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193話 不可解な挙動

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 白と紫の光が視る者の網膜に軌跡を刻み、神鉄の刃が唸りを上げる。
 バレンティンの超速の動きと足さばきに翻弄ほんろうされ、こちらの攻撃は掠りもしない。
 槍の間合いで何とか五分に近いを状態に持ち込めてはいるが、その小さな差が果てしなく遠い歴然とした距離であると痛感させられる。

 モーディーンさん並みの達人相手に純粋な剣技では渡り合おうというのがそもそも無茶な話というものだ。

 騎士数人をほふったことによるレベルアップもなんのその、未だ地力で劣っているだけにバレンティンの動きに食らいつくのがやっとである。
 精神と肉体を加速させる〈クイックスピード〉による超速の斬撃を、こちらも魔法化されたクイックスピードの〈アクセラレーション〉で反応し槍で防ぐ。
 連撃が尚も執拗に繰り出されるのを、足元から生み出した紫電の刃で奇襲し追撃を拒むと、バレンティンは右手に握りしめられたスターセイバーで切り払った。
 その頭部へ斬撃短槍ショートパルチザンから延びる雷刃で打ち下ろすも、光刃で受けられ相殺された。

「粗削りだが良いセンスだ。少々消極的なのは物足りんがな!」
「第二王子にはご好評頂けましたがね!」

 笑みと共に激しく攻め立てるバレンティンへ刺突でお返し。
 これをスウェーで躱されると、よどみのない流水の動きから繰り出された剣閃をギリギリ槍で受ける。
 追撃を避けるために射出した光の矢を、男は前進しながら二振りの剣で全てを粉砕する。
 魔法が散り粒子となった間を突破したバレンティンから放たれた剣撃に、エインヘリヤルの魔法装甲が切り裂かれた。

「浅いか」

 奴の言う様に傷は無いが、寿命が数年縮んだのは確かである。

「積極的な中年男の攻めなんて、逆にこっちはノーサンキューなんですよ!」
「はっはっはっ、そう言うな。これ程のせめぎ合いは久しくてな、しばらくこの年寄りロートルに付き合ってくれ!」

 体の位置を入れ代わり立ち代わり、コンマ数秒どころではない間隔で連撃が襲ってくる。
 距離を離して大魔法を打ち込みたいところだが、先程見せた砲撃を警戒されてか離れてくれない。
 こちらのやりたいことをさせてもらえないため、今まで戦った中でもっとも嫌な相手である。
 しかも剣士同士の一騎打ちという構図が出来上がってしまい、相手の土俵で戦わされているのが兎に角まずい。

 こんなのまともに相手してられるか! 
 一対一がダメなら多対一に持ち込んでやる!

「〈ヴィゾーヴニル〉!」

 振り抜いた雷槍の切っ先から、鳥の羽根を模した光の散弾でバレンティンを強襲するが、身体が霞む程の速度で躱された。
 光の羽はその背後に居た兵士を数名巻き込みズタボロにする。

「おお、攻撃が掠めたのはいつ以来か」

 バレンティンが自身の足の装甲へ一瞬視線を落とし、さも嬉しそうに剣を振りながらのたまう。
 鎧には傷1つついていないが、当てられた感触はあったのだろう。
 そのなんとも楽しそうな表情に、〝相手にしたくない〟という認識と〝この男ともっと刃を交えたい〟という想いが複雑に絡み合う。

 だがそれ以上に、俺はこの男に勝ちたいし、勝たなければならない。

 勝つための手段として、反撃の要所要所でヴィゾーヴニルを撃っていく。
 その都度流れ弾が被害をまき散らした。 

「えぇい、何をやっている! これは一騎打ちの決闘ではないのだ、みすみすバレンティンに手柄を譲る気か!」

 被害に業を煮やしたランペール王太子の無粋な檄に、一騎打ちを見守っていた戦士たちが動き出す。

「うおおおお!」

 横から槍を構えて突っ込んできた男を魔念動力で軌道を反らし、バレンティンとの間に割り込ませる。
 後ろからくる兵士の間をぬって下がると、移動した先に居た男と飛行魔法を駆使して体の位置を入れ替えその背中を蹴り、更に人の多い方へと飛んだ。
 いくらレベルが高くても、バレンティンと比べると圧倒的に劣るので捌き易い。 
 そして当のバレンティンも、人混みが邪魔してその攻撃力と敏捷性を生かしきれなくなる。
 目論見通りになったことで内心ほくそ笑んでいると、足元から青黒い炎が吹き上がった。
〈魔滅の守護環〉による半径2メートルの魔法遮断能力でやけど1つ負わなかったものの、余りの唐突さに心臓が跳ねる。

