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第376話 携帯電話会社からの謝罪(1)

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「宜しかったです」
 
 そういえば、携帯電話のことをすっかりと忘れていた。
 いま電話がかかってきて思い出したくらいに。
 
「それは良かったです」
「あの、先日、話をした際には、翌日には来られると聞いていましたが? 俺の勘違いでしたか?」
 
 少なくとも、携帯電話会社アイ・ユーの田中垣という人物と話していた時には、翌日に来るとは聞いていた。
 俺の勘違いで無ければ。
 
「いえ。本当に申し訳ありません」
 
 相手方の、その言葉に俺は自分が勘違いしてはいないと言う事を確信を抱くと同時に、どうして此方へ来られなかったのか? と、いう疑問も同時に湧き上がる。
 顧客との取引において信用というのは重要な問題になるからだ。
 それを約束日に来られないどころか連絡も寄こさず数日が経過してから、ようやく電話をしてくる始末。
 気にならないと言った方が嘘だろう。
 
「謝罪よりも、今頃になって電話をしてきた理由をお伺いしたいのですが?」
「じつは、先日の台風の件で社内がコダついておりまして……」
「それは営業部の仕事ではないですよね? 工事部の仕事とかですよね?」
「はい……それは、そうなのですが……」
 
 どうやら何か事情があるみたいだ。
 だが、下手に事情を隠されると、こちらとしても400万円以上払って携帯電話を購入する事になる。
 そして、利用する為には、毎月の使用料を払う必要も出てくる。
 よって、信用と信頼ができる相手ではないと、俺としても契約は二の足を踏んでしまう。
 
「田中さん。本当のことを言ってください。こちらとしても、まだ契約はしていませんが、台風の件とか、社内のゴタつきなどという理由で煙に巻かれるようでしたら、御社との契約は、出来ないと言わざるを得ません」
「そ、それは!?」
「正当な理由があるのなら話は別ですが、そうでないのなら今回の話は無かったと言う事で――」
「わ、分かりました。じつは、月山様の会社を調べたのです」
「つまり、俺の経営する店舗が400万円もの携帯電話を購入できるほどのお金を持っているとは思わなかったということですか?」
「はい。上司は、悪戯だろうと――」
「つまり上に人間が、俺の店を調べたことで携帯電話を購入する資金がないと判断した事で悪戯だと判断した結果、無断で連絡も入れずに約束を破ったと言う事ですか?」
「そうなります……」
 
 思わず溜息が出る。
 まぁ、たしかに月山雑貨店は、外から見た限りでは400万円ものお金をポンと出せるほどの企業ではないが、それでも無理なら無理だと連絡を入れて欲しかった。
 それが商売をする上での約束事というか信頼と信用というモノではないだろうか?
 少なくとも結城村に引っ越しをしてから、藤和さんや、他の職人さん達と関わってきたが、無言で――、何の連絡もなしに約束を無視したのは初めてだ。
 
「それで、一度は、俺のことを悪戯と決めつけたのに、御社の方から連絡を寄こしてきたのは、どういう風の吹き回しでしょうか?」
「月山雑貨店が、ネット上にアップされている動画で有名だったのを女子社員が知っていまして……それで今日、それが分かりまして……」
 
 ああ、なるほど。
 たしかに、動画サイトではPV数が稼げれば、かなりの収入になるからな。
 それを見越して電話をしてきたってことか。
 ただし、その動画サイトは俺とは関係ないけどな。
 
「犬が出ている動画ですよね?」
「はい。ごもっとも! です」
「なるほど……」
 
 どうやらビンゴらしい。
 まぁ、フーちゃんフィーバーがあったからな……。
 それにしても、、一方的に此方の事情を決めつけて無断で契約の話どころか来訪の事すら、無かったことにするとは、正直言って信用ができないな。
 
「それで、今度、改めてお伺いさせて頂ければと思いまして……」
 
 正直、普通なら断っているところだ。
 何故なら、一方的な思い込みで顧客になる人物を貶めるような行為をしてくるような輩との契約は、良いとは言えないからだ。
 ただし、今回は衛星携帯電話機能が含まれている。
 他の携帯会社でもいいとは思うが、携帯電話会社アイ・ユーが、一番プランとしても機種の金額的にも現実的。
 
「次は無いと思ってください。本来なら、そちらの一方的な思い込みで、こちらに迷惑をかけたのですから、普通だったら断っているところです」
「仰るとおり、ごもっともです」
「――で、何時頃に来られるんですか? 今度は、きちんと来られる日付を言ってください。また来られませんでしたでは困りますから」
「そ、それでは、明日などご都合は如何でしょうか?」
「構いませんが?」
「ありがとうございます。お時間帯は、先日に頂きました午後3時頃と言う事で宜しいでしょうか?」
「そうですね。あと、先日も話をしたと思いますが到着10分前には連絡をください」
「分かりました。それでは、明日の午後3時に必ずお伺いさせて頂きます。この度は、本当にご迷惑をお掛け致しました」
 
 俺は携帯電話の通話を切り――、
 
「まったく」
 
 それだけしか言葉は出なかった。
 
 
 
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