上 下
14 / 158
一年生

聖女の闘いを観察します!

しおりを挟む
「なるほどなぁ……」

試合が終わり選手席へと戻る。
そして、他の生徒の闘いを見ていると今までとは違う見方をしている自分に気づく。
闘いを経験する前と後では見るべきポイントが変化しているように感じていた。
一つ一つの動作を細かく観察していき、動きの予測を立てながら思考が進む。
ただ絵を見ている感覚から、筆づかいや色の対比といったものまでじっくりと見る。
そういった感じだ。

なにごとも経験は大事だなとしみじみ思う。
これほどまでに感じ方が変わるなんて想像もしなかった。
俺は大きく息を吸い、吐き出す。
そうして興奮に高鳴る胸を落ち着かせ、見学へと意識を集中させた。

ついにリーナの試合が始まる。
しっかりと動きを見ていこう。
リーナはローブと杖を装備しており相手も同様だ。

「試合開始!」

お互いが召喚獣を呼び出す。
リーナのキリンがいななきとともにその勇ましい姿を顕現させていく。
対する相手の召喚獣はコカトリスだ。
鳥のような頭にヘビの尻尾を持つ魔獣タイプの召喚獣。
石化のブレスや鋭いくちばし、毒が強力でランクはB。
ただBランクではあるが、Aランクに近いと言われている。
Sランクのキリンだとしても油断ならない相手になるだろう。

お互いの召喚獣は間合いを測るようにゆっくりと近づいていく。
リーナも慎重に相手の動きを見ている。

「コカトリス!ブレスだ!」

先に動いたのは対戦相手だった。

シャァァァ!

コカトリスはキリンへと白い霧状のブレスを放つ。
キリンの状態異常の耐性は高いと言われているが、まともに食らってしまうと石化の効果は十分にあるだろう。

どうしのぐか。
俺はそう思いながら、リーナの動きを観察する。

「神よ、守護を……!」

キーワードを唱えると、キリンは光の障壁に包まれる。
コカトリスのブレスは障壁によって遮られ、キリンに触れることなく消えていった。

「そのまま突撃してください!」

勇ましい声とともに手を前へと差し出した。

フルルル!

歌うようないななきを上げてキリンは突進を開始する。

「ほ、炎の矢!炎の矢!」

それを妨害するように炎の矢が連続で放たれ、キリンを襲う。

キィン!
魔力と魔力がぶつかる音が闘技場に響いた。
しかし、キリンは何事もなかったように突進をやめない。

「俺の魔法が!?」

どうやら命中する前に何かにぶつかったようで、矢ははじけて消滅してしまった。
キリンのスキルかリーナの魔法かは分からないが、厄介な防御性だ。

「近づいてくる敵を撃退しろ!」

大きな嘴がキリンを突き刺そうとするが、逆に突進したキリンの頭の角がコカトリスの胸に突き刺さる。

ギャァァァ!?

傷口から血のように魔力の粒子がこぼれていく。

「雷撃です!」

キリンが雷を纏ったように光り輝くと、コカトリスの体から蒸気が噴き出る。
体内に電撃を流したようだ。

え、えげつない……

全く動かなくなったコカトリスは、やがてサラサラと消滅していった。

「ギブアップです……」

前衛がいなくなればどうしようもないからな。
特に魔法系は辛い。
いくら砲台が強くても撃てなければその真価を発揮できないということだ。

「勝者!リーナさん!」

順当に本命が勝ち上がったな。
キリンの素早い動きには十分に注意しないといけない。
それにリーナの防御魔法も硬く攻略は困難になりそうだ。

リーナ達の動きを見てどうだった?

そうですね。キリンとの一対一なら抑えることは可能ですが、彼女の魔法が援護に入ると厳しいものになりそうです。

なら今回は俺が動いてリーナの意識をこちらに集中させようと思う。
ただ、キリンが俺に向かって突進してくると一瞬で吹き飛ばされるから絶対に抑えてくれよ!

それは少し見てみたい気もしますね。

……結界があるとはいえ、骨が折れそうなんですが?

冗談です。マスターには近づかせませんよ。

ホントにお願いします……

「勝者!フィル君」

リーナ戦の作戦を練っている間に、次の俺の対戦相手が決まった。
フィルの召喚獣はドラゴンだ。
Sランクの三人を除けば同じ一年の中でもっとも強い。

さあどう闘うか?
ドラゴンの攻撃パターンはそんなに多くない。
噛みつき、爪、尻尾、ブレスといったところか。
ただダメージ量は凄まじいので十分に警戒する必要がある。
唯一、救いがあるとすれば翼のないタイプなので同じドラゴン属でも下位に属する方だということ。
空を飛ぶことを警戒する必要がないのはありがたい。

先ほどの闘い方を見たところ、勝因は召喚獣の力で押しきり勝ちだ。
ドラゴンを突撃させ、相手の召喚獣をねじ伏せたところでギブアップの宣言がされた。
フィル自身は何もしていないのでどういう援護をするのかは分からないが、杖とローブの装備だったのでおそらくは攻性魔法での援護だと思う。
ならば今回はこういくか。

