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第319話 噂で地価が下がる時もある(3)
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「何が起きるか分からないって――」
「これから、結城村を発展させていく上で、反対派に回る方が出てくる可能性があるという事です。そう言った場合、扇動されてしまいますと、行政的にも関与しずらい部分ですから、村の発展にブレーキがかかる可能性があるという事です。そういう方に限って村よりも自分の利益の為に動きますから。――ですから、出て行かれる方には、早めに出て行ってもらった方がいいかと思います。実際、日本の市町村の発展を阻害されている要因は、そういう方が政治的活動をしている方のせいというのが大部分ですから」
「……つまり、結城村に不利な情報が流れても、村を捨てずに居る人間は信用が出来るという事ですか?」
「はい。困った時に逃げるような方は信用できないでしょう?」
バッサリと切って捨ててくる藤和さんの言葉に、少し違和感を覚えながらも、心当たりがなくもない自分に苦笑してしまう。
「分かりました。それでは猟友会の人と話をして対応を検討してみます」
「こちらも広告代理店には知り合いもいますし、例のフーちゃんの動画を無料配信した地元のテレビ局も居ますから、色々と考えていきましょう」
「そうですね」
「あとは、先ほどの胡椒の件ですが、今日明日中にはお届けに参ります」
「あ、それはお願いします。辺境伯に納入しないといけないので」
「畏まりました」
電話を切ったところで――、
「五郎さん、大丈夫ですか?」
横で俺と藤和さんとの会話を聞いていた雪音さんが心配そうな表情で、俺に尋ねてくる。
「大丈夫です」
「五郎さんの話しぶりからして、大丈夫そうには聞こえませんでしたけど?」
「雪音さん」
「はい」
「雪音さんは、俺が今、結城村の土地を今後の結城村の発展のために買い占めている事は知っていますよね?」
「知っていますけど……。あ――。もしかして土地を安く買い叩く為に、村にとって悪い噂を流すようにという話を藤和さんが提案してきたという事ですか?」
俺は静かに頷く。
そんな俺を見た雪音さんが、困ったような表情をする。
費用対効果から見て、雪音さんだったら、すぐに賛成に回ると思っていただけに少し驚いた。
「どうかしましたか?」
「いえ。雪音さんなら――」
「私なら、効率を重視すると思われましたか?」
「そんなことはないですとは……、いつも雪音さんは冷静にアドバイスしてくれていたので」
「たしかに、私も昔はそうだったかも知れません。――でも、自分が切り捨てられる側に落ちた時、色々と考えました。五郎さんも同じなのですよね?」
俺は頭を掻きながら頷く。
たしかに藤和さんの提案は合理的であり、効率的だ。
だが、自分が生まれて育ってきた町の悪評を自分自身で広めるのは、安く土地を買収できる可能性が作れるとしてでも間違っていると思う。
それに何より、一緒に暮らしている結城村の住人を選別するのは、俺としてはやりたくない。
たしかに、ルイズ辺境伯領の領主になるのなら、その決断は必要なのかも知れない。
それでも――、それでもだ。
俺は、そう言った選択は極力取りたくない。
「そうですね。雪音さんに言われて俺は、決心しました。自分の村の悪評を流すことはなく何とか対処してみます」
「それがいいですね」
藤和さんには悪いが、今回の藤和さんの案には乗れない。
一度は、受け入れてしまったが、藤和さんには断りの連絡を入れておこう。
すぐに藤和さんの携帯電話に連絡を入れる。
「はい。藤和です」
「藤和さん、先ほどの件ですが――」
「……出来ないということですか」
此方の声色から察したのだろう。
藤和さんの方から話しを振ってきた。
それに対して俺も、
「はい。自分の住んでいる村の悪評を流してまで安く、安全に土地を手に入れることには同意できませんから」
「そうですか。私としては、効率のいい方法を提案しただけですから断って頂いて構いません。何故なら、そこに住んでいるのは月山様であり、私ではありませんから。それでは、私の方としては今回の熊の件についてはノータッチで行きます」
「申し訳ない」
「いえ。こちらも、月山様の心情を鑑みて提案出来なかったことは営業マンとしては未熟だと思っておりますので、お気になさらないでください。それでは、また何かありましたら、ご連絡ください」
会話を終えて電話を切る。
そして、俺は深く溜息をついた。
「どうでしたか?」
「藤和さんは、何とも思っていなかったようです」
「そうですか……。もしかしたら、五郎さんが断るのを最初から知っていたかも知れないですね」
雪音さんの言葉に、俺はハッ! とする。
もしかしたら、藤和さんに俺は試されていたのではないのかと。
――いや、考え過ぎか?
