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 翌朝、俺はスライムのライを肩に乗せて分校の廊下を歩いていた。昨晩に誤って木を倒した罰として俺と一緒にライは木や切り株の片付けをしていたが、終わった時には時間もだいぶ遅くなってしまっていた。

 そのため、とりあえず汗を流すために一緒に入浴した後に俺の部屋に泊まってもらう事にして、こうして一緒に朝から行動しているのだ。


「ふあ……やっぱりあの片付けは結構疲れたな。ライ、お前は大丈夫か?」
「うん、僕は大丈夫だよ。でも、ティムはだいぶ眠たそうだね……」
「まだ若いつもりだったんだけどな。やっぱりデスクワークだけじゃなく、運動もした方が良いのかな……」
「それが良いと思うよ。良かったら僕も運動に付き合おうか?」
「ああ、お願いしようかな」
「うん、了解」


 嬉しそうに答えるライに対して俺は微笑む。努力家だけどこれまで努力が実を結ばなかったというライとは異種族同士ではあっても気が合うようで、昨日も寝る直前まで色々な事を楽しく話せていて、出会ってまだ一日しか経っていないにも関わらず俺とライの仲はかなり深まったと自分では思っている。

 もっとも、親友だと思っていた奴からは自分はそう思った事がないと言われた挙げ句、裏ではバカにされていたという出来事があったからか誰かと仲を深めるという事がまだ少し怖いところはある。

 けれど、ライは結構素直な性格のようで、話をしていても嫌な気分にはならないから、まずはリハビリとしてライと仲を深め、その後に他の奴と仲を深めるのが良いのかもしれない。

 そんな事を考えながら歩いて食堂までに来てみると、そこには既に席に座っているマーシャさんとその隣に立ちながら話を聞くバートさんの姿があった。


「マーシャさん、バートさん、おはようございます」
「マーシャ様、バート様、おはようございます」
「……おお、お前達か。おはよう」
「おはようございます。今朝のお目覚めはいかがでしたか?」
「目覚めは良かったんですが、まだちょっと眠たくて……」
「ふむ……昨日は今朝から色々あったからな。とりあえずしっかりと食事をして元気を出しておけ。朝にしっかりと日光を浴びる事や朝食を取る事は健康に良いと言うからな」
「……マーシャさんってだいぶ人間的な生活を気に入ってますよね?」
「否定はせん。性質や体質上、それが出来ぬモンスターもいるが、私は魔王として常にモンスター達の健康を考える事も必要だからな。それと……ライ、お前にはティムのお付きとしての任を命じる。これからは存分にティムのサポートに徹すると良い」
「お付き……ですか?」


 ライが不思議そうにする中でマーシャさんは静かに頷く。


「そうだ。昨夜も感じたが、お前達はだいぶ気が合うようだからな。それと、お付きとは言ったがそれは役職として適切な名前がそれであっただけで、バートのような側近という形ではなく友人としてそばにいてやると良い」
「マーシャ様……はい、畏まりました!」
「後は……ティム、お前の中で目覚めた力だが、ライにアドバイスをして力の強化まで行った点から、バートと話して“コーチング”と呼ぶ事にした」
「コーチング……それが俺の中の力……」
「そうだ。相手に教えを与え、その先へ導く力であるからな。だが、その力の事はあまり他言は出来ないため、普段はテイマーだと名乗ると良い。モンスターであるライを連れている上にお前の名前もテイマーという言葉に近いからな」
「それは良いんですが……俺はテイマーみたいにモンスター達との意志疎通が十分に出来るわけじゃないですよ?」


 テイマーはマーシャさんが言うようにモンスターを連れている人達の事で、話せないモンスターとも意志疎通を取る事が出来る力を持っている事で有名だ。

 だけど、知識はあっても俺にその力があるわけじゃない。そこを突っ込まれたら流石にまずいんじゃないかと思っていると、マーシャさんはクスリと笑った。


「それならばその力も特訓を重ねてつければ良い。お前もライと同じで努力家のようだからな」
「あはは……やっぱりそうなりますよね」
「さて、そろそろ朝食にしよう。話は食べながらでも出来るからな」
「わかりました」


 頷いた後、俺はマーシャさんの向かいに座り、ライはテーブルの上に置いた。そして食事が運ばれてきた後、俺達は昨夜のように『いただきます』を言ってから食べ始め、マーシャさんは咀嚼していた物を飲み込んでから話し始めた。


「では、ティムの今後についての話を始めるか」
「はい」
「ブレットも言っていたが、お前はこれからこの学舎の教員として働く事になり、私は学長となる」
「そうでしたね。でも、バートさんはどういう立場になるんですか?」
「バートには用務員を務めさせる。副学長でもよいのだが、バートは側近でありながらモンスター達を手伝いながら城のあらゆる部分の手入れをしてきたからな。本人からの要望もあったため、用務員の役目を言い渡した」
「つまり、副学長の席はひとまず空のままになるわけですね」
「私としては無くてもいいのだが、いずれはお前にその席を与えてもいいのだぞ? 四天王や側近とはまた別の存在として私の職務を支援してくれるならば私は嬉しいからな」
「あはは……考えておきますね。ところで、他の教師はどうするんですか? 流石に俺一人というわけにはいかないですよね?」
「それについても考えている。そして昨日の内に書簡は出したのでそろそろ来てもおかしくはないのだが……」


 その時、食堂の扉が開いた。俺達がそちらに顔を向けると、そこには黒い甲冑に身を包んだ人物がおり、その人物はマーシャさんの前まで来てから静かにかしづいた。


「マーシャ様、『影騎』のセオドリック・ノードリー、ここに参上いたしました」
「うむ、来てくれて嬉しいぞ。ティム、紹介しよう。こやつは四天王が一人、セオドリック・ノードリーだ。四天王達はそれぞれ能力や戦い方に応じた異名を持っており、セオドリックもまたその例に漏れない」
「騎士のような姿をしていますけど、そこから『影騎』という異名がついたんですか?」
「それだけではないのだが……まあ、それはおいおい知っていけばいい。セオドリック、こやつが書簡にも書いたティムだ。私の魔力を受け取ったのもあるが、私達ですらまだ謎が多いコーチングという能力もある今後に期待が持てる男だぞ?」
「ふむ……」


 セオドリックさんは兜で顔を隠したまま俺に顔を向けてきた。表情がわからないというのが少し怖かったが、漂わせている雰囲気から友好的なのは伝わってきたため、俺は立ち上がってから頭を下げた。


「ティム・チャーチです。試験を合格した上でこの学園で教師を務める予定です。よろしくお願いします」
「セオドリック・ノードリーだ。戦闘は主に長剣によって行うが、特に得意である炎属性の魔法を使うこともある。よろしく頼む」
「セオドリックさんは炎属性の魔法が得意なんですね」
「そうだ。マーシャ様、私もこの学園にて教師を務めるとのことでしたが、その任については快くお引き受けします。私も今はこの世界をただ放浪するだけであったので、またマーシャ様の元でこの力を振るえる事、心から嬉しく思います」
「ああ、頼りにしているぞ。さて、ティムへの試験だが、このセオドリックも加わえて行おう。そしてその試験だが……」

 俺達が喉をゴクリと鳴らす中、マーシャさんは静かに口を開いた。


「かつてこの学舎と提携をしていた冒険者ギルドとの再提携、それがお前に与える指令だ」
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