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第246話 辺境伯との対談(3)

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「それって貴族の優位性が揺らぐのでは?」
「いえ。魔法を扱う血統の血筋が薄れれば、それだけ魔法行使における力は衰えますので――」
「つまり、貴族の優位性が揺らぐ事は無いという事ですか?」
「そうなります。ただ――、ゴロウ様の魔力が莫大なことだけは、説明がつきませんが……」
「なるほど……」
 
 俺も桜も魔力の量は、王族や辺境伯よりも遥かに高いとは以前に言われていた。
 もしかしたら地球人との混血は、魔力が上がる子供が出来やすいとか?
 そんなことはないか。
 
「もしかしたら、ゴロウ様のお母様が、こちらに来られた時に何かあったのかも知れません」
「その可能性はありそうですね」
「はい。ただ、ゴロウ様のご両親や親戚は、以前に伺いましたが――」
「そうですね。話しを聞くことが出来る人間はいないので……」
 
 両親共に既に他界しているから、詳しい話を聞くこともできない。
 そして月山家は、親戚は居らず祖父母も他界していて、月山家直系の血筋には、俺と桜だけ。
 よって、情報の集めようがない。
 
「そうですよね」
「まぁ、無い事を考えても仕方ないので」
 
 そう俺は言葉を返す。
 
「そういえば、ゴロウ様。私に家督相続の話を聞いたという事は、ルイズ辺境伯領の家督を継がれるかどうかの打診をノーマン様から受けたのですか?」
「以前にも、跡を継がないかとは言われていましたけどね」
 
 俺は肩を竦める。
 その時には、俺はノーと答えた。
 面倒事には巻き込まれたくなかったからだ。
 だが、いまは、その面倒事を許容しておかないと、今後、自分の身を守ることが難しくなるかも知れない。
 否――、家族の生活を守ることが――、安全を享受する事が難しくなるだろう。
 少なくとも、辺境伯領に関しては、父方の祖父であるノーマン辺境伯が健在だから、色々と面倒を見てもらっているわけで。
 もし辺境伯からの協力が得られなくなったら――。
 
「そうですか。私としては、ゴロウ様が辺境伯領の領主になられた方が安心します」
「俺が?」
「はい。ゴロウ様の世界は平和な世界です。それに人権というモノが存在していますし、奴隷もいないと伺いました。ですから、下手な貴族が派遣されてきて、人権を蔑ろにするような貴族がルイズ辺境伯領を治めて隣国からの侵略の引き金を引くよりも、今のノーマン様の治世を引き継いで頂き、異世界とルイズ辺境伯領を発展させる方が良いと思っています」
 
 ナイルさんは、そう話すと――、
 
「一介の騎士が出来過ぎた言葉を――、申し訳ありません」
「いえいえ。意見は貴重ですから。それで、もし自分が領主になるとして、ノーマン辺境伯様に傅いている貴族達が良しとしますか?」
「ゴロウ様は、ルイズ辺境伯領の――、ノーマン様の直系の血筋です。それに膨大な魔力を有しているだけでなく庶子とは言えエルム王国第四王女殿下を下賜されているのです。正当性は十分にあります。反対する貴族はいないでしょう」
「……そんなものですか」
「はい」
 
 魔力量と血筋で、貴族が納得する理由と。
 
「それに、ゴロウ様の母上は、2000年以上続く皇帝に仕えていた家系なのですよね?」
「まぁ、そうですね……」
 
 まぁ、広い意味で言うなら月山家は年貢とかを治めていたから、巡り巡って天皇家に仕えていたと言いあらわす事もできるよな……。
 
「それでしたら家系についても問題ないかと」
「それなら良いんですけどね」
 
 俺は思わず溜息が出る。
 それにしても、俺がルイズ辺境伯領の次期領主になる事に、そこまで肯定的に取られているとは正直驚いた。
 これは、一度、家族会議をした方がいいかも知れない。
 
 
 
