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第45話 ベーコンエッグ
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「桜、中に入っていた牛乳知らないか?」
「――あ……、え、えっと……、さくらが飲んだの……」
「そうなのか? でも、桜は牛乳が嫌いじゃなかったのか?」
「え、えっと……」
俺の突っ込みに桜の目が泳ぐ。
「す、好きになったの! さくら、牛乳大好きになったの!」
「根室さんの牛乳おいしいからな」
「――そ、そうなの! さくら! いっぱい、牛乳飲みたいの! いつ、貰いに行くの?」
「そうだな……、そんなに慌てなくても……」
「困るの! 一日3回は飲まないとダメなの!」
すごく桜が必死に牛乳飲みたいアピールをしてくる。
ここまで桜が何かをお願いしてきた事なんて一度もない。
――ただ、何となくだが理由には察しがついた。
それは和美ちゃんが遊びに来なくなったという理由。
おそらく牛乳をたくさん飲んで、牛乳の在庫が無くなれば根室さんの所に貰いに行くことになるから、その時に会おうという事なんだろう。
それしかない。
「そんなに和美ちゃんに会いたいのか?」
「……」
桜がキョトンとした表情を見せたあと首を傾げて「……う、うん! そうなの!」と、答えてきた。
「そうか。それじゃ後で貰いにいくか」
「うん!」
朝食はベーコンと目玉焼き、そしてトーストにお茶と言った感じになったが――、至って桜からは好評であった。
朝食を食べたあとは、お皿やコップを洗いつつ洗濯物などを干していく。
今日は、フォークリフトが届くかも知れないし、塩も届くのでのんびりしている時間的余裕はない。
家事はなるべく早めに済ませた方がいい。
「おじちゃん!」
「どうした?」
「えっとね……、少しお外いってきてもいい?」
「外か?」
「うん。ダメ?」
桜を引き取ってからというもの、今まで一度も桜は外で遊びたいと言ったことはなかった。
許可を出すかどうか迷ってしまうが……。
まぁ、家の中だけで遊ぶよりかはいいだろう。
「へんな人についていかないようにな。それと遊ぶ場所は家の周辺だけな。畑にも田んぼにも、あと川には絶対に近づかないように。それが守れるならいい」
「わかったの」
桜は、すぐに自分の部屋へ小走りで向かう。
何か持ってくるのかと思ったら、窓が開く音だけ聞こえるが――、すぐに桜は玄関へと走っていきサンダルを履いたあと外へと出ていった。
「桜が、外で遊びたいか……」
自分から何かをしたいと言ったことが今まで無かったからな。
少しは俺とも打ち解けてくれたのかもしれない。
「――さて……」
朝食で使ったソースを片付けようと冷蔵庫の扉を開ける。
調味料がいくつも並んでいる冷蔵庫扉の内ポケットにソースを入れたところで、俺は瓶を取る。
それは胡椒が入っていた瓶だが……。
瓶の中に入っていた胡椒がずいぶんと目減りしていた。
桜が外に遊びに行ったあと、洗濯物を干し――、掃除機を掛けたあとお風呂掃除とトイレ掃除を行う。
そうしていると何時の間にか時刻は午前10時近くになっていた。
「ふう……、家事も結構時間かかるな」
冷蔵庫から麦茶の入った容器を取り出しコップを手にもったまま縁側に座る。
そして麦茶をコップに注いだあと飲む。
うむ! 冷えていて夏場の家事で火照っていた体に沁み込んでくるかのようだ。
「おじちゃん! 犬拾ったの!」
もう一口、飲もうとしたところで桜が話しかけてくる。
その手には、仔犬がしっかりと抱きしめられていたが……。
「どこで拾ったんだ?」
「――え、えっと……、おうちの前なの!」
「家の前か……」
コレが都会とかなら話は分かるが――、月山雑貨店の周囲には民家はない。
お隣さんの根室さんの家でも車で3分は掛かる距離だ。
明らかにおかしい。
――と、言うより桜が牛乳を好きになったと言うのは、おそらくだが――、仔犬に牛乳を上げていた可能性がある。
