上 下
126 / 381

第126話 祭りの前の準備

しおりを挟む
 つまり餌付けされた可能性が非常に高いということだ。
 
 ――まったく、結局は犬ということか。
 
「焼けましたよー」
 
 恵美さんの昼食の用意が出来たという声が聞こえてくる。
 
「桜、和美ちゃん、フーちゃん、ご飯だぞ」
「わかったの!」
「はーい」
「わん!」
「お前のご飯はコレな」
 
 俺はドックフードをプラスチックの容器に入れて出す。
 
「ガルルルルル」
「五郎さん、食べられる物を見繕いますから」
「いえ! 甘やかしたら犬として生きていけなくなると思うんですよね。それにドックフードもあと8キロくらいあって駄目になったら困りますし」
「それなら――」
 
 雪音さんがタッパーから自家製ローストビーフを取り出すと、ドックフードの上にのせていく。
 
「これで、どう?」
「わんわん!」
 
 雪音さんに尻尾を振るフーちゃん。
 
「まったく仕方ないな……」
 
 俺はフーちゃんに、
 
「お手!」
「がう!」
「痛っ!」
 
 手を甘噛みされた……。
 まったく、本当に俺の言う事だけは聞かないよな……。
 桜と雪音さんの言う事は聞くのに。
 フーちゃんが、ローストビーフから食べるのを見ていると、
 
「五郎」
「村長、どうかしましたか?」
「ちょっと良いかの?」
「は、はぁ……」
 
 村長に促されるように、参加者から離れていく。
 
「最近、雪音とはどうかの?」
「特に問題ありませんが……」
「そ、そうか……、何も無いのか……」
「はい。何も問題はないですね。話はそれだけですか?」
「う、うむ……。それより例の猟友会の話だが、バス会社が定期バスを出してくれることになった。今年は、かなり人数が減ることになった。人数は、関係者を含めて3000人ほどになるからの」
「分かりました。それで出店の用意をする感じですか?」
「いや、普通に店を使わせてくれるだけでいい。あとは、お湯を多めに用意しておいてくれないかの?」
「分かりました」
 
 カップ麺が多く出ると言う事だろう。
 そうなると、電子レンジで調理できる食料の用意も多めにしておいた方がいいかも知れないな。
 
 規則正しい音――、俎板と包丁が奏でる音が聞こえてくる。
 毎朝、雪音さんが日本風の朝食を作ってくれているからだ。
 
 俺は、そんな音を聞きながら欠伸をしつつ目を覚ます。
 布団の中には、桜が居て――、その横にはフーちゃんが寝ている。
 
「――さて……」
「五郎さん、おはようございます」
「おはようございます。雪音さん、いつも朝ご飯を作ってもらってすいません」
「気にしないでください。家事をするのは好きですから」
「そ、そうですか……。よかったら朝食を作る手伝いでもしましょうか?」
「いえ、大丈夫です。それに台所は女の城ですから」
「――な、なるほど……。そ、それでは自分は仕事のメールでも確認しておきます」
「はい」
 
 どうも雪音さんは古風な部分があるというか、男を台所に立たせるのは好きではないようで――、以前は料理を教えてくれると言っていたが、半ば同棲中の現在では料理どころか家事は全て雪音さんが取り仕切るようになってしまっている。
 ちなみに桜に至っては、怪我をしたら大変だという理由で、少し大きくなったら料理を教えるとか言っていた。
 
 俺はノートパソコンを起動しつつ、今後の予定を考える。
 先日、村長から猟友会の集まりについて言われたが3000人がうちの雑貨店を利用するとしたら色々と用意する物がある。
 仮設トイレなどは、完全自立型トイレの周辺に設置する事になり、場所はあるから問題はない。
 ただ、お湯などを提供するとなると、それなりの電気ポットが必要になる。
 
