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164話 修行

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 アイヴィナーゼ王国グレアム国王との謁見から3日後。
 五十階層での一件もあり、迷宮の危険性を鑑みてモーディーンさん達と話し合った結果〝下層に挑むのはもっと地力をつけてからの方が良い〟という結論に達した。
 なので迷宮探索は一時中断し、代わりにクレアル湖のいつもの湖畔で魔法の実験を行ったり、モーディーンさん達が赴任中の村の近くで戦闘訓練を行った――までは良ったが、俺は連日チャドさんに木製の槍でボコられていた。
 
 やべぇよこの人、不用意な攻撃は槍で防ぐまでもなく躱すし、的確に急所を突いてきたかと思えば全く意識していない部位を狙うなど、鋭い攻撃の中にトリッキーな動きを混ぜて着実に削ってくるが実にいやらしい。
 しかも懐に入られると打たれ殴られ投げ飛ばされるため、うかつに近寄れやしない。
 まずはこのチャドさんの掌の上感を払拭しなければ!

 チャドさんの槍が前に押し出されるのを見て横に払おうとしたが、払うはずの槍が妙な伸びと共に下をすり抜け絡み着くような動きを見せた。
 瞬間的にまずいと感じ槍から手を離すと、槍は俺の手元を離れて真上に飛ばされた。
 慌てて後方に飛び退く。

「今のがマクマレート流〈巻き落とし〉だ」

 放物線を描いて落ちる槍を魔念動力で掴んで回収し構え直す。
 剣道の巻き上げみたいな技だが、それを槍を相手にやってのけるのだから恐ろしい。
 マクマレート流は近接職にある生命エネルギーで能力UPする補助スキル〈オーラブレード〉や〈オーラシールド〉などを自在に操り戦う流派と聞いていたが、実際はガチの武術に〈オーラ〉を用いた闘法を極めるための流派だった。
 そしてチャドさんはモーディーンさんの兄弟子に当たり、そのモーディーンさん曰く「チャドは槍術なら我々の師であるマクマレートに引けを取りませんにゃ、この機会に多くのことを吸収すると良いですにゃ」とのことだった。 
 連日マクマレート流槍術の型を叩きこまれ、その日の締めにはこうして模擬戦をしてもらっているが、ちゃんと吸収出来ているのかわからない。

「技が速過ぎて対処できませんよ!」
「そういう割には良いカンしてるじゃねぇか。本来なら今ので態勢を崩し、一撃入れるまでがワンセットだからな?」

 槍を離して逃げたのはある意味正解だったのか……。
 
 チャドさんの言葉に冷や汗が流れ、珍しく咄嗟に対応出来てた自分をめたくなる。

 まぁ3日間とはいえ散々滅多打ちにされているんだ、これくらいは出来て当然な気がしないでもない。
 なんとなくだがコツは掴み始めてるってことかな?

「オラオラ、ぼさっとするにはまだ早いぞ!」

 チャドさんが唐突に間合いを詰め、鋭い連撃を繰り出してきた。

 独特な足さばきのせいで初動が非常に分かり辛い。
 だがこの人に間合いを自由にさせてはだめなのは確かだ。

 一度大きく後ろに飛んで間合いを取り、チャドさんの踏み込みに合わせて前進と同時に突きを放つ。
 これはあっさりと躱され、逆に内側に潜り込まれる。
 こちらもそれを読んでおり、石突による右下からのボディブローでカウンターを合わせてやる。
 完璧なタイミングだと思ったが、それすらも受け止められ、チャドさんの体がその場で1回転。
 下から跳ね上がってきたかかとが俺の腹部に刺さり、ゴムボールの様に吹き飛ばされた。
 速度重視の後ろ回し蹴りだが、その威力は内臓破裂級の重さを持つ。
 オーラなんぞ使わなくてもこの威力が出せるのだから、近接職は侮れない。

 防御魔法が無ければ大怪我じゃすまないぞ……。

 地面を転がりながらも素早く立ち上がり態勢を整える。
 だが既に攻撃圏内に入っていたチャドさんが、上段から槍を叩き付けてきた。
 咄嗟とっさに槍を掲げて受け止めるも、その威力は恐ろしく――軽い!?

「しまっ――」
「遅い」
 
 素早い横蹴りが再び俺の腹部に突き刺さり、またも後方へと飛ばされた。

「強と弱、虚と実を付けろっつってんだろ? そんな素直な動きばかりしてたんじゃ、相手に良い様に付け入られるぞ」

 起き上がりながら吐瀉物を出している最中でも、チャドさんからありがたいアドバイスを頂く。

 コツが掴めて来たとか思ってたさっきの自分を殴り飛ばしたい。
 そして痛覚遮断魔法で痛みこそないが、今それを解こうものならのた打ち回る姿しか想像できない。 

「こればかりは一朝一夕って訳にもいかんが、悠長に強くなるのを待つ時間が無いときてやがる……。よし、次は攻撃魔法を使え」
「マジですか?」
「お前もそっちの方が得意だろ? 得意なモンを封じて模擬戦なんてやってる今の方がおかしいんだ、今の内に自分なりの戦闘スタイルを確立しておけ」
「自分なりの戦闘スタイルですか」

 自分なりのスタイルかぁ、確固とした形があった方がやり易いのは確かだし、模索しておくには良い機会か。

 一先ず模造槍の先端に威力を落としたライトニングランスを発動させ、素振りしてみる。
 
 うん、やはり近接戦闘において上級者相手に距離を詰められるのは危険すぎる。
 射程を伸ばすのは有りだな。
 んで手数を補うために――。

「みなさん、お昼ですよー」
「なんだもうそんな時間か、今日はここまでだな」
「ありがとうございました」

 茶トラ模様の猫頭をしたビアンカさんが村を囲う壁の上からこちらに呼びかけたことで、本日の訓練は終了となった


―――――――――――――――――――――――――
 遅くなり申し訳ありません。
 もっと早く投稿できるよう頑張ります。
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