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109話 デスナイト攻略

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 簡単な算数の話を少しさせてもらう。
 相手のHPが1000で魔法防御力が100だったとする。
 そしてこちらの魔法攻撃力が200。
 相手のHPを削る場合、200の攻撃を10回打ち込めば相手の魔法防御力と相殺しあって丁度1000削れることになる。
 ただし、一度に200の魔法攻撃を十倍の2000にして打ち込めば、相手の防御力と相殺しても1900ダメージとなり、同じ10回分のMPを消費して900ダメージも余計に与えることになる。
 大雑把ではあるが、これがマルチプルキャストによる高威力の正体だと思われる。

 ここまでが算数の話しで、問題はここから。
 スキルの攻撃力とは貫通力も攻撃力だし破壊力も攻撃力。
 カタログスペックの攻撃力が1000だったとしても、実際に相手にダメージを与えるのは攻撃を与えた面積の広さと傷の深さ。 
 傷の深さ次第で人間なんてあっさり死ぬので、対人では貫通力や切断力は非常に重要である。
 それらを踏まえた上でデスナイトだが、重要な臓器と言うものが無いアンデッド相手では〝貫通=致死ダメージ〟とは素直に結びついてくれず、その手の効果は期待できない。

 何せ頚椎けいついを吹き飛ばしてもまだ向かってきた程だ。

 セージの攻撃魔法〈レイボウ〉による光線は速度と貫通力は高いが、他の魔法と比べて攻撃面積が狭すぎる。
 デスナイトに対し、重ね掛けレイボウでは肉体的に大きな欠損を負わせることは出来ず、単発射撃ならば盾や素早い回避行動で素直に当たってくれない。
 ましてやそれよりも弾速の劣る攻撃ではまず当たらない。
 普通に撃たなくても攻撃の気配を察してまともに食らってくれない。
 奴の属性のせいで光と神聖と雷以外の属性攻撃は威力が減算される上に、防御力自体がかなり高いので実質弱点属性でしかダメージが通らない。

 遭遇する度に毎回とんでもない数の魔法を打ち込むのはMP的に厳しいと、作戦会議でいくつかの対策案を携え、再び四十四階層に戻って来た。
 迷宮内は相変わらずの淡いエメラルドグリーンに青味の入った光源が通路全体から発せられ、物がはっきりと見えることから、敵影の見落しがないことだけが唯一の救いである。

「この先の角に3体居ます」
「了解、俺がやる」

 ククの警告に慎重に前進を続け、角を曲がった50メートル先に3体のデスナイトを視認した。
 ここで俺一人が前に出た。
 デスナイトも広い歩幅でこちらに駆けてくる。
 まずは右の個体の左半身へ、左の個体には右半身へ、そして中央の個体の上半身へと、重ね掛けされたレイボウ3発を1斉射。
 右の個体は左へ、左の個体は右へ、中央のはかがんで魔法を躱し、3体が中央に集まった。

 そこだっ!

「〈グラム〉!」

 そこを狙いすました強烈な光線での薙ぎ払いが、3体まとめて胴体を上下に真っ二つにしてやった。

「上手くいきましたね」
「上手くいきすぎてビックリだわ」

 ユニスに素直な感想で返す。
 巨体の割にはおかしな回避力を持つ相手に対して、それを逆手にとって動きを誘導し、集まったところを最後はレイボウをMAX出力で放ち一網打尽にして差し上げた。
 
 MPさえ気にしなければ、これを五指から放出したストライクレーザースラッシュなんてのにするのもアリだな。
 あ、なんかまた必殺技が生まれた。
 少しでも攻撃パターンが増えるのは良い事だ。

「更におかわりが3体です」

 緩く曲がった回廊にサーチエネミーが近くのデスナイトに反応し、ククも接敵の報告を寄こす。

「フィローラ、頼んだよ」
「任せてください! サモンエレメンタル・ヴァルキリー」

 フィローラがククの隣に並ぶと、この世界での光の上位精霊である戦乙女ヴァルキリーを召喚、光に包まれた鎧姿の女神を背後に出現させた。
 通路から現れたデスナイトに向けて伸ばされたその手の先で、大量の鬼火ウィル・オ・ウィスプが通路を埋め尽くす。
 逃げ場を失ったデスナイトに殺到する鬼火の群れが次々と着弾しては消えるも、消えた先から更なる鬼火が追加され突撃を慣行する。
 シャーマンのサモンエレメンタルが中級精霊を呼び出し下級精霊魔法を無尽蔵に発動できるように、ハイシャーマンのサモンエレメンタルは上位精霊を呼び出し中級精霊魔法を撃ちまくれる。
 先程算数の〝同じ魔法を10倍掛けで一度に大ダメージを〟と言う発想とは真逆の、〝10倍掛けなんかしなくても、相手が滅びるまで100発でも1000発でも打ち込めばいいじゃない〟という圧倒的な物量を叩き込む発想だ。

 ウィスプのバンザイアタックとはエグいなぁ……。

 ただ、手放しで喜べないところもある。
 PT欄からフィローラのMPを見ていると、その減り具合が目に見えて激しい。
 シャーマンの頃のサモンエレメンタルに比べ、明らかに火力は上がったものの、戦乙女を維持する為のMP消費も倍以上に跳ね上がっており、中位精霊の時ほど長くは維持できそうにない。
 
 継続戦闘は精々2~3戦が限界か?

「あぁ、ウィル・オ・ウィスプさん達が……」

 そして悲し気なリシアの声がすぐ近くから聞こえ、ウィスプが死んだ訳ではないが大変心苦しい。

 すまんやで。 

 通路を覆う閃光が収まると、先程トトが渡してくれたミルトライトの小さな欠片が二つ落ちていた。

 コレ、一体いくつ集めたら装備1つ分になるんだろ?

