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一年生

ルース対サリア戦です!

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「では、中衛戦を開始します!」

ルナ先生の宣言により、準備をしてきた中衛スタイルの生徒がやってきた。
ルースはフレアと同じライトメイルと片手剣。
サリアは腕に籠手と弓を、足にはロングブーツを装備しているが上半身は制服のままだった。

ん?体の装備をしていないのは何故だろうか?
ルナ先生も同じ疑問を持ったようでサリアに質問をする。

「サリアさん、鎧か胸当ては無くていいんですか?」

「サイズが合わない……どれもちっさくて胸が入らない……」

……なるほど。
俺は納得したものの、それを聞いたルナ先生とフレアの顔が歪む。

「ふん、あんなもの剣を振るうのに邪魔なだけだ!」

そうですとも!何事もほどほどが一番です!

……女性陣はお怒りだ。
大きいのも素晴らしいと言うのはやめておこう。

「……だが柔らかかったな」

フレアは自分の両手を見ながら、何かを呟いた。

「えっ?何が柔らかかったんだ?」

「な、なんでもない!」

めちゃくちゃ真っ赤な顔で俺が怒られてしまう。
なんで?

「……そうですか。明日までに特注しますので、あとでサイズを確認させてください」

「……わかった」

「今日はそのままでもいいのですか?明日に変更することも可能ですが」

「問題ない……当たらないから……」

今度は他の生徒が珍しくサリアを睨む。
可愛い女の子だからといって何を言っても許されるわけではない。
ここにいる全員が強さを求めている以上、あなた達の攻撃が私には当たらないなどと言われれば、気分を悪くするのは当然のこと。
流れるように煽るのは芸術的でもあるが、本人は事実を言っているだけなのだろう。
それだけの自信があるということだ。

気まずい空気の中で準備が整うと、サフィール先生の審判で模擬戦が始まる。

「やっぱりバランス良いよな。中衛型は」

「うむ。前衛と後衛が入れ替わったり、急に距離を取られたりと相手にするのは骨が折れるな」

他のクラスメイトの試合を何戦か見た後、ルースの出番がやってきた。

対戦相手はヘルハウンド。
狼型の魔獣でランクはC。
素早い動きが得意で爪や牙は強力だ。
ただ攻撃範囲が狭いのでそこをうまくカバーする必要があるが、相手は長槍使い。
遠距離から長槍で相手を足止めして、素早くヘルハウンドが潜り込むといった戦法だろう。

……ルースは大丈夫かな。
だが俺の心配をよそにルースはグリフォンを巧みに操り攻撃を加える一方で、自身は長槍を避けていく。
相手が上空のグリフォンに手一杯になっていると、自身も前で攻撃を行う。
かといってルースに気を取られると、グリフォンがルースを援護しながら相手を少しずつ削っていく。

「これはまた理にかなった戦い方だな。相手は上からの攻撃にも備えなければならないが、グリフォンに攻撃を当てることは難しい。となると……」

「ルースに二人がかりで突撃だな」

召喚師を戦闘不能にしてしまえば勝利だ。
地上では二対一なのだから数的優位が取れる。

実際、長槍使いもその選択をしたのだが、ルース自身の力量が凄かった。

槍を剣で弾き、ヘルハウンドの攻撃を体術でいなしていく。
完全に防御に徹している為、反撃には移れていないが戦場にいるのはルースのみではない。

急降下してきたグリフォンの嘴がヘルハウンドの胴体を貫くと、致命傷を負ったヘルハウンドの体が光の粒子となって消え去っていく。

完全に二対一となり、為す術のなくなった長槍使いは降参を宣言したのだった。

「やるなぁ、ルースのやつ」

「うむ、見事な闘いだった。剣の腕も予想以上で手合わせをしたいものだな」

良き相手を見つけたようで、ふふっと楽しげに笑う。
だけど……

「たぶん、いや絶対に断られると思う……」

「な、なぜだ!?」

だって恐いんだもん。
召喚獣無しでは絶対に戦いたくない。

次はいよいよサリアの番だ。
相手はゴーレム。
ランクはBで耐久性は抜群。
攻撃手段は限られているが、当たれば破壊力は凄まじいものがある。

それを操るのは片手剣と盾を持つ戦士スタイルの生徒だ。
前衛タイプのように見えるが、何かしらの攻撃手段があるのだろうか?

