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第119話 東京都観光(2)ノーマン辺境伯side

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 私の名前は、ノーマン・フォン・ルイズ。
 エルム王国の西方――、ルイズ辺境伯領を治めている領主である。
 
 元々、生まれはリーン騎士爵の次男であった。
 兄上が家の家督を継ぎ子供が生まれた後は、予備としての価値も無くなり冒険者として身を立てる事になった。
 長い事、仲間と共に冒険者として活動を行っていた所で戦争が勃発した。
 それはエルム王国と隣国アドリア王国との戦争。
 理由は、砂漠の王国であったアドリアが肥沃な土地を持つエルム王国の国境を侵したという簡単な物であったが――、砂漠の国は生きていくだけでも困難を極めていた事から兵士や魔法師は非常に強くエルム王国は苦戦を強いられた。
 
 私と仲間は、冒険者としては成功を納め最高ランクであるSランク冒険者となっていた。
 
 そして――、その実績が買われたのだろう。
 
 そこで先代の国王は私達のパーティに密命をしてくることとなる。
 それは、相手の王を潜入して倒すという無謀にも近い物であったが――、私のパーティは、アドリア王国の国王を倒す事が出来た。
 それから、私達は先代国王に褒賞を渡される事になり。
 私はエルム王国が将来的に開拓する予定であった辺境の地を先代国王から下賜された。
 
 幸い私には貴族としての血の他に強い魔力があったので貨幣を作る術が備わっていた。
 おかげで王宮とは、それなりに強いパイプが出来た。
 
 領地運営も上手くいき人口も増えてきたところで異世界から迷い込んだという少女が現れた。
 異世界との交易の為に息子のゲシュペンストが少女と共に異世界に向かったが――、その時は……息子と今生の別れになるとは思っても見なかった。
 
 息子が異世界から戻って来なくなった後、妻が流行り病で他界し――、後継ぎがいない私は、自分で身を起こしたとは言え血が繋がっているリーン騎士爵家の子供を養子にと望み――。
 その結果、多くの血筋の者が毒殺される事となった。
 
 私も毒殺されかけたが、窮地を救ってくれたのは息子ゲシュペンストの忘れ形見であるゴロウであった。
 ゴロウは私の体の毒を取り去ってくれた。
 その結果、原因が判明。
 次々と血筋の者が死ぬのは病ではなく毒だと分かり調査の結果、毒殺の件は解決した。
 
 犯人の貴族は、アドリア王国の私達を恨むアドリア王家の者と繋がっており――、私達に国王を殺された私怨からなのだろうと言う事が簡単に推測できた。
 ほぼ血筋が絶えてしまったリーン騎士爵家の血筋からは養子は貰う事は出来ない。
 それに大国であるアドリア王国と因縁がある辺境伯の後を継ぎたい者もいないだろう。
 本当は、孫であるゴロウに辺境伯の地位を譲りたい。
 だが、孫の態度から見るに受けては貰えないことは一目で理解できる。
 
 結婚についても聞いてみたが、結婚はしていないようだが乗る気ではないようであった。
 それでも、孫と話すのは息子と似ている事もあり楽しくもあり嬉しくもあった。
 息子には将来、辺境伯として領地を管理する為に厳しく接してきた。
 おかげで親らしいことは殆どしてやれなかった。
 だからこそ――、孫には息子にしてやれなかったことをしようと心に誓った。
 
 本当は、それが間違いだと言う事は分かっているし理解もしている。
 ゴロウは、息子ではない。
 孫であり一人の人間なのだ。
 それを息子に見立てて自らの行いを償おうとは浅ましいにも程がある。
 
 ――それでも私は……。
 
 何度でも言い訳をする。
 そう――、私は本当に弱い人間なのだ。
 だが――、それを見せる訳にはいかない。
 何故なら私は辺境伯なのだから。
 
 ――それから、少しだけ時は流れた……。
 
 しばらくぶりにゴロウが顔を出した時に店を出すと報告しに来た時には、喜んだものだ。
 顔には出さないが。
 店を営業すると言う事は、此方の世界に頻繁に顔を出すと言う事に他ならない。
 本来なら取り扱う商品を見ずに営業許可は出さないが――、息子であり孫なのだ。
 それくらいは優遇しても問題はないと、二つ返事で許可を出した。
 それからしばらくして店で扱う商品を見て欲しいと言って来た。
 私は興味を持ち店の中を案内してもらったが――、そこは驚きの連続であった。
 明らかにゲシュペンストが異世界に渡る時に見たチラシと言う物とは別物過ぎたからだ。
 
 
 
 何十年も保存が効く食糧。
 沸かした水を注いだだけで食べられる保存食。
 どれもが最近になって考案され――普及し始めた干し肉や乾物などよりも遥かに優れているのは一目瞭然であった。
 そして、もっとも危惧したことは容易に戦に転用できるという事。
 それを孫であるゴロウは理解していないのか気軽に店に並べて販売すると語ってきた。
 
