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第160話 異世界人の視察(2)

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 ルイーズさんと、エメラスさんの会話を聞いていたアロイスさんが話に加わっているが、避けられるとか避けられないという話をしていて、銃弾って避ける物じゃないからと突っ込みを入れたくなったが――、「五郎、次だ」と、言う田口村長からの電話で俺はすぐに次の発砲が開始される事を伝える。
 
 次は、猟師100人によるハンティングライフルの一斉射撃。
 一瞬で、辺境伯に用意してもらった全ての盾が粉々に粉砕され――、盾としての用途を示さない。
 
「なんという……。これを……、これだけの武器を持つ兵士をゴロウは抱えているというのか」
「些細な物です。以前に御見せしたものと比べれば――」
「そうであるな……。だが――、これだけの兵力を一領主が持っているとすれば……」
 
 一応、たいした武力ではありませんよ? と、いうフォローをしておく。
 あまり脅威を持たれても困るからな。
 
「――こ、これが大した物では……な……い?」
 
 震えた声で、すでにアルコール酔いは何処かに吹き飛んでしまったのかノーマン辺境伯ではなく俺に詰め寄ってくるリコード卿。
 
「はい。ごく、ありふれた物です。アレを見てください」
 
 俺はショットガンを構える猟師を指差す。
 全員の視線が、猟師に向かったところで銃声と共に一撃で鎧を蜂の巣にする。
 
「――な!」
 
 その様子に、絶句しつつたたらを踏むエメラスさん。
 
「どうかしたのですか?」
「はい。いま一度の雷鳴を思わせる音の後に、無数の金属の塊のような物が兵士の持つ杖のような物から放たれました。アレでは、回避すら――」
「そんなに?」
「あれを――、いえ――、ここにいる兵士だけでも我が国は落とされます……」
「――ッ! 滅多な事を言うべきではないぞ!」
「――ですが!」
 
 リコード卿が怒りを露わにしてエメラスさんに近寄るが――、
 
「やめないか! それより……、ゴロウ殿」
「何でしょうか? ヴェルナー卿」
「あの銃は、融通して頂くことは……」
「できません」
「そうか……。それでは最後に質問だが……」
「何でしょうか?」
「先ほど、ゴロウ殿は辺境伯殿に些細な物だと言っておったが、それでは些細ではない武器とはどのような物なのだ?」
「そうですね……」
 
 俺が知っている最大の武器と言えば一つしかない。
 
「核爆弾でしょうか?」
「かく……ばくだん? どういう魔法なのだ?」
「――いえ。魔法ではありません。戦術核兵器の一つで、一発で100万人規模の死傷者を出すことができる武器です」
「……ひ、ひゃく……ひゃくまん? それだけの人を殺す? つまり……、それだけの人数が居るということか? ……す、すまないが、ゴロウ殿の領地は人口数百人と聞いていたのだが……」
「ああ、それはその通りですが、兵士は別なので」
「それでは、ゴロウ殿が所属している国は一体……」
「自分が所属しているのは日本国で人口は1億2千万人、自衛隊つまり兵士の数は22万人います」
 
 俺の説明にヴェルナー卿は、表情を青くすると、そのまま後ろ向きに倒れてしまった。
 リコード卿の「ヴェルナー卿!」と、言う声も、異世界の鎧や盾を破壊するというイベントに熱狂した見学者たちの声に掻き消されてしまっていたのは、不幸中の幸いなのかも知れない。
 
 予定していた異世界人向けの予定が全て終わったあとは、母屋へと移動する。
 倒れたヴェルナー卿に関してはアロイスさんが担いで下まで運んでくれたので本当に助かった。
 俺では、ヴェルナー卿を背負って梯子を下りるのは無理だっただろうから。
 
 現在、ノーマン辺境伯をはじめとして、男性陣は居間で――、女性陣は来客室で寛いでいる。
 ちなみに、もうすぐ御昼と言う事もあり本来なら和美ちゃんの母親である恵美さんは休憩時間に母屋を使って休んでもらう事になっていたが、本日は異世界の人が来ている関係上、猟友会の方々が設置した天幕で休んでもらっていた。
 
