上 下
273 / 437

第273話 婚約指輪を作ろう(3)

しおりを挟む
「フーちゃん……」
 
 桜が切なさそうな目で――。
 
「ばいばい、フーちゃん。また来るから」
 
 ――と、手を振りながらフーちゃんとの一時的な別れを済ませたあと、駅前のスターバックスが入っている複合商業施設内に足を踏み入れた。
 まずは複合施設内に入っている宝石店へと足を延ばす。
 
「五郎さん、ここは……」
 
 後ろをついてきていた雪音さんが、店内に入った俺のあとをついてくる。
 自然と手を繋いでいる桜も店内に。
 
「お客様。私どもでご協力できることはありますでしょうか?」
 
 店内に入ると、店員が話しかけてきた。
 
「少し商品を見せてもらっても?」
「はい。何かありましたらご用を申しつけください」
 
 店員は頭を下げると俺から去っていく。
 まだ話をする段階ではないと思ったのだろう。
 
「雪音さん」
「はい?」
「雪音さんは、どんな形の指輪が好きですか?」
「指輪ですか……」
「はい」
 
 俺は頷く。
 
「そうですね。あまり派手過ぎないのがいいですね」
「なるほど……。具体的には、どんな感じの指輪が好きですか?」
「あの……、五郎さん?」
「何でしょうか?」
 
 俺は、なるべく雪音さんにバレないように行動しているつもりだったが、どうもストレートすぎたようだ。
 これは間違いなく、俺が婚約指輪を買いに来ている事に気が付いている気がする……。
 だって、雪音さんは苦笑いしているから。
 
「おじちゃん……」
 
 桜まで何かを察したようだ。
 完全にサプライズにならないのは確定したようだ。
 
 ――なら、ここは男らしく行くしかない! 俺は「店員さん! プリーズ!」と、心の中で叫びつつ、こちらをチラチラ見て来ていた店員さんへウィンクをして合図を送る。
 
「はい。どうかされましたか?」
「こちらの雪音さんの指のサイズをお願いします」
「えっと……、つまり、五郎さん。そういうことですか?」
「――ま、まぁ……」
 
 俺は軽く咳払いする。
 
「それでは、お二人の指のサイズを計りますね」
 
 サプライズにはならないが、そこは仕方ない。
 サイズを計ったあと――、
 
「それで、指輪の御予算はおいくらほどで?」
 
 そう聞いてくる女性店員さん。
 先に、指のサイズを計っていた俺は、雪音さんが指のサイズを計っている間、店内のショーケースを桜と一緒に見て回っていたが――、
 
「こちらの御店で一番高い指輪は幾らになりますか?」
「――え?」
「一番高い指輪は、いくらになりますか?」
「それは、こちらの……」
 
 女性店員さんが恐る恐ると言った様子で、ショーケースの中でも、一際目立つように飾られている指輪を指差してくる。
 
「こちらの指輪になります。価格は250万円ほどで――」
「250万円ですか……」
 
 正直、ルイーズ王女殿下やリーシャとの結婚を控えている身では、婚約指輪が250万円というのは、正直なところ安いかも知れない。
 何せ、ルイーズ王女殿下は庶子とはいえ、一国の王女。
 おそらく、それなりの宝石を持っていなければ雪音さんの立場も軽んじられるだろう。
 
「すいません。指輪はお取り寄せとかはできますか?」
「――え?」
 
 女性店員が驚いたような表情をする。
 たしかに普通なら250万円の指輪を購入するのは躊躇するし、もっと安い指輪を買うだろう。
 だが、俺の場合は、それが許されない。
 それに、俺は雪音さんにプロポーズする指輪を妥協したくない。
 
「あの……お客様……。お取り寄せといいますと、価格の抑えた?」
「いえ。御社が取り扱っている婚約指輪で、もっと高いモノをお願いします」
「――え? あ、はい……。少々、お待ちください」
 
 若い女性店員が、少し年配の女性店員に近づき――、少し話したかと思うと戻ってくる。
 
「お客様。それでは、近くの当社の本社へ足を運んで頂くことは可能でしょうか? そちらでしたらオーダーメイドも受け付けております」
「なるほど。わかりました。それでは住所を教えて頂けますか?」
 
 俺と女性店員が話している間も、雪音さんは少し距離を開けたまま、こちらを見てきているだけ。
 住所を確認したあとは、店を出て本店へと向かう。
 5分ほど歩いたところで、本店に到着した。
駅から離れた小道の一角に店はあり、建物の外壁は白を基調とした3階建てのビルで――、1階は大きめの窓が嵌め込まれていて店内を良く見渡す事が出来た。
 
「そういえば雪音さん」
「はい。どうかしましたか?」
「いえ。なんでも無いです」
 
 雪音さんが価格について何も言ってこないことに疑問に持ちながらも、俺と雪音さんと桜はビルの中へと入る。
 
「すいません。駅前のデパートの宝石店で、こちらの本店を紹介されたんですが」
「連絡はお伺いしています。那珂町ジュエリーの、社長をしております健四郎と言います。それではお話をお伺いしたいと思いますので、こちらへ」
 
