上 下
106 / 158
一年生

ただ勝利のためにです!

しおりを挟む
ルースはサリアの背負い投げにより、闘技場の石畳へと沈んだ。
障壁を張っていたとしても、身体の内側にくる衝撃は相当なものである。

「ルース、おやすみ」

そして倒れているルースにサリアがとどめの一撃を繰り出そうと拳を構えたことにより、これで決着かと誰もが思った。

「まだ眠る時間じゃないよね……」

仰向けで倒れていたルースは石畳の上を転がり、サリアが振り下ろした拳をかわすと立ち上がった。
そのまま風を纏って後ろに大きく跳んだ。

「むっ……ずいぶんと元気だね」

「そんなことないよ……身体中痛いところだらけだから」

ふらつきながらも自身の胸に手を当て、傷を癒していく。

「させない」

サリアは回復の隙を与えようとせずに、すぐさま距離を詰めていく。

「やっぱりこうするしかないか……」

ルースは自分の双剣を幾本もの羽へと変えると、ルースの背中の翼となり羽ばたいた。
近づいたサリアが拳を繰り出そうとしたときには、ルースは空へと距離を取っている状況だ。
結界があるためそこまで高く飛ぶことはできないが、サリアの拳が届くことのない位置までは離れている。

「ズルい」

「そっちこそあんな、えっちな格好してズルいと思うけど?」

「嬉しくなかった?」

「……嬉しかったけど」

「ならいいでしょ」

ルースの反論は簡単に論破されてしまった。

「うぐっ……こうなったらカイ直伝の戦術で勝負だ!」

「えっ?俺?」

突然に俺の名前が出てきたことに驚く。

「なにか教えたことがあるんですか?」

「まあいろいろと情報交換したりはしてるけど、なんだろう?」

「しかし楽しみではないか。これからどうやって巻き返すのか、しかと見せてもらおう」

「そうだな。華麗なる逆転の一手を見せてくれるかもしれないからな」

そう思ってウキウキしながら観戦していたのだが、

「炎の矢!」

「もう、しつこ過ぎ」

ルースが延々と空から炎の矢を降らせて、それをサリアがかわし続けるというめちゃくちゃ地味な展開になった。
さすがのサリアもウンザリしているようだ。

「……貴様はどういう闘い方を教えたのだ?」

「嫌がらせですか?」

フレアがジト目でこちらを見て問いかけてきた。
リーナも同じような目をしている。

「あれは……いつのことだったか……」

俺は思い出した。
勝つにはどうすればいいのか、お互いに話し合っていたときのことを。
それは俺の自室での出来事だ。

「勝つために必要なことってなんだと思う?」

「自分の戦力と相手の戦力の把握かな?」

ルースの質問に俺はそう答えた。

「そこに大きな開きがあった場合はどうするの?」

「自分の戦力をレベルアップさせるか、あとはもう一つだけだ」

「そ、それは?」

ごくりと息をのんだルースに俺は自信満々に言い放つ。

「延々と相手が嫌がることをして実力を出させないことだ!」

「……なんだかせこいね」

「せこいとはなんだ!これは相手のことを考えてしっかり対策した上での戦術で大事なことなんだぞ!」

「できればもうちょっとマシな言い方してほしかったな……」

そう困ったように笑うルースを思い出した。

「はぁ……また貴様の影響か……」

「いい子だったルース君が汚れてしまったんですね……」

「そんな言い方しないでくれる!?」

そもそも派手にぶつかり合ったりしたら怪我も酷いものになる。
遠距離でチクチクやって相手を弱らせるのは立派な戦術じゃないか。

実用的な考え方ですが、見せる勝負としてはどうでしょうか?
フレアさんとリーナさんの試合のような緊張感がまったく見受けられませんが?

