上 下
280 / 437

第280話 辺境伯との会話(4)

しおりを挟む
「うむ。それでは――」
 
 辺境伯が、テーブルの上に置かれていたベルを鳴らす。
 部屋に入ってきたのは執事の服を着た老紳士。
 年齢としては50歳後半と言ったところで――、老紳士は流れるような恰好で頭を下げてくる。
 
「ゴロウ。この者は、セルジッドと言う。ルイズ辺境伯邸内を取り仕切っておる」
「お初にお目にかかります。ルイズ辺境伯邸内を取り仕切らせて頂いております家令のセルジッド・フォン・ビスマルクと申します。以後、お見知りおきを――。それよりも、ノーマン様、私をお呼びになられたということは――」
「うむ。これが、儂の孫であり、ゲシュペンストの息子だ。将来は、我がルイズ辺境伯領を儂に代わって治めることになる」
「それは、目出度いですね。それでは、寄り子にも通達を出しておきます」
「うむ。急ぐようにの」
「分かりました。それでは、失礼します」
 
 頭を下げて執務室から出ていくセルジッドさん。
 
「辺境伯様」
「どうした? ゴロウ。いや――、ごほん。ゴロウ」
「はい?」
「今度からは、様付けをする必要はない。少なくとも、儂は、ゴロウ、お主の祖父であるからな。今度からお爺様と呼ぶとよい」
「――いえ。辺境伯様の方が慣れていますので」
「……そ、そうか……」
 
 若干、落ち込んだ様子を見せる辺境伯。
 
「あの、それよりも寄り子というのは、辺境伯様を寄り親とした場合の、その傘下の貴族ですよね?」
「そうなるのう。一応、顔合わせというのは事前に必要となる。なるべく早めに此方も段取りを取るから、そのつもりでな」
「分かりました」
 
 つまり、後継者として認められる為に、傘下の貴族との顔合わせをしろって事だよな?
 そうすると立ち振る舞いとかも求められるってことか。
 
「――ところでゴロウ」
「はい?」
「お主は、踊れるのかの?」
「まぁ、普通には――」
 
 一応、若い時は世界中を回って仕事をしていたから、何度もパーティに誘われた事があるから、人並みに踊ることは出来る。
 
「ふむ……」
「ただ、こちらの世界の踊りと同じかは分かりませんから……」
「なるほど……、それではルイーズ王女殿下とエメラス侯爵令嬢から手ほどきを受けるとよかろう」
 
 たしかに、日本に戻れば王族と侯爵家の御令嬢がいるのだから、踊りや立ち振る舞いを教わるのもありだな。
 
「分かりました。それで、具体的な日程などは……」
「大体、一ヵ月ほどと見ておけばよい。次の塩の搬入日前後で、このルイズ辺境伯が主催のパーティを行う。その時に、参加してくれ」
「では、塩の搬入前後は毎日のように顔を出した方がいいですね」
「うむ。店の前を警護している兵士に伝えておこう」
「ありがとうございます」
 
 俺は頭を下げる。
 
「よい。――では、ゴロウ。期待しておるぞ?」
 
 その言葉に俺は頷いた。
 
 
 
 ――辺境伯邸を出て、10分ほど。
 
 現在、俺はメディーナさんとナイルさんと共に馬車の中に座っていた。
 馬車は、煉瓦道の上をガタゴトと揺れながら走る。
 馬車の外を、俺はずっと見ながら、寄り子となる貴族達との会話や対応を考えていると――、
 
「ゴロウ様」
 
――と、俺の名前をナイルさんが呼んできた。
 
「はい?」
 
 いきなりの事に少し驚きながらも、俺は視線をナイルさんとメディーナさんに向ける。
 
「どうやら、話は上手くいったようですね」
 
 そのナイルさんの言葉に俺は頷くが、メディーナさんは首を傾げた。
 
「副隊長、話というのは?」
「ゴロウ様が、将来、ルイズ辺境伯領の領主となられるということです」
「――え!? ――と、ということは……。ゴロウ様は、ノーマン様の後継者ということに?」
「そうですね。――ですが、メディーナ」
「はい。副隊長」
「この話は、まだ外部に知られてはいけません。内密に――」
「分かっています」
「それと、これまで以上に、ゴロウ様の護衛は怠らないように――」
「はい!」
 
 真剣な目で返事をしたメディーナさん。
 
「それとゴロウ様。ルイズ辺境伯領内の軍事に関しまして、ゴロウ様の領地に戻ったあと、説明させて頂きます」
「お願いします」
 
 それにしても軍事関係の話か。
 俺というか日本人には、馴染みの無い話だよな。
 だが、異世界は魔物などがいる世界。
 軍事関係を知らないで領主になった時に役職が務まるわけがない。
 
「スパルタでお願いします」
「お任せください! アロイス様からも命令を受けておりますので」
「そ、そうですか……」
 
 
 
 店の前に到着したあとは、ナイルさんが他の店を警備している兵士達に命令を下している間に、俺はメディーナさんと共に店の中へと入る。
 店の中には入口付近に、1万円札が入っているアタッシュケースが二つ置かれていた。
 ナイルさんの指示どおり兵士が運んでくれたのだろう。
 