 店内は、いくつかのショーウィンドウが設置されていて、宝石が展示されているが、そのショーウィンドウの前には、いくつもの対面ソファーとテーブルが置かれている事から、相談や依頼が主な業務になっているのが何となくだが、想像がつく。
 勧められたソファーに座ったあとは――、
 
「わたくし、那珂町(なかまち) 健四郎(けんしろう)と言います」
 
 そう言いながら名刺を差し出してくる。
 俺は、名刺を受け取りながら、自分の名前を告げる。
 
「それでは、月山様。コーヒーと紅茶、どちらがお好きでしょうか?」
「コーヒーでお願いします。雪音さんと桜は、何にする?」
「それでは私は紅茶で――」
「桜も紅茶なの!」
「畏まりました。君、持ってきてくれたまえ」
「はい。社長」
 
 すぐに女性店員がコーヒーと紅茶をもってくる。
 そして、その間に社長がテーブルの上に資料らしきモノを広げていく。
 
「それでは、今回は、オーダーメイドの指輪をご依頼という事で宜しかったでしょうか?」
「そうですね」
「畏まりました。それでは、失礼ですが予算は如何ほどをお考えでしょうか?」
「予算ですか……。どのくらいの予算まででしたら作ってもらえますか? 下限ではなく上限で」
「そうですね。今までだと500万円の御依頼が一番高かったでしょうか?」
「なるほど。それでは500万円以上で、お願いします」
 
 一瞬で店内がざわつく。
 正直、言って500万円の婚約指輪でも相手が王族だったり、リーシャのようなハイエルフ族の巫女だと十分とは言い難い。正直1億の指輪でも、どうなのか? と、いうレベルだと思う」
 
 そんなことを俺は思っていたが、それは相手に伝わることもなく――、
 
「あの、500万円以上の指輪ですか? そ、それは……」
 
 俺に購入能力がないと疑われたのか視線を俺から逸らす社長。
 まぁ、500万円以上の指輪とか言われても困るよな。
 俺でも支払える確固たる証拠が無ければ社長みたいな態度をとるだろう。
 
「那珂町社長」
 
 俺は、ジッと社長の方を見る。
 しばらくすると社長は観念したような表情で俺の顔を見てきた。
 俺はバックの中から100万円の束を5つ取り出し、社長の前の――、テーブルの上に積んでいく。
 それを見ていた那珂町社長の目が見開かれていき――、
 
「これは手付金です」
「手付金?」
「はい。作っていただく婚約指輪ですが、たとえばイギリス王室の方が見ても、立派だと思えるような婚約指輪を作ってください」
「そ、そうしますと……予算的には……」
「気にせず作ってください」
 
 俺の言葉に顔色を変えた那珂町社長は――、部屋を用意します。ここですとアレですからと、周囲を警戒深く見渡した後、俺にそう提案してきた。
 





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

おっさんの異世界建国記

なつめ猫
ファンタジー
中年冒険者エイジは、10年間異世界で暮らしていたが、仲間に裏切られ怪我をしてしまい膝の故障により、パーティを追放されてしまう。さらに冒険者ギルドから任された辺境開拓も依頼内容とは違っていたのであった。現地で、何気なく保護した獣人の美少女と幼女から頼られたエイジは、村を作り発展させていく。

【完結済】サバイバル奮闘記 転生悪役令嬢の逆転劇

忠野雪仁
恋愛
「ルシエル・ヴァレンシア。聖女リリーナへの数々の嫌がらせ、 及び聖女殺人未遂によりお前を離島への島流しとする。」 私の婚約者でもありこの国の王太子でもある ハーレック王太子殿下は私にそう告げます。 「承知しました。」 私が素直に罰を受け入れるとそれが予想外だったのか 王太子は私に問いかけた。 「では、罪を全て認めるのだな」 「いいえ、私はその様な事は一切しておりません。 しかしながら、私が何を言ってもお聞き入れして頂けない事も理解してます」 「本当に最後まで太々しい性格は治らぬのだな。 聖女リリーナは、お前の処刑を望んだが 仮にも先日まで婚約者だったお前を処刑するのは気が咎める。 聖女リリーナに今後近づけない様に魔術契約を施しての島流しは 私のせめてもの慈悲である」 国王殿下がこの国を離れている最中に 仮にも侯爵令嬢の私の処刑は出来ない。 かと言って、国王陛下が戻られて正式に調査されるのもまずいのであろう。 罪人が処罰される様な離島の監獄、よしんば逃げらたとしても 聖女リリーナには近づけないので報復も出来ない 都合の良い落とし所 つい先日にルシエルに転生した元女子大生の私は諦めていた 王太子の腕に縋り付いている赤色の胸元がおおきく空いたドレスを着た聖女リリーナ この世界は、この女のシンデレラストーリーの為の乙女ゲームであろう 少なくとも私はやった事も無く攻略ルートも知らないが 明らかにおかしいハーレムエンド その私が幼い頃から慕っていた義兄も攻略対象 さぞかし気分が良いのだろう、聖女と言うには余りにも品性のない笑い顔で ニヤニヤこちらを見て笑っている 本来であれば聖女リリーナのハーレムハッピーエンドで この物語は終わりだったのであろうが リリーナは、最後の最後で欲を出してしまった。 私を離島に流す船でハーレムメンバーとバカンスを楽しむ その船は、台風により嵐で座礁した。 本来、ルシエルが島流しされる島とは別の小さな島へ 私も含めて全員流れ着いた。 ルシエルの逆転劇はここから始まるのだった。

