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校内へ入り、そのまま学長室へ入ると、ブレット学長は椅子に座り、小さく息をついた。
「さてまずは……ティムさん、フランシスさんに言いたい事があったりフランシスさん側がチナさん達に暴言を吐いたりしたのだろうとは思います。
ですが、騒ぎを起こして良いという理由にはなりません。今後はたとえ言われても軽く受け流すくらいで済ませ、後で私に教えてください。よろしいですか?」
「……はい、申し訳ありませんでした。チナ達の事をバカにされて頭に血が上ってしまったとはいえ、流石に考えが足りなかったと私も思います」
「そうですね。ですが、大切な友人や仲間のために怒れるという事は素晴らしい事ですよ」
「え……?」
その言葉に驚きながら顔を上げると、ブレット学長は優しい笑みを浮かべていた。
「対応こそ良くありませんでしたが、ティムさんは大切な人のためにしっかりと怒りを感じ、その人達の事を守ろうとした。それ自体は間違いではありませんよ。なので、今度からは怒りに任せずに冷静な対処をして下さい。
今回は私達が間に合いましたが、少しでも遅れていたら、ティムさんがあのナイフの餌食になり、ティムさんを大切に思っている方々を心配させる事になりますから」
「……そうですね。あ、そういえば……マーシャさん、ナイフの刃を撫でてましたけど、怪我はしてませんか?」
「あの程度の刃で私は傷つかん。だが、気遣いは感謝するぞ。流石は私の生涯の伴侶だ」
「そう、それですよ! 事実ですけど、あんな人前で言われるとやっぱりまだ照れるというか……」
「くくっ……その恋を知ったばかりの童のような顔はやはり面白いな。だが、あの言葉は偽りなどではなく、誇りを持っていった言葉だぞ?」
「え?」
「マーシャさん……」
「お前以上の異性などいないからな。これからも恋人として、そして将来の伴侶としてそばでお前を見守ろう。それが私のやるべき事であり、やりたいことだからな」
微笑みながら言うそのマーシャさんの言葉はとても嬉しく、その多幸感に酔いしれていると、モニカさんは小さく溜め息をついてからマーシャさんに話しかけた。
「マーシャ、それでどうして学校の中から出てきたのよ? あなた、私達が出発した時はやる事があるから先に行けって言って分校に残ってたじゃない」
「私の城と分校の地下室のようにこの学長室と私の部屋もゲートで繋げているからな、それで移動してきたのだ。それで、ティム達や分校の事について話していたのだが、何やら校門の辺りが騒がしいと思って来てみたらお前達があの小娘と騒ぎを起こしていたというわけだ」
「そういう事です。因みに、制服についてはマーシャもたまには着てみたいというのでこの前渡しておいたのです。分校用の制服も用意したいので今の制服の着心地も聞いておきたかったですしね。さて、会場へ向かう前にブレントの件をお話ししましょうか」
ブレット学長は哀しそうな顔をする。
「まず、昨日でブレントは退職となり、昨日の内に荷物はまとめさせましたので今後は本校にいらしても出会うことはないと思います」
「そうですか……」
「まあブレットからすれば辛い判断にはなったけど、それは仕方ないわよ。自分のとこの教員を使って事務員だったティムに危害を加えようとしたんだから」
「そうだな。ブレット、ブレントはこれからどうするのだ?」
「まず実家に帰らせたから、今後は自分の好きなように生きるだろう。考えを改めさせたい気持ちはあるけれど、いつの間にか染み付いていた非冒険者への侮辱や軽視の考えをすぐにどうにか出来るわけはないし、本人も改める気は無さそうだった。だから、もしかしたら冒険者として復帰して、ティムさん達とまた会う事があるかもしれないな。敵意を持った存在として」
それを聞いて俺は少し哀しくなった。ブレント副学長はたしかに嫌な人だったし、グレアムさんのところのギルドとの提携を絶つきっかけにもなった。だけど、冒険者としての実力は父親譲りだったそうだし、その非冒険者に対しての考えを除けばしっかりと仕事にも取り組んでいた人だったから。
「……やっぱりこういうのも仕方ないですけど、哀しいものですね」
「同じ種族でも考えが違う者同士が出会ってしまうの仕方のない事だ。少なくとも、私達とブレントにそこまでの縁がなかった。そう考えるしかないだろう」
「そうですね。さてと、それじゃあそろそろチナとメロディさんの試合が始まる頃だな」
「うん。メロディは強いし、頭がいい。でも、分校のためにチナも頑張る」
「私も本校の名を背負う以上は負けるつもりはありません。チナさん、正々堂々いい勝負をしましょう」
「うん!」
二人はいい笑顔で握手をする。
「敵でありながらも高め合う友。とてもよい関係だと私は思いますよ」
「私も同感。ところで、戦う場所はどこなの?」
「グラウンドだ。そこに特設の観客席などを用意しているから、ティムさんやマーシャはそちらに向かってくれ。私はチナさんとメロディさんを連れて会場へ向かうから」
「わかりました。チナ、今日はルウがライ達と分校で留守番してるけど、みんなにいい報告が出来るように頑張ろうな」
「チナ、頑張る。ティム、マーシャ達と応援してて」
「ああ。よし、それじゃあ皆さん、行きましょうか」
その言葉にマーシャさん達が頷いた後、俺達はチナ達を残して学長室から出てそのままグラウンドに向けて歩き始めた。
