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208話 内乱工作

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 数で勝るバラドリンド軍に対抗するには何をすべきか。
 俺たちはまず、数を減らすべく内乱工作を開始した。
 忍び衆と結託けったくし、戦争の不当性や教団幹部の汚職が書かれたビラをバラドリンド中にバラいてやった。

 ウィッシュタニア政権交代! 第三王子エルネスト・フォン・ウィッシュタニアが圧制から民を開放!
 事実を知る教皇は緘口令かんこうれいき開戦を主張し続ける訳とは?!
 国民に事実を隠し戦争へと向かわせる教皇、その裏には武器商人の影が!
 都合の悪い予言を握りつぶす教団幹部、監禁された姫巫女様は何処いずこへ?!
 腐った教皇を筆頭とする汚職まみれの教団上層部に神の鉄槌を!
 教皇の私利私欲で突き進む侵略戦争に大義など無い!
 立ち上がれバラドリンド教徒! 神を冒涜する金の亡者共を許すな!
 
 手元のビラにもデカデカとバラドリンド国民をあおるる言葉が並び、新聞にはセンセーショナルな見出しのほかに〝女の子が司教が乗る馬車にひき逃げされた〟〝神殿騎士団は縁故えんこ採用でしか入団できない〟〝僧兵がお店にみかじめ料を要求した〟など、身近で起こりうる話や分かりやすい横暴なエピソードが書かれている。
 これらを制作したのはアイヴィナーゼとウィッシュタニアの諜報機関で、毎日のように違うエピソードで1千枚以上のビラや新聞が忍び衆に届けられていた。

 量産体制ととのいすぎだろ。
 てかどうなってんだよこの世界の印刷いんさつ技術と生産力。
 どうせこれも過去の勇者が持ち込んだモノなんだろうけど。

 忍び衆はビラ撒き以外では市民に紛れてこれらを吹聴ふいちょうして回り、ついにはバラドリンドの首都では大規模なデモへと発展していた。
 バラドリンド教徒自体は狂信者というわけでは決してなく、信仰心しんこうしんに厚く真面目な人が多いというのが影剣さんの認識だ。
 半世紀前のケンタウロス族が首都を襲撃した際も、「教団がケンタウロス自治区に手出ししなければ彼らも報復に来なかった」と、教団への寄付を打ち切るボイコットをしているので事実なのだろう。

 それって信仰の対象はあくまでもバラドリンド神で、教団はただ宗教的な活動と国家の運営をしているにすぎないからこうなってるってことか。
 たった50年やそこらなのに教団幹部は学ばないなぁ。
 まぁ世代交代のサイクルが地球よりも早いみたいだしそんなものか。
 なんにしろ、このまま戦争なんてやってる場合じゃねぇってなってくれたらいいんだけど。

 ベロベロン。

 新聞を片手に物思いにふけっていると、突然生暖かく濡れた物体に横顔を2連でなぞられた。
 すぐそばには2つの頭を持つライオンサイズの黒い大型犬。
 
「ペスル、顔を舐めるな」
「「わふっ! ハッハッハッハッ」」

 子犬のようにキラキラした目で舌を垂らしてこちらを見ている。
 顔だけみたら完全に黒柴くろしばで、2つの頭で息づかいも2倍のうるささだ。

「よーしよしよし、このバカ犬はホント言うこと聞かないなぁ」

 2つある首の間に顔を埋め、両手で抱きしめ肩をワシャワシャとなでまくると、後頭部を左右からベロンベロンと舐め回される。
 最初は舐められるのが汚いと思っていたが、これをされるともう頭を洗うしかなく、今ではあきらめの境地である。

