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第216話 リーシャとのこと
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「いえ。そのような事はありませんが……、もしかしてフーちゃん様のことを言っておられますか?」
「フーちゃん様って……。別に、俺に様付けをするみたいに様付けしなくてもいいんだぞ? ただの犬だし……」
「え? あ、はい……」
どうして、そこで戸惑った表情をしたのかは謎だが、おそらく犬に様付けをしていたのに気が付いて、恥ずかしくなったのかも知れないな。
「あと、俺のことも様付けしなくてもいいぞ?」
「いえ! それは無理です」
「何故に……」
歩きながら考える。
リーシャが、俺に様付けする意味を。
「だって、ゴロウ様は、将来的には私の旦那様になられるお方ですから!」
「あ、その話、まだ残っていたのか」
「残っています! ハイエルフの族長であるクレメンテ様も、そのために、私をゴロウ様の元に、こうして行かせているのですから」
「そうか」
まぁ、正直、日本と異世界との境を維持しているゲートが存在している限り、ハイエルフの助力は必要不可欠。
エルム王国との商業取引を行う上で、王宮側の信頼を得る為に、第四王女であるルイーズ王女殿下を側室として迎い入れるようなモノになるのかも知れない。
「そういえば、クレメンテ様とは、きちんと話した方がいいのかも知れないな」
「え?」
俺の言葉に足を止めるリーシャ。
自然と俺も会話をしていた為、足を止める。
そうして、母屋から店舗のバックヤード側へと通じる道の上で二人して足を止めたあと、俺はリーシャの方へと振り向く。
「ほら。何と言うか、リーシャには色々と手伝ってもらっているからな。きちんと礼をするのは社会人としては当然のことだろう?」
「あー」
落胆するような表情を見せるリーシャを見て、俺は、
「あとはリーシャと、俺の関係性について、きちんと確認する必要もあるからな」
「え? それって……、私を娶ってくださるってことですか! ゴロウ様が、ルイーズ王女殿下を側室として迎い入れると、社長から伺っていましたけど、やっと私も!」
「いや、そのへんは、クレメンテ様に、きちんと色々と聞かないとアレだから……」
「大丈夫です! クレメンテ様は、私のことを、すでにゴロウ様の元に送り出した時点で、めちゃくちゃにしても良いと! 考えておられます!」
作業着なのに、胸のボリュームがやばいリーシャは、ガッツポーズをしながら、近づいてくると上目遣いに話しかけてくる。
「お、おう……。そのうちな……」
「はい! 言質は、とりました!」
「待て待て! まだ、確実とは言っていないし、本当に娶るのなら、族長に話を通すのは常識だろう」
「――ですから、クレメンテ様は、すでに了承していますから」
「それでも……だ」
本当に側室として迎い入れる必要があるのなら、それなりの手順を踏むのが社会人としてあるべき姿だ。
そもそも、雪音さんにも許可を取らないといけないし。
それにもっと言えば、ようやく落ち着いてきた様子のリーシャが、俺の側室となった後、どうなるか分からないからな。
少なくとも、俺はリーシャをハイエルフ族ではなく淫魔として見ているし。
俺が読んだ本の中でも、リーシャの身体的な特徴は淫魔に近い。
「えー。ゴロウ様は、お堅いのですね」
「当たり前だ。これから、ずっと連れそう相手を邪険にする訳にはいかないだろ?」
「それって!」
「だから早とちりするなって」
目を輝かせているリーシャに、俺は、この話をするのは少し早かったか? と、思いながら歩き出し、店内へと通じるバックヤード側への扉を開ける。
――チリリーン。
ドアを開けると、澄み切った鈴の音が鳴り響く。
「さて、いくか」
「はい! それなら、クレメンテ様と近い内に話し合いの場を設けさせて頂きますね!」
「そんなに急がなくいいからな」
「大丈夫です! 速達のごとく! 高速道路を使うかのごとく!」
「何だか、生々しい例えだな」
良くも悪くもリーシャは日本に順応してきているようだ。
安心していいのかどうかは、また別の問題として。
バックヤード側から店内に足を踏み入れると、外から太陽の日差しが入ってきているのが確認できた。
「やっぱり異世界は時差がありますね」
「そうだな」
俺は店内のシャッターを開けて、
「リーシャ。手を」
「はい!」
リーシャの手を掴み、俺は店の正面から異世界へと足を踏み出す。
すると、すぐに熱い日差しが飛び込んでくる。
「ゴロウ様! お待ちしておりました」
店の外――、異世界側の店舗の警護をしていた兵士の一人が頭を下げてくる。
「護衛、お疲れ様です。ナイルさんは?」
「今、副隊長を呼んで参ります!」
俺に話しかけてきた兵士は、すぐに雑踏の中へと姿を消す。
あとに残されたのは、俺とリーシャと10名ほどの兵士。
その兵士は、いつも店の前を護衛してくれている兵士達。
「これは、お久しぶりです。ゴロウ様」
