上 下
215 / 437

第215話 すき焼き

しおりを挟む
「お肉が、美味しいですうううううう」
 
 リスのごとく、牛肉を食べていくリーシャ。
 そんなリーシャを横目に、桜も恐る恐ると言った感じで牛肉を口に運び、一口食べたところで、
 
「美味しいの!」
 
 目を輝かせて、笑顔を向けてくる。
 
「そうか、そうか」
 
 俺は何度も頷く。
 そして、俺も牛肉を頬張るが確かに旨い!
 
「これって……」
「お爺ちゃんが、冬に向かって何頭か牛を老人会の皆で捌いたのを持ってきてくれました」
「村長の所の牛か」
 
 そういえば、村長も牛や豚や鶏とか飼っていたな。
 
「冬は大変ですから。食料とか――」
「たしか草とかフィルムで密閉して冬に備えていたりしていたような」
 
 村を出る前だったから、完全にうろ覚えだが、手伝わされた記憶がある。
 主にフォークリフトの運転とかで。
 
「はい。ただ、今年は牛が増えすぎたらしいので、その分を、肉に回したそうです。あとは、家に持ってきてくれる分も確保するって意味合いもあったみたいです」
「なるほど……」
 
 俺と雪音さんが話している間にも、リーシャと桜が凄まじい速度で牛肉を食べていく。
 
「桜、肉だけじゃなくてお豆腐や野菜も食べなさい」
「はーい」
 
 渋々と言った様子で、桜は長ネギを取って頬張るが、一瞬、辛そうな表情をする。
 そう言えば、子供の頃って野菜が苦手だったなと思いつつ、
 
「ほら、しらたきも美味しいぞ」
 
 しらたきは、無味無臭。
 つまり、すきやきの出来に左右される。
 そして、今夜のすき焼きのレベルは高い!
 ――と、いうことは、そのしらたきの品質は高いのだ。
 
「しらたきが美味しいの!」
「だろう?」
「わんっ!」
 
 いつの間にかローストポークを食べ終わったフーちゃんが、桜の横で転がっていた。
 
「桜」
「ふぁい?」
 
 口の中に食べ物を入れたまま、俺の方を見てくる。
 
「フーちゃんには、味の濃いモノは与えたら駄目だからな。犬や猫と言った動物は、味の濃いモノを食べさせると寿命が縮むからな」
「わかったの!」
 
 口の中に含んでいたモノを呑み込んだあと、桜は元気よく返事してきた。
 そして、リーシャと言えば、肉ばかり食べている。
 
「ゴロウ様! この肉は、美味しいです!」
「そうか。少しは遠慮しろよ」
「五郎さん。大丈夫です。お爺ちゃんは、10キロほど肉を持ってきてくれましたから」
 
 別に、俺は肉が欲しくてリーシャにツッコミを入れた訳ではないんだが……。
 まぁ、この怠い雰囲気を雪音さんが壊したくなくて、フォローしてくれているとしたら、余計なことを言うのは野暮ってモノか。
 すき焼きを食べ終えて、食器なども洗い終わり、一家団欒していたところで――、
 
「あの……、五郎さん」
「どうかしましたか?」
 
 湯飲みをちゃぶ台の上に置き、急須からお茶を注いだところで雪音さんが話しかけてきた。
 俺は、雪音さんから湯飲みを受け取り。
 
「今日は、どうして、リーシャ様が来られているのですか?」
「話によると魔力が枯渇しかけているからだと」
「魔力ですか?」
 
 俺は頷く。
 その辺は、雪音さんには詳しく説明していなかった。
 まぁ、俺も良く分かってないし。
 
「何でも魔力が枯渇すると生命維持が困難になるそうです」
「そうなのですか?」
 
 リーシャの方を見る雪音さん。
 すると、雪音さんに視線を向けられたことに気が付いたリーシャが、畳の上で寝そべりながら頷くと口を開く。
 
「ゴロウ様の言う通り、異世界に来た存在は、魔力が枯渇すると生命維持が困難になります。その為に、定期的に元の世界へ帰る必要があるのです」
「そうですか……。それで、今日は、こちらに? でも、五郎さんのお父様は、異世界には――」
「一般的な人間の魔法師と違って、私達、ハイエルフ族は森の妖精に近いので、森の魔力が無いと生きてはいけないのです。――なので、普通よりも魔力の消費が激しいのです」
「へー」
 
 俺は思わず声に出す。
 
「それって、長期間は、こっちには居られないってことか?」
「そうですね。元々は、人とは存在レベルが違いますから。その為に、肉体維持――、この世界に存在維持をする必要がありますから、そのために余計に魔力を消費するのです」
「なるほど……」
「あ、あの! それって! 五郎さんや、桜ちゃんにも当てはまるのですか?」
 