だが、ノーマン辺境伯も、俺が跡を継ぐという話をしてから、俺のことを試すようなことをしてきているし……。
「なるほど。色々と面倒なことになりそうですね」
一人になってから漫然と生きてきたツケが、いまさら俺に降りかかってきたようだ。
「これから、結城村を発展させていく上で、反対派に回る方が出てくる可能性があるという事です。そう言った場合、扇動されてしまいますと、行政的にも関与しずらい部分ですから、村の発展にブレーキがかかる可能性があるという事です。そういう方に限って村よりも自分の利益の為に動きますから。――ですから、出て行かれる方には、早めに出て行ってもらった方がいいかと思います。実際、日本の市町村の発展を阻害されている要因は、そういう方が政治的活動をしている方のせいというのが大部分ですから」
「……つまり、結城村に不利な情報が流れても、村を捨てずに居る人間は信用が出来るという事ですか?」
「はい。困った時に逃げるような方は信用できないでしょう?」
バッサリと切って捨ててくる藤和さんの言葉に、少し違和感を覚えながらも、心当たりがなくもない自分に苦笑してしまう。
「分かりました。それでは猟友会の人と話をして対応を検討してみます」
「こちらも広告代理店には知り合いもいますし、例のフーちゃんの動画を無料配信した地元のテレビ局も居ますから、色々と考えていきましょう」
「そうですね」
「あとは、先ほどの胡椒の件ですが、今日明日中にはお届けに参ります」
「あ、それはお願いします。辺境伯に納入しないといけないので」
「畏まりました」
電話を切ったところで――、
「五郎さん、大丈夫ですか?」
横で俺と藤和さんとの会話を聞いていた雪音さんが心配そうな表情で、俺に尋ねてくる。
「大丈夫です」
「五郎さんの話しぶりからして、大丈夫そうには聞こえませんでしたけど?」
「雪音さん」
「はい」
「雪音さんは、俺が今、結城村の土地を今後の結城村の発展のために買い占めている事は知っていますよね?」
「知っていますけど……。あ――。もしかして土地を安く買い叩く為に、村にとって悪い噂を流すようにという話を藤和さんが提案してきたという事ですか?」
俺は静かに頷く。
そんな俺を見た雪音さんが、困ったような表情をする。
費用対効果から見て、雪音さんだったら、すぐに賛成に回ると思っていただけに少し驚いた。
「どうかしましたか?」
「いえ。雪音さんなら――」
「私なら、効率を重視すると思われましたか?」
「そんなことはないですとは……、いつも雪音さんは冷静にアドバイスしてくれていたので」
「たしかに、私も昔はそうだったかも知れません。――でも、自分が切り捨てられる側に落ちた時、色々と考えました。五郎さんも同じなのですよね?」
俺は頭を掻きながら頷く。
たしかに藤和さんの提案は合理的であり、効率的だ。
だが、自分が生まれて育ってきた町の悪評を自分自身で広めるのは、安く土地を買収できる可能性が作れるとしてでも間違っていると思う。
それに何より、一緒に暮らしている結城村の住人を選別するのは、俺としてはやりたくない。
たしかに、ルイズ辺境伯領の領主になるのなら、その決断は必要なのかも知れない。
それでも――、それでもだ。
俺は、そう言った選択は極力取りたくない。
「そうですね。雪音さんに言われて俺は、決心しました。自分の村の悪評を流すことはなく何とか対処してみます」
「それがいいですね」
藤和さんには悪いが、今回の藤和さんの案には乗れない。
一度は、受け入れてしまったが、藤和さんには断りの連絡を入れておこう。
すぐに藤和さんの携帯電話に連絡を入れる。
「はい。藤和です」
「藤和さん、先ほどの件ですが――」
「……出来ないということですか」
此方の声色から察したのだろう。
藤和さんの方から話しを振ってきた。
それに対して俺も、
「はい。自分の住んでいる村の悪評を流してまで安く、安全に土地を手に入れることには同意できませんから」
「そうですか。私としては、効率のいい方法を提案しただけですから断って頂いて構いません。何故なら、そこに住んでいるのは月山様であり、私ではありませんから。それでは、私の方としては今回の熊の件についてはノータッチで行きます」
「申し訳ない」
「いえ。こちらも、月山様の心情を鑑みて提案出来なかったことは営業マンとしては未熟だと思っておりますので、お気になさらないでください。それでは、また何かありましたら、ご連絡ください」
会話を終えて電話を切る。
そして、俺は深く溜息をついた。
「どうでしたか?」
「藤和さんは、何とも思っていなかったようです」
「そうですか……。もしかしたら、五郎さんが断るのを最初から知っていたかも知れないですね」
雪音さんの言葉に、俺はハッ! とする。
もしかしたら、藤和さんに俺は試されていたのではないのかと。
――いや、考え過ぎか?
だが、ノーマン辺境伯も、俺が跡を継ぐという話をしてから、俺のことを試すようなことをしてきているし……。
「なるほど。色々と面倒なことになりそうですね」
一人になってから漫然と生きてきたツケが、いまさら俺に降りかかってきたようだ。
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