……

「まだまだ!」

「はぁ……疲れてきた」

ルースが炎の矢を相変わらずサリアに向けて放っている。
今の試合状況は観客にとってはあまり面白いものではない。
ハラハラドキドキするような展開は一切ないからだ。
勝利を目指しつつも、観客を楽しませることを忘れてはならない。
小さいころから観てきたというのに、俺は改めて召喚師戦の難しさを思い知った。

「もう、ムカついた」

そうしている間にサリアがいら立ちを爆発させる。
氷でブーメランを作り出す、空へと向けて放った。

「うわっ!?」

突然のサリアからの攻撃に動揺するも、なんとかかわす。
そして戻ってきたブーメランをキャッチしたサリアが再びブーメランを放つ。

「今度こそ」

「そんな危ないものは壊させてもらうよ!」

冷静さを取り戻したルースは、向かってきたブーメランに炎の矢を複数本当てて消滅させる。
そんなことを何度も繰り返していたとき、

「ふぅ……」

サリアが息を吐いた。

「そこだ!」

ルースは上空から一気に急降下すると、サリアへと突っ込んでいく。

ルースからの攻撃は来ない。
そう思い込んでしまったサリアはすぐに動けないでいる。

「しまった」

サリアの右肩にルースの蹴りが直撃し、サリアの身体は仰向けに倒れていった。

「右肩、もう上がらない……わたしのまけ……」

「それまでルース君の勝利です!」

「や、やった……」

一瞬の油断の隙をついたルースの見事な勝利だ。
つまらない闘いだとか、正々堂々とした闘いじゃないという苦言もあるかもしれない。
だが、ルースが努力して掴んだ勝利ということに変わりはない。

だからこそ、俺もフレアもリーナもクラスメイトたちも祝福の拍手を送った。
それが勝者への最大の賛辞となるのだから。


「むぅ……こんどはぜったい負けないから」

その後回復したサリアが空中戦への対抗策を編み出そうと、いろいろと試行錯誤しているようだ。
よほど悔しかったのだろう。

こうしてお互いが高め合い、実力が上がるにつれて見せる試合になっていくのでしょうね。

ああ、今度はサリアも空への対抗策を持って来るからな。
きっと迫力ある試合になるだろう。
そして次はフレアとルースか。
今からどんな試合になるか楽しみだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

勇者に幼馴染で婚約者の彼女を寝取られたら、勇者のパーティーが仲間になった。~ただの村人だった青年は、魔術師、聖女、剣聖を仲間にして旅に出る~

霜月雹花
ファンタジー
田舎で住む少年ロイドには、幼馴染で婚約者のルネが居た。しかし、いつもの様に農作業をしていると、ルネから呼び出しを受けて付いて行くとルネの両親と勇者が居て、ルネは勇者と一緒になると告げられた。村人達もルネが勇者と一緒になれば村が有名になると思い上がり、ロイドを村から追い出した。。  ロイドはそんなルネや村人達の行動に心が折れ、村から近い湖で一人泣いていると、勇者の仲間である3人の女性がロイドの所へとやって来て、ロイドに向かって「一緒に旅に出ないか」と持ち掛けられた。  これは、勇者に幼馴染で婚約者を寝取られた少年が、勇者の仲間から誘われ、時に人助けをしたり、時に冒険をする。そんなお話である

催眠アプリで恋人を寝取られて「労働奴隷」にされたけど、仕事の才能が開花したことで成り上がり、人生逆転しました

フーラー
ファンタジー
「催眠アプリで女性を寝取り、ハーレムを形成するクソ野郎」が ざまぁ展開に陥る、異色の異世界ファンタジー。 舞台は異世界。 売れないイラストレーターをやっている獣人の男性「イグニス」はある日、 チートスキル「催眠アプリ」を持つ異世界転移者「リマ」に恋人を寝取られる。 もともとイグニスは収入が少なく、ほぼ恋人に養ってもらっていたヒモ状態だったのだが、 リマに「これからはボクらを養うための労働奴隷になれ」と催眠をかけられ、 彼らを養うために働くことになる。 しかし、今のイグニスの収入を差し出してもらっても、生活が出来ないと感じたリマは、 イグニスに「仕事が楽しくてたまらなくなる」ように催眠をかける。 これによってイグニスは仕事にまじめに取り組むようになる。 そして努力を重ねたことでイラストレーターとしての才能が開花、 大劇団のパンフレット作製など、大きな仕事が舞い込むようになっていく。 更にリマはほかの男からも催眠で妻や片思いの相手を寝取っていくが、 その「寝取られ男」達も皆、その時にかけられた催眠が良い方に作用する。 これによって彼ら「寝取られ男」達は、 ・ゲーム会社を立ち上げる ・シナリオライターになる ・営業で大きな成績を上げる など次々に大成功を収めていき、その中で精神的にも大きな成長を遂げていく。 リマは、そんな『労働奴隷』達の成長を目の当たりにする一方で、 自身は自堕落に生活し、なにも人間的に成長できていないことに焦りを感じるようになる。 そして、ついにリマは嫉妬と焦りによって、 「ボクをお前の会社の社長にしろ」 と『労働奴隷』に催眠をかけて社長に就任する。 そして「現代のゲームに関する知識」を活かしてゲーム業界での無双を試みるが、 その浅はかな考えが、本格的な破滅の引き金となっていく。 小説家になろう・カクヨムでも掲載しています!