「ううっ……」
「ヴェルナー卿!」
「ここは……」
「ゴロウ殿の――」
「ああ、そうか……」
 
 室内を見渡すヴェルナー卿と目が合う。
 
「あれは……、本当のことだったのか……」
「本当のこと?」
「ゴロウ殿、兵士が22万人いると聞いたが、それは真か?」
「はい。有事の際に、すぐに動ける職業軍人が22万人おります」
「職業軍人というのは?」
「エルム王国風に言えば、騎士団と考えて頂ければよろしいかと――」
「つまり、戦争や治安維持に特化した部隊ということか」
「そうお考えいただければ――」
「なるほど……」
 
 ヴェルナー卿は、何やら考え事をしているようだが、ふと何かに気が付いたのか――、
 
「ところでゴロウ殿」
「何でしょうか?」
「たとえば――、たとえばでいいのだが……」
「例えばですか?」
「うむ。ゴロウ殿が、すぐに動かせる軍隊というのは、どのくらいの数がいるか教えてもらえるか?」
 
 すぐに動かせる数か……。
 そんなのはゼロだが! 正直に、それを伝えたら藤和さんに怒られそうだ。
 とりあえず、猟友会の会員数を提示しておけばいいか。
 
「そうですね。すぐに動かせる軍の数は少ないですが、一般人……平民を徴用するのでしたら13万5千人程度は用意できるかと――」
 
 日本全体の猟友会会員の数。
 完全なるハッタリも良い所だが――、
 
「ば、馬鹿な! 日本国全体で22万にでは!?」
「それは、専門の軍人なので。あと、先ほど説明し忘れていましたが治安を維持しているのは警察と呼ばれる組織です」
「警察組織というのは、町の治安を守る兵士みたいなものかの?」
「その通りです」
 
 リコード卿と、俺が話している間に割って入ってきたノーマン辺境伯が問いかけてきたので助け船と思い肯定する。
 
「ちなみに警察組織というのは、どのくらいの規模が存在するのかの?」
「大体30万人程度と見てもらえれば――」
 
 たしか、以前に調べた時にそのくらいだったはず。
 
「…………さ、さんじゅう……まん……」
 
 リコード卿絶句。
 そしてノーマン辺境伯も大きく溜息をついている。
 
「――と、いうことはだ。少なくとも60万人以上の兵士が居ると言う事になるのか……」
「戦える者と考えるのでしたら、潜在的に戦うことができるのは数百万人近いと思います」 
 
 完全なブラフだが、まぁ戦える者という括りで考えるのなら、空手や剣道などの武術も戦う事ができる。
 それらを加味するなら嘘ではない。
 
「ヴェルナー卿、リコード卿。異世界の戦力は理解しましたか?」
「ああ……人数はな」
「人数は?」
「そうだ。ゴロウ殿、あの杖のような武器は全員に渡されている訳ではないのだろう?」
「そうですが、本日参加したのは普段は別の仕事をしている者達ですので」
「つまり、平民があれだけの武器を所持していると……そういうことか?」
「そうなります」
「なん……だと……」
 
 どこに驚く要素があるのか俺には甚だ疑問に思ってしまう。
 
「ヴェルナー卿、私は異世界の常識というのが分からなくなりました」
「私もだ。リコード卿」
「これは、例の演習に連れていったら失神しそうだのう」
「例の?」
「そうだ。国の正規兵による演習もあるのだ。それは、今日、ゴロウが集めた私兵の演習など児戯に思えるほどの物であった。まさしく天変地異と言わんばかりの迫力があった」
「……い、いまよりも?」
「そうである。ヴェルナー卿」
「ゴロウ殿! 出来れば国の正規兵の演習を見せて貰いたいのだが!」
「それは無理です。時期が外れていますので」
「そうか……」
 
 何とも言えない表情のヴェルナー卿。
 
「五郎さん、用意が終わりました」
 
 何とも気まずい雰囲気が室内に立ち込めたところで、部屋には異世界風の町娘らしい服装に着替えたルイーズさんとエメラスさんが入ってきた。
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