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第251話 ガソリンスタンドの建築の話

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「そんなこと言うなって!」
「そんな事言うから。それより、桜がお昼寝しているんだから、お前も寝ておけ」
「眠くない」
「まったく――」
 
 とりあえず桜が寝ているから無理に起すのも気が引ける。
 俺は母屋を出たあと店の正面の駐車場へと向かう。
 そんな俺のあとを、靴を履いた和美ちゃんが付いてくる。
 
「なあ、おっさん」
「お兄さんだ。――で、何だ?」
「ナイルって人、どんな人なんだ?」
「ナイルさんか?」
「そう」
「そうだな。仕事には熱心に取り組む人だな」
「そうなんだ……」
「何だ? ナイルさんが、どうかしたのか?」
「何でもない……」
 
 それだけ言うと母屋の方へと駆けていく和美ちゃん。
 その後ろ姿を見送ったあと、俺は店前の駐車場に停まっている白いハイエースに近づく。
 
「どうも」
「お久しぶりです」
 
 神田自動車の社長であることは一目で分かった。
 ツナギは着ているが、それだけだ。
 
「今日は、点検ということで伺いましたが? 急な点検なんて珍しいですね」
「はい。私としても、少し気になったことがあったので」
「気になった事?」
 
 コクリと頷く神田自動車の社長。
 
「じつはですね。以前に行方不明になった息子の話をしたじゃないですか?」
「そういえば――」
「その息子が、最近、夢に出てくるんですよ。月山様に売ったフォークリフトの点検をしろって」
「それは――」
「分かっています。夢ですから。でも、なんだかねー。気になってしまって」
「だから点検に来られたと?」
「はい。それで点検をさせて頂いても?」
「もちろんです。それでは、母屋の方に車を移動してもらっても?」
「はい」
 
 ハイエースに乗った神田自動車の社長を母屋の方まで案内し、敷地内にハイエースが入ったところで、全員でフォークリフト前に移動する。
 
「ずいぶんと綺麗に使われていますね。これなら息子も喜ぶと思います」
「そういえば、息子さんは、お名前などは?」
「神田英二と言います」
「神田英二……」
 
 聞いた覚えのない名前だ。
 
「それでは点検に入らせてもらいます」
「あ、お願いします」
 
 フォークリフトの点検を開始する神田自動車の作業員たち。
 ハイエースの中には、あと3人座っていて4人体勢でチェックしていく。
 そんな様子を見ていると社長が近づいてくる。
 
「いまもフォークリフトのエンジンは……」
「姪っ子しか起動できないですね」
「そうですか……」
 
 そこで、ふと俺は姪っ子の桜が言っていたことを想い出す。
 
「あの神田さん」
「何でしょうか?」
「姪っ子の桜が、このフォークリフトには幻の5速というのがあると語っていたんですが……」
「――!? ど、どうして、それを!?」
「え?」
 
 本当に幻の5速なんていう厨二病設定というのが存在しているのか……。
 どうも神田社長の反応から嘘ではない感じがするんだよな。
 そうすると桜は何か特別な力が? ――いや、そんな非現実的な――。
 自問自答しているとハイエースからフォークリフトのタイヤを降ろしていく神田さん達。
 
「神田さん、そのタイヤは?」
「これは、ノーパンクタイヤの雪国仕様です」
「そんなものが……」
「今では、結構マイナーなものです。ただ、雪の上を走る分には重宝しますよ? 特に商品の搬入の時は必須と言ってもいいですから」
 
 そう神田社長は語ると、作業員にタイヤの取り付けを命じる。
 そして神田社長は一人でフォークリフトの心臓部であるエンジンを弄り始めた。
 しばらくしてタイヤの交換が終わり、エンジンも無事に手入れが終わったと神田自動車の人達は帰っていった。
 
 
 
 夕方になり、店には、俺とナイルさんだけになった。
 ちょくちょく結城村の人達が買い物客として来るようになった。
 どうやら、うちの価格は秋田市内にあるスーパーと冷凍食品だけ見るなら遜色ないと認知されてきたようだ。
 
