王に勇者が現れた知らせの手紙を送ったが
実は偽物勇者多発事件が起きており、スミーレ村に迎えの使徒が来るのはいつになるか未定だ
その間、レイヤはうちで面倒を見ることになった
次の日の朝、父が珍しく結界の見回りに私を連れていった。
いつもはひとりでしているのに。
町を囲む父の結界に数ヶ所ヒビが入っている
「これは?」
「……魔獣が襲ってきた後だろう。こういう小さな傷はこまめに修復した方がいい。こうして手をかざして魔力を込めるんだ。やってみろ」
「うん」
両手をヒビにかざして意識を集中するとヒビは消えた
「そうだ。ラナはお母さんに似て器用だな」
母は2年前病気で他界した。
それからは私と父と二人暮らしである。
結界の別の傷の場所も修復をして父と家に帰る途中に幼馴染みのアリアナがこっちに駆け寄ってきた
アリアナは村長の孫娘で私と同じ18歳だ
「おはようございます!ラナ!聞いたわよ!勇者さまだって」
瞳が大きく、ウェーブがかった髪が彼女の可愛らしさ倍増している。
興味深々といった感じだった
「逢ってお話したいの!いいでしょ?」
「おはよう、アリアナ。落ち着いて」
彼女の興奮に私は苦笑いを浮かべて父を見ると父も少し困ったなといった表情だ
「迷惑をかけない程度にね」
「はい!おじさま、ありがとう!ラナ行こう!」
アリアナは私の手を強引に引っ張りレイヤの所に駆け出した
家に帰り、レイヤにアリアナの紹介をすると、アリアナは頬を紅くして乙女の顔になっていた。
それ以来、時間がある時はレイヤとアリアナと私で色々な話をして過ごした
そんな日が数日続いたある日
雨が降り、嫌な空気が流れていた
最近毎日私が朝、結界の修復をしている
それは日に日に数が増えて、父は険しい顔をしていた
雨音と一緒に聞こえるのは魔獣が結界に攻撃をしている音だった
いつもなら人間が寝静まった夜に攻撃してくるのに、この日は雨雲で薄く暗い昼でも魔獣が攻めてきていた。
父は家にこもり魔力集中して結界が壊れないように集中をしている
村長とアリアナが父ダナーの様子をみに、一緒にうちにやって来た
「ダナー、大丈夫か?」
「はい。なんとか。でも、もしもの事があってはいけませんので勇者様を隠して頂けますか?」
最近の魔獣攻撃が多いのは勇者を狙っているからかもしれない
レイヤの顔は青ざめていた
そんなレイヤをアリアナは慰める
「たまたまかも知れないじゃない?!」
「だが、念のためだ。アリアナ、勇者さまを地下に」
「わかりました……」
レイヤは不安そうに私をチラッとみてアリアナに着いていく
私は父に言われて町の結界に傷を直しに向かった
すると、雨がピタリと止まり、ゾワッと悪寒が走る
次の瞬間バリバリと雷が町の中心に落ちると父の結界は弾けて砕け散った
なにが……おぞましい何かがやってきた
禍々しい魔力を感じて恐る恐る町の中心に視線を移すとそこには大きな曲角が生えた魔人が立っていた
その魔力は今までに感じた事がないほど膨大で、黒く綻んだメイルを身につけている
そして、特徴的な鋭い真っ赤な瞳が殺気に満ちている
「この町に勇者がいるらしいな。大人しく出してもらおうか」
その声は静かに呟いたはずなのに私の頭に響いてくる
これが悪魔の言霊
冷や汗がじっとりとでて恐怖で私は動けないでいると、父ダナーがよろめきながら家から出てそと魔人を睨む
「この町の結界師か……」
「……勇者などこの村にはいない」
「貴様が隠しているのだろう」
そう告げると魔人は左手を軽く凪払うと父は吹き飛ばされ地面に叩きつけられた
私は恐怖に震えて声が出せない
「……確かに気配を感じないな……まあいい、もうひとり結界師が居るだろう!早くここに出せ!!」
恐らく張っていた結界に違う魔力を感じたのだろう
間違いなく私の事だ
「出さねば皆殺しだ!さあ、出せ!!」
私は名乗り出ようか少し悩んでいると、町の外に数体の魔獣が町に近づいてくる姿が見えた
ここで私が居なくなったら……この町は魔獣の餌食だ
でも、出ていかないと皆殺し……
どくんどくんと自分がどう判断していいのか迷い固まった
町の人たちは決して私を売ろうとせず、ただ黙っている
「そうか。ならば一人ずつ……」
「待ってください!!」
その声は聞き慣れた女の子の声だった
アリアナ?