「うーむ……電気ポットを幾つか購入するとしてもな……」
 
 コンスタントに使う訳ではない以上、無駄な出費になってしまう。
 それは、あまり好ましくはない。
 
「大きな鍋でも購入するか……」
 
 インターネットで、寸胴鍋の検索をかけていく。
 
「寸胴鍋100リットルで7000円か……。炊き出し用だけど、これなら丁度いいかも知れないな。あとは、寸胴鍋を熱する為の土台作りはホームセンターで煉瓦を購入する方向で――、それとアウトドア用の石炭があれば十分だな」
 
 そこまで考えたところで、ふと思いつく。
 すぐに携帯電話で電話。
 
「はい、リフォーム踝です」
 
 まだ朝7時。
 眠そうな声が聞こえてくると思っていたが歳を経ると朝早く起きるようになることもあり、普通に電話に出た踝さん。
 
「月山です」
「おお、五郎か! どうした? こんな朝早くから」
「じつは、猟友会の件で話したい事がありまして」
「俺の所にもテントの設営を手伝えって村長から連絡がきたぞ」
「有料で?」
「いつもは有料なんだが、今年は色々とお前の店の開店でお金を貰ったから無料だな」
「そうですか」
「それで、何かあったのか?」
「じつは猟友会の人たちが店を使う可能性があって、カップ麺などのお湯確保の為に寸胴鍋を使おうと思っているんですが……」
「なるほど、それでガス配管の設置をお願いしたいと言う事か」
「いえ、寸胴鍋を温めるのは石炭で行こうと思っているんですが……」
「鍋の材質は何でいくんだ?」
「材質ですか?」
 
 購入しようと思っていたステンレスの寸胴鍋をチェックしていく。
 
「えっと……材質はステンレスですね」
「それだと、石炭は止めた方がいいぞ。耐熱温度の問題もあるからな。普通にガス配管をした方がいいぞ」
「ちなみに値段は如何ほどに?」
 
 あまり高いと俺の方としても困る。
 
「五郎の所はプロパンガスだろう?」
「そうですけど……」
「それならプロパンガスボンベを扱っている中村石油店に頼めばいいな」
 
 ――中村石油店。
 
 結城村では唯一のガソリンなどを販売している小さなガソリンスタンドで、灯油の宅配から結城村内の家庭全てのプロパンガスの交換などを全て一手に引き受けている。
 
「――でも、工事は結構大変じゃないですか?」
「そうだな。匠さんも、そろそろ歳だからな……」
「もう年ってレベルじゃないですよね? 70歳超えていますよね?」
「まぁ、俺も手伝うから問題ないだろ」
「ですか……。それより、アイツは……」
「陸翔のことか?」
「…………」
「お前が、気にすることじゃないだろ」
「それは、そうですね」
 
 ――陸翔(りくと)。
 中村(なかむら)匠(たくみ)さんの一人息子であり、俺とは同級生。
 知り合いで友人だった男。
 いまでは袂を分かっていて、その理由を踝さんも知っているので余計な詮索などはしない。
 
「とにかくだ。配管工事については俺から中村さんの所に電話しておくから」
「分かりました。あと1週間後に猟友会の集まりがあるので」
「今日中には連絡がいくと思うぞ」
「よろしくお願いします」
 
 電話を切る。
 
「おじちゃん……」
 
 気が付けば桜は起きていたのか、布団の上で横になりながら俺を見てきている。
 
「どうかしたのか?」
「ううん。なんかね――、おじちゃん、すごく怖い顔してたの……」
「そんな事ないぞ」
 
 俺は桜の頭を撫でる。
 
 
 
 辺境伯達が領地に帰還を済ませてから3週間が経過し――、土日の休みを過ぎた月曜日。
 場所は、月山家の客間。
 室内に居るのは、俺と藤和さんと田口村長。
 少し緊張感の漂う室内の空気の中――、
 
「それでは――、先日ご連絡頂きました猟友会の集まりで消費されるかも知れないという納品につきましてですが……」
 
 そう口火を切ったのは藤和さん。
 先日に連絡を入れて詳細を説明した所、すぐに3000人が消費すると思われる予測を立てると言う事で一日間を置くことになり――。
 本日、話し合いの場を持つこととなった。
 