 魔力反応しなかったぞ!?

 驚いていると、バレンティンに一瞬で間合いを詰められてしまう。

 突拍子もないタイミングの魔法攻撃よりも、どう考えてもこのおっさんは危険に過ぎる。

 接近を拒絶したい俺は、〈多重防壁魔法ブリージンガメン〉の物量でバレンティンを押し流した。
 次に横からきた男の剣を、振り下ろすよりも早く内側に潜り込み雷槍で腹を斬りつけた。
 高圧電流が人体を焼き焦がす。
 その瞬間、またも魔力反応も無く突然顕現けんげんしたヘルファイヤーが2メートル手前で吹き荒れ、炎への驚きで思わず左腕で顔を覆う。

 だからなんだよ今の発動タイミングは!?
 それに本来なら発動地点から吹き上がるはずなのに、今のは最初から効果範囲を埋め尽くしてたぞ!

 驚いている間に青い鎧の騎士が俺へと肉薄し、煩わしさを覚える。 

「キェェェェ!」

 奇声を上げて斬りかかってきたゼオガという名の騎士の剣を左手で払い、至近からその顔面に槍を握ったままの拳を叩き込もうとしたところで、身体がピタリと停止する。

 動けない!?

 鑑定眼とフリズスキャールヴが、男の足元、金属製のグリーブの内側にマジックアイテムの反応があるのを捕らえた。


 影踏み
 対象の影を踏むことでを動けなくする。


 そんな物まで有んのか!?

 本日何度目かの驚愕。
 ゼオガが返す刃で胴体への薙ぎ払い。
 刃こそ魔法装甲で防ぎはしたものの、腹部に重たい一撃を受け、低空を吹っ飛ばされる。

「ウォールシールド!」

 壁にぶつかる寸前で飛行魔法による空中停止したところに、大盾を持つ小太りの騎士が防盾スキルを展開して押し込まれた。
 男の防盾スキルと壁に挟まれ、身動きを封じられてしまった。
 
「ストライクプラズマクロー!」

 腕に圧縮した雷撃をまとい防盾スキルを切り裂き、大盾ごと男の腹部に腕を貫通させる。
 肉体を内側から焼かれながらも、男は離れるどころか逆に押し込みをかける。

「ゼアム、オレゴド殺レ!」
「サイアス! すまん、パニッシュメント!」

 身体を稲妻に焼かれながら叫ぶ男へ、別の騎士が謝罪を口にしながらこちらに向けてスキルを放つ。

 やられてたまるか!

「ニーズホッグ!」

 槍を手放し開いた右手を向ってきた騎士にかざすと、周囲のマナを固定し手を握りしめる動作と共にマナを圧縮。
 爆縮したマナが周囲の空間を巻き込んで男の顔を握りつぶす。
 魔力力場を指定した場所に作りだし、マナ爆縮で得た感覚で空間に瞬間的超圧縮を掛けたのだ。

「無念……」

 つぶされた同僚を見届けた大盾の騎士が、高電圧に焼かれて絶命する。
 それを見てもなお向ってくる他の戦士たち。
 それらの猛攻をさばいている間も攻撃魔法が飛んでくるが、〈魔滅の守護環〉に任せて無視していると、そこへ3度目の青黒い炎が俺を包んだ。
 乱射される魔法の合間に撃たれたので驚きはしないが、索敵魔法〈フリズスキャールヴ〉に不自然な動きをした人物を捕らえる。
 それは女勇者にして珍妙な化粧をしたく黒ギャル、ルージュであった。

 今一瞬で腕を上げなかったか?

