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偽装婚約の破棄
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「もう帰るの?」
ロージーと大伯母を引き合わせ、しばらく話をしたのち、エステルたちはオニキスの間を後にした。大まかな経緯を話して相談すると、大伯母は眉をひそめたものの、最終的には困ったときには頼っていいと請け負ってくれた。
二人で広い庭園を臨む回廊を歩く。その方向から門に向かっているのだとわかった。
「バーナードと待ち合わせしてるだろ」
「そうだけど」
エステルが口を尖らせると、ルイスは意地悪く笑った。
「なんだ、帰りたくないのかよ」
「うん……帰りたくない」
「え?」
素直に伝えるとルイスは戸惑った声を上げた。
「だって、ルイスが私の婚約者なのは今日だけでしょ?」
「そういう約束だったな」
先の庭園が工事中で立ち入り禁止のため、大きな円柱が均等に並ぶ回廊に人はいない。漏れ出た広間の灯りが暗闇を照らし揺れていた。
立ち止まったルイスはエステルを振り返った。
「お前は俺と結婚したいのか?」
「……婚約破棄したばかりで軽薄だって思う?」
エステルは涙目で訴える。
「でも私、ルイスのこと、好きになってしまったんだもの」
「俺はお前に好かれる顔じゃないだろ」
「顔で好きになったわけじゃないわ! 私の代わりに怒ってくれてうれしかった。魔術師のルイスはかっこよかったし。昔も、今日も守ってくれてありがとう」
エステルが笑うと、ルイスは片手で顔を覆った。
「なんだよ、それ……お前。そんなことで?」
「好きにさせたルイスが悪いのよ」
ふんっと顎を上げると、ルイスは笑った。
「それじゃあ、お前も悪いな」
「何がよ?」
「好きにさせたからだろ」
「……好きって……ルイスが私を?」
「他に誰がいるんだよ」
「え、なんで? どうして?」
本気でそう聞くと、ルイスは嫌そうに舌打ちをした。
「教えてくれないと結婚してあげないから」
「お前なぁ……」
腕組みして顔をそむけると、ルイスはため息をついた。
「頼られたら、悪い気はしない」
「それだけ?」
「あとは、まあ、あれだな。子どもだと思っていたのがいつのまにか綺麗になってて、でもいちいち反応がかわいくて」
言いながら、ルイスはエステルの頬を撫でた。
腰を引き寄せられて、エステルはルイスの胸に両手をあてた。
頬に熱が集まるのがわかる。きっと真っ赤になっているだろう。
「そういう反応がかわいいって言ってるんだ」
「そういうって……」
ふにふにと唇を親指で押される。見慣れた顔が今までにない距離まで近づいてきて、エステルは目を閉じた。
唇に柔らかいものが触れ、すぐに離れる。
「俺が初めてだって言われたとき、高揚した自分に驚いた」
ルイスが目を細めた。
もう一度、先ほどより長めに口づけられる。
「これから先もずっと俺だけにしておけよ」
いつものように言い返そうとしたけれど、彼の目があまりにも真剣だったから、エステルはうなずくことしかできなかった。
それから、ルイスは体を離して、ひざまずいた。
驚くエステルを見上げて、いつもの調子で笑う。
「結婚したいなら結婚したいって言えよ」
「あなたこそ、結婚してほしいならそう言えば?」
今度はエステルもいつものように返すことができた。
ルイスは気取った態度で、エステルの手を取る。
「エステル・グランド子爵令嬢、私と結婚していただけますか?」
「ええ、よろこんで」
エステルも淑女らしくおっとりと答えた。
それから二人で顔を見合わせて笑った。
ロージーと大伯母を引き合わせ、しばらく話をしたのち、エステルたちはオニキスの間を後にした。大まかな経緯を話して相談すると、大伯母は眉をひそめたものの、最終的には困ったときには頼っていいと請け負ってくれた。
二人で広い庭園を臨む回廊を歩く。その方向から門に向かっているのだとわかった。
「バーナードと待ち合わせしてるだろ」
「そうだけど」
エステルが口を尖らせると、ルイスは意地悪く笑った。
「なんだ、帰りたくないのかよ」
「うん……帰りたくない」
「え?」
素直に伝えるとルイスは戸惑った声を上げた。
「だって、ルイスが私の婚約者なのは今日だけでしょ?」
「そういう約束だったな」
先の庭園が工事中で立ち入り禁止のため、大きな円柱が均等に並ぶ回廊に人はいない。漏れ出た広間の灯りが暗闇を照らし揺れていた。
立ち止まったルイスはエステルを振り返った。
「お前は俺と結婚したいのか?」
「……婚約破棄したばかりで軽薄だって思う?」
エステルは涙目で訴える。
「でも私、ルイスのこと、好きになってしまったんだもの」
「俺はお前に好かれる顔じゃないだろ」
「顔で好きになったわけじゃないわ! 私の代わりに怒ってくれてうれしかった。魔術師のルイスはかっこよかったし。昔も、今日も守ってくれてありがとう」
エステルが笑うと、ルイスは片手で顔を覆った。
「なんだよ、それ……お前。そんなことで?」
「好きにさせたルイスが悪いのよ」
ふんっと顎を上げると、ルイスは笑った。
「それじゃあ、お前も悪いな」
「何がよ?」
「好きにさせたからだろ」
「……好きって……ルイスが私を?」
「他に誰がいるんだよ」
「え、なんで? どうして?」
本気でそう聞くと、ルイスは嫌そうに舌打ちをした。
「教えてくれないと結婚してあげないから」
「お前なぁ……」
腕組みして顔をそむけると、ルイスはため息をついた。
「頼られたら、悪い気はしない」
「それだけ?」
「あとは、まあ、あれだな。子どもだと思っていたのがいつのまにか綺麗になってて、でもいちいち反応がかわいくて」
言いながら、ルイスはエステルの頬を撫でた。
腰を引き寄せられて、エステルはルイスの胸に両手をあてた。
頬に熱が集まるのがわかる。きっと真っ赤になっているだろう。
「そういう反応がかわいいって言ってるんだ」
「そういうって……」
ふにふにと唇を親指で押される。見慣れた顔が今までにない距離まで近づいてきて、エステルは目を閉じた。
唇に柔らかいものが触れ、すぐに離れる。
「俺が初めてだって言われたとき、高揚した自分に驚いた」
ルイスが目を細めた。
もう一度、先ほどより長めに口づけられる。
「これから先もずっと俺だけにしておけよ」
いつものように言い返そうとしたけれど、彼の目があまりにも真剣だったから、エステルはうなずくことしかできなかった。
それから、ルイスは体を離して、ひざまずいた。
驚くエステルを見上げて、いつもの調子で笑う。
「結婚したいなら結婚したいって言えよ」
「あなたこそ、結婚してほしいならそう言えば?」
今度はエステルもいつものように返すことができた。
ルイスは気取った態度で、エステルの手を取る。
「エステル・グランド子爵令嬢、私と結婚していただけますか?」
「ええ、よろこんで」
エステルも淑女らしくおっとりと答えた。
それから二人で顔を見合わせて笑った。
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