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第280話 辺境伯との会話(4)
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「うむ。それでは――」
辺境伯が、テーブルの上に置かれていたベルを鳴らす。
部屋に入ってきたのは執事の服を着た老紳士。
年齢としては50歳後半と言ったところで――、老紳士は流れるような恰好で頭を下げてくる。
「ゴロウ。この者は、セルジッドと言う。ルイズ辺境伯邸内を取り仕切っておる」
「お初にお目にかかります。ルイズ辺境伯邸内を取り仕切らせて頂いております家令のセルジッド・フォン・ビスマルクと申します。以後、お見知りおきを――。それよりも、ノーマン様、私をお呼びになられたということは――」
「うむ。これが、儂の孫であり、ゲシュペンストの息子だ。将来は、我がルイズ辺境伯領を儂に代わって治めることになる」
「それは、目出度いですね。それでは、寄り子にも通達を出しておきます」
「うむ。急ぐようにの」
「分かりました。それでは、失礼します」
頭を下げて執務室から出ていくセルジッドさん。
「辺境伯様」
「どうした? ゴロウ。いや――、ごほん。ゴロウ」
「はい?」
「今度からは、様付けをする必要はない。少なくとも、儂は、ゴロウ、お主の祖父であるからな。今度からお爺様と呼ぶとよい」
「――いえ。辺境伯様の方が慣れていますので」
「……そ、そうか……」
若干、落ち込んだ様子を見せる辺境伯。
「あの、それよりも寄り子というのは、辺境伯様を寄り親とした場合の、その傘下の貴族ですよね?」
「そうなるのう。一応、顔合わせというのは事前に必要となる。なるべく早めに此方も段取りを取るから、そのつもりでな」
「分かりました」
つまり、後継者として認められる為に、傘下の貴族との顔合わせをしろって事だよな?
そうすると立ち振る舞いとかも求められるってことか。
「――ところでゴロウ」
「はい?」
「お主は、踊れるのかの?」
「まぁ、普通には――」
一応、若い時は世界中を回って仕事をしていたから、何度もパーティに誘われた事があるから、人並みに踊ることは出来る。
「ふむ……」
「ただ、こちらの世界の踊りと同じかは分かりませんから……」
「なるほど……、それではルイーズ王女殿下とエメラス侯爵令嬢から手ほどきを受けるとよかろう」
たしかに、日本に戻れば王族と侯爵家の御令嬢がいるのだから、踊りや立ち振る舞いを教わるのもありだな。
「分かりました。それで、具体的な日程などは……」
「大体、一ヵ月ほどと見ておけばよい。次の塩の搬入日前後で、このルイズ辺境伯が主催のパーティを行う。その時に、参加してくれ」
「では、塩の搬入前後は毎日のように顔を出した方がいいですね」
「うむ。店の前を警護している兵士に伝えておこう」
「ありがとうございます」
俺は頭を下げる。
「よい。――では、ゴロウ。期待しておるぞ?」
その言葉に俺は頷いた。
――辺境伯邸を出て、10分ほど。
現在、俺はメディーナさんとナイルさんと共に馬車の中に座っていた。
馬車は、煉瓦道の上をガタゴトと揺れながら走る。
馬車の外を、俺はずっと見ながら、寄り子となる貴族達との会話や対応を考えていると――、
「ゴロウ様」
――と、俺の名前をナイルさんが呼んできた。
「はい?」
いきなりの事に少し驚きながらも、俺は視線をナイルさんとメディーナさんに向ける。
「どうやら、話は上手くいったようですね」
そのナイルさんの言葉に俺は頷くが、メディーナさんは首を傾げた。
「副隊長、話というのは?」
「ゴロウ様が、将来、ルイズ辺境伯領の領主となられるということです」
「――え!? ――と、ということは……。ゴロウ様は、ノーマン様の後継者ということに?」
「そうですね。――ですが、メディーナ」
「はい。副隊長」
「この話は、まだ外部に知られてはいけません。内密に――」
「分かっています」
「それと、これまで以上に、ゴロウ様の護衛は怠らないように――」
「はい!」
真剣な目で返事をしたメディーナさん。
「それとゴロウ様。ルイズ辺境伯領内の軍事に関しまして、ゴロウ様の領地に戻ったあと、説明させて頂きます」
「お願いします」
それにしても軍事関係の話か。
俺というか日本人には、馴染みの無い話だよな。
だが、異世界は魔物などがいる世界。
軍事関係を知らないで領主になった時に役職が務まるわけがない。
「スパルタでお願いします」
「お任せください! アロイス様からも命令を受けておりますので」
「そ、そうですか……」
店の前に到着したあとは、ナイルさんが他の店を警備している兵士達に命令を下している間に、俺はメディーナさんと共に店の中へと入る。
店の中には入口付近に、1万円札が入っているアタッシュケースが二つ置かれていた。
ナイルさんの指示どおり兵士が運んでくれたのだろう。
「ゴロウ様。こちらのアタッシュケースは?」
「アタッシュケースは、バックヤードへ移動しておいてください。手を繋いだまま、アタッシュケースを持ってバックヤード側の扉から出るのは難しいので、すぐには分からない場所に置いておきましょう」