「さてまずは……ティムさん、フランシスさんに言いたい事があったりフランシスさん側がチナさん達に暴言を吐いたりしたのだろうとは思います。
ですが、騒ぎを起こして良いという理由にはなりません。今後はたとえ言われても軽く受け流すくらいで済ませ、後で私に教えてください。よろしいですか?」
「……はい、申し訳ありませんでした。チナ達の事をバカにされて頭に血が上ってしまったとはいえ、流石に考えが足りなかったと私も思います」
「そうですね。ですが、大切な友人や仲間のために怒れるという事は素晴らしい事ですよ」
「え……?」
その言葉に驚きながら顔を上げると、ブレット学長は優しい笑みを浮かべていた。
「対応こそ良くありませんでしたが、ティムさんは大切な人のためにしっかりと怒りを感じ、その人達の事を守ろうとした。それ自体は間違いではありませんよ。なので、今度からは怒りに任せずに冷静な対処をして下さい。
今回は私達が間に合いましたが、少しでも遅れていたら、ティムさんがあのナイフの餌食になり、ティムさんを大切に思っている方々を心配させる事になりますから」
「……そうですね。あ、そういえば……マーシャさん、ナイフの刃を撫でてましたけど、怪我はしてませんか?」
「あの程度の刃で私は傷つかん。だが、気遣いは感謝するぞ。流石は私の生涯の伴侶だ」
「そう、それですよ! 事実ですけど、あんな人前で言われるとやっぱりまだ照れるというか……」
「くくっ……その恋を知ったばかりの童のような顔はやはり面白いな。だが、あの言葉は偽りなどではなく、誇りを持っていった言葉だぞ?」
「え?」
「マーシャさん……」
「お前以上の異性などいないからな。これからも恋人として、そして将来の伴侶としてそばでお前を見守ろう。それが私のやるべき事であり、やりたいことだからな」
微笑みながら言うそのマーシャさんの言葉はとても嬉しく、その多幸感に酔いしれていると、モニカさんは小さく溜め息をついてからマーシャさんに話しかけた。
「マーシャ、それでどうして学校の中から出てきたのよ? あなた、私達が出発した時はやる事があるから先に行けって言って分校に残ってたじゃない」
「私の城と分校の地下室のようにこの学長室と私の部屋もゲートで繋げているからな、それで移動してきたのだ。それで、ティム達や分校の事について話していたのだが、何やら校門の辺りが騒がしいと思って来てみたらお前達があの小娘と騒ぎを起こしていたというわけだ」
「そういう事です。因みに、制服についてはマーシャもたまには着てみたいというのでこの前渡しておいたのです。分校用の制服も用意したいので今の制服の着心地も聞いておきたかったですしね。さて、会場へ向かう前にブレントの件をお話ししましょうか」
ブレット学長は哀しそうな顔をする。
「まず、昨日でブレントは退職となり、昨日の内に荷物はまとめさせましたので今後は本校にいらしても出会うことはないと思います」
「そうですか……」
「まあブレットからすれば辛い判断にはなったけど、それは仕方ないわよ。自分のとこの教員を使って事務員だったティムに危害を加えようとしたんだから」
「そうだな。ブレット、ブレントはこれからどうするのだ?」
「まず実家に帰らせたから、今後は自分の好きなように生きるだろう。考えを改めさせたい気持ちはあるけれど、いつの間にか染み付いていた非冒険者への侮辱や軽視の考えをすぐにどうにか出来るわけはないし、本人も改める気は無さそうだった。だから、もしかしたら冒険者として復帰して、ティムさん達とまた会う事があるかもしれないな。敵意を持った存在として」
それを聞いて俺は少し哀しくなった。ブレント副学長はたしかに嫌な人だったし、グレアムさんのところのギルドとの提携を絶つきっかけにもなった。だけど、冒険者としての実力は父親譲りだったそうだし、その非冒険者に対しての考えを除けばしっかりと仕事にも取り組んでいた人だったから。
「……やっぱりこういうのも仕方ないですけど、哀しいものですね」
「同じ種族でも考えが違う者同士が出会ってしまうの仕方のない事だ。少なくとも、私達とブレントにそこまでの縁がなかった。そう考えるしかないだろう」
「そうですね。さてと、それじゃあそろそろチナとメロディさんの試合が始まる頃だな」
「うん。メロディは強いし、頭がいい。でも、分校のためにチナも頑張る」
「私も本校の名を背負う以上は負けるつもりはありません。チナさん、正々堂々いい勝負をしましょう」
「うん!」
二人はいい笑顔で握手をする。
「敵でありながらも高め合う友。とてもよい関係だと私は思いますよ」
「私も同感。ところで、戦う場所はどこなの?」
「グラウンドだ。そこに特設の観客席などを用意しているから、ティムさんやマーシャはそちらに向かってくれ。私はチナさんとメロディさんを連れて会場へ向かうから」
「わかりました。チナ、今日はルウがライ達と分校で留守番してるけど、みんなにいい報告が出来るように頑張ろうな」
「チナ、頑張る。ティム、マーシャ達と応援してて」
「ああ。よし、それじゃあ皆さん、行きましょうか」
その言葉にマーシャさん達が頷いた後、俺達はチナ達を残して学長室から出てそのままグラウンドに向けて歩き始めた。
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