 馬車は、大通りを走り続ける。
 そして停車したあと、ナイルさんが先に馬車から降りたあと、俺も馬車から降りる。
 すると店の向かい側の建物から家具などが持ち運び出されている光景が見えてきた。
 
「さっそく作業を始めたようですね」
「これって物件を購入してからとノーマン辺境伯様は、言っていませんでしたっけ?」
「言っていましたね」
「俺達が、ノーマン辺境伯様と会話をして、ここに到着するまで1時間も経ってないと思いましたけど?」
「ゴロウ様。領内の発展のためです。おそらくノーマン様から命令が下りたのでしょう」
「それって……、色々と問題とかには?」
「それは無いと思います。だって、ゴロウ様は対価を辺境伯様にお支払いすることを約束したのですから。おそらく倍近い建物を購入する額を提示されたと思いますよ?」
「つまり――」
「この家具を運び出されている建物の所有者の方は、かなりの利益を得たと思います」
 
思わず心の中で「それなら良かったんですけど……」と、思ってしまうが口に出す事はしない。
そんなことをすれば辺境伯のことを疑っていることを口外してしまう事にもなるし、心証も悪くなるからだ。
 
「なるほど。それなら大丈夫ですね。そうなると――、今日から荷物を運んできた方がいいですよね?」
「そうですね」
 
 ナイルさんも同意を示してくる。
 ただ一つ問題がある。
 それは、桜は既に就寝しているということ。
 つまり、フォークリフトを動かすことが出来ない。
 
「ナイルさん」
「はい。何でしょうか?」
「母屋から、店の中まで人力でケースを運びましょう」
「……そういえば、桜様は寝ておられるのですよね……」
 
 そこで、ようやくナイルさんも気が付いたみたいだ。
 いま、俺達が置かれている現状が大変なことに。
 
「頑張りましょう」
「そうですね。何人か兵士を連れて行きましょう」
「あ、それがいいですね」
 
 ナイルさんの提案に、俺は頷いた。
 すぐにナイルさんが10人ほどの兵士を選定する。
 そして、店の中へと全員が移動したのを確認したあと、俺はシャッターを閉めた。
 
「お前達、これからのことは一切! 口外禁止だぞ! いいな?」
 
 兵士達は、一斉に頷く。
 そして異世界側に、ナイルさんを先に連れて行ったあと、一人一人、バックヤードから連れ出す。
 外は暗いが星の灯りはある。
 そして全員をバックヤードから連れ出して、母屋の玄関前に集合したところで、ナイルさんが口を開く。
 
「お前達がすることは一つだ! 静かに! 行動すること! いいな?」
「「「「「「「はいっ!」」」」」」」
 
 全員が一糸乱れることもなく頷く。
 
「よし! では付いてこい! まずは手本を見せる」
「あ、ナイルさん。少し待ってください。まずは雪音さんに報告してくるので」
 
 俺はナイルさんを制止したあと、玄関の戸を開けて土間から上がる。
 
「ゴロウ様。もう辺境伯様との話は終わったのですか?」
 
 台所から、丁度、こちらが見えていたのかメディーナさんが鉈を手に持ったまま近づいてくる。
 メディーナさんの言葉に頷きながらも、俺はメディーナさんの恰好を見て、イノシシの血抜きを頼んでいた事を思い出す。
 
「もう血抜きは終わったんですか?」
「はい。いまは、干しています」
「そうですか。メディーナさん、今から、母屋からアタッシュケースを店舗の駐車場側に人海戦術で移動しますので、そのことを雪音さんに伝えておいてください」
「人海戦術?」
 
 首を傾げたまま、鉈を右手に持ち、そのまま土間に降りて玄関から出るメディーナさん。
 すると同時に、ナイルさんが玄関の中を外から覗き込んできた。
 出会いがしらにメディーナさんの姿を見たナイルさんは、驚き――、
 
「ゴロウ様、雪音様には話は――って!? 何て、恰好しているんですか? メディーナ」
 
 思わずツッコミを入れていた。
 
「副隊長が、イノシシの解体を私に頼んだからじゃないですか?」
「そうでしたね」
 





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