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後日談
後日談:薔薇の役割
しおりを挟む今日リーディアは、娘のシェリーと、シルヴィア様と一緒に、ある伯爵家のバラ園に来ている。バラが見頃になると、毎年庭園を公開されているらしく、シルヴィア様に招待状がきたのだ。
周りのバラが霞む可能性がある、バラの花よりもバラのようなシルヴィア様を誘うとは、余程自信があるのだなとリーディアは思いながらシルヴィア様と歩く。
「可愛い嫁と孫とお出かけだなんて、本当に最高だわ」
シルヴィア様はバラ園の感想よりも、リーディアとシェリーと出かけれる事を喜んでいた。
上機嫌の理由は、ただ一緒出かけるというだけではなく、シルヴィア様がリーディアとシェリーを好きにドレスアップできたから、が大半をしめているのだろう。
「一緒にお出かけするのは、かなり久しぶりですね。けれどシルヴィア様、今日はどうして私達をお誘いになったのですか?」
シルヴィア様はいつも、自分の要望のドレスアップをしたら満足され、一緒に出かける事はされないのにだ。
だからリーディアは、シルヴィア様の行動に何かあるのではと感じた。
「確かに、いつもは夫と来ていたのだけどね。以前来た時喧嘩をうられたのよ。ここの夫人にね」
「伯爵夫人が、シルヴィア様に・・・ですか」
シルヴィア様に喧嘩をうるとは、どういうことかわかっているのだろうか。
「ええ。まあ大半は愛され自慢だったのだけれどね。なのにそのくせ、私の夫に色目を使ってくるし、終始不快だったわ」
ここの伯爵夫人は後妻で、確か伯爵は70代だったはずだ。だからだろうか・・・。
「それは確かに不快ですね」
もしリーディアが同じことをされても、シルヴィア様と同じように不快になるだろう。
「だから今回、夫はお留守番よ。あの人が私一筋なのは勿論知っているけれど、あの人にわざわざ会わせるつもりはないわ」
ならば招待に応じなければよかったのにとは思うが、シルヴィア様のことだから売られた喧嘩はうけようと思われたのだろう。
「それで、代わりに私達をなんですね」
「夫の代わりではあるけれど、私は今回、仕返しにきたのよ」
シルヴィア様はどういうつもりで私達を連れて来たのか、私達がきて、仕返しになるのかリーディアには検討もつかなかった。
「おばあ様は確かにおじい様に愛されてますものね。それは見ていれば誰にでもわかることなのに・・・。喧嘩を売る人がいることに私はびっくりです。そんな事を理解していない人には確かにお仕置きが必要と思います」
シェリーがシルヴィア様の提案にのる発言をした。
最近シェリーは、シルヴィア様に似て来ているとリーディアは思う。だか、シルヴィア様はどう仕返しをする気なのだろうか。
「噂をすれば、夫人が現れたわ」
シルヴィア様が真っ直ぐに視線を向けた先に標的がいた。バラ園に合わせたのかドレスにはバラが描かれている。
リーディアがレティシアの感性でいえば・・・しつこい、だろう。
バラ園に来てバラのドレス・・・。自分がバラだとでもあらわしているつもりだろうか。
「貴方達にもわかるわね。今日このドレスにした意味が」
シルヴィア様はそういうと、夫人のもとに歩き出した。
「あら、シルヴィア様。ようこそお越しくださいました。今日はご主人とは来られませんでしたのね」
夫人はそうそうにシルヴィア様に意味深な言葉をかけてくる。
「ええ、今日は女同士で花を愛でにました。あの人がいたら私ばかり愛でるから・・・バラを満喫できないわ」
シルヴィア様は夫人に自分は愛されていると語る。
「あら、それはいい事ですわ。愛されるのは女の幸せですもの。でもそんな様子はあまり感じなかったので、余計な心配をしてしまっていましたわ。今日お誘いしたのも無意味でしたね」
嘘だと思っているのだろう。誘ったのもシルヴィア様だけでは意味がないという言い回しだろう・・・。
「そんな事は無いわ。こちらのバラ園自体は素晴らしいもの。ぜひ参考にこちら側の話を聞きたいわ。あなたも同席してもらえて?」
シルヴィア様は夫人をのがさないようだ。それにちゃんと嫌味も含めているあたりシルヴィア様らしい。
「・・・構いませんわ。でしたら此方へどうぞ」
顔には無駄な時間は費やしたくないとあらわれていたが、きちんとガーデンテーブルへ案内してくれる。
「貴方達は2人でバラ園をまわってきていいわよ。私は夫人と有意義な時間を過ごすから」
シルヴィア様はリーディア達に気をつかうように言った。だがこれも作戦のうちだ。これは周りにアピールをしてこいという意味だろう。
「わかりました。ではバラを堪能させてもらってきますね」