 先程のニーズホッグみたく魔法を発動させる際に身振りを交えるのは、魔法をイメージし易いのでよくやることだ。
 だがおろしていた腕が次の瞬間には上がってるなんて不自然過ぎる。

「キェェェェェ!」

 再び奇声を上げて剣を繰り出すゼオガ。
 魔念動力で相手の操る槍で受け止め近寄らせない。

 遠距離からの魔法が聞かない俺にとって、今は頭の悪そうな見た目の女よりも警戒すべきはバレンティンと〈影踏み〉を持つ男だ。
 この2人に同時に攻められると危険極まりない。

 右手にロングソード左手に警棒の二刀流スタイルの男の切り込みをサイドステップで躱し、躱した場所に先回りしていたバレンティンの光刃を、新たに生み出した雷刃で受けて相殺する。
 唸りを上げるバレンティンのロングソードは、剣を握る左腕をのものを魔念動力で受け止め停止させる。
 両手の武器が封じられた男が苦し紛れにローキックを放つのを、素早くその場で飛び上がり様、左足で押し込む様に蹴り飛ばした。
 宙に浮いた状態の俺に別の男が切りかかって来たのを、飛行魔法を操作し身体を回転させ、胴回し蹴りをお見舞いする。
 追撃してきた警棒男による刺突を武器作成魔法クリエイトウエポンで生み出した硬質ガラスの様な剣で弾き、もう一本生み出したガラスの剣を投射して腹部を貫いた。 
 ついでとばかりに貫いた剣に高速スピンをかけて腹の中を掻きまわしてやる。
 
「ぎゃああああああ!?」
「リオネス!?」

 大柄の女騎士がハスキーな声をあげながら、手にした文化包丁を振り上げた。

 文化包丁って……。

 そのシュールすぎる姿に思わずツッコミを入れると、間合いの外から振り下ろされた包丁が突然巨大化。
 3メートルを優に超える包丁が振り下ろされた。
 咄嗟とっさに魔法剣で受けるもその重さは尋常では無く、受けた剣ごと床に潰された。

 床を背に、巨大文化包丁にヒキガエルにされる吾輩。
 って冗談言ってる場合じゃねぇ、エインヘリヤルが無かったら確実に死んでいたぞ!?
 てか重すぎてエインヘリヤルをもってしても動けない!?

 そこへ戻って来たバレンティンの手には、光の刃が復活していた。

「よくやったレビリア。誰かリオネスに回復魔法を!」
「いや、この程度で勝ちを確信されても困るんだが」
 
 ワープゲートを自身の寝そべる床に開くと、包丁の長さよりも小さなその穴に自由落下。
 現れたのは玉座のすぐ上の天井だ。
 目の前に降りてきた俺に魔法使いたちがざわめき、それに気付いたランペールが後ろを振り返る。

「よっ」

 目が合ったので片手を上げて軽く挨拶すると、第一王子は端正な顔を引きつらせた。

 あいさつしてるのに返事をしないとは失礼な奴だ。

 近くに騎士も数名いるが、そいつらが既に剣の間合いに立つ俺をどうこうする前に、俺がランペールの首が飛ばす方が確実に早い。
 そしてランペールに最も近い位置に居るルージュが魔法職なのは鑑定眼で確認済みだ。
 つまり、2メートル以内に入れなければ封殺可能。
 誰がどう見ても完全に詰みである。

 バレンティンなんて化け物を相手にせず、最初から本丸を攻めればよかったんや。

「さてと、それじゃあ命が惜しかったら――」

 降伏勧告を口にしようとした次の瞬間、俺の体が吹き飛ばされ、後ろに居た魔法使い達を巻き込み壁に激突していた。
 
 な――!?

 腹部が猛烈な痛みで悲鳴を上げ、衝撃で体が全く言うことを聞かない。

 喉からこみ上げる血を魔法装甲の中で盛大にしゃしながら顔を上げると、こちらにまっすぐ走ってくるルージュの姿が見えた。
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