 それに対して私は危機感を覚えた。
 どれだけ危機管理能力に乏しいのかと――。
 そこで私は思い出した。
 たしか異世界より転移してきた月山(つきやま) 友里奈(ゆりな)と言う少女。
 あの少女は、自分の世界では戦争はしばらく起きていないと語っていた。
 もしかしたら軍事転用されると言う事自体、孫は思い至ってはいないのかも知れない。
 
 私は、そこまで考えた時点で――、この問題については王宮へお伺いを立てる事にした。
 簡単に軍事転用できるような物を辺境伯の権限であっても売ることは国益に反する可能性があるからだ。
 下手をすれば王宮に弓を引く可能性があると粛清される可能性もありうる。
 とくに、20年前に即位した王は無能もいいところ。
 事前に報告をしておくことは重要であったが――。
 
 ――それは裏目に出た。
 
 私は孫を守る為に異世界へ通じるゲートを閉じる事をハイエルフのリーシャ殿に頼んだが、彼女は断ってきた。
 理由は、教えてはもらえなかったが……、それでもゴロウに二度と此方の世界には干渉しないようにと話す事に決めた。
 何だかんだ言いながら、血は争えない。
 ゴロウの性格はゲシュペンストと似ている。
 一度、決めたら頑なに信じる所など、息子にそっくりだ。
 私は嬉しく思う反面――、孫には会えなくなる悲しみを眉間に皺寄せながら必死にこらえた。
 それから――しばらくして……、孫は曾孫を連れて姿を現した。
 それも家令まで連れて――。
 家名があること。
 そして膨大な量の塩を手配できることから、それなりの家柄だとは思っていたが……。
 まさか、辺境伯である私に商談を提案してくるとは思っても見なかった。
 それと同時に、私が気を利かせて此方の世界と異世界との交流を断とうとしている事を察する事が出来ないことに内心では少しだけ落胆したものであったが――。
 
 ――それは、すぐ覆される事となったのは言うまでもない。
 
「それでは、資料をご覧ください」
 
 そう話す孫に仕える家令。
 
 ――いや、恐らく関係性としては家令ではないというのは察する事が出来た。
 何故なら、所々に主従関係ではない部分が見られたからだ。
 そこまで分かれば、最初に家令と語った藤和という者の真意が理解できる。
 考えてみれば、すぐに分かること。
 孫とは何度も話しているが、交渉事には向いていないようであったのは明白。
 つまり――、私の推測が正しければ、藤和という男は私との交渉の為にゴロウに雇われた人物なのだろう。
 
 一応は部下の手前もある事だし、話を合わせることにしたが――。
 私は藤和という男の話を聞き流しながら渡された資料に目を向ける。
 
 ――そして驚愕した。
 
 エルム王国の文字で、他国の人間が文章を作成していた事に――、否! そうではない。
 我が国の文字を、短期間のうちに習得したことに対して驚いていた。
 文字を短期間に習得できるという事は裏を返せば他国の言語を利用している戦争で使われる暗号すら簡単に解けると言う事だからだ。
 
 何が戦争をしばらくしていない国なのか……。
 それと同時に渡された資料には羊皮紙ではない、まったく別の素材で作られた紙が使われている。
 さらには、どんな絵師が書くよりも鮮明な建物や風景画、人物画が全員の資料にまったく同一に描かれている。
 しかも寸分たがわずにだ。
 これだけで分かる。
 日本という国が、エルム王国よりも遥かに進んだ技術を持っているということ。
 それは馬を使わずに走る車という乗り物に乗っていることで更に際立たせる。
 高速道路と呼ばれる道には、信じられないほど早く走る馬車が何十、何百ではきかない数が走っている。
 しかも巨大な車も走っていて、それを見るだけで工業なども卓越している事が分かった。
 異世界に来てから数時間でエルム王国と比較するのが馬鹿らしいほど卓越した技術を持つ国。
 脅威に値すると言っていい。
 
「藤和殿。この道は、どこまで続いているのですか?」
 
 ルイズ辺境伯領魔法師部隊を任せているキースが私も気になっていたことを代わりに聞いたが――。
 
「現在、走っております東北自動車道は東京外環まで繋がっています。現在は、もうすぐ仙台市を通り過ぎますので……、残り300キロ弱となります。制限速度は110キロですが――、安全を考慮に入れまして100キロで走行中です。大体、馬車での移動の10倍程度の速度と見て頂ければ幸いです。そのため、東京都首都高へ繋がります外環までは4時間ほどを予定しております。エルム王国で見て頂きますと、2の鐘の時間と言ったところでしょうか?」
 
 当たり前だとばかりに藤和という男は告げてくるが――、部下であるキースは、その説明に顔を青くしていく。
 今の説明からすれば、私達が乗っている車は道さえ確保できれば一日で辺境の地であるルイズ辺境伯領からエルム王国の王都まで移動できるからだ。
 
 私達の戸惑いを他所に車という乗り物は走り続けた。
 
 
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