リーディアはシェリーを連れバラ園を見て回る。招待された人が何人かいるが、あまり若い人達はいなかった。シルヴィア様年代の夫婦とその娘と思わしき人達だらけだ。
リーディアはシルヴィア様の話から、招待された人たちを見て、夫人の思惑が理解できた。どの夫婦も夫婦仲は良いとはいわない人達なのだったから・・・。
「お母様、バラは美しいと思いますが、あまり人はいませんね。それに同じような家族構成の人達ばかりな気がしますし」
シェリーも気づいたようだ。観察眼も育っていて何よりだ。
「恐らく夫人は、次に乗り換える相手でも探しているのでしょう」
「おじい様だけが狙われた訳ではないという事ですね」
「ええそうね。さらには狙われているのは、そこの娘もかもしれないわね」
「え?」
「あそこを見て、恐らく夫人の息子でしょう。挨拶をしてまわっているわ」
リーディアが向けた視線の先には夫人によく似た容姿の息子がいた。おそらくキール達と同じ歳くらいだろう。
リーディア達の視線に気づいたのか、彼はこちらに足速にやってきた。
「ようこそいらっしゃいました。美しいバラ園に美しい女性はとてもよく似合いますね。どうですか、バラを見て楽しんで頂けていますでしょうか」
彼は饒舌なようだ。
「ええ、バラはとても美しいし楽しませてもらっています」
「それは何よりです。そちらの可憐なご令嬢は妹様でしょうか」
彼はこちらをもちあげてくる作戦のようだ。
「この子は私の娘ですわ」
「そうでしたか、失礼致しました。てっきり姉妹かと」
「よく言われますの、気にしないでください」
リーディアを煽てる作戦は通じないと、言われ慣れているとリーディアはいいきった。
「そうでしょうとも、宜しければ私に娘さんを案内させてもらえませんか」
彼は息子と同じ歳だというのに、随分と誘い慣れている。
「申し訳ないけれど、外であれ、娘と男性を2人にはできないのよ。噂が経てば私の夫や、娘を好きな人達がここに乗り込んで来てしまうから。これは貴方のためよ」
「でしたら、2人でいるために役割を頂きたい。こちらから正式な申し込みをしてもよろしいでしょうか」
彼はシェリーの婚約者としての役割がほしいようだ。リーディアが許可したとしても、簡単にはいかない。シリウス様に目をつけられるだけだというのに。
「ふふ、やめておきなさい。怖い父と兄達、この子の王子様に目をつけられるから、必ず後悔するわ」
「・・・・・・」
「貴方は自分に合った令嬢を見つけなさい。この子の王子様は、この子を守ってくれる人でないと・・・それは貴方ではない」
シェリーと結婚する人は大変なのだ。母親のいう事に大人しく従っている彼には荷が重い。これはリーディアなりの忠告だった。
「・・・わかりました。身の丈にあわない事を言いました。残念ですが諦めましょう」
リーディアの言葉の意図が彼に伝わっただろうかはわからないが、面倒ごとは回避したようで、彼はまた次の標的に向かっていった。
「お母様・・・。今のは・・・」
「貴方への求婚よ」
「それはわかりますが、あの・・・私の王子様って」
「あら、それは貴方が1番理解しているでしょ?言葉通りよ」
シェリーは素直になれず自分の王子様を嫌っているように振る舞っているけれど、実は違うのだとリーディアは理解している。
最近は、婚約者候補として皇太子の夜会のパートナーを順番に務めるのだが、シェリーは口では嫌がるのだが、まだまだ表情は隠しきれていないのだった。
「・・・そうですか」
シェリーは恥ずかしそうに頬を染めた。娘の可愛らしさに、リーディアも自然と笑みを浮かべた。
「そろそろ帰りましょう。バラ達よりも目立っているようだから」
シルヴィア様が話を終えたのか、リーディア達の側にやってくる。
「お話はもうよろしいのでしょうか」
「ええ、十分よ。バラよりも貴方達に注目が集まるものだから、あの人の顔は見ものだったわ。自慢のバラ園よりも、私の可憐な薔薇達の方が愛でたくなってしまうのだと言ってあげたわ」
シルヴィア様は夫人へ仕返しをしっかりしてきたようだ。
「ついでにアドバイスもしてあげたわ。薔薇を纏うのは薔薇に埋もれるだけ。薔薇を扱うなら、貴方達をお手本にしなさいとね」
恐らく、夫人の薔薇バラなドレスを意味しての事だろう。
シルヴィア様は満足されたようで美しく微笑まれ、本当に背後に薔薇を飾っているかのように見えるのだった。
そして、その日の事は後に、バラ園に薔薇の女神達が現れたと話題になったのだとか・・・。またその噂を聞いたシリウス様が、何故か大きなバラの花束を抱え、リーディアに迫ってくるという不思議な事がおきるのだが、シリウス様は薔薇の女神をみたいがためにリーディアを薔薇まみれにしたのは内緒である。
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