ファーナに作戦を伝えた頃に、

「勝者、リーナさん!」

予想通りにリーナの勝利で試合が決着した。
次は俺の番だな。

「ではカイ君とフィル君、前へ!」

中央に行き所定の位置につく。

「試合開始!」

お互いが召喚獣を呼び出す。
ドラゴンが出現すると同時に命令が出された。

「いけ!リビングメイルを抑えろ!」

やはりそうきたか。
ファーナの倍以上あるドラゴンとの体格差を考えたら、正面からぶつかってくるのは明白だった。
俺はファーナに足止めを任せて、詠唱に入る。
発動時のイメージを構築し、キーワードを唱えた。

「氷結の柵」

何も起こらない。
しかしリングの中央にドラゴンが差し掛かった。
その瞬間に再びキーワードを唱える。

「発動」

四足で突進してきたドラゴンの前足が一瞬で凍り付く。
急激に前足が止まってしまったため体勢を崩し、顔から石畳に突っ込んだ。
サリア戦で観た氷牢をパクっ……オマージュした魔法だ。
複数の氷の矢を撃ちだす詠唱を柵のように組み合わせ、遅延効果もつけた。
そうしてできたのが、いきなりドラゴンの足元に出現させて転ばせるという魔法だ!

なんだかせこいですね。

あぁ!?そんなこと言っちゃう!?これでも結構難しいんだからな!

軽口を言っている間に、ファーナは転んだドラゴンの頭に光の剣を突き刺し、

ギュォォォン!

あっけなく消滅させる。
そしてその勢いのまま、フィルへと向かう。

「なんで俺のドラゴンがあんなに簡単に!?くそっ!」

戸惑いながらも、なんとか俺を戦闘不能にしようと炎の矢が飛んでくるが、遠距離からの直線的な魔法を避けるのはそこまで難しいものじゃない。

「せいやっ!」

襲いかかる炎の矢を俺が華麗に逃げ回っている間に、ファーナがフィルの至近距離まで近づき、剣を突き付けた。

「ギブアップ……」

「試合終了!勝者、カイ君!」

ふぅ……なんとかなったな。
お疲れファーナ。

マスターもお疲れさまです。
華麗に避けていらっしゃったようですね?
うひょう!?とう!ヤバッ!?などといった勇ましい掛け声が聞こえてまいりましたよ。

……俺だって頑張ったのに。

ふふふ、冗談はさておき、次は全力で闘う必要がありますね。

なんだか嬉しそうだな。

騎士は守ることが最大の誇りですが、強い相手と闘うことも誉れでありますので。

そうか、次は今までより強敵だ。
……俺を守ってくれ、ファーナ。

はい、全力でマスターをお守りします。

頼りになる騎士の心強い言葉をもらい、暫しの休息となった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

勇者に幼馴染で婚約者の彼女を寝取られたら、勇者のパーティーが仲間になった。~ただの村人だった青年は、魔術師、聖女、剣聖を仲間にして旅に出る~

霜月雹花
ファンタジー
田舎で住む少年ロイドには、幼馴染で婚約者のルネが居た。しかし、いつもの様に農作業をしていると、ルネから呼び出しを受けて付いて行くとルネの両親と勇者が居て、ルネは勇者と一緒になると告げられた。村人達もルネが勇者と一緒になれば村が有名になると思い上がり、ロイドを村から追い出した。。  ロイドはそんなルネや村人達の行動に心が折れ、村から近い湖で一人泣いていると、勇者の仲間である3人の女性がロイドの所へとやって来て、ロイドに向かって「一緒に旅に出ないか」と持ち掛けられた。  これは、勇者に幼馴染で婚約者を寝取られた少年が、勇者の仲間から誘われ、時に人助けをしたり、時に冒険をする。そんなお話である

