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第324話 鮎の塩焼き

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「そうですか……」
 
 何で何度も不思議そうな顔で聞いてくるのか……。
 もしかして! 俺には隠されている力が! なんてことはないな……。
 母屋にメディーナさんと戻ったあとは、居間へと通じる縁側の前で座り、縁側の下から木炭の入った箱を取り出す。
 
「ゴロウ様、それは?」
「ああ。これは木炭です」
 
 木炭の状況を確認し、普通に使えることを確認する。
 
「メディーナさん」
「はい」
「母屋に戻って来たばかりで申し訳ありませんが、人間の握りこぶしくらいの大きさの石を30個ほど、河原から持ってきてもらえますか?」
 
 俺の言葉に首を傾げるメディーナさん。
 
「それは何使うのですか?」
「この魚を料理する為に使いますので、お願いできますか?」
「なるほど……、分かりました」
 
 戸惑った表情から一偏して頷いたメディーナさんは母屋から出て川の方へと走っていく。
 俺は、縁側から居間に上がったあと台所へと行き、袋状にしていた上着の中から鮎を獲り出す。
 そして鮎の鱗を包丁でとり、糞を手で絞りだしたあと、以前に河原でキャンプをした時に余った串に鮎を刺したあと、塩を振り、尾とヒレには飾り塩を行っていく。
 20匹の下処理が終わったところで、皿の上に鮎の載せて居間から縁側へと出る。
 
「ゴロウ様。用意しておきました」
 
 縁側から降りた地面には、円状に小石が並べられていて――、中央には木炭が置かれている。
 
「ルイズ辺境伯領でも、よくある事なんですか?」
「はい。川の魚を獲って、その場で食べるのは冒険者ではよくありますから」
「なるほど……」
 
 俺は木炭にライターで火をつけていく。
 その間にメディーナさんが、円形状に並べた石の軽く立て掛けるようにして鮎が突き刺さっている串を地面へと刺していく。
 ようやく木炭に火が付いたところで、すでに鮎は木炭を中心に並べられていた。
 
「ゴロウ様。あとは焼けるのを待つだけですね」
「そうですね」
 
 俺は頷く。
 それにしても、鮎の塩焼きか……。
 昔は、よく食べていたな。
 しばらく縁側に座り、鮎が焼けるのを待っていると――、
 
「五郎さん、おはようございます」
 
 雪音さんが居間に入ってくると挨拶をしてきた。
 
「あ、雪音さん。おはようございます」
「奥方様、おはようございます」
「メディーナさんもおはようございます。それにしても、お二人共、お早いですね。何かされていたのですか?」
 
 雪音さんが、問いかけてくる。
 そして雪音さんが縁側まで来たところで足を止める。
 
「これって、もしかして……鮎の塩焼きですか?」
「はい」
「うわー、懐かしいですね。もう下ごしらえは終えて焼いているのですか?」
「そうですね。鮎の塩焼きは、よく作っていたので」
「そうなのですね。それにしても、すごい量を獲ってきましたね」
「そのへんは得意なので――」
「もしかして五郎さんが?」
「はい」
「奥方様、ゴロウ様は素手で鮎を獲られていたのですよ」
「まぁ……、すごいですね。それでは、私は着替えてきますね」
 
 雪音さんは、何があったのかと思って桜の部屋から直行してきたのだろう。
 服装は、パジャマのままだった。
 すぐに桜の部屋がある方へと戻っていくと――、しばらくして、普段着に着替えて戻ってきた。
 
「それでは、五郎さん。私はお味噌汁とご飯の用意をしますね。オカズは期待しています!」
「任せてください!」
 
 鮎が焼ける匂いが漂ってきたところで――、
 
「いい匂いがするの!」
「わんっ!」
 
 桜が起きてきた。
 
「おじちゃん! あれって何!?」
 
 目を輝かせながら、聞いてくる姪っ子の桜。
 
「これは、鮎の塩焼きって料理だ」
「鮎……、塩焼き……、こんな料理見たこと無いの!」
「そうかそうか。桜は見た事がなかったか」
「うん! でも、いい匂いするの!」
 
 元気よく答えてくる桜のお腹からくーっという音が聞こえてくる。
 
「フーちゃん! お腹! 空いたって!」
 
 どう見ても桜のお腹から聞こえてきたが、まぁ、そこは突っ込まないようにしておこう。
 それにしても、フーちゃんは、珍しく鮎の塩焼きをガン見している。
 まるで! 自分が、食べられるとでも思っているかのようだ!
 だが、悪いな、フーちゃん。
 犬に鮎の塩焼きは塩分が強すぎるんだよ……。
 
「五郎さん、ご飯と漬物とお味噌汁の用意が出来ました」
「こっちもそろそろ出来上がりですね」
「それでは人数分のお皿を持ってきますね」
 
 雪音さんが持ってきてくれたお皿をメディーナさんが受け取る。
 そして、俺は木炭で焼けた鮎の塩焼きを、メディーナさんが渡してくるお皿の上に乗せていく。
 そして最後の4本となったところで俺が受け取ったお皿は、フーちゃんお皿。
 
「雪音さん、犬には塩分は駄目なのでは?」
「鮎の塩焼きでしたら塩を叩けば大丈夫ですよ? それに、犬にも適度な塩は必要ですから」
「そうなんですか」
「わんっ!」
 
 何故か雪音さんの説明に得意げな表情のフーちゃん。
 なんだが癪だが、フーちゃんだけ、ドックフードという訳にもいかない。
 俺はフーちゃんのお皿に鮎の塩焼きを乗せていく。
 もちろん余分な塩を払うことも忘れない。 
 
 
 
 
 
 
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