待っていると、兵士の中から近づいてきた兵士が頭を下げてくる。
俺の店先を守ってくれている兵士の中では紅一点の――、
「お久しぶりです。メディーナさん」
「はい。本当に――」
メディーナは、ルイズ辺境伯領――、ノーマン辺境伯に仕えている女性弓兵で、その美貌は、リーシャにも引けを取らない。
金髪碧眼で、鼻筋の通った顔と、大きな眼は、愛らしいと思えるくらいに。
「それにしても……、メディーナが、直接的に話しかけてくるのは珍しいですね。いつもは少し離れた位置に居るのに……」
何気なく自分で呟いた言葉で、俺は『あれ?』と、首を傾げる。
たしかに、メディーナが直接、俺に話しかけてくる事は稀だ。
彼女の本職は弓兵であり、偵察部隊。
俺に話しかけてくる道理はないはず。
「じつは、ノーマン様より副隊長と共に異世界に赴くようにと命令が下りました」
「辺境伯様から?」
「はい」
頷くメディーナ。
「私の配属先は、ルイーゼ王女殿下の身辺警護という役職です」
「身辺警護ですか?」
「はい。ただ、こう見えてもノーマン様の御屋敷の方で3年ほど、侍女見習いをした事がありますので、ルイーゼ様の身の回りの御世話も含めてですが」
「あ、それは……助かります」
異世界には異世界の流儀があると思うが、貴族の流儀というか、そう言ったモノを心得ている人を雇って、ルイーズ王女殿下の世話をするとなると、人材をどう確保していいのか分からなかっただけあって、本当に助かる。
おそらく、その辺も含めて、もしかしたら辺境伯が手配をしてくれたのかも知れない。
「あの……、ゴロウ様」
「ああ、すまない。自由に行動してくれ。俺は、しばらく、ここに居るから」
俺と、メディーナの会話を横で聞いていたリーシャが恐る恐る確認して来たから、すぐに別行動しても良いと許可を出す。
「それでは、少し行ってきます! 1時間ほどで戻りますので!」
背中から漆黒の翼を生やしたリーシャは、異世界の大空へと舞い上がっていく。
もちろん、翼を生やした時点で、作業着の背中の部分と、尻尾が生えたことでズボンの尾てい骨の部分が敗れたのは言うまでもない。
「あとで弁償か……」
まぁ、おそらくだが、リーシャはハイエルフの里へと向かったのだろう。
話の流れからしても、そう思うのが自然だし。
「早いですね。さすがは、ハイエルフ族――」
空へと舞い上がって移動し、すぐに姿を消したリーシャの後ろ姿を見ていたメディーナが、そんなことを口にするが、日本の常識から当てはめると、あれは、どう見てもサキュバスなんだがな! と、言うことは口にしない。
どうも異世界人にとってサキュバスというのは、ハイエルフ族だと認識しているようだし、郷に入っては郷に従えと言うからな。
「フーちゃん様って……。別に、俺に様付けをするみたいに様付けしなくてもいいんだぞ? ただの犬だし……」
「え? あ、はい……」
どうして、そこで戸惑った表情をしたのかは謎だが、おそらく犬に様付けをしていたのに気が付いて、恥ずかしくなったのかも知れないな。
「あと、俺のことも様付けしなくてもいいぞ?」
「いえ! それは無理です」
「何故に……」
歩きながら考える。
リーシャが、俺に様付けする意味を。
「だって、ゴロウ様は、将来的には私の旦那様になられるお方ですから!」
「あ、その話、まだ残っていたのか」
「残っています! ハイエルフの族長であるクレメンテ様も、そのために、私をゴロウ様の元に、こうして行かせているのですから」
「そうか」
まぁ、正直、日本と異世界との境を維持しているゲートが存在している限り、ハイエルフの助力は必要不可欠。
エルム王国との商業取引を行う上で、王宮側の信頼を得る為に、第四王女であるルイーズ王女殿下を側室として迎い入れるようなモノになるのかも知れない。
「そういえば、クレメンテ様とは、きちんと話した方がいいのかも知れないな」
「え?」
俺の言葉に足を止めるリーシャ。
自然と俺も会話をしていた為、足を止める。
そうして、母屋から店舗のバックヤード側へと通じる道の上で二人して足を止めたあと、俺はリーシャの方へと振り向く。
「ほら。何と言うか、リーシャには色々と手伝ってもらっているからな。きちんと礼をするのは社会人としては当然のことだろう?」
「あー」
落胆するような表情を見せるリーシャを見て、俺は、
「あとはリーシャと、俺の関係性について、きちんと確認する必要もあるからな」
「え? それって……、私を娶ってくださるってことですか! ゴロウ様が、ルイーズ王女殿下を側室として迎い入れると、社長から伺っていましたけど、やっと私も!」
「いや、そのへんは、クレメンテ様に、きちんと色々と聞かないとアレだから……」
「大丈夫です! クレメンテ様は、私のことを、すでにゴロウ様の元に送り出した時点で、めちゃくちゃにしても良いと! 考えておられます!」
作業着なのに、胸のボリュームがやばいリーシャは、ガッツポーズをしながら、近づいてくると上目遣いに話しかけてくる。
「お、おう……。そのうちな……」