「また言葉と口調が乖離かいりしてますよ? あなたがそうやって甘やかすから、ペスルも言うこと聞かないんじゃない」

 眠っている天使の女の子に膝枕しているリシアに呆れた口調でツッコまれる。

「メリーとユニスねーちゃんの言うことはちゃんときくよー?」
「言うことを聞かなければ散歩は無しと言い聞かせていますから」
「反抗したら殴る」

 トトの言葉にユニスはともかくメリーがおっかないことを口にする。

「殴るのはさすがに止めてあげて?」
「むっ、まだ殴ったことはないが、トシオが言うならやめておこう」

 メリティエが素直に応じる。

 反抗しなくて良かったな、ペスル。

 メリティエのことだから手加減はするだろうが、その手加減がペスルにとって手加減とは限らないだけに、事件が起きる前で良かったと心底安堵する。

「とりあえず、今日から厳しめにしつけるか。まずはペスルの爪で床が傷だらけの件に関してだけど、庭で飼うことにしようと思います」
賛成さんせいです」
「度々モリー殿に修繕しゅうぜんを頼むのを心苦しく思っていたところです」
「「わうっ!?」」

 リシアとユニスの賛同に、ペスルが驚きの声を上げる。

 ほほう。その反応、おめぇ人間様の言うこと理解しているな?
 にもかかわらず、今まで俺の言うことは聞かなかったと。
 
 ペスルを見つめて圧をかけると、つぶらな瞳が居心地が悪そうに視線を逸らした。
 
「これ程の大型種を室内で飼うなんて元々無理があったのでしゅ。致し方ありませんよ」
「「わふっ!」」

 フィローラの発言にハッとなったペスルが、皆の見ている前で座敷犬サイズにまで縮小した。 

 お前、縮めたんか。
 ミネルバといいペスルといい、この世界のモンスターは色々と謎過ぎる。

「きゅ~ん、く~ん」

 そんなペスルがお腹を上にして寝転び、人の心をえぐる鳴き声で可愛さをアピールする。

「完全に頭が2つある豆しばじゃないですか! これは可愛い過ぎます!」

 そんな可愛さに俺は釣らないクマーなんて思っていたら、よしのんが見事に釣られやがった。

「じゃぁこの子はこのままよしのんの部屋で面倒見る?」
「はい! 家から追い出されなくてよかったねペスルー」
「「わん!」」

 ペスルのお世話係をしているトトが若干不満そうだったので、座っている彼女の隣に腰を下ろす。
 なだめるために髪や背中を撫で続けると、顔をり寄せ甘えてきた。

 ホントこのもこもこケモ少女は可愛いなぁ。

 そんな親友を見ていたメリティエも、負けじと俺の背中にしがみ付く。
 
「デレデレですな」
「私の父も昔はあんなだったわね」
「わたくしも、父やジスタおじ様にはあんな風に可愛がって頂いてましたわ」

 ユニスにリシアが微笑みを浮かべ、ローザも幼かった頃を懐かしむ。
 半面、フィローラとセシルの顔に陰が落ちた。
 セシルは親の愛情を受けられず、フィローラも肉親が居ないからだろう。
 そこへイルミナさんが2人に寄り添い「我が母では不服かえ?」と、慈母の笑みで抱きしめると、2人ははにかみながらも首を横に振った。
 まるで本物の親娘の様である。
 しかし、娘たちを抱きしめたイルミナさんが、2人にばれないように顔をこちらに向けてウインクを1つ。
 あれはこのフォローに対するご褒美を後で寄越せという合図だ。
 皆の母は優しくもお茶目でずるかしこかった。
 そんな彼女の実の娘は、何故か俺の背中に額をぐりぐりと擦り付けたり小さな頭突きをコツコツと繰り出してくる。
 これがメリティエなりの愛情表現なのだが、近接アタッカーのじゃれつきにHPが削られ、後衛魔法職の俺にはかなり堪える。

 愛が痛い。
 
 午後になり注文していた結婚指輪の受け取りを終えると、自宅と別宅の全員を王都の服屋に連れて行った。

「お金は俺が持つから、各自好きなのを5着くらい選んで良いよ」
「あの、私達もよろしいのでしょうか?」

 別宅の人たちが申し訳なさそうにそう尋ねてきたが、遠慮なく選んでくださいと告げると大きな歓声が上がり、皆があれやこれやと楽し気に選び始めた。
 それを観察していると、自宅の皆がリシアに意見を求め、リシアはそれをクラウディアと相談し合う。
 俺なんかにんなもん聞かれても非常に困るが、楽しそうにしている彼女たちに対し俺が投げ出すわけにもいかない。

「ご主人様、これなどどうですか?」

 ククが黒い布のパーカーっぽい物を持ってきた。

 最難関人物来た!?
 全身白い毛に包まれたケモ娘なだけに、何が合うのか全く分からん。
 いやまてよ、そもそも全身体毛なんだから、彼女に服なんて必要なのか?
 ならククやトトの場合は衣装を着せられたペットみたく、あれと同じ感覚で選んだ方が良いんじゃないか?

