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第91話 健康診断(2)

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「どうもすいません」
「いえ、お気になさらず。それより、どうでしたか?」
「はい、都筑先生から紹介を貰った病院で健康診断が受けられることになりました」
「診療所ではしないんですか?」
「都筑先生は、往診があるらしくてすぐには出来ないと――」
「そうですか……、戻ってきてから都筑先生のところには行っていませんでしたけど、建て替えをしたという話は聞いていましたので、もしかしたら忙しいのかも知れませんね」
「そうですね」
 
 雪音さんが、都筑診療所は殆ど患者もいない暇な場所だと知っていなくてよかった。
 
 
 
「桜」
 
 何度か、桜の体を揺すりながら話しかけるが、「もう、食べられないの」と、ムニャムニャ寝ている桜を抱き上げて車に向かう。
 寝たまま、チャイルドシートに乗せる。
 
「鍵を閉めてきました」
「ありがとうございます」
 
 雪音さんは、桜と同じ後部座席に座ると、よだれを垂らしながら寝ている桜の口元を拭いている。
 
「慣れていますね」
「はい。仕事でしていましたから」
「そうでしたね」
 
 相槌を打ちながら車のキーを回しエンジンを掛けた。
 桜が寝ているので速度を抑えながら運転すること5分ほどで根室さんの家が見えてくる。
 
「根室さんの家は変わらないですね」
「そうですね。諸文と一緒に遊んでいた小学生の時から何も変わってないですね」
 
 雪音さんに言葉を返しながら、根室さんの敷地内に入ったところで車を停める。
 するとエンジン音で気が付いたのか建物の中から根室さん夫妻と、諸文の妻――、恵美さんと和美ちゃんが出てくる。
 
「五郎、今回はすまないな」
「いえ、事業主としては当然のことですので――」
「そうか……、それではよろしく頼む」
「はい」
「今日は、よろしくお願いします」
「こちらこそ」
「お母さん、いってらっしゃい」
「行ってくるわね」
 
 恵美さんが助手席に乗ったのを確認したあと、車を発進させる。
 向かう先は、宮城県仙台市の東北で最も大きい病院。
 秋田自動車道と東北自動車道を乗り継ぎ休憩を挟みながら南下していく。
 時間にしては3時間ほどの距離になる。
 
「おじちゃん! これ、すごくおいしいの! 何て料理なの?」
 
 もちろん、その間には桜も起きる。
 そしてお腹も空く。
 知らない料理に関しては質問もしてくる。
 
「それはタン塩丼って言うんだよ」
「タンしお?」
「牛の舌を焼いて塩をかけたものだよ」
「すごいの、牛さん!」
「桜ちゃん、ご飯粒がついているわよ」
 
 雪音さんが、タン塩丼に感激して食べている桜の頬についた米粒をとると、俺と雪音さんと桜をジッと見ていた恵美さんが「まるで家族みたいですね」と、呟いてきた。
 
「そうですか?」
「はい。すごく仲睦まじく見えます」
「かぞく?」
 
 桜が、食べる手を止めて俺の方を見てくる。
 首を傾げていることから、桜は家族という単語を知らないのかも知れない。
 ――ただ、それを言うのは……。
 
「桜ちゃん、パフェ食べる?」
「たべるー!」
 
 雪音さんが、すかさずフォローを入れてきてくれた。
 しばらくして3人分のパフェが運ばれてくる。
 どうやら、桜だけではなく俺以外の女性陣は全員、パフェを食べるらしい。
  
「月山さん、どうかしましたか?」
「いえ、女性の方は甘い物が好きなんだなと思いまして――」
 
 俺は、一人で食後の玄米茶を飲みながら答える。
 それにしても、サービスエリアの玄米茶はどうしてこんなに美味しいんだろうな。
 長時間運転しているドライバーの体に染みわたるようだ。
 
 そういえば、根室さん夫妻に預けてきたフーちゃんも何か食べているのかな。
 
 
 