「はい! 言質は、とりました!」
「待て待て! まだ、確実とは言っていないし、本当に娶るのなら、族長に話を通すのは常識だろう」
「――ですから、クレメンテ様は、すでに了承していますから」
「それでも……だ」
本当に側室として迎い入れる必要があるのなら、それなりの手順を踏むのが社会人としてあるべき姿だ。
そもそも、雪音さんにも許可を取らないといけないし。
それにもっと言えば、ようやく落ち着いてきた様子のリーシャが、俺の側室となった後、どうなるか分からないからな。
少なくとも、俺はリーシャをハイエルフ族ではなく淫魔として見ているし。
俺が読んだ本の中でも、リーシャの身体的な特徴は淫魔に近い。
「えー。ゴロウ様は、お堅いのですね」
「当たり前だ。これから、ずっと連れそう相手を邪険にする訳にはいかないだろ?」
「それって!」
「だから早とちりするなって」
目を輝かせているリーシャに、俺は、この話をするのは少し早かったか? と、思いながら歩き出し、店内へと通じるバックヤード側への扉を開ける。
――チリリーン。
ドアを開けると、澄み切った鈴の音が鳴り響く。
「さて、いくか」
「はい! それなら、クレメンテ様と近い内に話し合いの場を設けさせて頂きますね!」
「そんなに急がなくいいからな」
「大丈夫です! 速達のごとく! 高速道路を使うかのごとく!」
「何だか、生々しい例えだな」
良くも悪くもリーシャは日本に順応してきているようだ。
安心していいのかどうかは、また別の問題として。
バックヤード側から店内に足を踏み入れると、外から太陽の日差しが入ってきているのが確認できた。
「やっぱり異世界は時差がありますね」
「そうだな」
俺は店内のシャッターを開けて、
「リーシャ。手を」
「はい!」
リーシャの手を掴み、俺は店の正面から異世界へと足を踏み出す。
すると、すぐに熱い日差しが飛び込んでくる。
「ゴロウ様! お待ちしておりました」
店の外――、異世界側の店舗の警護をしていた兵士の一人が頭を下げてくる。
「護衛、お疲れ様です。ナイルさんは?」
「今、副隊長を呼んで参ります!」
俺に話しかけてきた兵士は、すぐに雑踏の中へと姿を消す。
あとに残されたのは、俺とリーシャと10名ほどの兵士。
その兵士は、いつも店の前を護衛してくれている兵士達。
「これは、お久しぶりです。ゴロウ様」
待っていると、兵士の中から近づいてきた兵士が頭を下げてくる。
俺の店先を守ってくれている兵士の中では紅一点の――、
「お久しぶりです。メディーナさん」
「はい。本当に――」
メディーナは、ルイズ辺境伯領――、ノーマン辺境伯に仕えている女性弓兵で、その美貌は、リーシャにも引けを取らない。
金髪碧眼で、鼻筋の通った顔と、大きな眼は、愛らしいと思えるくらいに。
「それにしても……、メディーナが、直接的に話しかけてくるのは珍しいですね。いつもは少し離れた位置に居るのに……」
何気なく自分で呟いた言葉で、俺は『あれ?』と、首を傾げる。
たしかに、メディーナが直接、俺に話しかけてくる事は稀だ。
彼女の本職は弓兵であり、偵察部隊。
俺に話しかけてくる道理はないはず。
「じつは、ノーマン様より副隊長と共に異世界に赴くようにと命令が下りました」
「辺境伯様から?」
「はい」
頷くメディーナ。
「私の配属先は、ルイーゼ王女殿下の身辺警護という役職です」
「身辺警護ですか?」
「はい。ただ、こう見えてもノーマン様の御屋敷の方で3年ほど、侍女見習いをした事がありますので、ルイーゼ様の身の回りの御世話も含めてですが」
「あ、それは……助かります」
異世界には異世界の流儀があると思うが、貴族の流儀というか、そう言ったモノを心得ている人を雇って、ルイーズ王女殿下の世話をするとなると、人材をどう確保していいのか分からなかっただけあって、本当に助かる。
おそらく、その辺も含めて、もしかしたら辺境伯が手配をしてくれたのかも知れない。
「あの……、ゴロウ様」
「ああ、すまない。自由に行動してくれ。俺は、しばらく、ここに居るから」
俺と、メディーナの会話を横で聞いていたリーシャが恐る恐る確認して来たから、すぐに別行動しても良いと許可を出す。
「それでは、少し行ってきます! 1時間ほどで戻りますので!」
背中から漆黒の翼を生やしたリーシャは、異世界の大空へと舞い上がっていく。
もちろん、翼を生やした時点で、作業着の背中の部分と、尻尾が生えたことでズボンの尾てい骨の部分が敗れたのは言うまでもない。
「あとで弁償か……」
まぁ、おそらくだが、リーシャはハイエルフの里へと向かったのだろう。
話の流れからしても、そう思うのが自然だし。
「早いですね。さすがは、ハイエルフ族――」
空へと舞い上がって移動し、すぐに姿を消したリーシャの後ろ姿を見ていたメディーナが、そんなことを口にするが、日本の常識から当てはめると、あれは、どう見てもサキュバスなんだがな! と、言うことは口にしない。
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