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一年生

とても怒っているようです!

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夢は見ずに目が覚めたのだが、体がだるい……
大量の魔力の消費に対する反動だろう。
魔力の使いすぎには要注意だな……

重い体を引きずりながら登校し、教室に入る。
やっとの思いで到着したのに出迎えてくるのは怨念のこもった視線。
原因は間違いなく昨日の件だな。
ルナ先生に密着していた話が広まったせいだ。
男子生徒からの嫉妬の目がキツい。

「では授業を始めますよ」

ルナ先生は教壇に立つと、いつも通りに授業を開始する。
……昨日の柔らかい感触やいい香りが思い出されて仕方ない。

「今日は召喚獣の破壊について説明していきます。」

「召喚獣には耐久値というものがありますが、防御力とは関係ないですね」 

「ダメージ量が耐久値を越えたら消滅します。なぜならダメージを与えると召喚獣を構成している魔力が減ってしまい、一定の量の魔力を失うと具現化することができなくなるからです」

カリカリ。
黒板にイラストが描かれていくが、なんだあれ?

「ですが、もう二度と召喚できないというわけではありません」

「何故かと言うとあくまで本体は聖霊界にあります。こちらの世界での具現化した仮初めの姿が消えただけだからですね」

「なんだあれ?」

「いや分からん……」

どうやら周りのやつらも何が描かれているか分かっていないようだ。


「ただしすぐに再召喚出来る訳ではなく、ある程度の時間が必要となります」

「原因は研究中なのでなぜ時間かかるのか説明は難しいですが、おそらくこちらの世界での体を造り直しているのではないか?と言われてます」

「そして再召喚に必要な時間は大体1日程度です。ですので召喚できなくなったと慌てる必要はありませんので安心してください」

「質問はありますか?」

「あの……その絵?は何を表しているのでしょうか?」

ざわっ……


「それを聞くのか……」

「なんてやつだ……」

核心に触れる俺の質問に教室内がざわめく。

「カイ君のリビングメイルですが?」

……なんだと?

てっきりゾンビと何かのキメラだと思われていたイラストは俺の召喚獣らしい。

マスター……?

ファーナからもの凄く悲しい気持ちが伝わってきた。
どうやら衝撃を受けているようだ。

だ、大丈夫。
ファーナには似てないから!

「結構上手く描けたんですよ?」

ふふっ……と珍しく可愛らしい笑顔を浮かべたルナ先生。

「どうでしょうか?」

そんな笑顔のまま、俺に問いかけてきた。
俺は思考をフル回転させて慎重に言葉を選んだ結果。

「上手く……描けてますね」

……

ファーナの無言の圧力を感じる。
大変に機嫌が悪いことも伝わってきた。

だけど言えるか!
下手過ぎて何描いているかわかりませんでした。
なんてなぁ!

「ありがとうございます。他に質問はありませんか?」

嬉しそうに微笑み、再度の質問を受け付けるが他に質問はなかった。
イラスト以外は分かりやすい説明で、全員問題なく理解できたようだ。

「では午前の授業はここまでです。午後は自分のスタイルに合わせた闘い方についての適性を見ることになります。ここからは授業の担当がスタイルごとに変化しますので注意してください。以上です」

「「「ありがとうございます!」」」

ルナ先生にも苦手なことがあるんだな……
こう思ったのはきっと俺だけではないはずだ。

そうして授業が終わるとルースと共に食堂に向かう。
昼食時も嫉妬の目はまだ続いていた。

「カイ、昨日は大変だったね」

「まあ今でも大変だがな」

あの野郎……
ルースきゅんだけでは飽き足らずルナ先生まで……
はぁ……訓練中に事故を起こしそうで怖いなぁ……

何故か心の声が聞こえるようになったようだ。
いや視線にこもった呪いのせいか?

「しかたないよ。僕も羨ましく思ったし」

まあ男ども(ルースは除く)はほっておこう。

「話は変わるんだが、女子達って三人とかで話したりしてるのか?」

いつも一人で食事をとり、一緒に居る所を見たことがない。
ルースは見たことあるだろうか?