 ――宮城県仙台市、総合病院に到着した頃には時刻は午後3時を過ぎていた。
 
「むにゃ……」
 
 駐車場に車を停めたあと、眠そうな桜をチャイルドシートから下ろす。
 
「ここで、検査をするんですか?」
 
 ――と雪音さんが聞いてくると共に、「ずいぶんと大きな病院で身体検査をするんですね」
と、恵美さんが相槌を打つかのように言葉を紡ぐ。
 いらぬ不信感を持たれないように「一応、都筑さんの紹介なので」と、言葉を濁しておく。
 
「そうですか」
「今日中に終わるんでしょうか?」
「どうでしょうか? 一度、担当医師に確認をした方がいいかも知れませんね」
 
 長時間、車に乗っていて疲れたであろう眠そうな桜を抱き抱えたまま病院に入る。
 総合病院というだけあって、受診を待つ場所は100席近い椅子が設けられていて、各診療に応じて担当カウンターも分けられていた。
 全てを一つの受付カウンターで担当している田舎の診療所とは訳が違う。
 カウンターを見回す。
 
「総合受付窓口……、あれかな? 恵美さん、桜をお願いできますか?」
「はい」
 
 恵美さんに桜を預けたあと、俺は総合受付窓口へ向かう。
 
「すみません」
「はい、何か御用でしょうか?」
 
 大病院だけあって、受付窓口に座っている女性の服装は、一般企業のOLが着ているような事務員用の服。
 色はグレー色で、一応は病院内でも浮かないようにと配慮されている。
 
「医師の紹介で、本日、健康診断に伺ったのですが――」
「畏まりました。紹介状などはございますでしょうか?」
「はい」
 
 カバンの中から、都筑医師に渡された紹介状を取り出す。
 
「お預かりいたします。少々、お待ちください」
「月山さん、どうでしたか?」
「少し待っていて欲しいそうです」
「そうですか」
 
 受付から戻ったところで、話しかけてきた雪音さんと会話しつつ、先ほどまで埋まっていた椅子が空いたのか、桜を抱き上げていた恵美さんが、桜を膝に乗せたまま頭を撫でている。
 そして、桜と言えば熟睡中。
 しばらく、無言のまま立ったままでいると――、「月山様」と、俺の名前が呼ばれる。
 
「ちょっと行ってきます」
「はい」
「恵美さんも、もうしばらく桜をお願いします」
「分かりました」
 
 総合受付窓口に向かうと、そこには40歳ほどの白衣を着た男が居て――、俺を見てくる。
 
「初めまして、伊東(いとう) 琢磨(たくま)と言います」
「月山 五郎と言います」
「なるほど、それで――、電話でだいたいの話を伺いましたが、もう少し詳しい事情を聴いても宜しいでしょうか?」
「はい」
 
 伊藤医師に案内されたのは、完全に外と隔離されている部屋。
 扉を閉めれば完全に密室になってしまい、外からの喧噪(けんそう)も聞こえてくることはない。
 勧められたパイプ椅子に座ったあと、テーブルを挟み伊東医師も同じくパイプ椅子に座る。
 そして――、
 
「それでは、まず簡単に説明させて頂きます。まず、私を信用して頂くという意味合いも込めまして……、まず都筑(つづく) 権三郎(ごんざぶろう)は、私の義父です」
「そうでしたか」
「はい。それに、私の恩師でもありますので守秘義務に関してはご安心ください」
「――と、言う事は……」
「はい。異世界のことや結界を超える際に病が治癒される可能性が示唆されている事も伺っております」
「なるほど……」
「それでは、義父から話は伺っておりますが今回は健康診断をお二人でされるという事で宜しいでしょうか?」
「その前にお願いしたい事があるのですが、雪音さんの件ですが」
「分かっています。健康診断結果を、健康診断を受けられる田口雪音さんの分を2枚用意しておけばいいんですね?」
「はい、あとは健康診断ですが姪っ子の桜の分もお願いできますか?」
「構いませんが――、たしか異世界人の血が混じっていると伺っていますが……」
「桜の分の健康診断結果については、おかしな部分があった場合には、自分にだけ渡してもらえますか?」
「分かりました」
 
 ――頷く伊東医師。
 
「それでは、あとは――」
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