「わ、私が結界師です!」
「!?」
アリアナには確かに少し魔力がある
しかし、それは決して結界師ではなく、普通にちょっと魔力があるレベル
私はアリアナが何を考えているのかわからず、黙って見ていた
「……ほう。まあ、いいだろう。この娘を連れて行く」
ザワっと町の皆が動揺し、アリアナの両親と村長は悲痛な顔をしていた
私の……身代わり?
私は慌てて名乗り出ようとすると肩を掴まれ、アリアナの弟エリックは悲辛な顔をして無言で首を横に振った
その間にアリアナはその魔人にまるで荷物のようにかつぎ抱えられる
「キャ……」
あっという間に魔人はアリアナを連れて上空に飛び去って行った
そして、その直後、町の側で控えていた魔獣が一斉に町人に襲いかかった
悲鳴と逃げ惑う人々を私は呆然と眺める
「しっかりしろよ!!ラナ!!」
エリックの声にハッと我にかえり私は急いで父のもとに駆け寄った
魔獣に襲われる寸前のところでアリアナの弟が木の棒で魔獣に叩きつけるが、少し怯んだだけだった
父は吐血し虫の息で意識が朦朧としている
「お父さん!!」
「ら……な………」
私が手を握ると仄かに温かい魔力が流れてくる
「結界……を………」
そう告げると父の手は力なく地面に落ちた
私たちの近くて魔獣が雄叫びをあげてエリックに飛びかかり腕を噛まれて悲痛な声をあげた
みんな……死んでしまう
落ち着いて、急いで結界を張らなければ!!
私は自分の中にある魔力を集中させて、父から教わった結界を展開した
それは最初こそ弱い輝きだったがドーム型に広がり徐々に弾けるような輝くと魔獣たちは町の外に弾き出される
町の人たちは「助かった……」と安堵の表情を浮かべた
こうして私は町の結界師となった
村長とアリアナの両親は涙を流して娘の犠牲を無駄にしないでくれと頼まれ
落ち着いた頃、父の遺体をベットに運んでもらった
しばらくたってレイヤが暗い表情で帰ってきた
レイヤが避難していた地下は実は私が結界をはっていたので、レイヤの魔力を隠せたのだ
これが父だったら、あの時点で結界は壊れて隠していたのがバレていただろう。
私は父の横に座って静かに涙を流した
「ラナ……話は聞いた」
「……」
「アリアナは……おじさんの敵は俺がとる。ラナが平和に暮らせる世界を俺が作る」
「レイヤ……」
レイヤにこれまで全く感じなかった7色に光魔力がレイヤを包み込んでいる
父の魔力を受け継ぎ魔力が強くなったのだろう。
ああ、レイヤは本当に勇者さまだったのだ。
レイヤの瞳は強い覚悟を感じる瞳だった。
それから数日後、まるで絵にかいたような聖女さまと王族の戦士が町にやって来た
その聖女さまは女神のように美しく儚くめちゃくちゃ魔力が強い
レイヤを一目見て
「やっと見つけました。勇者さま。さあ、共に参りましょう」
それはまるで神のお告げといった神々しさがあり、レイヤは彼らと魔王を倒す旅に出ることになった。
「ラナ。約束は必ず守って帰ってくる」
「気を付けて……レイヤ」
レイヤは魔王を倒す旅に出た。
それから5年……
勇者が魔王を倒した
空が虹色に輝き、奇跡的な光景が世界を包み込み、世界は本当の平和になったのだ。
そして数ヶ月が経った
「ラナ、俺との縁談を断ったらしいな」
畑仕事をしていた私にエリックが声をかけた
エリックは姉のアリアナと似て整った顔に大きな瞳が特徴的だ
「当たり前よ。結界師の跡継ぎがいるからといって、どうせ村長に言われたのでしょ?魔獣も殆んどいない平和な世界にもう結界師は必要ないわ。だから、そんなこと気にしなくていいの」
それに、エリックにはとなり町に可愛い彼女がいることを知っている
