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番外8話 慟哭の誓いその1

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義父上ちちうえ、申し訳ありません……」

 項垂うなだれ地面を向いたまま顔を上げようとしない男が、絞り出すような声でそう告げてたのは、焼け落ちた自身の城の前でのことだった。
 彼の背後では数名の部下達が、鎮火から数日経つ城だったものの瓦礫がれきの撤去作業をしている。
 
「ディアンナは……、リチャードは……、どう、した……?」
「……」
「答えよパトリック、娘と孫はどこにいるのだ!」
「申し訳、ありません……!」

 ワシの叫びにも、男は顔を上げることなく俯いたままだ。
 時折その足元にポタポタと雫が零れ、その手は怒りと悲しみで震えていた。
 その態度に業を煮やしたワシは、俯く男の脇を通り抜け、近くに居た騎士に声をかける。
 声を掛けられた若い男もまた、悲痛な表情と共に仮設テントの方に顔を向けた。

 そうか、あそこに居るのだな。

 早鐘を打つ鼓動に向け〝まだ決まった訳では無い。娘は小さなころから冗談が好きな子で、いつもワシを驚かす事ばかりしていたではないか。これは皆を巻き込んでワシを担ごうとしているのだ〟とありもしない希望にり、テントの入り口に垂れさがる布に手を掛けた。
 布を押しのけ巨体を天幕の中に押し込むと、予期していた絶望と対面する。
 地面に敷かれた布の上には数人程の遺体が並べられていた。
 その中にはシーツをかけられた女性と幼い子供が、寄り添うように横たわるシルエット。
 振るえる手でシーツをめくると、身体の半分以上が焼け爛れた見覚えのある女性と幼子だった。
 どちらの胸部にも刃物で刺された深い傷があり、その顔には穏やかとはかけ離れた苦痛の形相をしていた。
 それら諸々の状況が一気にワシの脳裏を埋め尽くすと、怒りに染まった感情と共にテントを飛び出し駆けだしていた。

 最近頻発する野盗の被害に不安を感じていた矢先の事だった。
 自身の領地を娘が愛した婿に家督を譲り、自身は1人王都で悠々自適の暮らしをしていた。

 娘との仲が悪かった訳では無い。

 早くに亡くなった妻の忘れ形見である1人娘は、自分の生き甲斐そのものであった。
 よく笑い良くしゃべり、その辺の男の子よりも活発に野を走り回るそんなお転婆さに、将来男勝りのガサツな娘に育ち嫁の貰い手が無くては、亡き妻へどう申し開きしたものかと真剣に悩んだこともあった。

 婿が気に入らなかった訳では無い。

 なにせ奴は娘が惚れた男であり、ワシの自慢の部下だった。
 平民の出だが腕も達し、人当たりも良く仲間からの信頼も厚い男だ。
 こやつならば娘を幸せにしてくれると信じて疑わなかった。

 孫が煩わしかった訳でも無い。

 会う度に笑顔で〝じぃじ〟と呼んで懐いてくる、5歳になったばかりの小さな小さな初孫を、疎ましく思う者がどこに居る。
 ただ、自分はずっと剣の道に生き、常に戦いに明け暮れていた様な人間だ。
 人に寄り添うという事が解らないまま生きて来た。
 そんな私に妻は寄り添ってくれたが、それを自分が出来るとは思えなかった。
 故に、傍にいるとつい夫婦の中にまで余計な事を言ってしまわないか、それが原因で家族に嫌われ疎まれるのではないかと怖かったのだ。
 そして何より、妻に似て美しく成長した娘を王太子達に見初められるのを恐れた。
 だからワシは自分が引退するのではなく、家督をパトリックに譲って若い夫婦を中央から遠ざけた。
 元々平民の出であるパトリックでは、騎士より上に出世することは万に一つもありはしない。
 これが奴にとっての栄転となり、娘も幸せな人生を送れよう。
 ワシはたまに実家に戻り、娘の幸せそうな姿と孫の笑顔が拝めさえすればそれでよかった。

 だがそうはならなかった。
 なりはしなかった。

 村が野党に襲われたとの情報を受けたパトリックは、調査の結果盗賊団のアジトが判明したので討伐に向かった。
 しかし盗賊のアジトはもぬけの殻で、逆にその隙を突かれ、手薄となった城を落とされたのだ。

 ワシは人気のない森の中に入り込むと、背中の大剣を引き抜き、怒りと共に大木へ打ち込んだ。
 力任せに殴りつけるような剣撃に幹が爆ぜ、木が倒れる。
 

「ディアンナ、リチャード……おのれ、おのれおのれおのれぇぇぇぇ! 待っておれ! お前達をあのような目に合わせた者全てを、必ず、この手で、八つ裂きにしてやる!!」

 森に木霊す慟哭どうこくの誓と共に、何度も何度も剣を振り下ろし株まで破壊しつくした。

 この時の誓いを果たす好機が訪れるのは、誓いから3年後の事だった。



――――――――――――――――
 投稿が遅れてしまい申し訳ありません。
 数話だけ本編の間に番外を挟みます。
 本編の方も出来るだけ早くUP出来る様頑張ります。
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感想 72

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