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第262話 不動産会社との商談(1)

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 コタツの中で猫状態になってしまった桜と和美ちゃんとフーちゃんを放置したまま、俺はパソコンで、結城村の現状を確認していく。
 
「それにしても――」
 
 俺は一人呟く。
 村長たちが言っていた通り、結城村のような何もない土地でも外資が水資源付近を買い漁っているのが確認できる。
 
「思ったよりも買い漁られているんだな……」
 
 普通に生活していたら気が付かなかった。
 そこで――、電話が鳴る。
 
「はい。月山です」
 
 自宅の方ではなく、携帯電話に掛かってきた。
 
「儂だ」
「村長、どうかしましたか?」
「結城村の土地を個人売買していた不動産と連絡がついた」
「本当ですか?」
「ああ。それで、リストを入手することが出来た」
「よくリストを回してくれましたね?」
「役場とも付き合いのある不動産じゃからな。個人間の売買の8割は、その不動産が間に入っておるから、売買を行った個人に関しては、一応は目途は付く形になるが――、とりあえず5000万円ほど用意出来るかの?」
「もちろんです」
 
 一応、手元には1億円ほど用意してある。
 
「それで、どちらに持っていけば?」
「儂の自宅に持ってきてくれ」
「分かりました」
 
 電話を切る。
 
「雪音さん。村長の家に行ってきます」
「お爺ちゃんの家にですか?」
「はい。土地の売買が成立しそうなので――、おそらくですが、まだ売却が済んでいない土地を購入する事になると思います」
「分かりました」
 
 雪音さんに伝え、同意を得てから、俺は箪笥の中から、札束を取り出し、カバンの中に詰めていく。
 カバンの中に詰め終わったあとは、ワゴンRに乗り、村長の家へと向かう。
 村長の家に到着すると軽トラック以外に白のワンボックスカーが停まっていた。
 
「白井不動産か」
 
 結城村を出る前に何度か見かけたことがある結城村にただ一つ存在している不動産。
 玄関の戸を何度か叩く。
 すると玄関の戸が開く。
 
「あらあら。誰かと思ったら五郎ちゃんじゃないの」
「どうも、お久しぶりです。妙子さん」
 
 俺は田口村長の奥さんであり、雪音さんの祖母に当たる妙子さんに頭を下げる。
 
「そうね。雪音は、元気にしているかしら?」
「はい。いつもお世話になっています」
「そう。早く孫の晴れ姿を見たいものね」
 
 チラッと、俺に期待の眼差しを向けてくる妙子さん。
 
「それは近い内に――」
 
 俺としても、他に側室を迎える以上、本妻である雪音さんとの結婚が後回しにしていいとは思っていない。
 早めにプロポーズをして婚約を――とは思っている。
 ただ、何分、今は忙しい。
 
「そうなの? それなら祝儀の服でも仕立てておかないといけないかしら?」
 
 けらけらと笑う妙子さん。
 
「誰か来たのか?」
 
 ドタドタと廊下を歩いてくる音と共に姿を見せる田口村長。
 
「おお、五郎! 来たのか! 来たのなら、さっさと来い」
「――あ、はい。それでは、妙子さん、またあとで――」
「頑張ってね、五郎ちゃん。ここ最近、夫はピリピリとしているから」
「大丈夫です」
 
 おそらく土地売買の事については、村長は妙子さんには伝えていないのだろう。
 そうじゃないのなら、すぐに俺を通したはずだ。
 土間から上がり、村長の後をついていくと大きな居間に通される。
 そこには60歳近くの小太りの男が座布団に座っていた。
 俺が居間に入ると、視線を俺へと向けてくる。
 その目は、まるで俺を値踏みしているように感じた。
 
「待たせてすまんかったの」
「いえ、田口村長からの要請でしたから、気にしないでください。それよりも彼は?」
「ああ。こやつは、月山隆二の息子だ」
「それでは、月山雑貨店を開業された?」
「うむ」
 