催眠アプリで恋人を寝取られて「労働奴隷」にされたけど、仕事の才能が開花したことで成り上がり、人生逆転しました

フーラー
ファンタジー
「催眠アプリで女性を寝取り、ハーレムを形成するクソ野郎」が ざまぁ展開に陥る、異色の異世界ファンタジー。 舞台は異世界。 売れないイラストレーターをやっている獣人の男性「イグニス」はある日、 チートスキル「催眠アプリ」を持つ異世界転移者「リマ」に恋人を寝取られる。 もともとイグニスは収入が少なく、ほぼ恋人に養ってもらっていたヒモ状態だったのだが、 リマに「これからはボクらを養うための労働奴隷になれ」と催眠をかけられ、 彼らを養うために働くことになる。 しかし、今のイグニスの収入を差し出してもらっても、生活が出来ないと感じたリマは、 イグニスに「仕事が楽しくてたまらなくなる」ように催眠をかける。 これによってイグニスは仕事にまじめに取り組むようになる。 そして努力を重ねたことでイラストレーターとしての才能が開花、 大劇団のパンフレット作製など、大きな仕事が舞い込むようになっていく。 更にリマはほかの男からも催眠で妻や片思いの相手を寝取っていくが、 その「寝取られ男」達も皆、その時にかけられた催眠が良い方に作用する。 これによって彼ら「寝取られ男」達は、 ・ゲーム会社を立ち上げる ・シナリオライターになる ・営業で大きな成績を上げる など次々に大成功を収めていき、その中で精神的にも大きな成長を遂げていく。 リマは、そんな『労働奴隷』達の成長を目の当たりにする一方で、 自身は自堕落に生活し、なにも人間的に成長できていないことに焦りを感じるようになる。 そして、ついにリマは嫉妬と焦りによって、 「ボクをお前の会社の社長にしろ」 と『労働奴隷』に催眠をかけて社長に就任する。 そして「現代のゲームに関する知識」を活かしてゲーム業界での無双を試みるが、 その浅はかな考えが、本格的な破滅の引き金となっていく。 小説家になろう・カクヨムでも掲載しています!

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

死んで全ての凶運を使い果たした俺は異世界では強運しか残ってなかったみたいです。〜最強スキルと強運で異世界を無双します!〜

猫パンチ
ファンタジー
主人公、音峰 蓮(おとみね れん)はとてつもなく不幸な男だった。 ある日、とんでもない死に方をしたレンは気づくと神の世界にいた。 そこには創造神がいて、レンの余りの不運な死に方に同情し、異世界転生を提案する。 それを大いに喜び、快諾したレンは創造神にスキルをもらうことになる。 ただし、スキルは選べず運のみが頼り。 しかし、死んだ時に凶運を使い果たしたレンは強運の力で次々と最強スキルを引いてしまう。 それは創造神ですら引くほどのスキルだらけで・・・ そして、レンは最強スキルと強運で異世界を無双してゆく・・・。

金貨1,000万枚貯まったので勇者辞めてハーレム作ってスローライフ送ります!!

夕凪五月雨影法師
ファンタジー
AIイラストあり! 追放された世界最強の勇者が、ハーレムの女の子たちと自由気ままなスローライフを送る、ちょっとエッチでハートフルな異世界ラブコメディ!! 国内最強の勇者パーティを率いる勇者ユーリが、突然の引退を宣言した。 幼い頃に神託を受けて勇者に選ばれて以来、寝る間も惜しんで人々を助け続けてきたユーリ。 彼はもう限界だったのだ。 「これからは好きな時に寝て、好きな時に食べて、好きな時に好きな子とエッチしてやる!! ハーレム作ってやるーーーー!!」 そんな発言に愛想を尽かし、パーティメンバーは彼の元から去っていくが……。 その引退の裏には、世界をも巻き込む大規模な陰謀が隠されていた。 その陰謀によって、ユーリは勇者引退を余儀なくされ、全てを失った……。 かのように思われた。 「はい、じゃあ僕もう勇者じゃないから、こっからは好きにやらせて貰うね」 勇者としての条約や規約に縛られていた彼は、力をセーブしたまま活動を強いられていたのだ。 本来の力を取り戻した彼は、その強大な魔力と、金貨1,000万枚にものを言わせ、好き勝手に人々を救い、気ままに高難度ダンジョンを攻略し、そして自身をざまぁした巨大な陰謀に立ち向かっていく!! 基本的には、金持ちで最強の勇者が、ハーレムの女の子たちとまったりするだけのスローライフコメディです。 異世界版の光源氏のようなストーリーです! ……やっぱりちょっと違います笑 また、AIイラストは初心者ですので、あくまでも小説のおまけ程度に考えていただければ……(震え声)

ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。

yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。 子供の頃、僕は奴隷として売られていた。 そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。 だから、僕は自分に誓ったんだ。 ギルドのメンバーのために、生きるんだって。 でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。 「クビ」 その言葉で、僕はギルドから追放された。 一人。 その日からギルドの崩壊が始まった。 僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。 だけど、もう遅いよ。 僕は僕なりの旅を始めたから。

ゲームのモブに転生したと思ったら、チートスキルガン積みのバグキャラに!? 最強の勇者? 最凶の魔王? こっちは最驚の裸族だ、道を開けろ

阿弥陀乃トンマージ
ファンタジー
 どこにでもいる平凡なサラリーマン「俺」は、長年勤めていたブラック企業をある日突然辞めた。  心は晴れやかだ。なんといってもその日は、昔から遊んでいる本格的ファンタジーRPGシリーズの新作、『レジェンドオブインフィニティ』の発売日であるからだ。  「俺」はゲームをプレイしようとするが、急に頭がふらついてゲーミングチェアから転げ落ちてしまう。目覚めた「俺」は驚く。自室の床ではなく、ゲームの世界の砂浜に倒れ込んでいたからである、全裸で。  「俺」のゲームの世界での快進撃が始まる……のだろうか⁉

処理中です...