「いや誰とも喋ってるとこ見たことないよ。リーナちゃんが話しかけたりしてるみたいだけど、あんまり弾んでいないみたい」

「だよなぁ」

一人で張り詰めすぎると危ないんだけど、大丈夫だろうか?

そんな心配を胸に抱いていると予鈴が鳴る。
おっと、そろそろ昼休みも終わりだな。

「グラウンドに行きますか?」

「そうだね」

「お互い頑張ろうぜ」

「うん!」

力を高めるには友人やライバルといった誰かが必要だ。
一人ではできることも限られてくるし、悩みを相談する事も出来ない。
何事においても一人では限界がある。
それを女子達、いやフレアとサリアは知っているのだろうか?

グラウンドに集合すると、そこには三人の先生がいた。
その中でルナ先生が発言する。

「改めて紹介させていただきます。私が後衛スタイル担当です」

やったぜ!またルナ先生に教えてもらえるかも!?

「俺が前衛担任のガレフ・ドルンだ!よろしくな!」

三十後半位のマッチョな先生だ。
ツンツンした黒髪でスーツが似合っていない。
出来れば担当の先生になるのは避けたい。
気合いだ!と言いながら襲ってくるイメージしか湧かないからだ。

「私が中衛担当のサフィール・セルベールと申します。皆様よろしくお願いします」

20後半くらいの爽やかな先生で、イケメン……という異世界人だ。
さらさらな金髪を首くらいにまで伸ばして優しそうな人だ。
だが左腕が無い。
おそらく元召喚師で事故で失ってしまったのだろう。
改めて、危険な道に足を踏み入れたのだと認識した。

「では自分の思うスタイルの先生方の前に集まってください」

俺は後衛型を目指しているのでルナ先生の前に行く。
ルースは中衛型だった。

「ここからは別々だな」

「頑張るよ!」

中衛型の方へ走っていった。
少し残念に思うが後衛型には女子の一人、リーナがいる。
そして他の女子はどこかなと見ていくと前衛型にフレア。
中衛型にサリア。
きれいに女子は分かれたようだ。
それぞれが並び終えると適正テストが始まる。
闘い方を見るらしい。

「では傀儡を用意しています。これを自分の戦闘スタイルで破壊してください」

木で出来た人形が、たくさんある。
傀儡ということはあれが動くということだろう。

「ではリーナさん、貴方からお願いします」

「はっ、はい!」

おっ、早速紅一点からか。

ルナ先生が詠唱すると一体の人形が動き始める。
その様子を離れて見ている俺達、男子一同。

可愛い……
やっぱ一番はリーナちゃんだよな!
全く……下品な連中だ。

邪念を出さずに鑑賞できないのかね。
ふむ……緊張した表情がすごくかわいらしいではないか。
スカートからのぞく太ももはムチムチで、白いタイツの端にお肉が乗っかているのがたまらん。

「では、開始!」

リーナは、
「来て下さい!」
と、キリンを呼ぶ。

相変わらず美しい召喚獣だ。

「あの人形を破壊してください!」

キリンは圧倒的な速さで距離を詰めていく。
そのまま体当たりをし、長い角で木の身体を貫いた。
そして角が光るとバチバチっと音がして人形は動かなくなる。

「はい、お見事です。しかし召喚獣のみで倒してしまったために貴方の特性がよく分からないのですが、どういう風に闘おうと考えていますか?」

「はっ、はい。回復と防御魔法、それと簡単な聖攻魔法を得意としていますので、キリンさんに前衛をしてもらい、後ろから守ったり回復してあげたりと考えてます」

「そうですか。ならば後衛タイプで問題ないでしょう」

「ありがとうございます!」

そして次々に呼ばれ、皆が適性の診断を受けていく。
その結果、何人か中衛型に回されたが俺はどうだろう?