 男が顎に手を当てる。
 
「月山五郎です。今回は、商談の応じて頂きありがとうございます」
 
 俺は座布団に胡坐を組むと頭を下げる。
 
「白井不動産の社長、白井孝也です。月山五郎様には、以前から興味がありました」
「興味ですか?」
 
 俺は、村長の方を見るが、首を左右に振っている事から、俺の関しての情報は流してはいないと言うのは分かった。
 ただ問題は――、俺に興味があったという点。
 それは、いくつか心当たりがあるが、俺の口から話すことではない。
 余計な事を口にすれば、相手に情報を与えることになるからだ。
 それは、異世界人と商談取引をしていく上で、散々、勉強させられた。
 だからこそ――、
 
「自分も白井不動産には興味がありました」
「ほう? そうですか」
「はい」
 
 俺は言葉を選びつつ頷く。
 
「自分は、村を出たときは、まだ学生の身分でしたから不動産業というのは分かっていませんでした。ただ都会で仕事をするようになり、不動産というのは、土地の売買などで利益を上げる仕事だと知りました」
「なるほど。それで、過疎化した村でも不動産がある事に興味はあったという事ですか?」
「平たく言えばそうなります。――何故なら、人口200人ほどの村だと不動産会社を切り盛りするのも大変だと思っていますので」
「なるほど……なるほど……」
 
 俺の遠回しの言葉に、何度か白井さんは頷くと口を開く。
 
「私も、興味はありました。それは月山様と同じ意見です。月山雑貨店ですが、明らかに人口200人程度の過疎村では、リターンに見合わない程の店を開店させたと」
 
 ――ド直球で来たな。
 
 そう言われると、こちらとしても困る。
 たしかに、人口200人程度の村にあるような店ではない。
 何せ、今の月山雑貨店は、冷凍食品だけでなく氷やアイスなども扱っているから。
 雑誌や医療品、酒類などは販売していなくとも、店の規模は普通のコンビニの倍はある。
 
 俺が、最近、勉強した人口当たりのコンビニというのは、コンビニ一件で商圏人口は3000人を要求されている。
 最低でも2000人は必要とされていて、人口200人程度の結城村に、普通のコンビニの建物――、その倍以上の店舗を構えているのは、明らかに不自然だ。
 それが、最近、勉強して良く分かった。
 だからこそ、白井さんの興味を引いたのだろう。
 
「親父の代からの店舗をリニューアルして使っていますので」
「なるほど。その割には、かなりの数の冷蔵・冷凍ケースを運用しているようですが……」
「冷凍食品の方が、日持ちしますので。それに、主に扱っている商品は、缶詰や菓子類と言ったものですので」
 
 俺は、食品ロスは最小限に抑えているという事をアピールする。
 コンビニにとって食品ロスというのは、赤字を増長させるガンのようなモノだからだ。
 
「それに冷蔵ケースには、主にアルコールを除いた清涼飲料水を扱っています」
 
 俺の言葉に納得いかないのか視線を逸らす白井さん。
 その様子から、今回の土地売買の商談は簡単にはいかないというのが分かった。
 村長は金を持ってきて欲しいとは言ったが、これは下手に条件提示はしない方がいいだろうな。
 
「白井さん」
「何でしょうか? 月山様」
「田口村長から、話は聞いていると思いますが?」
「ああ。土地の売買のお話ですね」
「はい」
 
 俺は頷く。
 
「――ところで、月山様は、私どもが手掛けている土地の売買について――、その土地を大量に取得したいと話を伺いましたが、理由をお聞きしても?」
 
 そこまで聞いた所で、ようやく俺は理解する。
 白井側は、こちらの資金調査――、もしくは月山雑貨店の経営状況を確認した上で、土地の価格の吊り上げを考えているということに。
 
「簡単です。ここ、結城村は、俺が育った村です」
「たしかに、そうですが……」
「その村の土地が結城村以外の人に買われるのは良しと思っていないだけです」
 
 そう俺は答えた。
 
 
 
 
 
 
 
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