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第232話 それぞれの思惑

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「あと、アリアさん」
「はい」
「エメラスさんの部屋を教えて頂けますか?」
「――え? で、でも……」
 
 一応、エメラスさんの具合が悪いのなら、確認しておく必要がある。
 何せ、相手は侯爵家の御令嬢。
 神田で購入した異世界ライトノベルを読んで勉強したが、侯爵家は、そこそこ位の高い貴族だったはずだ。
 つまり、何かあれば責任問題に発展しかねない。
 
「エメラスさんに興味あるんです」
「――ッ!?」
 
 何故に口元を手で隠すような真似をして目を見開くのか。
 もしかして!? そんなに容態が悪いとか!?
 だが――、ルイーズ王女と会話した時、エメラスさんについて問いかけた時には、そこまででもないと言っていたような……。
 そこで俺は、ハッ! と気が付く。
 
「アリアさん」
「は、はい!」
 
 俺は彼女の両肩を掴むと、真正面から彼女の瞳を覗き込む。
 人は嘘をつくと目を逸らす癖があるからだ。
 
「エメラスさんに、何かあったのでは?」
 
 王族は、嘘を嘘と見破られないようにと言葉を飾ることが得意だろうが、アリアさんなら、そうでもないはずだ。
 つまり真実に近づける可能性が高い。
 
「そ、それは……」
 
 俺から目を背けるアリアさん。
 その様子から、俺は確信した。
 何かを隠しているという事実に!
 
「分かりました。俺は、エメラスさんに会ってきますので、皆には内緒にしておいてください」
「え? え? ええーっ。――ま、待ってください! 月山様っ!」
 
 歩き始めたところで、俺の腕を慌てた様子で掴んでくるアリアさん。
 もう……、これは確定だ。
 
「アリアさん」
「……」
 
 彼女は、無言のまま俺の腕を両手で掴みながら、歩かせまいと力を入れてくる。
そんな彼女には悪いが――、俺としても、エメラスさんに何かあったら困る。
それは彼女も重々承知の上のはず。
 
――いや、むしろ貴賓として、結城村に滞在しているエメラスさんに何かあれば俺の方が立場的にヤバイ。
そういえば、藤和さんが言っていた。
エメラスさんには気をつけろと。
それは、辺境伯のメイドなら何とかなる。
ルイーズ王女殿下なら、俺の側室だから、何とななる。
だが――、エメラスさんは、何かあれば何とかならない。
つまり、そういうことだろう。
 
「アリアさん」
 
 俺は、もう一度、彼女の名前を呼んでから口を開く。
 
「俺は、結城村の領主です。それは分かっていますね?」
 
 俺の言葉にビクッとするアリアさん。
 そう、俺が彼女に伝えたかったことは一つ。
 領主である俺に侍女が行動を制限しようとするのは問題なのではないのか? と、言うこと。
 案の定、俺の言葉の意味が理解できたのか、アリアさんの腕を振り払っても彼女は何も言ってくる事はない。
 
「いまからエメラスさんに関する事は、雪音にも、ルイーズ王女殿下にも内緒にしておいてください。いいですね?」
「それは……」
「私は、いいですか? と、お伺いを立てているわけではないのです。分かっていますか?」
「――で、ですが!」
 
 何で、そんなにしつこく食い下がるのか。
 やっぱり具合が悪いんじゃないのか?
 
「これは命令です。雪音さんやルイーズ王女殿下の居る部屋に戻ってください。そして、必要な洋服の購入をしてください。いいですね?」
「――ッ! わ、分かりました……」
 
 最終通告に近い形になってしまった。
 アリアさんが肩を落とし去っていく。
 そして、アリアさんは雪音さんやルイーズ王女殿下がいる部屋の前まで歩いていくと足を止めて居住まいを正してから、扉をノックし部屋の中へと入っていった。
 一連の様子を見たあと、俺はエメラスさんの所へと向かう為に一歩踏み出すが――、
 
「エメラスさんは、どこにいるんだ?」
 
 首を傾げつつ、迎賓館の中を見て回る。
 本当に具合が悪いのなら、可能性として高いのはベッドのある寝室。
 客間にもベッドは置いてあることから、俺は全ての部屋をしらみつぶしに確認していく。
 