私は呆れたといって小さくため息をつく
「まあ、そうなんだけど……ラナひとりぼっちだろ。」
父が亡くなって、特に恋人も作らず過ごしてきた。
その事に同情して、エリックが私と結婚しようというのは間違っていると思う。
「大丈夫、心配しないで。そのうちイイ人が現れたら結婚するから。最悪、結界師は国に要請したら配属してくれるらしいし」
「もしかして……アイツを待っているのか?」
エリックが言ったアイツは多分レイヤの事だろう。
私は苦笑いを浮かべて首を振った
「そんなわけないじゃない。勇者さまは多忙なのよ?もう私達のこともきっと忘れているわ」
「そうかな……」
「噂ではあの聖女さまとご結婚だとか、王女様と婚約予定だとか。きっと私のことなんて、もう忘れているだろうし」
「……」
なにか言いたそうにしているエリックだったが私はあえて気が付かないことにした。
そう、私はもう過去に縛られないで生きようと決めた。
失った親友と父は、レイヤが魔王を倒すことで敵がとれたのだ。
それだけで、もう充分だ。
ひとりで過ごす夜にもすっかり慣れて、私はいつものように布団で眠りについた。
平和になったので、夜中に魔獣から襲撃されることもなくなったので、結界に異常は感じないはずなのに夜中にザワツク違和感を感じた。
おかしいな?
私は眠っていた瞳をうっすら開けると私に覆い被さる影がすぐ目の前にある。
「!?」
「え!」
人影もいきなり目覚めた私に驚きビクついていたので、私は力一杯その不審者を膝で蹴り上げた。
身体のどこかに私の膝が当たり、不審者はベットから転げ落ち踞る。
その間に私は飛び起きて灯りをつけた。
平和な田舎町だと思っていたけど、女性を襲う輩が要るなんて!
私はギロリと睨むとその髪色は黒色で騎士のような姿をしている男だと気が付く。
「……は?」
顔を赤くしてかなりの痛みに耐えている男が顔を上げると、不審者の瞳は真っ黒で少し涙目になって情けない顔をしていた。
「や、やあ」
「やあ……じゃないでしょ!レイヤ……さま」
「様はいらないかな。久しぶり、ラナ」
「そ、そりゃ久しぶりですけど……なんでここに?」
魔王を倒した勇者レイヤの突然の訪問?いや、夜這いだという状態に私は眉間にシワを寄せて睨んだ。
「なんでって、ラナに報告することがあって帰ってきた」
「報告……」
ああ、きっと聖女様か王女様との婚約が決まったとかだろうか。
「本当は夕方には街に着いてたいのだけど、話しかけずらくて」
夕方?エリックと話をしていた時だろうか。
「だからといって、こんな夜中に来られても……」
「すまない。ちょっと厄介な事があってそっちに時間をとられて」
「で、報告とは?あ、その前に」
私はベットから降りて床に正座して深く頭を下げた。
「勇者さま。魔王を倒して頂き、ありがとうございました。父とアリアナも天国で喜んでいると思います。本当に……本当にありがとうございました。」
私は床に頭が着く位に頭を下げて心から感謝の言葉をレイヤに伝えた。
すると、レイヤは私の肩を両手を掴み少し強引に私の身体を起こした。
「その事で、ひとつ話が」
「なんでしょう」
「アリアナ、生きてた」
「え!!!!本当ですか!」
レイヤは少し複雑な顔をして笑っている。
「ああ、それもかなり幸せそうだった」
「……は?」
「ちょっとややこしい話だけど、簡単に説明するとあの拐った魔王の手下リガルドルフとアリアナは恋仲になって人間側についてくれた。」
「……はあ」
「今度結婚式がある」
「……へー」
なんだろう……自分の身代わりになって死んだと思っていたアリアナがリア充になってると?
