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「はっ、はあっ!」


 山間部に位置する村の外れ、そこで俺は練習用の剣を振るっていた。腕力的には実戦用の剣も振るえるくらいはあるのだが、誰かにあたった時に危ないというのもあって今は練習用の剣を振るっていた。


「……よし、とりあえずこんなところかな」


 ある程度の素振りが終わり、清潔な布で汗を拭いていると、そこに一人の少女が近づいてきて後ろから俺に抱きついてきた。


「お疲れ様です、ユウヤさん。とてもかっこよかったですよ」
「ありがとうな、ネル。この世界に転生してもう十六年くらいになるけど、そろそろ旅立ちの時かな」
「そうですね。この世界において冒険者になるのは基本的に私達の歳になってからですし、見聞を広めるという意味でもいいと思いますよ。それに、この村ではユウヤさんの【魅了】の対象になる人はいませんし、もっとユウヤさんが強くなって他の人も虜にするために旅に出るのはいいと思います」
「そうだな。そしていずれはどこかに居を構えてそこでのんびりと暮らす。そんな人生がいいな」
「前世はそれどころじゃなかったようですしね。もちろん、その時には私もお側にいますからね?」
「うん」


 答えてからネルの額にキスをすると、ネルは照れたように顔を赤くしながら俺に身体を寄せてきた。この世界、ミドガルに転生して早十六年。王都からすれば田舎と言えるこのカイナの村で俺とネルは生を受けて、幼馴染みとして日々を暮らしてきた。

 ミドガルは一般的なファンタジー小説の世界のようにドラゴンやユニコーンといった生物や獣人やエルフといった種族、更にはスライムやゴブリンなどのモンスターも生息していて、勇者や魔王といった存在の話だってよく聞く。そんなテンプレートな異世界だと言えた。

 因みに、ネルと俺は結婚の約束を交わした双方の両親公認の恋人同士であり、この世界でも肌を何度も重ねてきた。ネルは転生前と同じような姿をしているが、俺は前世のような平均的な容姿よりも少し優れた程度の容姿になるようにネルと相談をして転生をして来た。だからかネル以外の異性から恋慕される機会はなく、俺達は他人に煩わされることなく愛を育む事が出来ていた。


「それにしても、ネルの持ってたスキルは本当に便利なものが多いよな。これに助けられた機会は本当に多いよ」
「女神として生まれた時点で護身などのためのスキルを持つようにはなっていますからね。あの時はまだ女神としての任を受けて間もなかったのでスキルを使う機会なんてなかったですが、今はこうしてユウヤさんの助けになっているのが誇らしいです」
「うん、いつも助けられてる。もちろん、ネルにもな」


 俺はネルの頭を撫でる。ネルは一瞬驚いたような顔をしたが、やがて安心したように目を瞑ってから更に俺に身体を寄せてきた。その姿がとても愛おしく、ネルから漂う甘く優しい香りと柔らかな身体の感触に少しずつ俺は欲情し始めていた。


「ネル、あのさ……」
「ふふ、まだ日も高い内ですよ?」
「そうなんだけど、我慢が出来なくなってきて……」
「しょうがない人ですね、ユウヤさんは。でもいいですよ、私もカッコいい姿を見て少しその気に──」


 その時、俺達は何かの気配を感じて近くの森に視線を向けた。気配がした距離はそんなに離れておらず、俺達は頷き合った。


「とりあえず行ってみよう。モンスターの気配と一緒に弱ってる人の気配を感じたから」
「そうですね。ユウヤさんとのイチャイチャがおあずけなのは少し残念ですが、そう言ってる場合でもないですからね」
「だな。よし、行くぞ」
「はい!」


 俺達はスキルの中の【変化メタモル】を使い、モンスターの一種であるシルバーウルフに変化をして、森の中へと走り出した。そして一分と経たずに気配がした場所に着くと、そこにはボロボロの服と首輪をつけた一人の女の子とそれを狙って下卑た笑い方をしている四体ほどのゴブリンの姿があった。


「ゴブリンか……ネル、とりあえずあの子の保護を。俺がゴブリンの相手をするから」
「わかりました。気を付けてくださいね」
「ああ」

  ネルが走り出す中、俺はゴブリンの内の一体に向かって走り、反応する時間も与えずにその喉笛を前足の爪で切り裂いた。切り裂かれた喉からは鮮血が吹き出し、他のゴブリン達は何が起こったのかわからない様子で騒ぎ始めた。


「お前達に特別恨みがあるわけじゃない。けれど、弱ってる人を前にして助けないほど薄情じゃないんでな」
「オマエタチ、ユルサナイ!」
「ナカマ、コロシタ!」
「そうだな。だけど、このまま放置しておくと確実にあの子が酷い目に遭ってたし、村のみんなにも何かしらの被害が出る。申し訳ないけど、このままお前達もやらせてもらう!」


 俺はネルと一緒に身につけたスキルの一つである【身体強化チャージ】を使って身体能力を高めた。そして一体、また一体とその腹や喉笛、頭を引き裂いたり噛み砕いたりして命を奪うと、辺りにはゴブリン達の無残なしかばねが転がった。

 
「こんなもんかな」
「ユウヤさん、お疲れ様です」
「ああ、ありがとう。けど、やっぱり殺すのはやり過ぎかなと少し思ったよ。さっきも言ったように俺達にはコイツらに恨みがあるわけでもないし、コイツらにも住みかや仲間がいるわけだからさ」
「そうですね。ですが、この世界においてゴブリンは比較的獰猛ですし、集団で襲いかかってはその命や荷物を奪う事が多いので村の皆さんの事を考えたら仕方なかったと思います」
「そう考えるのがいいか。さて、まずはその子を連れて村に戻ろう。手当てもしたいし、首輪をつけてる辺り、どこからか逃げてきた奴隷の可能性もあるからな」
「はい」


 ネルが頷いた後、俺達は身を寄せ合って女の子を背中に乗せたままで村に向かって歩き始めた。
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