「いないな……。何処に居るんだ?」
 
 ルイーズ王女殿下が使っているであろう部屋は、すぐに見つかった。
 何着ものドレスがハンガーに掛けられていた部屋があったからだ。
 
「ここが最後の部屋か」
 
 たしか部屋には、シャワーが備え付けられていた部屋だったはず。
 俺は、扉をノックする。
 中に人が居たら困るからだ。
 
「反応はない。一体、どこにいるんだ?」
 
 一人呟きながらドアノブを回し部屋の中へと足を踏み入れる。
 そして部屋の中へ入ったところで、俺は、備え付けのテーブルの上に壊れた青銅製の鎧が置かれている事に気が付く。
 だが――、部屋の主はいない。
 その時だった。
 シャワー室に繋がるドアノブが開いたのは――。
 
「アリアですか? そんなに催促されなくても、もうすぐ用意はでき――る……と……」
「……」
 
 裸体にバスローブ一枚のエメラスさん。
 そして、その姿を見た俺は、一瞬固まり――。
 
「うあああああああ」
「待ってください! そこで叫ぶのは私の役割ですから!」
 
 思わずありえない光景を見てしまい、俺は叫んでしまう。
 そんな俺を見てエメラスさんはツッコミを入れてきた。
 
 
 
 ――そして……。
 
「つまり、私を心配して来てくれたという事ですか?」
 
 先日、ボロボロになって酷く怯えていたエメラスさんの事が気になったこと。
 そして今日は具合が悪いとルイーズ王女殿下が話していたこと。
 さらには、アリアさんが何かを隠していたと感じたこと。
 それらを繋ぎ合わせたところ、一つの答え――、エメラスさんに何かあったのでは無いか? と、思い彼女を探していたところ、シャワーから出てきたエメラスさんと鉢合わせたことを伝えたところ、溜息交じりに、彼女は聞いてきた。
 
「そのとおりです」
 
 絶賛、絨毯の上に正座中の俺。
 
「――はぁ……」
「エメラスさんに何かあれば、こちらとしても困りますから」
 
 溜息をついた彼女に、もっともらしい言い訳をしておく。
 
「それは、分かりますが――」
「ですが、エメラスさんは何かあったことに対して隠しておられますよね?」
「――うっ……」
 
 俺の問いかけに言葉が詰まる彼女の様子を見て、やはり何かあったと思うが……。
 
「月山様。ご心配頂き、申し訳なく思います。ただ、これは騎士としての矜持からお答えする事はできません。――ですから、今回の私の裸体を見たことと引き換えに、前回の事に関しては追及しないという事でお願いできますか?」
「……分かりました。――ですが、ホントに何ともないのですね?」
「はい。そこは誓って」
「そうですか」
 
 まぁ、途中経過はどうあれ、とりあえず結果的には良しとしておこう。
 
「何だかすいません。迷惑をかけてしまって――」
「いえ。月山様の立場からしたら、侯爵家の私の身に何かあれば問題になると考えて身の安全の確認の為に強行調査をするのは仕方ないでしょう」
「そう言って頂けると助かります。それでは、自分は部屋の外に出ます」
 
 これ以上、バスローブ一枚の女性と面と向かって話し合うのは色々と体裁的に不味いと考え、俺は絨毯から立ち上がり通路側のドアを開ける。
 
「えへへ……」
「アリアさんっ!?」
 
 ドアを開けると、そこには何故かアリアさんが立っており、彼女は部屋の中を盗聴しているように耳をドアの方へと向けていた。
 
「まさか、聞いていましたか?」
「――いえ。ほとんど」
 
 つまり一部は聞いていたと?
 
「はぁ、アリアさん」
「申し訳ありません! エメラス様に何かあったらと思いまして! それに――」
 
 そこでアリアさんが固まる。
 彼女は、俺越しに部屋の中で、バスローブ一枚で座っているエメラスさんを見ると、
 
「エ、エメラス様!? どうして、そのような姿で月山様と!?」
 
 
 
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