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第369話 簡易郵便局

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「そうですか……。分かりました。それでは、お爺ちゃんに相談してみます」
「村長に?」
 
 村長に話して何か進展するような事はないと思うんだが……。
 
「あの、五郎さんは、以前に結城村には簡易郵便局が存在していたのは知っていますか?」
「そういえば郵便局がありましたね」
「あれって正確に言えば郵便局ではなくて簡易郵便局だったんです」
 
 その話は初耳だ。
 
「五郎さんは、都会に居た期間が長かったとお爺ちゃんから伺いましたから、ご存知では無いと思いますが、基本的に農村地、特に過疎地において簡易郵便局というのは、日本郵政の時代は一般的だったんです。それが、日本郵政が民営化した時に、契約形態が変更になったことで、ATMの設置など水準の高いサービス向上を日本郵政に求められたことで、個人が経営している簡易郵便局は資金難に陥って、契約更新が出来なかったんです。それで、日本各地の僻地に存在していた簡易郵便局は閉鎖しました。あとは、タンス預金による預金減少、それと高齢化に伴う後継者不足など色々とありますが、一番の理由は、資金不足と言ったところです」
「そうですか」
「ただ、結城村の場合には簡易郵便局の閉鎖の理由は、ATMの導入などが出来なかったという理由ですから、主に資金不足が原因です。ですから後継者の方はいたと思いますので、お爺ちゃんに掛け合って見ましょう」
「なるほど……。それにしても雪音さんは良くご存知ですね?」
「郵政民営の時は、今から10年くらい前でしたから。その時は、簡易郵便局の閉鎖を何とか食い止めようとお爺ちゃんと、当時の簡易郵便局の石川さんが話し合っていたのを家で聞いていましたから」
「そういうことですか……」
 
 そりゃ自宅で、そういう話を子供の頃に聞いていれば否応なしに知識になるはずだよな。
 
「はい。ですから、石川さんに話を通してもらえるようにお爺ちゃんに頼めば――」
「でも、俺が小さい時に既におじさんだった記憶が……」
 
 たしか俺が中学生だった時には、40歳過ぎの良い感じのおっさんだった記憶があるぞ?
 もう30年近く経過しているのだから、業務を任せて大丈夫なのかと心配になってしまうが……。
 
「その辺を含めて、お爺ちゃんに話し合いの場をセッティングしてもらうと言うのはどうでしょうか?」
「まぁ、人材が確保できるなら、それに願ったり叶ったりですね」
「分かりました。それでは、明日、お爺さんに連絡してみます」
「お願いします」
 
 
 
 ――そして、翌日。
 
 いつも通り、店を開けてナイルさんと共に店の外を掃除していると――、
 
「五郎さん! お爺ちゃんと連絡がとれました!」
 
 雪音さんが、店先で掃除をしている俺に元気よく話しかけてくる。
 俺は、手にしていた箒を動かすのを止めて雪音さんに近寄る。
 
「――で、どうでしたか?」
「石川さんと連絡を取ってくれました。ただ――」
「ただ?」
「石川さんの年齢ですけど、もう80歳近くらしくて――」
「ですよね……」
 
 俺が中学生時代には、石川のおっさんは既に良い感じの独身のおっさんだったのだ。
 ハッキリ言って、数字を扱う仕事は無理だろう。
 
「それじゃ、残念ですね」
「――いえ。じつは、石川さんのご家族の方でしたら簡易郵便局の局長をしてもいいと――」
「それって、親戚の方とか?」
「いえ。娘さんとのことです」
「娘さん? 石川のおっさんに、娘さんっていましたっけ?」
「少なくとも、俺が知っている限りでは、俺が村から出るまでは天涯孤独の独身男性だったはずだ。つまり――」
「養子をもらったとか?」
「違います。実の子だと――」
「そうですか……」
 
 まぁ、あんまり疑うのも良くはないからな。
 
「それで、その娘さんは郵便局業務に関しては詳しいんですか?」
「地方の郵便局に勤めているそうです」
「それって、郵便局を退職してまで、俺が開設する郵便局に勤めてくれるものなんですか?」
「その辺も含めて、石川さんは五郎さんと話がしたいとのことです」
「なるほど……」
 
 ――と、なると何か問題を抱えているような気がしてならないが……、今現在、郵便局に勤めている人間なら、もしかしたら窓口対応などをしていたら商品の説明なども出来るだろうし、業務に関してもある程度は行えるはず。
 採用するかどうかは別として、話を聞くだけなら悪くはないだろう。
 
「分かりました。それでは、えっと……、何時頃に話し合いをする事になったんですか?」
「今日です。お昼に、お爺ちゃんと石川さんが来るそうです」
「随分と急ですね」
「はい。石川さんとしても、結城村の簡易郵便局を代々引き継いできましたから、無くすのは忍びなかったと以前に、お爺ちゃんと石川さんとの話を立ち聞きした事がありますから」
「それなら、スムーズに話は進みそうですね」
 
 あとは、石川さんが来てからの話し合いの結果次第ということか。
 
「それでは、五郎さんとしても時間は大丈夫ですか?」
「はい。村長にもOKだと伝えてください」
「分かりました」
 
 
 
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