 5個集めても精々短刀や大き目のナイフまでで、レイピアを作るとなるもっと必要だろう。

 敵の強さにドロップ品が見合ってないのですが……。

 予想通り1戦目が終了したところでフィローラがMPの3割を失い、セシルとイルミナさんに選手交代。
 フィローラをリシアの横にまで下げる。

 フィローラやリシアのサモンエレメンタルは、緊急時の奥の手としてとっておいた方が良い。
 MP管理を疎かにし、日に一度しか使えない急速MP回復魔法〈マナチャージ〉を無駄使いしては勿体ない。

 マナチャージの残弾はリシアとセシルとメリティエ、アレッシオとジルケ、それとモーディーンさんのPTに居るアークビショップでヒューマン男性のレナルドルさん(39歳)を含めた6発限り。
 サンドワームやケルベロスやエキドナの例も有るため、何が起きるか分からないダンジョン内ではマナチャージの残弾は生死を分ける。
 極力無駄撃ちしたくない魔法の筆頭なのだ。

 そうそう、新顔のレナルドルさんと言えば、これまた同じく新顔でモーディーンさんのPTに居るヴァルナと言う見た目人間女性のセージが、先程からなにやら熱心にメモを取っていた。

 何を書いてるんだろ?
 
「右の角から2体来ます」

 ククの警告に我に返ると、四十四階層に来て2つ目の十字路の右側から、髑髏の騎士が姿を現す。
 俺達を視認すると、2体は猛スピードで駆け寄り距離を詰めてきた。

連鎖拘束魔法チェインバインド!」

 イルミナさんによる魔法の鎖が相手の正面に展開し襲い掛かった。
 すぐさまデスナイトが回避行動に移るも、イルミナさんが巧みに操作する拘束魔法からは逃れることを許さず、最初の一体を縛り上げると更に魔法の鎖が後続のデスナイトに延びる。
 それを剣で叩き切ろうとしたところ、またも軌道を変えた鎖が鎧の足に蔦の様に絡みつくき、2体目のデスナイトの全身を呪縛。
 そこにセシルの放った8条のレイボウが二体のデスナイトを一直線に結んで貫くと、胴体をごっそりと失ったデスナイトが崩壊と共に粒子散乱を起こして消え去った。

〝回避されるのが面倒なら避けられなくしてから攻撃すればいいじゃない〟作戦が、2人の連携で見事に決まった結果となる。
 イルミナさんは俺達と出会う前から魔法操作の技術を持っており、特にバインドとマジックシールドが得意なのだとか。
 そしてセシルは空間認知力に優れており、この手の効率的な射線の割り出しが瞬時に行えるそうだ。
 一般的に女性は空間認知が苦手な傾向にあるが、彼女はそうでもないらしい。
 そんなセシルが戦闘を終えるとノートを取り出し、何事もなかったかのようにMAP作成に戻る。
 MAP作成も空間認知が必要な仕事だし、元々資質はあったんだよな。

 今まで気付いてやれなかったのが申し訳ない。
 帰ったらいっぱい誉めてあげなくては。

 その後数回戦闘を繰り返すと、最初の拘束魔法に回避行動を取る個体には足元から2発目が放ち、剣で切り払おうとした個体には切り払う動作の後ろから拘束魔法で絡めるなど、操作作業を簡略化して捕縛した。
 後は動けないデスナイトの頭部にレイガンを一発ずつ打ち込み消滅させた。
 いいコンビだ。

 次にユニスの背に乗るミネルバとよしのんにバトンが渡ると、少し気付いたことがあるため2人に試してもらうことにした。
 まず始めによしのんがシャイニングアローを敵全体の左右どちらかに展開して側面から打ち出すと、回避や防御行動をとったデスナイトが避け様の無いほんの僅かなタイミングを見計らったミネルバが、ククの肩に乗った状態でレイガンを口から発射した。
 通常よりも太く高密度の光の弾丸が、絶妙なタイミングでデスナイト3体をまとめて撃ちぬいた。
 頭を失ったデスナイトが、粒子散乱の黄緑の光を発し、ドロップアイテムだけを残して消えた。

 イルミナさんの拘束魔法を見て確信したのだが、やはりデスナイトは魔力の出現場所と射出方向を感じ取って動いている。
 なら相手の行動を攻撃魔法で限定してやれば、あとは釣られて動いた敵の回避不能なタイミングの攻撃で一網打尽に出来るのではと思い2人に試してもらったのだ。
 これも上手くいってくれて何よりだ。
 というか、言われてすぐ実行するどころか、1発の弾丸で3体まとめて頭部を撃ち抜いたミネルバの感覚が、もうときが見えるレベルでおっかない。

 人類の革新は身体が猛禽になることから始まるのか。

 そのミネルバ達のMPが半分を下回ったので俺とフィローラに交替すると、セシル&イルミナ組と同じことをして終了した。

 攻略法が確立されてしまえばこんなものである。

 1体で現れるデスナイトは全てユニスと前衛に任せてMP消費の分散を図り、リシアを外した3組+前衛によるローテーションを繰り返した。
 それが3巡し終えたところで全員の基本職や上級職がカンストし、4順目にはレスティー班の魔法職の3人が最上級職の光属性魔法を習得し終えるまでに至った。

 デスナイトの経験値うめぇ。
 途中で拾った大きめの魔水晶マナクリスタル1つと小さいの3つもうめぇ。

 早速使わせてもらったところ、メインジョブとセカンドジョブのレベルが49に。

 両方Lv50まであとわずかのところで、先頭をレスティー班と交代した。
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