「こちらが資料になります」
「これは、何を参考に作った資料になるのか?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ブラック・スワン  ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~ 

ファンタジー
「詰んだ…」遠い眼をして呟いた4歳の夏、カイザーはここが乙女ゲーム『亡国のレガリアと王国の秘宝』の世界だと思い出す。ゲームの俺様攻略対象者と我儘悪役令嬢の兄として転生した『無能』なモブが、ブラコン&シスコンへと華麗なるジョブチェンジを遂げモブの壁を愛と努力でぶち破る!これは優雅な白鳥ならぬ黒鳥の皮を被った彼が、無自覚に周りを誑しこんだりしながら奮闘しつつ総愛され(慕われ)する物語。生まれ持った美貌と頭脳・身体能力に努力を重ね、財力・身分と全てを活かし悪役令嬢ルート阻止に励むカイザーだがある日謎の能力が覚醒して…?!更にはそのミステリアス超絶美形っぷりから隠しキャラ扱いされたり、様々な勘違いにも拍車がかかり…。鉄壁の微笑みの裏で心の中の独り言と突っ込みが炸裂する彼の日常。(一話は短め設定です)

魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー

ウィル・テネブリス
SF
【Fallout1~4 Underrail Wastelantシリーズ等が好きな方へ送るニッチな作品です。】 (この作品は数年前に小説家になろうに投稿したものを形を残しつつ改変した上であちらをノーマルこちらをエロありにした作品です、ご注意ください(具体的にはカニバリズム等のフレーバー、とばしても大丈夫ですがR18部分で男の娘がエグいフェラとかします)も取り入れます。あ、それとなんか問い合わせた結果試験的に挿絵入ります、やばかったら消える。ぶちこんだんで頑張って探してください) 遠い未来、人工知能を積んだ人外美少女たちと遊べるMMORPG「モンスターガールズオンライン」がリリースされた。 正式サービスがスタートすると大勢のプレイヤーがログインするも、しばらくすると誰かを呼びかける声と共に画面は暗転――そしてプレイヤーと「ヒロイン」たちがゲームの世界に酷似したどこかへと転移されてしまう。 「モンスターガールズオンライン」にそっくりで幻想的な世界で彼らは、そして彼女らは意外にもなんやかんやで普通に生きることになりましたとさ。 強くて可愛い女の子たちと、右も左も分からぬプレイヤーたちは魔法の世界でどう生きていくのか……? ただしそれは、ある一人の男を除いてである。 一体どうしてか、ひどく運が悪かったのか、その時同時に起動していた世紀末サバイバルシミュレーター「G.U.E.S.T」の世界へと流れ込んでしまった男がいた。 美少女だらけの剣と魔法の世界ではなく、絶望的な世紀末世界にたどり着いてしまったのだ。 つまり……よくある「MMORPGの中にプレイヤーたちが転移」が始まる中、一人だけ「世紀末サバイバルシミュレーター世界に転移」してしまった主人公が本来行くべきだった剣と魔法の世界を目指して旅をする話である。 なんにもできない男が少しずつ成長しつつ、泥臭く戦い、面白おかしく生き抜き、傷だらけになりながらハードコアに突き進む、Falloutのような世紀末世界が大好きな方にいっぱい読んでほしい「書きたいものをだらだらぶちこんで絶対に書籍化できないような作品」をイメージして書きました。 所謂趣味をぶっこんだただの実験ですが、誰かの意欲を刺激する良ききっかけになってくれれば幸いです。 文章量でぶんなぐる作品ですのでコーヒーとドーナツでも嗜みながらごゆっくりどうぞ。 主人公だけが安易なチートも赦されない、いろいろガン無視欲望のままのごった煮ウェスタン&ポストアポカリプス&ファンタジーものです。(表紙絵などはNovelAIにて作成しました。)

【R18】清掃員加藤望、社長の弱みを握りに来ました!