「んー、冬物には良いとは思うよ。でもククはモフモフの美人さんだから、もこもこしたかわいいのも良いんじゃない? ルーナのポンチョみたいなのとか」
「なるほど」

 俺のアドバイスに納得がいったのか、肩に羽織はおるタイプの物を数着選びリシアの元へと向かう。

 今ので良かったのか?
 しかしなんだこのプレッシャーは、強敵との戦いとは別質だが同レベルの緊張を強いられるんだけど。

「トシオ殿、ここここの様なのはいかがでしょうか?!」

 今度は人馬のユニスが「お前どこの踊り子やねん」と言いたくなる露出度の高いきらびやかなビキニでやって来た。
 明らかにセンスがズレている。

 落ち着けユニス。
 てかそんなに恥ずかしいならなんでそれを着て来たんだ?
 だが大きめな胸が薄布越しに揺れる様はなかなか股間に来る。

「とても色っぽくて今すぐ襲いたくなるけど、普段着だから、ククがさっき持ってきたようなので良いんじゃないかな?」
「そ、そうでした、さっそく選び直します!」

 赤面しながら去っていくユニス。

 今のって、もしかして俺を退屈させないようにワザとやっていたのかな?
 あれで気遣いのできる女性なので、気の利いた返しをしてやるべきだった。
 あと、良いモノをありがとう。

 ユニスのセクシーな胸を脳裏に焼き付ける。
 続いてセシルがいつものだぶだぶローブの色違いみたいなのを着て来たり、イルミナさんがモリーさんとお揃いのフリフリレースなロリータファッションを披露したり、ローザが黒いボンテージをリシアに着せられたりと、中々に笑わせてもらった。

 イルミナさんとモリーさんに関しては、まぁBBA無理すんなと。
 だがそれも良い。

 ノリノリのイルミナさんに羞恥で俯き肩を震わすモリーさんの対比が実にグッドである。
 ローザのボンテージ姿には、内心ちょっと興奮したので、彼女たちが買わなくても後日こっそりと買わせて頂こうと心に誓う。

 てかよしのん、リシアが着ている様なメイド服を着ても、君の家事スキルが上達する訳じゃないからね?
 って、そう言えば出会った初日にリシアのメイド服姿に萌え死しかけた実績があったな。
 好きなのを選べと言った手前、セシル共々好きな様にさせてやるか。

 眼鏡美少女のメイド服姿も大好物だとは、本人に聞かれるとさすがに引かれそうなため口が裂けても言わないでおこう。

 メイド服が好物になったのは、明らかにリシアが原因なんだけどなぁ。

 女性の買い物は長いと言うが、店にある長椅子に腰を掛けて待つも、1時間経ち2時間が過ぎても終わる気配が無いのには苦笑いするしかない。
 逆にトトやメリティエなんかは無頓着むとんちゃく過ぎて、動きやすそうなのを適当に選ぶと再び俺にしがみ付いて甘えはじめた。
 また頭突きをされては敵わないので、膝枕で寝かしつける。

 まるでショッピングモールなんかで嫁の買い物を待ちながら幼子を押し付けられた週末のお父さん状態だな。

 店の人に頼んでおいたタオルや布団シーツなんかの日用品が脇に積まれていくのを横目に、まさか自分があの日の見知らぬお父さんたちと同じ状態になる日が来るとはと感慨にふける。

 最後に体の大きさをコロコロと変えるミネルバのために〝体に合わせて服の大きさを変える魔法の布で作られた服〟を注文したところ、連れてきた全員の衣服代よりも高かったのには思わず口元が引きつった。
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