「ゴロウ様。こちらのアタッシュケースは?」
「アタッシュケースは、バックヤードへ移動しておいてください。手を繋いだまま、アタッシュケースを持ってバックヤード側の扉から出るのは難しいので、すぐには分からない場所に置いておきましょう」
「分かりました」
 
 
 
 
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【異世界ショップ】無双 ~廃絶直前の貴族からの成り上がり~

クロン
ファンタジー
転生したら貴族の長男だった。 ラッキーと思いきや、未開地の領地で貧乏生活。 下手すれば飢死するレベル……毎日食べることすら危ういほどだ。 幸いにも転生特典で地球の物を手に入れる力を得ているので、何とかするしかない! 「大変です! 魔物が大暴れしています! 兵士では歯が立ちません!」 「兵士の武器の質を向上させる!」 「まだ勝てません!」 「ならば兵士に薬物投与するしか」 「いけません! 他の案を!」 くっ、貴族には制約が多すぎる! 貴族の制約に縛られ悪戦苦闘しつつ、領地を開発していくのだ! 「薬物投与は貴族関係なく、人道的にどうかと思います」 「勝てば正義。死ななきゃ安い」 これは地球の物を駆使して、領内を発展させる物語である。

幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は幼馴染達より強いジョブを手に入れて無双する!

アノマロカリス
ファンタジー
よくある話の異世界召喚。 ネット小説やファンタジー小説が好きな少年、洲河 慱(すが だん)。 いつもの様に幼馴染達と学校帰りに雑談をしていると突然魔法陣が現れて光に包まれて… 幼馴染達と一緒に救世主召喚でテルシア王国に召喚され、幼馴染達は【勇者】【賢者】【剣聖】【聖女】という素晴らしいジョブを手に入れたけど、僕はそれ以上のジョブと多彩なスキルを手に入れた。 王宮からは、過去の勇者パーティと同じジョブを持つ幼馴染達が世界を救うのが掟と言われた。 なら僕は、夢にまで見たこの異世界で好きに生きる事を選び、幼馴染達とは別に行動する事に決めた。 自分のジョブとスキルを駆使して無双する、魔物と魔法が存在する異世界ファンタジー。 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕の授かったスキルは役に立つ物なのかな?」で、慱が本来の力を手に入れた場合のもう1つのパラレルストーリー。 11月14日にHOT男性向け1位になりました。 応援、ありがとうございます!

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

異世界でのんびり暮らしたい!?

日向墨虎
ファンタジー
前世は孫もいるおばちゃんが剣と魔法の異世界に転生した。しかも男の子。侯爵家の三男として成長していく。家族や周りの人たちが大好きでとても大切に思っている。家族も彼を溺愛している。なんにでも興味を持ち、改造したり創造したり、貴族社会の陰謀や事件に巻き込まれたりとやたらと忙しい。学校で仲間ができたり、冒険したりと本人はゆっくり暮らしたいのに・・・無理なのかなぁ?

愛しの婚約者は王女様に付きっきりですので、私は私で好きにさせてもらいます。

梅雨の人
恋愛
私にはイザックという愛しの婚約者様がいる。 ある日イザックは、隣国の王女が私たちの学園へ通う間のお世話係を任されることになった。 え?イザックの婚約者って私でした。よね…? 二人の仲睦まじい様子を見聞きするたびに、私の心は折れてしまいました。 ええ、バッキバキに。 もういいですよね。あとは好きにさせていただきます。

異世界転移は草原スタート?!~転移先が勇者はお城で。俺は草原~

ノエ丸
ファンタジー
「ステータスオープン!」シーン「——出ねぇ!」地面に両手を叩きつけ、四つん這いの体制で叫ぶ。「クソゲーやんけ!?」 ――イキナリ異世界へと飛ばされた一般的な高校ソラ。 眩い光の中で、彼が最初に目にしたモノ。それは異世界を作り出した創造神――。 ではなくただの広い草原だった――。 生活魔法と云うチートスキル(異世界人は全員持っている)すら持っていない地球人の彼はクソゲーと嘆きながらも、現地人より即座に魔法を授かる事となった。そして始まる冒険者としての日々。 怖いもの知らずのタンクガールに、最高ランクの女冒険者。果てはバーサーカー聖職者と癖のある仲間達と共に異世界を駆け抜け、時にはヒーラーに群がられながらも日々を生きていく。

病弱を演じていた性悪な姉は、仮病が原因で大変なことになってしまうようです

柚木ゆず
ファンタジー
 優秀で性格の良い妹と比較されるのが嫌で、比較をされなくなる上に心配をしてもらえるようになるから。大嫌いな妹を、召し使いのように扱き使えるから。一日中ゴロゴロできて、なんでも好きな物を買ってもらえるから。  ファデアリア男爵家の長女ジュリアはそんな理由で仮病を使い、可哀想な令嬢を演じて理想的な毎日を過ごしていました。  ですが、そんな幸せな日常は――。これまで彼女が吐いてきた嘘によって、一変してしまうことになるのでした。

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

処理中です...