「桜、どうやって捨ててあったんだ?」
「――え? えっと……、ダンボールに入っていて……、ひろってくださいって書いてあったの!」
「そうか。ちょっとダンボールを見せてもらってもいいか?」
「うん!」
サンダルに履き替えたあと縁側を下りて庭から出る。
すると家の前には、俺達が引っ越したときに使ったダンボール箱が置いてあり「ひろってください」と、全部ひらがなで書かれていた。
しかも文字の筆跡は、間違いなく桜。
使われているのも、桜にお絵かき用として購入した【くれよん】。
どう見ても、主犯格は桜であった。
「桜。おじちゃんは、嘘はあまり好きじゃないな。本当のことを言ってくれないかな?」
「ほんとうのこと言ったら飼ってもいいの!?」
「それは桜の話次第だな。そもそも、この仔犬は母親が居るんじゃないのか? ここは回りには家が無いんだから、分かるよな?」
「……いないの……、このフーちゃんには桜しかいないの!」
もう名前まで付けているのか……。
これは困ったな……。
別に犬とか猫が嫌いな訳ではないが、周りに何もない状態で仔犬だけがポツンと存在するのは明らかに異質。
つまり、犬の両親が近くにいる可能性は非常に高い。
「桜、良く聞きなさい。仔犬にはお母さんやお父さんが必ずいるんだよ? だから、人間の思い込みや勝手で仔犬を連れてくるのは良くない行為なんだよ? それに、人間が呑む牛乳を犬に与えると病気になったりする」
「――え? フーちゃん病気になるの?」
「病気になる可能性があるだけだ。とりあえず、仔犬を渡しなさい」
仔犬の両親を探して返さないといけないからな。
「いや! 桜、胡椒と交換したんだもん! フーちゃんが虐められていたから、胡椒と犬を交換したんだもん!」
「――こ、胡椒と交換した?」
それって……、つまり――。
「桜、まさか……、昨日の夜に俺の後を付いてきたのか?」
「……ごめんなさい……」
「どうして、何も言わなかったんだ?」
「……だって……、嫌われたくなかったから……。パパにね……、何か言ったらいつも怒られていたから……、だから……」
「だから、何も言わずに黙ってついてきたのか?」
「……ごめんなさい……」
桜が俯いたまま謝ってくるが――、俺こそ配慮が足りなかった。
少し考えれば分かることだ。
目を覚ました時に俺が居なかったら、探しにくるに決まっている。
今の桜の話を聞くだけで分かったことがある。
それは、桜の父親は――、桜の話をきちんと聞いていなかったということだ。
そういえば、考えてみれば今まで桜は妹の――、母親の話しかしていなかった……、それは裏を返せば――。
「いいや。悪いのは俺だ」
「おじちゃん?」
桜の傍までいき抱き寄せながら頭を撫でる。
「桜のためにと内緒にしていたけど、本当は内緒にしたらいけなかった。最初から、桜には話しておくべきだった。――だから、桜が悪いなんてことは無いよ」
「――ううっ……、うぇぇぇぇぇん。ごめんなさい、さくら――、かってに冷蔵庫の中のものをつかっちゃたの」
「大丈夫だ。――でも、今度から何かする前にはきちんと言ってくれるか?」
「……なんでも……、言って……、いいの? 嫌いにならないの? 怒らないの?」
「きちんと自分が思ったことを言えるのは素晴らしいことだ。たしかに――、俺は親代わりとしては、未熟で――、頼りない。だけど――、桜が悲しい時や寂しい時は素直に言ってほしい。心の中に仕舞いこんでいたら、その方が、俺にとっても辛い――、だから何でも言ってくれ。俺達は、家族なんだから」
桜が瞳に涙をたくさん湛えたまま、見上げてくると小さくコクリと頷いてくる。
そんな桜を見ながら俺は自分の未熟さに歯痒い思いをしてしまう。
良かれと思って行動していた――、選択していた事が結果的に桜を不安にさせてしまっていた。
桜に、何でも話して欲しいと言ったが――、それは誰に向けて言った言葉なのか……。
その言葉こそ自分自身に必要な物ではないのか?