 少し慌てた様子で、そうリーシャに確認するかのように雪音さんが聞くが、
 
「うーん。五郎様と桜様は、魔力供給を世界に頼っているという感じではないのですよね……」
 
 そう返事をしたリーシャは、じーと俺を見てくる。
 
「あれ? 五郎様」
「どうした?」
「今、雪音様に問われて気になって五郎様の内包魔力を確認しましたけど……、魔力が増大しています」
「あー、なんか辺境伯に魔力回復のポーションを貰ったら増えたみたいだ」
「え? 増えた? ちょっとよろしいでしょうか?」
 
 畳の上を匍匐前進して近づいてくるとリーシャは、俺の腕を掴み目を閉じる。
 そして――、
 
「五郎様!」
「な、なんだよ……」
「五郎様の魔力容量ですが、増えたというよりも使われてない領域が多すぎるようです」
「つまり、どういうことだ?」
「簡単に説明しますと、魔力プールが以前に辺境伯が確認した時よりも――、話に聞いていたよりも10倍以上になっています……と、言うよりも、元々から10倍以上の魔力許容量があったと見た方がいいかと思います。原因は、分かりませんけど……」
「そうなのか……」
「はい。もしかしたら、五郎様は、すごい魔法師になれたかも知れません!」
「へー」
 
 ほとんど興味ないな。
 
「――でも、何で過去形なんだ?」
「魔法を使う為の魔力回路が……」
「そういえば、以前にも辺境伯様に、そんなことを言われた気がする」
「小さい頃に魔力回路を形成しておきませんと、大人になってしまうと魔法が使えませんから」
「なるほどな……」
 
 そこまで話したところで、俺達の話を聞いていた桜が「桜も、魔力あるって言われたの!」と、フーちゃんを抱っこしながら話しかけてきた。
 
「そういえば、桜様も膨大な魔力を有していると伺いましたが――、少し宜しいですか? 魔力の許容量を確認致しますので」
「うん? いいよ!」
 
 桜の手を取ったリーシャが目を閉じて、そして――体を震わせ始めた。
 
「はっ!」
 
 いきなり目を開けて、肩で息をしながら――、
 
「桜、どう?」
 
 そう問いかける桜に対してリーシャが歯を鳴らしながら、
 
「魔力容量の底が見えませんでした……」
「それって、桜すごいの!?」
「は、はい」
「大丈夫か? リーシャ」
「だ、大丈夫です。それよりも……、桜様は、魔法を扱う練習などは?」
「する予定もないな」
 
 そもそも日本で暮らしているんだから魔法なんて必要ない。
 
「……五郎様。桜様は――、いえ。なんでもありません」
「そうか? 言いたい事は、ハッキリと口にした方がいいぞ」
「いえいえ。これは、本当に何でもありませんから」
 
 いつの間にか、リーシャの視線は、フーちゃんの方を見ていて、何度か頷くと、俺にそう答えてきた。
 まるで、フーちゃんと意思疎通しているように見える! 
 まぁ、俺の気のせいだと思うがな!、
 
「そろそろ、良い時間ですからお風呂に入ってきなさい」
「はーい。フーちゃん、いこっ」
 
 桜に連れられてフーちゃんは、お風呂に行ってしまう。
 
「さて、俺達も、そろそろ異世界に行くとするか」
 
 時刻は、午後9時を過ぎている。
 異世界では、24時間の時差があるので、午前9時ごろ。
 そろそろ向かってもいいだろう。
 
「――は、はい」
 
 さっき、フーちゃんが桜に抱きかかえられて居間から退場するまでフーちゃんに睨まれた淫魔状態だっただけあって、リーシャは、どこか緊張しているようだ。
 
「それじゃ、雪音さん」
「いってらっしゃい。五郎さん」
「行ってきます」
 
 玄関を出たところで、俺は気になっていた事を口にする。
 
「なあ、リーシャ」
「はい?」
「異世界人って、犬が苦手なのか?」
 
 
 
 
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~

ちゃんこ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生した⁉ 攻略対象である3人の王子は私の兄さまたちだ。 私は……名前も出てこないモブ王女だけど、兄さまたちを誑かすヒロインが嫌いなので色々回避したいと思います。 美味しいものをモグモグしながら(重要)兄さまたちも、お国の平和も、きっちりお守り致します。守ってみせます、守りたい、守れたらいいな。え~と……ひとりじゃ何もできない! 助けてMyファミリー、私の知識を形にして~! 【1章】飯テロ/スイーツテロ・局地戦争・飢饉回避 【2章】王国発展・vs.ヒロイン 【予定】全面戦争回避、婚約破棄、陰謀?、養い子の子育て、恋愛、ざまぁ、などなど。 ※〈私〉=〈わたし〉と読んで頂きたいと存じます。 ※恋愛相手とはまだ出会っていません(年の差) イラストブログ https://tenseioujo.blogspot.com/ Pinterest https://www.pinterest.jp/chankoroom/ ※作中のイラストは画像生成AIで作成したものです。