転生社畜、転生先でも社畜ジョブ「書記」でブラック労働し、20年。前人未到のジョブレベルカンストからの大覚醒成り上がり!

nineyu
ファンタジー
 男は絶望していた。  使い潰され、いびられ、社畜生活に疲れ、気がつけば死に場所を求めて樹海を歩いていた。  しかし、樹海の先は異世界で、転生の影響か体も若返っていた!  リスタートと思い、自由に暮らしたいと思うも、手に入れていたスキルは前世の影響らしく、気がつけば変わらない社畜生活に、、  そんな不幸な男の転機はそこから20年。  累計四十年の社畜ジョブが、遂に覚醒する!!

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

勇者パーティを追放されそうになった俺は、泣いて縋って何とか残り『元のDQNに戻る事にした』どうせ俺が生きている間には滅びんだろう!

石のやっさん
ファンタジー
今度の主人公はマジで腐っている。基本悪党、だけど自分のルールあり! パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のリヒトは、とうとう勇者でありパーティリーダーのドルマンにクビを宣告されてしまう。幼馴染も全員ドルマンの物で、全員から下に見られているのが解った。 だが、意外にも主人公は馬鹿にされながらも残る道を選んだ。 『もう友達じゃ無いんだな』そう心に誓った彼は…勇者達を骨の髄までしゃぶり尽くす事を決意した。 此処迄するのか…そう思う『ざまぁ』を貴方に 前世のDQNに戻る事を決意した、暗黒面に落ちた外道魔法戦士…このざまぁは知らないうちに世界を壊す。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

婚約破棄られ令嬢がカフェ経営を始めたらなぜか王宮から求婚状が届きました!?

江原里奈
恋愛
【婚約破棄? 慰謝料いただければ喜んで^^ 復縁についてはお断りでございます】 ベルクロン王国の田舎の伯爵令嬢カタリナは突然婚約者フィリップから手紙で婚約破棄されてしまう。ショックのあまり寝込んだのは母親だけで、カタリナはなぜか手紙を踏みつけながらもニヤニヤし始める。なぜなら、婚約破棄されたら相手から慰謝料が入る。それを元手に夢を実現させられるかもしれない……! 実はカタリナには前世の記憶がある。前世、彼女はカフェでバイトをしながら、夜間の製菓学校に通っている苦学生だった。夢のカフェ経営をこの世界で実現するために、カタリナの奮闘がいま始まる! ※カクヨム、ノベルバなど複数サイトに投稿中。  カクヨムコン9最終選考・第4回アイリス異世界ファンタジー大賞最終選考通過! ※ブクマしてくださるとモチベ上がります♪ ※厳格なヒストリカルではなく、縦コミ漫画をイメージしたゆるふわ飯テロ系ロマンスファンタジー。作品内の事象・人間関係はすべてフィクション。法制度等々細かな部分を気にせず、寛大なお気持ちでお楽しみください<(_ _)>

【完結】魔法は使えるけど、話が違うんじゃね!?

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
「話が違う!!」  思わず叫んだオレはがくりと膝をついた。頭を抱えて呻く姿に、周囲はドン引きだ。 「確かに! 確かに『魔法』は使える。でもオレが望んだのと全っ然! 違うじゃないか!!」  全力で世界を否定する異世界人に、誰も口を挟めなかった。  異世界転移―――魔法が使え、皇帝や貴族、魔物、獣人もいる中世ヨーロッパ風の世界。簡易説明とカミサマ曰くのチート能力『魔法』『転生先基準の美形』を授かったオレの新たな人生が始まる!  と思ったが、違う! 説明と違う!!! オレが知ってるファンタジーな世界じゃない!?  放り込まれた戦場を絶叫しながら駆け抜けること数十回。  あれ? この話は詐欺じゃないのか? 絶対にオレ、騙されたよな?  これは、間違った意味で想像を超える『ファンタジーな魔法世界』を生き抜く青年の成長物語―――ではなく、苦労しながら足掻く青年の哀れな戦場記録である。 【注意事項】BLっぽい表現が一部ありますが、BLではありません      (ネタバレになるので詳細は伏せます) 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう 2019年7月 ※エブリスタ「特集 最強無敵の主人公~どんな逆境もイージーモード!~」掲載 2020年6月 ※ノベルアップ+ 第2回小説大賞「異世界ファンタジー」二次選考通過作品(24作品) 2021年5月 ※ノベルバ 第1回ノベルバノベル登竜門コンテスト、最終選考掲載作品 2021年9月 9/26完結、エブリスタ、ファンタジー4位

処理中です...