――家族。
その言葉は――、たった二文字だが――、とても重い物であると同時に――、脆いが、もっとも強固な絆の証だと理解できた。
「あ、あのね……、この子とね。さくら、一緒に住みたいの……」
「ワン!」
桜が抱きかかえている白銀の毛並みを持つ仔犬。
両手に収まってしまう程の大きさの仔犬が小さく吠えてくる。
――もう、仕方ないな……。
「きちんと面倒を見られるなら、飼ってもいいぞ」
「さくら、面倒みるの!」
「そうか」
「――あ……、え、えっと……、さくらが飲んだの……」
「そうなのか? でも、桜は牛乳が嫌いじゃなかったのか?」
「え、えっと……」
俺の突っ込みに桜の目が泳ぐ。
「す、好きになったの! さくら、牛乳大好きになったの!」
「根室さんの牛乳おいしいからな」
「――そ、そうなの! さくら! いっぱい、牛乳飲みたいの! いつ、貰いに行くの?」
「そうだな……、そんなに慌てなくても……」
「困るの! 一日3回は飲まないとダメなの!」
すごく桜が必死に牛乳飲みたいアピールをしてくる。
ここまで桜が何かをお願いしてきた事なんて一度もない。
――ただ、何となくだが理由には察しがついた。
それは和美ちゃんが遊びに来なくなったという理由。
おそらく牛乳をたくさん飲んで、牛乳の在庫が無くなれば根室さんの所に貰いに行くことになるから、その時に会おうという事なんだろう。
それしかない。
「そんなに和美ちゃんに会いたいのか?」
「……」
桜がキョトンとした表情を見せたあと首を傾げて「……う、うん! そうなの!」と、答えてきた。
「そうか。それじゃ後で貰いにいくか」
「うん!」
朝食はベーコンと目玉焼き、そしてトーストにお茶と言った感じになったが――、至って桜からは好評であった。
朝食を食べたあとは、お皿やコップを洗いつつ洗濯物などを干していく。
今日は、フォークリフトが届くかも知れないし、塩も届くのでのんびりしている時間的余裕はない。
家事はなるべく早めに済ませた方がいい。
「おじちゃん!」
「どうした?」
「えっとね……、少しお外いってきてもいい?」
「外か?」
「うん。ダメ?」
桜を引き取ってからというもの、今まで一度も桜は外で遊びたいと言ったことはなかった。
許可を出すかどうか迷ってしまうが……。
まぁ、家の中だけで遊ぶよりかはいいだろう。
「へんな人についていかないようにな。それと遊ぶ場所は家の周辺だけな。畑にも田んぼにも、あと川には絶対に近づかないように。それが守れるならいい」
「わかったの」
桜は、すぐに自分の部屋へ小走りで向かう。
何か持ってくるのかと思ったら、窓が開く音だけ聞こえるが――、すぐに桜は玄関へと走っていきサンダルを履いたあと外へと出ていった。
「桜が、外で遊びたいか……」
自分から何かをしたいと言ったことが今まで無かったからな。
少しは俺とも打ち解けてくれたのかもしれない。
「――さて……」
朝食で使ったソースを片付けようと冷蔵庫の扉を開ける。
調味料がいくつも並んでいる冷蔵庫扉の内ポケットにソースを入れたところで、俺は瓶を取る。
それは胡椒が入っていた瓶だが……。
瓶の中に入っていた胡椒がずいぶんと目減りしていた。
桜が外に遊びに行ったあと、洗濯物を干し――、掃除機を掛けたあとお風呂掃除とトイレ掃除を行う。
そうしていると何時の間にか時刻は午前10時近くになっていた。
「ふう……、家事も結構時間かかるな」
冷蔵庫から麦茶の入った容器を取り出しコップを手にもったまま縁側に座る。
そして麦茶をコップに注いだあと飲む。
うむ! 冷えていて夏場の家事で火照っていた体に沁み込んでくるかのようだ。
「おじちゃん! 犬拾ったの!」
もう一口、飲もうとしたところで桜が話しかけてくる。
その手には、仔犬がしっかりと抱きしめられていたが……。
「どこで拾ったんだ?」
「――え、えっと……、おうちの前なの!」
「家の前か……」
コレが都会とかなら話は分かるが――、月山雑貨店の周囲には民家はない。
お隣さんの根室さんの家でも車で3分は掛かる距離だ。
明らかにおかしい。
――と、言うより桜が牛乳を好きになったと言うのは、おそらくだが――、仔犬に牛乳を上げていた可能性がある。
「桜、どうやって捨ててあったんだ?」
「――え? えっと……、ダンボールに入っていて……、ひろってくださいって書いてあったの!」