しっかりと戦いを観ておこう、と思ったのだが……決着はすぐだった。

サリアはセツナを召喚し、

「氷牢」

相手のゴーレムを足元から出現させた氷で凍らせ、移動を封じる。
そうして正面で立ち往生しているゴーレムを置き去りにし、左右からサリアは矢を、セツナは氷の槍を放つ。
クロスするように矢と氷の槍が相手へと襲い掛かっていく。
矢を盾で防ぎ、氷の槍を剣で打ち砕いたのだが、一瞬で距離を詰めたサリアが腰の短剣で剣を弾き、セツナが盾を牙で奪い取った。

「まだ、やる……?」

そうして丸腰になった相手に短剣を突き付けながら問う。
少しでも動きを見せたら即座に刺されるのは間違いないだろう。

「ギブアップ……」

俺はあっという間に終わった試合を観て、言葉を失う。

「……速さ、連携ともに学生レベルじゃないぞ」

「ふふふ……面白いではないか……」

隣で笑うフレアがやっぱり怖いと思った。

そして順当にルースとサリアが勝ち続けていき、二人の決勝となる。

「さぁ楽しみな一戦ですが、どうなると思いますか?」

「よ、良い勝負になることだけは分かるぞ!?」

解説のフレアは自信満々に、何とも曖昧な表現をしてくれるのだった。

「試合開始!」

戦闘開始の号令が響き渡ると同時に両者が動く。
サリアはバックステップで距離を取ると、素早い矢の連撃でグリフォンを襲う。
ルースはグリフォンに強い風を起こさせ、飛んでくる矢を無効化しつつ自身はその風を利用し、剣に火属性の魔法を付与して振るうと、火の斬撃が風に流されながら二人を飲み込もうとする。

「氷壁」

しかしその攻撃を見た瞬間、サリアはセツナに氷の壁を張らせる。
氷の壁に火の斬撃が当たったため、壁は溶けていく。
だが、溶けた氷から出る水蒸気によって、霧のように辺りが包まれてしまう。

「グリフォン!羽ばたいて!」

水蒸気の霧はグリフォンの風で吹き飛ばされたが、その一瞬の隙にサリアを見失ったルースは後ろを取られていた。

「降参しないと刺すよ?」

完全に密着され、首筋にサリアの短剣が当てられている。

「ギブアップです……」

「試合終了!」

サフィール先生の宣言で決勝が終了となった。

「こわぁぁぁ!?」

「サリアは狩人のようなスタイルかと思ったが、暗殺者という感じもするな」

「ピッタリすぎて笑えんわ!」

戻ってきたルースに声をかける。

「お疲れ、惜しかったな」

「ううん、全然ダメだった……一瞬見失った瞬間に、あっという間に距離を詰められていたんだ。完敗だよ」

頭では分かっていたのだろうが、実際に実力の差を見せられてしまい悔しそうに顔を歪ませる。

……可愛いルースの悔しそうな表情っていいな。

ド変態ですね。

……今回は反論できない。

「仕方あるまい、召喚獣も流石だがサリア自身も強かった。今は結果を誇るがいい、そなたは強い」

「えへへ……そう言ってくれるとうれしいな。フレアさん、ありがとう……」

満面の笑みで微笑むルース。
そしてなぜか落ち込むフレア。

「なんで落ち込んでるんだ?」

「いや……その、可愛さで男に負けたと思うと、少し辛いものが……ある」

私にも少し、ダメージが……

サリアとは違った意味でダメージを負う女騎士が二人。
ここは触れないでおこう……

「まあ怪我がなくて良かったよ。お疲れ」

「うん、ありがとう。次は君の番だね?楽しみにしてるよ」

期待を込めた瞳が俺をまっすぐに見つめてくる。

「ああ、期待に添えられるように頑張るよ」

「必ず勝て。オーレリア様を負かせたら……許さんぞ?」

殺気を込めた瞳が俺をまっすぐに見つめてくる。

「……頑張ります」

応援の温度差に体が震える中で、ルナ先生の声が聞こえてきた。

「後衛スタイルの生徒は準備をし、集合してください!」

よし行きますか。
頑張ろうぜファーナ。

お任せくださいマスター。

頼れる相棒と共に闘技場の中央へと向かった。

「うん?何をボーっとしているのだ?」

「……えっ!?僕!?いやなんでもないよ!?」

「そ、そうか?」

顔を赤くしたルースは、雑念を振り払うように頭を振った。

むにゅぅ……

えへへ……柔らかかったなぁ……
それにいい匂いだったし……

自分の背中に残るサリアの胸の感触を思い出していたなんて、口が裂けても言えないのだから。
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