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一年生

断章 クリスさんはそのころ

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「クリス、今日はご機嫌だな」

「うん!明日から夏休みでしょ!?それでボクもカイ君たちと旅行に行くんだ!」

終業日、担任のゼルウェルとクリスが教室内で会話をしていた。

「それは良かったな。出発はいつだ?」

娘を見るような優しい笑顔を見せるゼルウェルだったが、

「明日!」

「……何を言っているんだ?お前は」

クリスのその回答に唖然としてしまう。

「えっ?どういうことですか?」

わけがわからないクリスはきょとんとした表情で聞き返した。

「お前、筆記で赤点だから追試があるだろう?それって明日だぞ?」

「……あ」

「完全に忘れていたな……」

学園である以上、一般常識の授業も行われている。
実技では圧倒的な成績を残してはいても、筆記の方では非常に残念な結果だった。

「まあ、気づけてよかった。追試を無断で欠席すれば停学もありうるからな」

「そんなぁぁぁ!なんとかしてよ先生!」

泣きつくクリスだが、

「なんともならんわ!」

ゼルウェルはあっさりと切り捨てた。

「ボクの……完璧なスケジュールがぁぁぁ!」

ここ最近、布団に入ってはどんな楽しいことをしようかな?と、うきうきした気持ちで過ごしていた。
だからこそ、この状況は辛いものでしかない。

「辛いのは分かるが、追試に合格すればいい。それなら補習は無しだ。少し遅れたとしてもまだ間に合うだろう?」

「ボ、ボク、合格できそう……?」

「…………」

「なんとか言ってよう!」

ゼルウェルは長い沈黙の後、重い口を開く。

「非常に厳しいと言わざるを得ない……」

「いやぁぁぁ!?」

その非常な宣告にクリスはとうとう泣き出してしまった。

「あきらめるな!問題を作るのはルナ先生だが、基本的なことを押さえておけば大丈夫だ!」

「……基本的って?」

「この国の王は誰だ?」

「……アンドレ?」

「ちがぁぁぁう!なら首都は!」

「……キルルン?」

「そんな可愛い名ではなぁぁぁい!」

「わかんないよぉぉぉ!」

「ええい!私が今から予想問題を作成する!これだけはしっかりと覚えておけ!」

「ありがとう!先生!」

(((なんだかんだ言って、結局クリスには甘いんだよなぁ……)))

周囲にいる男子生徒たちは、苦笑いをしながらその様子を見ていた。


そしてその日の夜の女子お風呂場。

「というわけで、同じ日に出発はできそうにないんだ……」

「それは残念ですね……」

「で、でも後で来てくれるんですよね?」

「テストがんばって」

「うん!ボク、絶対に後で行くから!遊ぶのは待っててね!?」

「ふふっ……わかりました」

「はい!お待ちしてます!」

「早く来てね」

「任せておいて!」

お湯に浸かりながら固い約束を交わし、クリスは追試を受けることになった。


はぁ……落ち着け……
苦手な勉強をいっぱいしたんだから!
きっと大丈夫!

数人の生徒が一年生の教室で追試の開始を待っている中、

「それでは始めてください」

ルナの言葉が静かな教室内に響く。

クリスがペラッとテスト用紙をめくると、

わ、わかる!
今のボクになら理解できる!

興奮を抑え、冷静に空白を埋めていった。

カリカリと鉛筆の音だけが教室を支配する。

「そこまでです。それでは採点しますので、教室内でお待ちください」

テスト用紙を回収したルナが教室から出て行くと、

ふぅ……全てを出し切ったよ……
あとは結果だけだ!

ルナが帰ってくるのを今か今かと待つのだった。





「ゼルウェル先生、どうかされましたか?」

「あ、ああ……クリスの結果が気になってな……」

一年の教員室の前で、ゼルウェルがウロウロと歩き回っていた。

「学園の実技トップだとしても、採点は厳粛にさせていただきます」

「そ、それはもちろんだ!」


そのようなやり取りをしつつ、ルナは採点を始めた。


ガラガラ……

ルナ先生が帰ってきた!

一時間も経っていないというのに、随分と待ったような気持ちでいたクリスの心臓がドクンと高鳴る。

「それではテスト用紙を返却していきます。五十点以上の方は晴れて夏季休暇となりますが、五十点未満の方は後日補習がありますので、そのまま残っていてください」

「クリスさん」

「はい!」

何人かの名前が呼ばれた後、クリスの名前が呼ばれる。

大丈夫だよね……

ドキドキしながらルナからテスト用紙を受け取り、自分の名前の隣にある数字に目を移していく。

51点。

そこにはギリギリだが合格圏内の点数が書かれていた。

「やっ……!」

やったぁぁぁ!

危うく声に出しそうなクリスだったが、なんとか声を抑えることができた。

みんな!待っててね!ボクもすぐ行くから!

こうしてクリスもめでたく夏季休暇を迎えることになった。

「よ、よかったなぁ……」

ゼルウェルも涙して喜んだという。
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