「そうか。ちょっとダンボールを見せてもらってもいいか?」
「うん!」
サンダルに履き替えたあと縁側を下りて庭から出る。
すると家の前には、俺達が引っ越したときに使ったダンボール箱が置いてあり「ひろってください」と、全部ひらがなで書かれていた。
しかも文字の筆跡は、間違いなく桜。
使われているのも、桜にお絵かき用として購入した【くれよん】。
どう見ても、主犯格は桜であった。
「桜。おじちゃんは、嘘はあまり好きじゃないな。本当のことを言ってくれないかな?」
「ほんとうのこと言ったら飼ってもいいの!?」
「それは桜の話次第だな。そもそも、この仔犬は母親が居るんじゃないのか? ここは回りには家が無いんだから、分かるよな?」
「……いないの……、このフーちゃんには桜しかいないの!」
もう名前まで付けているのか……。
これは困ったな……。
別に犬とか猫が嫌いな訳ではないが、周りに何もない状態で仔犬だけがポツンと存在するのは明らかに異質。
つまり、犬の両親が近くにいる可能性は非常に高い。
「桜、良く聞きなさい。仔犬にはお母さんやお父さんが必ずいるんだよ? だから、人間の思い込みや勝手で仔犬を連れてくるのは良くない行為なんだよ? それに、人間が呑む牛乳を犬に与えると病気になったりする」
「――え? フーちゃん病気になるの?」
「病気になる可能性があるだけだ。とりあえず、仔犬を渡しなさい」
仔犬の両親を探して返さないといけないからな。
「いや! 桜、胡椒と交換したんだもん! フーちゃんが虐められていたから、胡椒と犬を交換したんだもん!」
「――こ、胡椒と交換した?」
それって……、つまり――。
「桜、まさか……、昨日の夜に俺の後を付いてきたのか?」
「……ごめんなさい……」
「どうして、何も言わなかったんだ?」
「……だって……、嫌われたくなかったから……。パパにね……、何か言ったらいつも怒られていたから……、だから……」
「だから、何も言わずに黙ってついてきたのか?」
「……ごめんなさい……」
桜が俯いたまま謝ってくるが――、俺こそ配慮が足りなかった。
少し考えれば分かることだ。
目を覚ました時に俺が居なかったら、探しにくるに決まっている。
今の桜の話を聞くだけで分かったことがある。
それは、桜の父親は――、桜の話をきちんと聞いていなかったということだ。
そういえば、考えてみれば今まで桜は妹の――、母親の話しかしていなかった……、それは裏を返せば――。
「いいや。悪いのは俺だ」
「おじちゃん?」
桜の傍までいき抱き寄せながら頭を撫でる。
「桜のためにと内緒にしていたけど、本当は内緒にしたらいけなかった。最初から、桜には話しておくべきだった。――だから、桜が悪いなんてことは無いよ」
「――ううっ……、うぇぇぇぇぇん。ごめんなさい、さくら――、かってに冷蔵庫の中のものをつかっちゃたの」
「大丈夫だ。――でも、今度から何かする前にはきちんと言ってくれるか?」
「……なんでも……、言って……、いいの? 嫌いにならないの? 怒らないの?」
「きちんと自分が思ったことを言えるのは素晴らしいことだ。たしかに――、俺は親代わりとしては、未熟で――、頼りない。だけど――、桜が悲しい時や寂しい時は素直に言ってほしい。心の中に仕舞いこんでいたら、その方が、俺にとっても辛い――、だから何でも言ってくれ。俺達は、家族なんだから」
桜が瞳に涙をたくさん湛えたまま、見上げてくると小さくコクリと頷いてくる。
そんな桜を見ながら俺は自分の未熟さに歯痒い思いをしてしまう。
良かれと思って行動していた――、選択していた事が結果的に桜を不安にさせてしまっていた。
桜に、何でも話して欲しいと言ったが――、それは誰に向けて言った言葉なのか……。
その言葉こそ自分自身に必要な物ではないのか?
――家族。
その言葉は――、たった二文字だが――、とても重い物であると同時に――、脆いが、もっとも強固な絆の証だと理解できた。
「あ、あのね……、この子とね。さくら、一緒に住みたいの……」
「ワン!」
桜が抱きかかえている白銀の毛並みを持つ仔犬。
両手に収まってしまう程の大きさの仔犬が小さく吠えてくる。
――もう、仕方ないな……。
「きちんと面倒を見られるなら、飼ってもいいぞ」
「さくら、面倒みるの!」
「そうか」
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