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第46話 仔犬がやってきた

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 桜の頭を撫でる。 
 番犬にもなるかも知れない。
 幸い犬の場合は、足が太いと大きくなると聞いたことがある。
 桜が抱きかかえている犬も、精悍な顔つきをしているし足も太い。
 何というかシベリアンハスキーみたいな感じだ。

 桜を異世界と関わらせるのなら、俺は今までのような受け身の態度ではダメだろう。
 ノーマン辺境伯は、血筋の子供が居たら自領の後継者にしたいような事を言っていたが――、其のことに関しても桜を守るという凛とした態度で交渉に応じなければいけない。
 その結果、異世界との取引が無くなったとしても……、桜を守るのは俺しか居ないのだから――。

「しっかりとしないとな」
「桜、しっかりするの!」

 俺の言葉を違う風に解釈して取ったのか桜が答えてきたが――、それに思わず苦笑いしてしまう。
 
「根室さんですか?」
「おお、五郎か――、どうかしたのか?」
「じつは牛乳を分けてもらえないかと思いまして――」
「別に構わないが、どのくらいほしいんだ?」
「毎日1リットルは欲しいのですが――」
「分かった。毎日――、昼頃で良いなら取りにくるといい」
「ありがとうございます」

 電話を切ると、仔犬のフーちゃんを抱きかかえたまま心配そうな表情で見上げてきている桜の頭を撫でる。

「根室さんが、牛乳を分けてくれるみたいだ」
「ほんとうに? やったー」
「今度、根室さんにお礼を言わないと駄目だぞ?」
「うん!」

 桜が元気よく頷いてくる。
 根室さんからは、色々な物を貰ってばかりいるな。
 今度、何か差し入れでもしよう。

「それじゃ、貰いにいくか」

 丁度、お昼を少し過ぎたくらいだしな。

「いくのー」
「わん!」
「いや、今日は業者の人が来るかもしれないから、10分くらいお留守番をしていてくれるか?」
「えー」
「わん!」

 まるで、人間の言葉が分かっているみたいなタイミングで吠えてくるな。
 たぶん桜の反応に同調しているだけだと思うが……。

 ――仕方なく、桜とフーちゃんを車に乗せて3分の距離にある根室さんの家に向かう。
 根室さんの敷地内に車を停めたところで、チャイルドシートから桜を下ろす。
 そして、桜の横のシートに乗っていたフーちゃんと言えば、跳躍するとフワリと音も立てずに桜の肩の上に器用に着地したあと頭の上にまで移動して座ってしまう。

「異世界の犬は、身軽なんだな……」
「フーちゃんは、すごいの!」

 根室さんの家の玄関の呼び鈴を押したところでガララと音を立てて玄関が開く。

「ずいぶんと早かったな」
「はい。今日は、業者が来る予定なので――、あまり時間も取れないと思い急いで伺う事になってしまいました」
「そうかそうか。もうすぐ開店か――、月山雑貨店が開くのは20年ぶりだが楽しみだな。今度、開店する時には花でも贈らせてもらおう」
「ありがとうございます」
「よし、時間がないのなら、すぐに用意した方がいいな。待っていろ」

 年を感じさせない軽快な動きで玄関口から家の中に戻っていった根室正文さんは、すぐにペットボトルの容器を2つ持って戻ってきた。

「これが約束のものだ」
「どうも、すいません」
「気にすることはない。牛乳は体を成長させるにはもってこいだからな! それに、うちの牛乳を毎日飲んでくれるのは嬉しいものだよ。不味かったら、毎日飲みたいなんて言わないからな」

 そんな言葉を返してくる根室正文さんに俺は「ハハハッ」と言葉を返す。
 そこまで言われると犬の為とは言えない。

「まぁ、桜ちゃんだけじゃなく仔犬のご飯にもなるんだろう?」
「すいません」
「気にするな、見た目からしてシベリアンハスキーの仔犬と言ったところだろう? なら――、番犬には丁度いい。きちんと桜ちゃんを守るボディーガードとして躾けるんだぞ?」
「はい」
「それと、予防接種はきちんとしておくようにな」
「分かっています。それじゃ、また来ます。根室さん、何か欲しい物があったら今度、うちの雑貨店で取り扱いたいと思っていますけど何かありますか?」
「ふーむ。そうだな……。ビールなどを置いてくれると助かるな」
「ビールですか?」
「ああ、結城村ではビールを買える店はないからな」
「分かりました。取引業者と確認してみます」
「それではな」
「牛乳ありがとうございます」
「おじいちゃん! 牛乳ありがとうなの!」