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

死んで全ての凶運を使い果たした俺は異世界では強運しか残ってなかったみたいです。〜最強スキルと強運で異世界を無双します!〜

猫パンチ
ファンタジー
主人公、音峰 蓮(おとみね れん)はとてつもなく不幸な男だった。 ある日、とんでもない死に方をしたレンは気づくと神の世界にいた。 そこには創造神がいて、レンの余りの不運な死に方に同情し、異世界転生を提案する。 それを大いに喜び、快諾したレンは創造神にスキルをもらうことになる。 ただし、スキルは選べず運のみが頼り。 しかし、死んだ時に凶運を使い果たしたレンは強運の力で次々と最強スキルを引いてしまう。 それは創造神ですら引くほどのスキルだらけで・・・ そして、レンは最強スキルと強運で異世界を無双してゆく・・・。

金貨1,000万枚貯まったので勇者辞めてハーレム作ってスローライフ送ります!!

夕凪五月雨影法師
ファンタジー
AIイラストあり! 追放された世界最強の勇者が、ハーレムの女の子たちと自由気ままなスローライフを送る、ちょっとエッチでハートフルな異世界ラブコメディ!! 国内最強の勇者パーティを率いる勇者ユーリが、突然の引退を宣言した。 幼い頃に神託を受けて勇者に選ばれて以来、寝る間も惜しんで人々を助け続けてきたユーリ。 彼はもう限界だったのだ。 「これからは好きな時に寝て、好きな時に食べて、好きな時に好きな子とエッチしてやる!! ハーレム作ってやるーーーー!!」 そんな発言に愛想を尽かし、パーティメンバーは彼の元から去っていくが……。 その引退の裏には、世界をも巻き込む大規模な陰謀が隠されていた。 その陰謀によって、ユーリは勇者引退を余儀なくされ、全てを失った……。 かのように思われた。 「はい、じゃあ僕もう勇者じゃないから、こっからは好きにやらせて貰うね」 勇者としての条約や規約に縛られていた彼は、力をセーブしたまま活動を強いられていたのだ。 本来の力を取り戻した彼は、その強大な魔力と、金貨1,000万枚にものを言わせ、好き勝手に人々を救い、気ままに高難度ダンジョンを攻略し、そして自身をざまぁした巨大な陰謀に立ち向かっていく!! 基本的には、金持ちで最強の勇者が、ハーレムの女の子たちとまったりするだけのスローライフコメディです。 異世界版の光源氏のようなストーリーです! ……やっぱりちょっと違います笑 また、AIイラストは初心者ですので、あくまでも小説のおまけ程度に考えていただければ……(震え声)

ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。

yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。 子供の頃、僕は奴隷として売られていた。 そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。 だから、僕は自分に誓ったんだ。 ギルドのメンバーのために、生きるんだって。 でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。 「クビ」 その言葉で、僕はギルドから追放された。 一人。 その日からギルドの崩壊が始まった。 僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。 だけど、もう遅いよ。 僕は僕なりの旅を始めたから。

ゲームのモブに転生したと思ったら、チートスキルガン積みのバグキャラに!? 最強の勇者? 最凶の魔王? こっちは最驚の裸族だ、道を開けろ

阿弥陀乃トンマージ
ファンタジー
 どこにでもいる平凡なサラリーマン「俺」は、長年勤めていたブラック企業をある日突然辞めた。  心は晴れやかだ。なんといってもその日は、昔から遊んでいる本格的ファンタジーRPGシリーズの新作、『レジェンドオブインフィニティ』の発売日であるからだ。  「俺」はゲームをプレイしようとするが、急に頭がふらついてゲーミングチェアから転げ落ちてしまう。目覚めた「俺」は驚く。自室の床ではなく、ゲームの世界の砂浜に倒れ込んでいたからである、全裸で。  「俺」のゲームの世界での快進撃が始まる……のだろうか⁉

処理中です...