そう思っている内にルースが呼ばれたようだ。
気になりそちらの方を向くと、ルースはグリフォンを呼び出していた。

「人形を動かさないで!」

そう命令するとルースは詠唱に入ったようだ。
グリフォンは翼を羽ばたかせ、風を起こしてその場に人形を足止めする。
人形はルースに向かおうとするが動けない。
そうしているうちに詠唱は完了した様で、

「グリフォン!空に!」

命令通りに空へ飛ぶグリフォン。

「切り裂く風!」

そうしてから発動のキーワードを唱えた。
足止めされている人形は風刃に切り裂かれてバラバラになっていく。
おぉ!スゲー!これは強敵だな。
俺は素直にそう思った。

「次、カイくん」

ルースを見ていたら自分の番が来た。

「はいっ!」

ファーナを呼び出し、

「あの人形を抑えつけろ!」

そう命令を下すが、動かない。

あれ?なんで?

その間にもじわじわと人形が迫ってきている。
けっこう恐いんだが!?

もしかしてイラストのことまだ怒ってんの!?

「ファーナさんはめっちゃ綺麗でカッコいいです!ですので人形を抑えてください!」

ガシャンッ。

その言葉でやっと動いてくれた。
ファーナは人形に掴みかかり、人形もファーナに抵抗したので掴み合いになった。
その隙に詠唱に入り、数秒間で終えるとそのまま発動する。

「炎の矢、敵を狙い打て!」

基本的な火の攻撃魔法だが、アレンジを加えてはいる。
二本の炎の矢が現れ、一本の矢は右から、もう一本の矢は左から弧を描いて人形の背中に直撃した結果、燃えていく人形。

「ファーナさんありがとうございました。戻ってくださいませ」

俺は最大限にへりくだり、ファーナを戻す。

はぁ……なんとかして機嫌を直してもらおう……

「魔法のコントロールが上手く、詠唱も早いですね」

俺の動きを見ていてくれたルナ先生が褒めてくれたので、俺はニッコニコで自分語りをしてしまう。

「俺の村は小さな村なんですけど、魔法の研究をしている変なおじさんがいたんですよ。その人に色々教わりました」

「そうですか、分かりました。後衛型で問題ないでしょう」

……とっても事務的で少し悲しくなった。
その後、最後の生徒も無事に完了し、後衛型の適性検査は終わりを迎えた。

「では適性検査を終了します。お疲れさまでした」

「「ありがとうございます」」

他のグループはどうだろうか?

「そちらは、どうでしたか?」

「ああ!問題ないぜ!」

「こちらも、皆さん適性をよく把握しています」

「そうですか。では全員集合!」

生徒が集まる。

「慣れないこともあり大変だったでしょうが、色々と皆さんのことがわかりました。こちらも各個人の指導内容を考えるため、明日は休みとさせていただきます。自由に行動していいですが、節度ある行動と門限を守るように」

「「「「はいっ!」」」」

「では本日は終了とさせていただきます」

「「ありがとうございます」」

そして夕食。

「カイ、明日はどうするの」

「ふふん……彼女とデートさ!」

「えっ!彼女が出来たの!?誰!?」

「ファーナだよ」

「なんだぁ……召喚獣のことか」

「ファーナはもともと人間の女の子だぜ?」

そのことを忘れていた結果、ご機嫌を損ねてしまった。
言葉の重みは十分にある。

「そ、そうだね。じゃあデートの邪魔するのも悪いし、明日はのんびりするよ」

「ああ、すまんな」

二人で笑い合った。
いい友人が出来た嬉しさを噛みしめながら。

その後、食事を終えて自室に戻るとベッドにもぐりこんだ。
そうして寝転びながら胸に手を当て、ファーナをデートに誘う。

今日はすいませんでした……

もう怒ってない。
マスターも、普通に話して。

ありがとう、分かったよ。明日は街を見て回ろうぜ?ファーナの造った街じゃないかもしれないけど、何か思い出すかもしれないしな。

うれしい、マスター。

なんだか喋るの上手くなってきたな?

すこしだけ、ありがとう。
マスター。

いいよ。話せる相手がいると楽しいしな。ただちょっともう、ねむい……

おやすみなさい、マスター。

ああ、おやすみ……

俺は翌日を楽しみに思いつつ、眠りに落ちていった。
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