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第91話 王宮内の駆け引き(2)
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エミが泊まっている宿屋から少し離れた位置に隠れるようにして停まっていたネイザ公爵家の紋章がエンブレムとして刻まれた馬車。
「お帰りなさいませ。ネイザ公爵様」
「ここでは必要ないわ。それよりも、すぐに馬車を出して頂戴」
「畏まりました」
ネイザ公爵家当主、エルミア・フォン・ネイザは、馬車のドアを開けた偉丈夫な男に手を借りて馬車へ乗り込む。
そして、それを確認した御者は、馬の手綱を操り馬車を走らせ始めた。
「エルミア様。如何でしたでしょうか?」
「パール。貴方は性急すぎるのが問題ね」
「申し訳ありません。――ですが……」
「そうね」
馬車に乗っていたのは、キルワ王国の近衛騎士団団長パール・フォン・クラウド。
クラウド伯爵家の次期当主である。
「間違いないわね。白銀の魔力を纏っている人間なんて聖女以外は考えられないもの」
「――では、やはり……」
「ただね……」
そこで、彼女は口元を扇で隠す。
「何か問題でも?」
「パール、貴方も話は聞いているのでしょう? オイレンブルグ公爵家の長女であるアマーリエが、どのような立場に置かれているのかを」
「――多少は伺っておりますが……」
「分かっているのならいいわ。何回か、あの子には会ったことがあるけれど、年の割には聡明な子だったもの。その子が、国を捨ててまで隣国で暮らそうと来たのよ? その理由が、貴方には分かって?」
「国元には居づらくなったと?」
パールの言葉に落胆の色を浮かべるエルミア。
「違うわ。自分が嫁ぐ相手だった人から、裏切られて捨てられたのよ? それもパーティという社交界の場で。その意味が分からないのかしら?」
「それは……」
パールは沈黙してしまう。
社交界の場で、王位継承権を持つ相手からの婚約破棄、それは公爵家の令嬢として生まれ妃教育を受けてきた身としては耐えがたい屈辱であろうということは想像に難くない。
それを、エルミアに指摘されて気が付いた彼は、自分が女性の気持ちを理解していないと言う事に落ち込んでしまう。
実際は、エミは、まったく落ち込んでいないどころか自由になった事を謳歌していたのだが、二人は、それを知る由もないから仕方の無い事かも知れないが。
「分かったのなら、この問題は難しいことくらいは理解しなさい」
「はい。ですが、国王陛下には――」
「分かっているわ。ただ、この情報をセルトラ王国に知らせるのかどうかは問題だわね」
「それは外交上の問題なのでは?」
「こちらに非があるのなら、セルトラ王国と国交を結んでいる以上、情報は渡さないといけないわ。でもね、今回の問題は、セルトラ王国の王太子が起した失態でしょう? それに関わる問題に関して、キルワ王国が手助けする必要はないと思うのよね」
扇で口元を隠しながら呟くエルミア。
さらに彼女の語りは続く。
「だって、態々、聖女がこの国に来てくれたのよ? 手放す理由は無いと思うのよね」
「それは……」
「分かっているわ。でもね、魔力の色を見ることが出来るのは、本当に限られた人間だけ。つまり――」
「国力を考えるのなら、聖女を保護する方がいいと?」
「そうなるわね」
エルミアは、そう呟くと扇を畳んだ。
「お帰りなさいませ。ネイザ公爵様」
「ここでは必要ないわ。それよりも、すぐに馬車を出して頂戴」
「畏まりました」
ネイザ公爵家当主、エルミア・フォン・ネイザは、馬車のドアを開けた偉丈夫な男に手を借りて馬車へ乗り込む。
そして、それを確認した御者は、馬の手綱を操り馬車を走らせ始めた。
「エルミア様。如何でしたでしょうか?」
「パール。貴方は性急すぎるのが問題ね」
「申し訳ありません。――ですが……」
「そうね」
馬車に乗っていたのは、キルワ王国の近衛騎士団団長パール・フォン・クラウド。
クラウド伯爵家の次期当主である。
「間違いないわね。白銀の魔力を纏っている人間なんて聖女以外は考えられないもの」
「――では、やはり……」
「ただね……」
そこで、彼女は口元を扇で隠す。
「何か問題でも?」
「パール、貴方も話は聞いているのでしょう? オイレンブルグ公爵家の長女であるアマーリエが、どのような立場に置かれているのかを」
「――多少は伺っておりますが……」
「分かっているのならいいわ。何回か、あの子には会ったことがあるけれど、年の割には聡明な子だったもの。その子が、国を捨ててまで隣国で暮らそうと来たのよ? その理由が、貴方には分かって?」
「国元には居づらくなったと?」
パールの言葉に落胆の色を浮かべるエルミア。
「違うわ。自分が嫁ぐ相手だった人から、裏切られて捨てられたのよ? それもパーティという社交界の場で。その意味が分からないのかしら?」
「それは……」
パールは沈黙してしまう。
社交界の場で、王位継承権を持つ相手からの婚約破棄、それは公爵家の令嬢として生まれ妃教育を受けてきた身としては耐えがたい屈辱であろうということは想像に難くない。
それを、エルミアに指摘されて気が付いた彼は、自分が女性の気持ちを理解していないと言う事に落ち込んでしまう。
実際は、エミは、まったく落ち込んでいないどころか自由になった事を謳歌していたのだが、二人は、それを知る由もないから仕方の無い事かも知れないが。
「分かったのなら、この問題は難しいことくらいは理解しなさい」
「はい。ですが、国王陛下には――」
「分かっているわ。ただ、この情報をセルトラ王国に知らせるのかどうかは問題だわね」
「それは外交上の問題なのでは?」
「こちらに非があるのなら、セルトラ王国と国交を結んでいる以上、情報は渡さないといけないわ。でもね、今回の問題は、セルトラ王国の王太子が起した失態でしょう? それに関わる問題に関して、キルワ王国が手助けする必要はないと思うのよね」
扇で口元を隠しながら呟くエルミア。
さらに彼女の語りは続く。
「だって、態々、聖女がこの国に来てくれたのよ? 手放す理由は無いと思うのよね」
「それは……」
「分かっているわ。でもね、魔力の色を見ることが出来るのは、本当に限られた人間だけ。つまり――」
「国力を考えるのなら、聖女を保護する方がいいと?」
「そうなるわね」
エルミアは、そう呟くと扇を畳んだ。
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