 そして日が沈みかけたころ――、
 
「五郎! 来たぞ!」
「中村さん。どうも――。今日は、もう来ないかと」
「そんなことはない。それよりもタンクに灯油を入れていいか?」
「はい。お願いします」
 
 小型のタンクローリー車で灯油の配達にきた中村さんは母屋の方へと車を走らせていく。
 
「ナイルさん。店のことを任せても大丈夫ですか?」
「はい。もう殆ど利用客は来ないと思いますので」
 
 それは安心だが、逆に売り上げが上がらないことは問題だ。
 そこらへん、複雑な心境だな。
 母屋に向かう間に踝建設の社長、誠さんと、田口村長に電話をしておく。
 理由は、ガソリンスタンド建設の件だ。
 母屋の裏手に回り込むと、灯油をタンクに入れている中村さんの背中が見えた。
 
「何か手伝うことはありますか?」
「大丈夫だ。それよりも、あとでガソリンスタンド建設の話をしてもいいか?」
「もちろんです。念のために、踝建設の社長と、村長を呼んでいます」
「随分と根回しが早いな」
「慣れてきましたので」
 
 中村さんが灯油を外のタンクに入れている間に、田口村長と踝誠さんが到着する。
 俺は二人を居間へと通す。
 そして、雪音さんがお茶を持ってきたところで――、
 
「――で、五郎。話とはなんじゃ?」
 
 まず話を切り出してきたのは田口村長から。
 田口村長は、誠さんを一目見てから、俺の方へと問いただしてきたことから、何か察する所があるのかも知れない。
 
「じつはガソリンスタンドを経営したいと思っています」
「なに?」
「ガソリンスタンドを経営する予定です。中村匠さんからも、中村石油を引き継いでほしいと言われました」
 
 その俺の言葉に田口村長は溜息をつく。
 
「そうか……世代交代か……」
 
 遠くを見つめるようにして、一言一言、噛みしめながら呟く村長の言葉は重く感じる。
 
「はい、そこで――」
「つまり、踝建設の方でガソリンスタンドを建てて欲しいということか?」
「そうなります」
「分かった。うちとしても結城村にガソリンスタンドがあれば、便利になるからな。それに金になる仕事を受けないという選択肢はないからな。それで、ガソリンスタンドの候補地は決まっているのか? 以前の、中村石油店が経営していたガソリンスタンドは老朽化で使えないよな?」
「はい。中村さんも同じことを言っていました」
「そうなると……。雑貨店のことも考えると、月山雑貨店の隣の草むらに建設してみたらどうだ?」
「できますか?」
「ああ。一応できる。ただし、かなり金がかかるぞ? まぁ、問題ないと思うが……。そうだな……、建設費や工具などを全て含めると1億くらいか?」
「分かりました。即金で払います」
「村長。異世界との交流で稼ぎすぎでしょう?」
「まぁ、その分、踝建設も潤うのだからよいだろう?」
「そりゃそうですけど……。なら――、あとは図面を起こしておきますので。村長も、それでいいですか?」
「いいが――、五郎」
「はい?」
「中村石油店が資金難から解体できないガソリンスタンドだが、月山雑貨店が後継となると解体することが必要になるが――」
「分かっています。異世界との物資取引きで得た莫大な資金は、村の発展の為に使おうと決めましたので」
「そうか……決めたか」
「はい。これから、ここで暮らしていく以上、それなりの体裁を姪っ子の為に整えることは必要不可欠ですから」
「なら、儂から言う事は何もない。好きやってみるといい」
「ありがとうございます」
 
 これでガソリンスタンド建築の許可は、村長からお墨付きを頂いたものだ。
 あとは――、
 
「もうすぐ中村さんが来ますので、その時にガソリンスタンドの図面を含めて詳しく相談をしたいと思います」
 
 
 
 
 
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