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一年生

お買い物です!

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行きとは違い、帰りはにぎやかな雰囲気に包まれて街へと到着した。

「それでは私は戻りますので……」

「ああ、お疲れさま」

ややげんなりとした表情で、ファーナは俺の中へと消えていく。

「うぅ……もっと抱っこしたかった……」

「ホントです」

「そんなにガッカリしない。またいつでもできる」

「あはは!みんな小さい子が大好きだね!」

「「その言い方は気になります」」

「あくまでも愛らしいという意味」

そうして会話をしつつ街に入ると、

「それじゃあお姉ちゃんたち!お買い物にいこ!」

「うむ、そうだな」

「それではカイさんとルース君は少しの間お別れですね」

「またね」

「別に一緒でもいいのになぁ……」

「女性用とは売り場も違いますし、別々の方が効率的ですからね」

「僕たちが女の子の売り場についていくわけにもいきませんし」


俺たちは二手に別れることになった。
明日は近くに泳げる湖があり、みんなでそこに行くことになっている。

「みんなどんな水着を買うんだろうな」

「楽しみだね」

男としてはテンションが上がるしかない。
自分たちの水着のことなどまったく興味がないまま、男性用の服屋へと向かう。
店内には多くのカジュアルな服が並んでおり、オルゴールの音色がオシャレな雰囲気を醸し出している。

「いらっしゃいませ。どういったものをお探しでしょうか?」

入店した俺たちをイケメンで爽やかな店員さんがお迎えしてくれるのだが、俺の心がその接客を受け付けない。

ギリギリ……

マスター、顔の良い男性に敵意をむき出しにするのをやめませんか?

ちゃんとこらえているが?

「お、お客様?どうかなさいましたか?」

顔に出ています。

おっと……

少し顔に出ていたようで、店員さんが困ったようなひきつった笑顔になってしまった。

「いえ、ちょっと知り合いに似ていましたので驚いてしまいました。すいません」

爽やかイケメンのレオン先輩はいまごろどうしているのだろうか。
セツカ先輩といい雰囲気だっただけにイチャイチャしていたら許し難いものだ。

「そ、そうですか。それならば良かったです。本日は何をお探しでしょうか?」

「水着が欲しいんですが」

「かしこまりました。彼女さまの好みはありますか?」

うん?彼女?

「も、もしかして僕ですか!?」

「そうですが?」

そっか、初見だとそうなるかもしれんなぁ……

「僕は男です……だから僕のもお願いしたいのですが……」

「し、失礼いたしました!お二人とも二階の売り場へとご案内させていただきます……」

しかしまあ服屋の店員さんにも女の子と間違われるなんて、さすがだなルース。

その言葉はまったく喜ばれないと思います。

そうして少々自信を失いそうになっていた店員さんだが、その後は何事もなく買い物を終えることができた。

俺は黒がメインでサイドに白のラインが入ったハーフパンツ。
小さく刺繍された剣をファーナが気に入ったので購入した。

ルースは青をメインとしたショートパンツに、風のような白い曲線が入ったカッコいいものだ。
だが、鳥のイラストが描かれた白シャツまで購入することになった。

「お客様の場合、女性と勘違いされる可能性が十分にありますので上着はあった方がいいです。湖の監視員や見知らぬ方に説明するのが面倒であると思いますから」

「はい、そうします……」

ルースは脱いだら結構引き締まっているんだけど、後姿だと華奢にも見えるからな。
いちいち呼び止められて説明するのはたまらないし、まあ仕方ないか。

「ありがとうございました」

会計を済ませると、俺たちは紙袋を持って店へと出る。
いろいろと依頼をこなしてきたので、水着を購入してもまだ余裕があった。
大変だったけど、頑張ってきてよかったというものだ。
しかし……

「ずいぶんと暑くなったな……」

「うん、こう暑いと早く泳ぎたいね……」

外は太陽が高く昇り始め、暑さが強くなっていた。

「それじゃあフレアの家に帰るとしますか」

「そうだね。お腹も空いてきたし早く帰ろう」

こうして買い物を終えた俺たちは、フレア家へと向かっていく。

「ただいま戻りました」

「おや、お帰りなさいませ」

呼石を押した俺たちを執事のトマスさんが出迎えをしてくれる。

「フレアたちは帰っていますか?」

「いえ、まだお帰りになってはいませんね」

そんな会話して中に入ると、

「お帰りなさい。お料理中だから遠くからでごめんなさいね」

奥からシャルネさんの声が聞こえてきた。
俺たちは広間に向かい、シャルネさんに会いに行く。

「ただいま戻りました」

「なんだかとってもいい匂いがしますね。僕もうお腹空いちゃいました」

「うふふ、もうちょっとでお昼ご飯ができるから、手を洗って待っててね」

「でもフレアたちは待たなくてもいいんですか?」

「あの子たちはお昼はいらないそうだから気にしないでいいわ」

「あっ、そうなんですね」

「外で食べてくるのかな?」

話を終えると荷物を部屋に置き、手を洗ってから広間へと戻る。

「「「いただきます」」」

そうしてシャルネさんの美味しい料理を、メリッサさんやトマスさんと一緒に平らげた。
その後、片付けを終えたシャルネさんたちと会話したりして過ごしていたのだが、フレアたちは一向に帰ってこない。

「それでは奥様、我々は失礼させていただきます」

「失礼いたします」

「はい、お疲れさまでした」

夕方となったのでメリッサさんやトマスさんは仕事を終えて、自宅へと帰っていった。

「いくらなんでも遅くありませんか……?」

「うん……水着を買うだけでこんなにかかるなんて……」

「女の子の買い物はね?長いものなのよ?」

不安になった俺たちだが、シャルネさんは笑顔のままだ。

リリリ……

それから少しして呼石が鳴ったので、俺たちはシャルネさんとともに玄関に向かう。

「ただいま戻りました」

「ママ!ただいまぁ!」

「お帰りなさい」

「カイさんとルースさん!ただいまです!」

「「ただいま……」」

元気なフレア姉妹とリーナだが、サリアとクリス先輩はだいぶ元気がない。

「お、おかえり……」

「サリアとクリス先輩はどうしたのかな……?」

「何時間も、着せ替え人形させられたの……」

「ボクも……へとへとだよ……」

タフネスには自信のある二人がげっそりとした表情で、何があったか教えてくれた。

「お、お疲れさまでした……それでどんなの買ったんだ?」

「秘密だ」
「秘密です♪」
「秘密だよお兄ちゃん!」
「ひみつ……」
「だよ……」

なんとも期待が高鳴る言葉を残して、全員が笑うのだった。
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