夫から国外追放を言い渡されました

杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。 どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。 抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。 そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

「婚約を破棄したい」と私に何度も言うのなら、皆にも知ってもらいましょう

天宮有
恋愛
「お前との婚約を破棄したい」それが伯爵令嬢ルナの婚約者モグルド王子の口癖だ。 侯爵令嬢ヒリスが好きなモグルドは、ルナを蔑み暴言を吐いていた。 その暴言によって、モグルドはルナとの婚約を破棄することとなる。 ヒリスを新しい婚約者にした後にモグルドはルナの力を知るも、全てが遅かった。

妹に婚約者を取られましたが、辺境で楽しく暮らしています

今川幸乃
ファンタジー
おいしい物が大好きのオルロンド公爵家の長女エリサは次期国王と目されているケビン王子と婚約していた。 それを羨んだ妹のシシリーは悪い噂を流してエリサとケビンの婚約を破棄させ、自分がケビンの婚約者に収まる。 そしてエリサは田舎・偏屈・頑固と恐れられる辺境伯レリクスの元に厄介払い同然で嫁に出された。 当初は見向きもされないエリサだったが、次第に料理や作物の知識で周囲を驚かせていく。 一方、ケビンは極度のナルシストで、エリサはそれを知っていたからこそシシリーにケビンを譲らなかった。ケビンと結ばれたシシリーはすぐに彼の本性を知り、後悔することになる。

ここは乙女ゲームの世界でわたくしは悪役令嬢。卒業式で断罪される予定だけど……何故わたくしがヒロインを待たなきゃいけないの?

ラララキヲ
恋愛
 乙女ゲームを始めたヒロイン。その悪役令嬢の立場のわたくし。  学園に入学してからの3年間、ヒロインとわたくしの婚約者の第一王子は愛を育んで卒業式の日にわたくしを断罪する。  でも、ねぇ……?  何故それをわたくしが待たなきゃいけないの? ※細かい描写は一切無いけど一応『R15』指定に。 ◇テンプレ乙女ゲームモノ。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げてます。

今度は悪意から逃げますね!

れもんぴーる
ファンタジー
国中に発生する大災害。魔法師アリスは、魔術師イリークとともに救助、復興の為に飛び回る。 隣国の教会使節団の協力もあり、徐々に災害は落ち着いていったが・・・ しかしその災害は人的に引き起こされたものだと分かり、イリークやアリス達が捕らえられ、無罪を訴えても家族までもが信じてくれず、断罪されてしまう。 長期にわたり牢につながれ、命を奪われたアリス・・・気が付くと5歳に戻っていた。 今度は陥れられないように力をつけなくちゃ!そして自分を嵌めた人間たちや家族から逃げ、イリークを助けなければ! 冤罪をかけられないよう立ち回り、災害から国民を守るために奮闘するアリスのお話。え?頑張りすぎてチートな力が? *ご都合的なところもありますが、楽しんでいただけると嬉しいです。 *話の流れで少しですが残酷なシーンがあります。詳しい描写は控えておりますが、苦手な方は数段飛ばし読みしてください。お願いします。

悪役令嬢の兄です、ヒロインはそちらです!こっちに来ないで下さい

たなぱ
BL
生前、社畜だったおれの部屋に入り浸り、男のおれに乙女ゲームの素晴らしさを延々と語り、仮眠をしたいおれに見せ続けてきた妹がいた 人間、毎日毎日見せられたら嫌でも内容もキャラクターも覚えるんだよ そう、例えば…今、おれの目の前にいる赤い髪の美少女…この子がこのゲームの悪役令嬢となる存在…その幼少期の姿だ そしておれは…文字としてチラッと出た悪役令嬢の行いの果に一家諸共断罪された兄 ナレーションに 『悪役令嬢の兄もまた死に絶えました』 その一言で説明を片付けられ、それしか登場しない存在…そんな悪役令嬢の兄に転生してしまったのだ 社畜に優しくない転生先でおれはどう生きていくのだろう 腹黒?攻略対象×悪役令嬢の兄 暫くはほのぼのします 最終的には固定カプになります

処理中です...