複雑な心境だが、何にしても嬉しい事だ。
「で、その挨拶のためにアリアナとリガルドルフと一緒に帰ってきたのだけど、揉めてね……」
「そりゃ、揉めるでしょうね」
「明日も俺はその仲介に行かないといけない」
「なんというか、頑張って下さいとしか言いようがないです」
ん?で、その話とこの夜這いはどう繋がるのだろう?
「で?どうして私の寝室に?」
「その、てっきりもう俺のこと忘れて幸せになってると思ってたけど、さっきエリックから話を聞いて……顔が見たくなって」
「は?それは夜這いしていい理由ではないですよね」
「よ、夜這いだなんで!」
顔を赤くして首を振るレイヤを私はじっと睨む。
「ラナが……俺のこと待っててくれたのが嬉しくて」
「待ってないです」
「え」
「たまたま、好い人が現れなかっただけです。だから、私の事は気にしないで下さい」
「たまたま……か。俺もたまたま好い人が現れなかった」
「嘘ですね。」
「な、なんで?」
いい雰囲気に持っていきたいようだが、私はスパッと話の流れを切った。
「聖女さまと王女さまとの縁談があるとかなんとか」
「ぐ……」
「お二方とも、絶世の美女ですし、問題ないのでは?」
「確かに美女は認めるが、男は美女が好みとは限らない」
「普通より、お美しい方がいいでしょ」
「だから、そこは好みの問題で」
「でしたら、政治的に権力など調和が必要かと思いますが」
「それは結婚相手なしで協力すると約束しているし、今も出来るだけ国のために尽力しているつもりだ」
「レイヤ様、別に私に変な恩を感じなくても」
「変な恩じゃない!!」
どことなく怒っている様なレイヤに私は少し驚いて目を丸くした。
「俺は……必ず約束を守って帰ってくると言ったの覚えてる?」
「はい」
「ラナ、俺とケ」「嫌です」
「……」
「……」
まさか断られると思ってなかったレイヤの顔はひきつった。
「……俺のこと、嫌い?」
「いえ、嫌いではないですが、特別異性として好きでもないので」
レイヤと過ごした日々は数ヶ月
私は特別な恋愛感情をレイヤに抱いていなかったのは事実。
と、いうか……多分……私はまだ恋愛というものをしたことがない。
これは私の大きな欠点だ。
そんな私と国を救った勇者様が結婚なんてしていいわけない。
「わかった……因みにだけど、他に誰か好きな人いる?」
「いえ、特には」
「そうか、なら作戦変更」
そう呟くとレイヤは私の頬に左手を添えて一瞬で顔を近づけ軽く唇を重ねてきた。
あまりに一瞬の事で私は固まって動けないでいるとすぐに唇を離す
え?今のって……キス!?
レイヤは小さく微笑んでいた。
「これからは異性として意識して欲しいな」
「わ……わかりました」
私はみるみると顔が熱くなり、さっきまで感じなかった心臓のドキドキが響いてくる。
まさか、これが……恋!?
さっきまでなかった胸の苦しさと動機がする。
まともにレイヤの顔を見れないでいると、そんな私の様子にレイヤは満足げな表情だった。
「ラナ。お願いがあるんだ」
「な、なんでしょう」
「僕も一緒に此処で暮らしてもいいかな」
「へ」
「皆には承諾をもらってくるから。ラナ」
優しく甘えた声で私の名前を呼ぶとゆっくり抱き締めてきた。
私の鼓動はさらに早くなり、おかしくなりそうだった。
「は……い」
「好きだよ」
「っ…」
こうして主人公の勇者さまは私と暮らすようになった。
度々騒がしい訪問客がいるが、私は賑やかであまったるい日々を送ることになった。
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