 桜も根室さんに慣れたのか、元気よくお礼を言っている。

「桜ちゃん、いつでもおいで――、桜ちゃんの為なら一日1リットルでも10リットルでも牛乳をあげるからな」
「ほんとう!?」
「ああ、本当さ」

 何という甘々な対応――、俺の時とは大違いだ。
 まぁ、いいけど……。

 話が一段落ついた所で車に乗り込み月山雑貨店に戻る。
 しばらく走ると月山雑貨店の看板が見えてきた。
 それと同時に駐車場に大型の運搬車が停まっており――、その荷台にはフォークリフトが積まれていた。

「おじちゃん! あの子きているの!」

 桜も、店前の駐車場に停めてある運搬車に積載されているフォークリフトに気が付いたのか後部座席のチャイルドシートから声を上げている。
 俺は車を裏手の実家の方へと運転し、自宅の駐車場に停めて桜をチャイルドシートから降ろしたあと、ペットボトルに入っている牛乳を車の中から持ち出す。
 
 冷蔵庫に入れておかないと牛乳はダメになることもあり縁側から家内に入ったあと、冷蔵庫の中に入れて、すぐに桜を伴って月山雑貨店の駐車場へと向かう。

「神田さん。すいません、遅くなりました」
「いえいえ。到着時刻を知らせていなかった此方にも問題はありますから」
「それより、これが――」
「はい。息子が最後に販売した思い出のある品ですから――、きちんとメンテナンスはしておきましたよ」

 工場の隅に置かれていた時は、埃が被っていて薄汚れていたフォークリフト。
 それが何ということでしょう。
 今では埃も綺麗に払われていて、まるで新品のように光輝いている。

「すごいですね……」
 
 思わず感嘆の声が漏れる。

「神田自動車の総力を掛けて摩耗しているパーツで取り寄せられる物は、全て交換致しました。ただし――、エンジンが掛かるかどうかは……」
「分かっています。桜」
「はいっ」
「桜ちゃん、よろしく頼むよ」
「わかったの!」
 
 桜が、頭の上にフーちゃんを乗せたまま神田さんからフォークリフトの鍵を預かる。
 そして、フォークリフトに乗ったあと――、フォークリフトの鍵をシリンダーに差して回す。
 すると、一瞬――、フォークリフトが揺れたあとエンジンが掛かる。

「おじちゃん、できたの!」
「いやー、本当にすごいですね。一体、どうやって――、あのエンジンが掛からないフォークリフトのエンジンを掛けているのか……。まるで、魔法でも見ているようですね」
「魔法なんて、この世界に存在する訳がないじゃないですか」
「そうですね」

 俺の言葉に神田栄吉さんは頷く。
 そんな彼を見たあと、桜をフォークリフトから降ろし、フォークリフトの運転席に座る。

「神田さん。フォークリフトを運搬車から降ろしますので」
「分かりました」

 神田さんが、運搬車のレバーを引くと――、運搬車の荷台がゆっくりと後方へと迫り出し斜めに傾いていく。

「月山様、ゆっくりと降りてください」
「わかりました」

 ワイヤーに極力負荷が掛からないようにフォークリフトを操作し2分ほどで運搬車から降ろす事ができた。
 神田さんがトラックの荷台を元に戻したあと、近寄ってくる。

「それにしてもフォークリフトの運転が上手いですね」
「そうですか?」
「はい。このフォークリフトは特注でして――、普通なら2速まで――、49キロまでしか出せない仕様になっているのですが……」
「3速までありますね」
「かなり稀な仕様で、3速――、最大時速65キロまで出すことが可能となっています」


 

  
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