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49.お礼
しおりを挟む団長室に入ると、団長はディミドラの為に甲斐甲斐しく、もてなしを始めた。ディミドラをソファに座るように促し、紅茶を入れてくれだした。
リンジェーラの事は見えていないのか、ディミドラにかかりきりだ。リンジェーラはまだ、ドアの前に立ったままだというのに・・・。
獣人は皆んな、番にはこんな感じなのだろうかとリンジェーラは立ち尽くしたまま考える。
部屋にはゾディアス様もおり、書類仕事をしていたようで、立ち尽くしているリンジェーラにすぐに気づいて、仕事を中断し出迎えてくれた。
団長が、リンジェーラに対しての気遣いがない事に呆れて来てくれた感じだ。
「すまないな・・・。団長が君を巻きこんだというのに、気遣いもできないとは・・・」
「あれが、番に対するものなら、ゾディアス様も将来ああなってしまうのでは?」
リンジェーラは、ゾディアス様もああなる可能性を揶揄うように聞いてみた。
リンジェーラは、自分がゾディアス様の番とわかっているから参考までにと思ったのだ。
「・・・それは、わからないな。・・・番が存在していて、匂いだけがわかっているだけだしな。番自身を見ないとなんとも言えないな」
匂いだけがわかっていても、その感覚はわからないようだ。
「ただ・・・、自分の番を誰にも渡したくはないという感覚はある。匂いだけでは、団長のような感覚にはなれないな」
実際にゾディアス様の番は目の前にいるのだが、見ただけではわからないみたいで、匂いが一致してはじめて番認定されるようだ。
リンジェーラは、団長がディミドラに構う様子を見ながら、あの側には近寄りたくないなと考える。団長へのお礼ならディミドラを連れてきた時点で達成しているのだろうが、それではディミドラに悪いとも思った。
リンジェーラの視線の先を確信したのか、ゾディアス様は少し離れた別のソファに座るように促してきた。
「団長はあのままが幸せそうだから、放っておいていい」
「まあ、団長の事はいいのですが・・・。デラが、チラチラみてくるのは助けて欲しいのかな・・・と思いまして」
ディミドラは強引な団長には厳しいみたいだが、甲斐甲斐しく世話をされるのは戸惑っているようだ。
「番に尽くしたいと思うのは、獣人なら普通だからな・・・」
ゾディアス様は、なんだか羨ましそうに見ていた。きっと自分の番の事を考えているのだろう・・・けれど、リンジェーラは複雑だった。
ディミドラが戸惑っている間に、団長はそのままディミドラの手を引いて膝に座らせるという行動に出た。さすがにリンジェーラは視線を逸らして、帰りたいと思った。
ゾディアス様も、さすがに団長室で密着する行動にでるとは思わなかったようで、どうしたらいいのかわからない表情をしていた。
「ゾディアス、ちょっと席を外せ・・・俺は休息をとる」
団長がゾディアス様に声をかけてきた。ディミドラは何故か両手で顔を覆い、向かえ合わされている団長の胸にもたれかかっていた。
何か言われたのか、されたのか・・・。ディミドラが発言をしないため、問題ないと思われゾディアス様は団長の指示に従うように、リンジェーラを部屋の外まで誘導した。
部屋の外にでると、ゾディアス様は今から団長はディミドラにお礼として、膝枕をしてもらうらしいと教えてくれた。
ゾディアス様には会話が聞こえていたようで、言葉巧みに団長はディミドラに了承させたようだと言う。
「すまないな。折角来てくれたのに・・・」
「ゾディアス様こそ、まだ仕事中だったのに、追い出されて大変ですね」
団長の自由ぶりに苦労しているだろなと労う。
「まあ、休息後に溜まった書類さえ片付けてくれれば問題はない」
「やらない時は、任せて下さい。もうデラを連れてこないと脅しますから。それよりゾディアス様・・・仕事もできないようですし、持ってきた差し入れがあるのですが、一緒に食べませんか?」
リンジェーラは、ゾディアスにまだ渡せていなかった差し入れを見せて提案してみるのだった。
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