Bu-cha
恋愛
ずっと好きだった初恋の相手、社長の弱みを握る為に頑張ります!!にゃんっ♥ 財閥の分家の家に代々遣える“秘書”という立場の“家”に生まれた加藤望。 ”秘書“としての適正がない”ダメ秘書“の望が12月25日の朝、愛している人から連れてこられた場所は初恋の男の人の家だった。 財閥の本家の長男からの指示、”星野青(じょう)の弱みを握ってくる“という仕事。 財閥が青さんの会社を吸収する為に私を任命した・・・!! 青さんの弱みを握る為、“ダメ秘書”は今日から頑張ります!! 関連物語 『お嬢様は“いけないコト”がしたい』 『“純”の純愛ではない“愛”の鍵』連載中 『雪の上に犬と猿。たまに男と女。』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高11位 『好き好き大好きの嘘』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高36位 『約束したでしょ?忘れちゃった?』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高30位 ※表紙イラスト Bu-cha作

おっぱいにときめいたらとんでもないことになった

浅葱
BL
ツイッターでの誰かのネタ。 「乳も揉んで寄せれば、男の子でもBカップくらいの写メ撮れる」 金里遠玖さん、黄 州麗さんの会話より許可いただきました。感謝。

前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています

矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜 ――『偽聖女を処刑しろっ!』 民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。 何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。 人々の歓声に包まれながら私は処刑された。 そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。 ――持たなければ、失うこともない。 だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。 『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』 基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。 ※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)

【完結】身売りした妖精姫は氷血公爵に溺愛される

鈴木かなえ
恋愛
第17回恋愛小説大賞にエントリーしています。 レティシア・マークスは、『妖精姫』と呼ばれる社交界随一の美少女だが、実際は亡くなった前妻の子として家族からは虐げられていて、過去に起きたある出来事により男嫌いになってしまっていた。 社交界デビューしたレティシアは、家族から逃げるために条件にあう男を必死で探していた。 そんな時に目についたのが、女嫌いで有名な『氷血公爵』ことテオドール・エデルマン公爵だった。 レティシアは、自分自身と生まれた時から一緒にいるメイドと護衛を救うため、テオドールに決死の覚悟で取引をもちかける。 R18シーンがある場合、サブタイトルに※がつけてあります。 ムーンライトで公開してあるものを、少しずつ改稿しながら投稿していきます。

癒しが欲しい魔導師さん

エウラ
BL
「・・・癒しが欲しい」 ある事件をきっかけに、魔法の腕や魔力の高さを理由に宮廷魔導師団に14歳という史上最年少の若さで無理矢理入団させられたセイリュウ。 親の顔を知らない孤児なのに若くして才能があるせいで、貴族ばかりの魔導師団では虐げられ、仕事を押し付けられる日々。 入団以来休みはほぼ無く、4年経った今でも宿舎にほとんど戻れない日々。 そんな彼は前世で社畜だった記憶があり、更にはもっと大きな秘密を抱えていた。 秘密と日々の激務に心が疲弊していく社畜魔導師とそんな彼を癒したい訳あり騎士の物語。 Rにはタイトルに*印入れます。 R18まで少しかかると思います。 ※10万字越えてますが、まだ終わりません。 なので、63話で一度区切りにして長編に変更、及び、ちょっと設定確認作業に移ります(間が空いて齟齬が生じるので)。 落ち着いたら更新再開予定なので、良かったら気長にお待ち下さいませ。

もしも○○だったら~らぶえっちシリーズ

中村 心響
恋愛
もしもシリーズと題しまして、オリジナル作品の二次創作。ファンサービスで書いた"もしも、あのキャラとこのキャラがこうだったら~"など、本編では有り得ない夢の妄想短編ストーリーの総集編となっております。 ※ 作品 「男装バレてイケメンに~」 「灼熱の砂丘」 「イケメンはずんどうぽっちゃり…」 こちらの作品を先にお読みください。 各、作品のファン様へ。 こちらの作品は、ノリと悪ふざけで作者が書き散らした、らぶえっちだらけの物語りとなっております。 故に、本作品のイメージが崩れた!とか。 あのキャラにこんなことさせないで!とか。 その他諸々の苦情は一切受け付けておりません。(。ᵕᴗᵕ。)

処理中です...