「分かりました」
辺境伯が、テーブルの上に置かれていたベルを鳴らす。
部屋に入ってきたのは執事の服を着た老紳士。
年齢としては50歳後半と言ったところで――、老紳士は流れるような恰好で頭を下げてくる。
「ゴロウ。この者は、セルジッドと言う。ルイズ辺境伯邸内を取り仕切っておる」
「お初にお目にかかります。ルイズ辺境伯邸内を取り仕切らせて頂いております家令のセルジッド・フォン・ビスマルクと申します。以後、お見知りおきを――。それよりも、ノーマン様、私をお呼びになられたということは――」
「うむ。これが、儂の孫であり、ゲシュペンストの息子だ。将来は、我がルイズ辺境伯領を儂に代わって治めることになる」
「それは、目出度いですね。それでは、寄り子にも通達を出しておきます」
「うむ。急ぐようにの」
「分かりました。それでは、失礼します」
頭を下げて執務室から出ていくセルジッドさん。
「辺境伯様」
「どうした? ゴロウ。いや――、ごほん。ゴロウ」
「はい?」
「今度からは、様付けをする必要はない。少なくとも、儂は、ゴロウ、お主の祖父であるからな。今度からお爺様と呼ぶとよい」
「――いえ。辺境伯様の方が慣れていますので」
「……そ、そうか……」
若干、落ち込んだ様子を見せる辺境伯。
「あの、それよりも寄り子というのは、辺境伯様を寄り親とした場合の、その傘下の貴族ですよね?」
「そうなるのう。一応、顔合わせというのは事前に必要となる。なるべく早めに此方も段取りを取るから、そのつもりでな」
「分かりました」
つまり、後継者として認められる為に、傘下の貴族との顔合わせをしろって事だよな?
そうすると立ち振る舞いとかも求められるってことか。
「――ところでゴロウ」
「はい?」
「お主は、踊れるのかの?」
「まぁ、普通には――」
一応、若い時は世界中を回って仕事をしていたから、何度もパーティに誘われた事があるから、人並みに踊ることは出来る。
「ふむ……」
「ただ、こちらの世界の踊りと同じかは分かりませんから……」
「なるほど……、それではルイーズ王女殿下とエメラス侯爵令嬢から手ほどきを受けるとよかろう」
たしかに、日本に戻れば王族と侯爵家の御令嬢がいるのだから、踊りや立ち振る舞いを教わるのもありだな。
「分かりました。それで、具体的な日程などは……」
「大体、一ヵ月ほどと見ておけばよい。次の塩の搬入日前後で、このルイズ辺境伯が主催のパーティを行う。その時に、参加してくれ」
「では、塩の搬入前後は毎日のように顔を出した方がいいですね」
「うむ。店の前を警護している兵士に伝えておこう」
「ありがとうございます」
俺は頭を下げる。
「よい。――では、ゴロウ。期待しておるぞ?」
その言葉に俺は頷いた。
――辺境伯邸を出て、10分ほど。
現在、俺はメディーナさんとナイルさんと共に馬車の中に座っていた。
馬車は、煉瓦道の上をガタゴトと揺れながら走る。
馬車の外を、俺はずっと見ながら、寄り子となる貴族達との会話や対応を考えていると――、
「ゴロウ様」
――と、俺の名前をナイルさんが呼んできた。
「はい?」
いきなりの事に少し驚きながらも、俺は視線をナイルさんとメディーナさんに向ける。
「どうやら、話は上手くいったようですね」
そのナイルさんの言葉に俺は頷くが、メディーナさんは首を傾げた。
「副隊長、話というのは?」
「ゴロウ様が、将来、ルイズ辺境伯領の領主となられるということです」
「――え!? ――と、ということは……。ゴロウ様は、ノーマン様の後継者ということに?」
「そうですね。――ですが、メディーナ」
「はい。副隊長」
「この話は、まだ外部に知られてはいけません。内密に――」
「分かっています」
「それと、これまで以上に、ゴロウ様の護衛は怠らないように――」
「はい!」
真剣な目で返事をしたメディーナさん。
「それとゴロウ様。ルイズ辺境伯領内の軍事に関しまして、ゴロウ様の領地に戻ったあと、説明させて頂きます」
「お願いします」
それにしても軍事関係の話か。
俺というか日本人には、馴染みの無い話だよな。
だが、異世界は魔物などがいる世界。
軍事関係を知らないで領主になった時に役職が務まるわけがない。
「スパルタでお願いします」
「お任せください! アロイス様からも命令を受けておりますので」
「そ、そうですか……」
店の前に到着したあとは、ナイルさんが他の店を警備している兵士達に命令を下している間に、俺はメディーナさんと共に店の中へと入る。
店の中には入口付近に、1万円札が入っているアタッシュケースが二つ置かれていた。
ナイルさんの指示どおり兵士が運んでくれたのだろう。
「ゴロウ様。こちらのアタッシュケースは?」
「アタッシュケースは、バックヤードへ移動しておいてください。手を繋いだまま、アタッシュケースを持ってバックヤード側の扉から出るのは難しいので、すぐには分からない場所に置いておきましょう」
「分かりました」
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